三菱デリカミニTプレミアム(4WD/CVT)
カワイイは正義だ 2023.06.19 試乗記 話題の「三菱デリカミニ」がいよいよ公道デビュー! 多くの方がお察しのとおり本格的な悪路が走れるわけではないし、中身はよくできた軽スーパーハイトワゴンだ。それでもあの瞳に見つめられていると、どこか楽しい気分になってくるから不思議なものだ。候補にも入れてもらえなかった
三菱自動車のプレス向け試乗会で、“ヤンチャかわいい”顔つきが話題のデリカミニに乗っている。左右のリアドアがスライド式になったいわゆるスーパーハイト系の軽自動車で、「eKクロス スペース」の後継にあたる。
グレードは「Tプレミアム」。駆動方式は4WD。装備充実の、659ccの3気筒ターボ(最高出力64PS、最大トルク100N・m)を積んだ一番高いヤツですね。車両本体価格は223万8500円。
試乗車は、メーカーオプションとして、「レッドメタリック×ブラックマイカ」の特別色とアダプティブLEDヘッドライトで13万7500円。加えて、サイドデカールやナビゲーションシステム+ドライブレコーダー+ETC2.0車載器など43万2520円分のディーラーオプションを付けているので、合わせて280万8520円。諸経費や保険を考えると、300万の声が聞こえてきそうな金額だ。「軽自動車に300万円かァ」と腰が引けてしまうワタシは古いのでしょうか。
ニッポンの軽自動車は、いまや国内で販売されるクルマの半数に迫ろうかという一大勢力である。価格帯が上下に広がるのは当たり前で、スリーダイヤモンドで言うなら、もっとリーズナブルに大空間車に乗りたい方は「eKスペース」(154万7700円~)、経済性重視なら「eKワゴン」(132万5500円~)や「eKクロス」(146万3000円~)ということになろう。
言うまでもなく高価格帯のスーパーハイトワゴンはいまや軽規格最大の激戦区で、このカテゴリーに十分食い込めないのがこれまでの三菱の悩みだった。「そもそも『どのクルマを買おうか?』とユーザーが頭を悩ます候補車リストに入れてもらえなかったんです」とスタッフは言う。
旧世代の「eKスペース カスタム」のスポーツ風味から、次のeKクロス スペースでは同社得意のアウトドアテイストに路線チェンジしてみたものの、満足いく結果は得られなかった。「デリカD:5」の縮小版を狙ったeKクロス スペースは、ファーストターゲットと定めた年配層の心はつかんだものの、ファミリー層からはスルーされがち。いかつい顔が、多くの女性ユーザーの嗜好(しこう)に合わなかったということだ。
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デザイン中心のモデルチェンジ
そこで3年目の新提案として東京オートサロン2023に出展されたのが、デリカミニ。「デリカらしい力強いデザインと大径タイヤによるSUVらしいスタイリング」との説明に新鮮味は薄いが、一方で車体前後の大胆なデザイン変更が功を奏して、「ベビーカーを押す子育て世代から『カワイイ』と好評で、『これはイケる!』と確信しました」と、先の三菱スタッフ。やはり「カワイイは正義」なんですね!?
クルマ専門サイトらしく冷徹に三菱デリカミニを紹介するならば、同車はeKクロス スペースに大がかりなフェイスリフトを施したビッグマイナーチェンジ版である。サイズや予算の制限が厳しい軽自動車では、フロント部分を変えて「ニューモデルです」とリリースするのはよくあることだが、今回のデリカミニほどイメージチェンジに成功した例は珍しいのではないか。
「ダイナミックシールド」(三菱車のフロントデザインコンセプト)の痕跡を残したタフで憎めない顔つき。リアには「DELICA」とエンボス加工された太いガーニッシュが大胆に横断する。前後バンパー下部のアンダーガード風パーツや、サイドシル上のプロテクターを模したステッカーはご愛嬌(あいきょう)。エクステリアにおいては、全グレードで備えるルーフレールがアウトドア向け実質装備の筆頭だ。
機関部をはじめデリカミニの“中身”はeKクロス スペースからのキャリーオーバーだが、4WDモデルに限って165/60R15の大径タイヤが与えられ、従来より1cmほど最低地上高を稼いでいる(カタログ値では155mmから160mm)。合わせてダンパー特性にも手が入れられた。
ドアを開けて運転席へ。1830mmの車高を持つデリカミニだが、シート位置が特に高いこともないので無理なく乗り込める。合成皮革とファブリックのコンビシートは見た目はザックリしているが、はっ水加工が施されているので、触感は思いのほかスムーズだ。
着座後には、分かってはいても頭上空間のただならぬ広さにビックリ。フロントウィンドウ横の、はめ殺し三角窓ならぬ大きな長方形窓の恩恵もあって、運転席からの視界のよさにもあらためて感心する。
ショックアブソーバーは新開発
現行のeKシリーズ(と日産の「デイズ」シリーズ)は、デビュー当初からしっかりした走りに高い評価が与えられてきたが、デリカミニもその例に漏れない。守旧派クルマ好きの目には依然として奇妙に映るスーパーハイトワゴンの車幅と車高の比率だが、ハンドリングは穏やかで順当なもの。少々のハードコーナリングでも、背の高い上屋を持て余して腰砕けになることはない。街乗りでは過給器の助力を得て過不足ない動力性能を示す。トランスミッションは全車CVT。ターボモデルのそれには疑似的にギアが切られ、パドルを使って能動的にシフトすることも可能だ。
