トヨタ・ヴィッツF“SMART STOPパッケージ”/Jewela/RS【試乗記】
レベルアップした「普通」 2011.01.18 試乗記 トヨタ・ヴィッツF“SMART STOPパッケージ”(FF/CVT)/Jewela(FF/CVT)/RS(FF/CVT)……174万5745円/178万2205円/210万905円
フルモデルチェンジで3代目となった、トヨタのコンパクトカー「ヴィッツ」。より幅広いユーザーにアピールしたいという、新型の走りと乗り心地をリポートする。
軽快な加速、いや本当に軽かった
試乗会場が東京のど真ん中だったので、混雑の中を走ることになる。山道をビュンビュン飛ばすよりも実際の使われ方に即した状況だから、「ヴィッツ」をテストするにはふさわしいわけだ。
とはいえ、運良く前が開ける僥倖(ぎょうこう)に接すると、右足に力を込めてしまうのは人情である。そこで得られた加速感は、ちょっと意外だった。1.3リッターのエンジンにCVTの組み合わせだから、極端にパワフルなわけではない。しかし、すーっと軽やかに速度を増していく感覚が、とても心地よかったのだ。軽快であることは、コンパクトカーにとっての美質である。
あとで資料を見ると、本当に軽かった。車重(オプション含まず)はぴったり1000kgで、これは頑張った数字である。何も付いていない仕様のモデルなら990kgで、1リッターエンジンならば970kgになる。走りはもちろんのこと、燃費にも大きな影響を及ぼす車重の低減が大きな課題であることは間違いない。でも、軽量化なんて、あらゆる方法をやり尽くしている。劇的に効果をあげる手段は残されていない。エンジニアに話を伺うと、「細かいことの積み重ねです」という答えが返ってきた。
たとえば、ハイテン(高張力鋼板)比率を49パーセントから50パーセントに引き上げたとのこと。たった1パーセントかと思うが、素材の見直しも行った結果、合計7kgの減量に貢献しているそうである。
室内スペースの拡大に関しても、ハッチドアのストライカーの形状を見直すことで数ミリ稼いだりという、なんとも涙ぐましい努力が行われていたのだ。コンパクトカーの最前線では、そこまでしなくてはならない。なにしろ、王者「ホンダ・フィット」やタイ製「日産マーチ」と戦い、さらには“TNP”の「ダイハツ・ムーヴ」だって相手にすることになるのだから。
アイドリングストップも違和感なく
燃費のフィールドでの戦いは、小型車と軽自動車が入り乱れて大変なことになっている。マーチがリッター26kmを打ち出したのに対し、ヴィッツは26.5kmで、ムーヴは27km。わずか0.5kmきざみなのだ。さらにこの春には「マツダ・デミオ」がSKYACTIVエンジンを擁して30kmの大台を突破するとアナウンスされている(いずれも10・15モード)。
ヴィッツの26.5kmというのは、「SMART STOP」なるアイドリングストップ機構を搭載した1.3リッターモデルの数字で、ノーマルは24.0kmだ。燃費が2.5km向上し、価格は6万円高くなる。マツダが「i-stop」を大々的に打ち出したことで有名になったけれど、「うちはスターレットの時からやっていたんです」とエンジニアは少し悔しそうだった。
これまでアイドリングストップがあまり普及しなかったことには、意思に反してエンジンが止まってしまうことへの違和感が指摘されてきた。「SMART STOP」はその対策として、スターターの「常時かみ合い式」を採用している。ワンウェイクラッチを使うことでスターターモーターとエンジンのリングギアを常にかみあわせておくことを可能にし、エンジンの停止と始動のタイムラグを解消したわけだ。
たしかに、ブレーキを踏むとすぐにエンジンが止まり、離すと間髪を入れず動き出す。これならば保守的な運転感覚の持ち主でも、嫌な気分にはならないのではないか。でも、これが1.3リッターのFFモデルにしか設定されていないところを見ると、まだ多くのユーザーに受け入れられる環境にはないのかもしれない。よくできた装置なので、ちょっともったいない気がする。
ボディカラーは全部で17色
見えない部分の改良のことを書いてきたが、見える部分、スタイリングの変化は一目瞭然(りょうぜん)だ。丸みからゴツゴツ感へ、優しさからシャープな押し出しへとテーマが変わったのは、すぐに見て取れる。
それでも、初めて見た感じがしないのは、最近のトヨタ車の顔に一貫したものがあるからだ。ブランドのアイデンティティの確立を求めての結果であるとともに、空力や剛性を考慮するとある程度の制約が生じてしまうことも関係しているらしい。
女性の視線を意識しなくてはヒットが不可能なジャンルだけに、スタイリングの「男性化」に伴う次の一手も考えられている。4つのグレードを明確に分けることで、さまざまな好みに対応しようというわけだ。ベーシックな「F」、上質感の「U」、スポーティな「RS」はありがちだが、力が入っているのが女性をターゲットにした「Jewela(ジュエラ)」だ。買い物アシストシートやUVカットガラスなどの装備に加え、内外装をシルバーで飾るオプションが用意されている。
ボディカラーも専用色が与えられた。先代が11色のバリエーションでスタートしたのに対し、今回は12色がラインナップされる。さらに、Jewela専用に5色のオプションカラーまでプラスされているのだ。イメージカラーとなっている「チェリーパールクリスタルシャイン」は、実車を見ると相当強烈な色だった。雑誌の『小悪魔アゲハ』あたりを意識しているのかと思ったが、本当は「きれいな大人の女性」を表現していたらしい。
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バランスでセンスを競う
ヴィッツに先駆けて発売された「ラクティス」に先日乗り、高い実用性を備えながらもよく走るものだと感心していた。でも、ヴィッツに乗ってみると、やはり走らせる楽しさはこちらが一枚上なのだ。走り、燃費、実用性、デザインなどの要素は、コンパクトカーという枠の中で限られた領分を奪い合うことになる。どうバランスさせるかが、センスの見せどころになる。
マーチやフィットはヴィッツと真っ向から競うライバルと考えられたが、今ではそれぞれ大きく性格を異なるものにしてきた。グローバル志向を前面に出したマーチ、空間の利用を極限まで追求したフィットというように。その中で、ヴィッツは王道を歩んでいる。コンパクトの利点をバランスよく生かし、まじめに作りこんだ印象がある。
1999年の初代登場時には鮮烈だったコンセプトが、今やすっかり普通のものとなった。コンパクトながら室内が広く、燃費が良くて、デザイン性も忘れない。新しいヴィッツも突出したものはないけれど、すべての要素を着実にレベルアップさせている。「普通」を広めたのがヴィッツの功績であり、それは今回も間違いなく受け継がれた。
(文=鈴木真人/写真=高橋信宏)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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