夏のレジャーに間に合うか!? 「三菱デリカミニ」の納期を調査した
2023.05.31 デイリーコラムポジティブな路線変更
三菱自動車が絶好調だ。5月9日に発表された2022年度通期の決算を見ると、売上高は前年同期から4192億円増となる2兆4581億円、営業利益は前年同期から1032億円増の1905億円という数字。販売台数は前年度より減少しているものの、営業利益は過去最高となった。コロナ禍や半導体不足、ロシア市場の消滅といった悪条件に鑑みれば、上々の結果である。
燃費データ不正で失墜した信頼を回復するメドがつき、製品ラインナップを充実させてきた。なかでもイメージアップの主役となっているのが、「デリカミニ」である。実質的には「eKクロス スペース」のマイナーチェンジモデルだが、車名を変更するとともに新しいデザインを与えたことが大きなインパクトとなった。
かつて「パジェロ」の軽自動車版「パジェロミニ」があったことにならい、「デリカD:5」のブランド力に頼った命名だ。デリカがパジェロほどのカリスマ性を備えているかは分からないが、2019年にビッグマイナーチェンジを施してフロントマスクを一新したことでメジャー感が増したのは確かである。三菱は、デリカをブランドの象徴として全体の底上げを図ろうとしているらしい。
実際にデリカミニの受注は好調で、月間目標販売台数をはるかに上回る受注状況だという。しかも、半数以上が最上級グレードというのが素晴らしい。以前は安さを追求することで販売向上を狙っていたが、三菱は考え方を変えた。高くても買ってもらえる魅力を生み出すことの重要性に気づいたのだ。いささか遅きに失したようにも思えるが、ポジティブな路線変更である。
軽自動車の第3の勢力
三菱の軽自動車は日産との合弁会社NMKVで製造されており、顔つきが少し違うだけの兄弟車を両社で販売していた。デリカミニは外観を変えるだけでなくサスペンションにも独自のチューニングを施している。同じ中身なら、販売力に勝る日産に勝つのは難しい。独自路線を行くことで三菱のアイデンティティーを強調し、製品の魅力を高めることにしたのだ。正しい判断である。
SUV風味の軽自動車は、トレンドといっていい。先鞭(せんべん)をつけたのは、2019年に発売された「スズキ・スペーシア ギア」である。スーパーハイトワゴンの「スペーシア」をベースにタフ(そう)な外観を与え、人気の「ジムニー」を思わせる丸目ヘッドライトを採用した。プロテクター風のバンパーやガンメタのホイールなどにより、アウトドア感を高めている。防汚仕様の素材を使うことで、使い倒す“ギア”としての使い勝手に配慮した。
ダイハツは、2022年に「タント」をマイナーチェンジした際に「ファンクロス」を追加した。分かりやすい対抗モデルである。SUVテイストの内外装とアウトドアで役立ちそうな装備を取り入れている。スズキもダイハツも、スーパーハイトワゴンとSUVという2大トレンドをミックスしたことで、ユーザーから支持を集めたのだ。
ハイトワゴンやスーパーハイトワゴンは、ノーマル版とカスタム版の2種類を用意するのが常道だった。ファミリー向けには優しい顔、ヤンチャなタイプにはメッキを多用したいかついフロントマスクがウケるからである。軽自動車の販売台数が増えると、その2つだけではユーザーの好みに対応できなくなった。世界的に主流となったSUVの要素をまぶすことによって、新たな客層を掘り起こそうと考えたのは当然だったのである。
「3カ月」を長いとみるか短いとみるか
デリカミニの記事は、webCGでも多くのアクセスがあるという。最後発なのに、なぜ注目度が高いのだろうか。もちろん、まずは見た目の好感度の高さが重要である。東京オートサロンで展示されると、多くの入場者が集まった。某英国SUVに似ていると指摘されるヘッドライトも含め、力強さを備えたファニーフェイスが新鮮だったのだ。
もうひとつは、走行性能に対する期待だろう。スペーシア ギアもファンクロスも、ベース車とほぼ同じ足まわりである。デリカミニは専用サスペンションを開発したうえに、グリップコントロールとヒルディセントコントロールを全車に標準装備した。三菱はデリカミニを本格SUVとは表現していないが、アウトドアのレジャーを楽しみたいユーザーにはアピールするポイントになる。
人気モデルだと、注文してもすぐには手に入らない。半導体不足の影響はまだ残っており、1年以上待たなければならないクルマも多い状況だ。デリカミニはどうか。三菱ディーラーに問い合わせると、現在は納車までに3カ月ということだった。意外に早いけれど、一時は格安の登録済み未仕様車(新古車)が出回っていた「エクリプス クロス」のことを思えば超人気モデルと感じる。
しかし、3カ月後ということは、8月の終わりということになる。夏休みにデリカミニでレジャーに出かけたいというのなら、ちょっと間に合わない。なんとかならないかと食い下がると、即納車もあるという。「eKクロス」と「eKクロスEV」なら、長くても1カ月以内に入手できるそうだ。一応この2台もSUV風というくくりには入るので、どうしても夏に乗りたいというなら妥協するのもアリかもしれない。デリカミニにこだわるなら、シルバーウイークのお出かけを楽しみにすればいいだろう。