4WDシステムはビスカスカップリングを用いた簡便なものだが、各輪のブレーキを個別に電子制御して差動を制限するグリップコントロール機能を備え、悪路での発進性を向上させている。デリカミニではソフトウエアがアップデートされ、スタック時にタイヤの空転を抑えるためにエンジン出力を絞るのはこれまでと同じだが、それでも脱出できない場合にはアウトプットを復帰させる制御が組み込まれた。パワーダウンを回避するために、マニュアル操作でスタビリティーコントロールを切らなくてもよくなったのだ。
新しいショックアブソーバーは、スムーズなダンピングと路面への追従性を重視して仕立て直された。砂利道を徐行する際には、あたかも小石の角が丸くなったかのような乗り心地を提供してくれる。さらに一般道でも走りの滑らかさに貢献するというが、センサーの鈍いドライバー(←ワタシです)にその改善度合いはよく分かりませんでした。
デリカミニのカタログやテレビCMでくどいほど表現されるのが、家族で行くライトなアウトドア活動である。豪華仕様のプレミアムグレードは、もちろんレジャーを意識した装備も豊富で、例えば寒い季節にありがたいステアリングヒーターはリム全周式だし、実際にどれだけ使うかは分からないが、ブレーキをかけずとも一定の速度で坂道を下ってくれるヒルディセントコントロールも搭載する。
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生態系を形成できるか?
後席乗員への配慮として、天井に設けられたサーキュレーターは広い車内の空気を循環させてエアコンの効きを均一化するし、リアサイドウィンドウのロールサンシェードは強い日差しを遮ってくれる。そもそも320mmもスライドさせられる後席は、軽規格をはみ出した快適性がジマンだ。
そうしたファミリー向けのハッピーなニュースとは対照的に、のんびり安価な旅に出たいと考えている独り身ドライバーに悲報。デリカミニは車中泊に向かない。後席背もたれを倒し、前席を最も前にしても、荷室後端から前席背面までは実測157cmしかとれない。そのうえ倒した背もたれ根元の樹脂カバーが膨らみ、全体にやや前上がりなので、体を斜めにしてスペースを稼いでもひどく寝づらい。残念です。まあ、普通に宿をとればいいんですけどね。
さて、デリカミニは2023年1月13日の受注開始から発売までの4カ月余りの間に、eKクロス スペースの年間販売台数(2022年で9016台)を超える約1万6000台の予約注文数を得たという。ちなみに月間販売目標は2500台だ。
販売動向を見ると、全力のアウトドア推しが効いたか、通常は2割程度の4WDの比率がなんと6割近くに達し、それには開発陣も驚いたとか。公式キャラクター「デリ丸。」が頑張ったかいがあった!? ウェイ! なにはともあれ、販売面で好調とは言い難かったスーパーハイトワゴンを3年目にしてブーストアップさせたのだから、デリカミニの企画担当やデザイナーは社長賞(!?)ものだろう。
ただ、デザインの魅力とは別にクルマが本質的に進化したわけではないので、潜在ユーザーの熱が冷めるのは意外と早いかもしれない。ロケットスタートの勢いを維持できるかどうかは、カスタムメーカーやサードパーティーを巻き込んだデリカミニのファンマーケット、生態系の形成にかかっている。三菱自動車に差し込んだ久々の光明である。頑張っていただきたい。あと、個人的にはeKクロスのデリカミニ顔バージョンも期待しています。
(文=青木禎之/写真=峰 昌弘/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
三菱デリカミニTプレミアム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1830mm
ホイールベース:2495mm
車重:1060kg
駆動方式:4WD
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:64PS(47kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:100N・m(10.2kgf・m)/2400-4000rpm
モーター最高出力:2.7PS(2.0kW)/1200rpm
モーター最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)165/60R15 75V/(後)165/60R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:17.5km/リッター(WLTCモード)
価格:223万8500円/テスト車=280万8520円
オプション装備:ボディーカラー<レッドメタリック×ブラックマイカ>(6万0500円)/アダプティブLEDヘッドライト(7万7000円) ※以下、販売店オプション サイドデカール(3万3440円)/フロアマット<プレミアム>(2万5960円)/ナビドラ+ETC2.0パッケージ(36万9820円)/三角停止板(3300円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2833km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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