(文=鈴木真人/写真=三菱自動車、スズキ、ダイハツ工業/編集=藤沢 勝)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
激動だった2025年の自動車業界を大総括! 今年があのメーカーの転換点になる……かも? 2025.12.26 トランプ関税に、EUによるエンジン車禁止の撤回など、さまざまなニュースが飛び交った自動車業界。なかでも特筆すべきトピックとはなにか? 長年にわたり業界を観察してきたモータージャーナリストが、地味だけれど見過ごしてはいけない2025年のニュースを語る。
-
スバリストが心をつかまれて離れない理由 「フォレスター」の安全機能を体感 2025.12.25 「2025-2026 日本カー・オブ・ザ・イヤー」に選出された「スバル・フォレスター」。走り、実用性、快適性、悪路走破性、そして高い安全性が評価されたというが、あらためてその安全性にフォーカスし、スバルの取り組みに迫ってみた。
-
病院で出会った天使に感謝 今尾直樹の私的10大ニュース2025 2025.12.24 旧車にも新車にも感動した2025年。思いもかけぬことから電気自動車の未来に不安を覚えた2025年。病院で出会った天使に「人生捨てたもんじゃない」と思った2025年。そしてあらためてトヨタのすごさを思い知った2025年。今尾直樹が私的10大ニュースを発表!
-
クルマ泥棒を撲滅できるか!? トヨタとKINTOの新セキュリティーシステムにかかる期待と課題 2025.12.22 横行する車両盗難を根絶すべく、新たなセキュリティーシステムを提案するトヨタとKINTO。満を持して発売されたそれらのアイテムは、われわれの愛車を確実に守ってくれるのか? 注目すべき機能と課題についてリポートする。
-
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」 2025.12.19 欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】
2025.12.30試乗記ホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。といってもただのリバイバルではなく、ハイブリッドシステムや可変ダンパー、疑似変速機構などの最新メカニズムを搭載し、24年分(以上!?)の進化を果たしての見事な復活だ。果たしてその仕上がりは? -
BMW M235 xDriveグランクーペ(前編)
2025.12.28ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルで、STIで、クルマの走りを鍛えてきた辰己英治が、BMWのコンパクトスポーツセダン「M235 xDriveグランクーペ」に試乗。長らくFRを是としてきた彼らの手になる “FFベース”の4WDスポーツは、ミスタースバルの目にどう映るのだろうか? -
ルノー・キャプチャー エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECHリミテッド【試乗記】
2025.12.27試乗記マイナーチェンジした「ルノー・キャプチャー」に、台数200台の限定モデル「リミテッド」が登場。悪路での走破性を高めた走行モードの追加と、オールシーズンタイヤの採用を特徴とするフレンチコンパクトSUVの走りを、ロングドライブで確かめた。 -
『webCG』スタッフの「2025年○と×」
2025.12.26From Our Staff『webCG』の制作に携わるスタッフにとって、2025年はどんな年だったのでしょうか? 年末恒例の「○と×」で、各人の良かったこと、良くなかったこと(?)を報告します。 -
激動だった2025年の自動車業界を大総括! 今年があのメーカーの転換点になる……かも?
2025.12.26デイリーコラムトランプ関税に、EUによるエンジン車禁止の撤回など、さまざまなニュースが飛び交った自動車業界。なかでも特筆すべきトピックとはなにか? 長年にわたり業界を観察してきたモータージャーナリストが、地味だけれど見過ごしてはいけない2025年のニュースを語る。 -
第942回:「デメオ劇場」は続いていた! 前ルノーCEOの功績と近況
2025.12.25マッキナ あらモーダ!長年にわたり欧州の自動車メーカーで辣腕(らつわん)を振るい、2025年9月に高級ブランドグループのCEOに転身したルカ・デメオ氏。読者諸氏のあいだでも親しまれていたであろう重鎮の近況を、ルノー時代の功績とともに、欧州在住の大矢アキオ氏が解説する。







































