マセラティ・グレカーレ モデナ(4WD/8AT)
名門はしたたかに 2023.06.20 試乗記 イタリアが誇る名門マセラティのエントリーSUV「グレカーレ」は、カーマニアやセレブリティーを中心としたこれまでの顧客とは少し異なる層にも注目されているという。48Vマイルドハイブリッドシステムを搭載する中間グレード「モデナ」に試乗し、人気の秘密を探ってみた。歴史よりも見た目
マセラティ・グレカーレは、このブランドの“日本における売り上げ倍増計画”を担ったモデルだという。簡単に言えば1年間で、これまでの年間合計登録台数と同じ数だけグレカーレを売りたいという野心的な目標がある。
マセラティの日本法人がそうした高い目標を掲げるのには、きちんとした根拠がある。まず兄貴分にあたる「レヴァンテ」より160mm短い、全長4.9m以下のボディーサイズが日本に向いている。ホイールベースが2900mmもあるから決して小さいわけではないけれど、「レクサスRX」とほぼ同じサイズだから、都市部でもデカすぎて困るということはないはずだ。
もうひとつ、アダプティブクルーズコントロールやレーンキープアシストなど、いわゆるレベル2の運転支援装置が用意されることも大きい。もうこの分野で、ライバル他車に“スペック負け”しなくなった。
実際、グレカーレはマセラティの期待どおり順調に売り上げを伸ばしている。これまでのマセラティの顧客とは異なる、若い子育て世代や女性、他ブランドからの乗り換えなど、新しい顧客層を取り込んでいるという。
興味深いのは、こうした新しい顧客層の購買理由を調べると、ブランドの歴史やパフォーマンスなどの優先順位がとても低かったということだ。速いとか遅いとか、ファン・マヌエル・ファンジオのF1制覇などはどうでもよく、きれいなデザインと上質なインテリア、それに余裕のある後席や1000万円以下のグレードもあるお買い得感が、購入の決め手になっているらしい。「このエリック・クラプトンとかいう人、ギターうまいね」といったところか。
カタログのスペック欄を見て、「最高出力120PSより130PSのほうがエラい」と思っていた昭和は遠くなった。ある意味でクルマ文化が成熟していることの表れかもしれない……。といったようなことを考えながら、マセラティ・グレカーレ モデナに試乗した。
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10km/hまでの加速がリッチ
グレカーレは3グレードの展開だ。そのモデル構成を簡単に整理しておくと、2リッターの直4ガソリンターボに48Vのマイルドハイブリッドシステムを組み合わせたエントリーグレードの「GT」、GTと同じパワートレインを強化したモデナ、そして同社のミドシップスーパースポーツである「MC20」の3リッターV6をデチューンして載せたトップグレードの「トロフェオ」となる。
今回試乗したのはモデナ。GTではシステム最高出力300PSだったパワートレインが同330PSにチューンされているほか、GTではオプションとなる運転支援装置が標準装備になっている。色艶のいいレザーやステッチの美しさなど、伝統的な高級車の雰囲気と大型液晶ディスプレイが巧みに調和した先進的なコックピットに収まると、たしかにこれならクルマ好きだけでなく家具やデザインを好む人も選びたくなる、と納得する。
スターターボタンを押してシステムを起動。スイッチ式のシフトセレクターでDレンジを選んでスタートする。走りだしてまず感じるのは、ゼロ発進の滑らかさと力強さだ。昭和のクルマ好きは0-100km/h加速がコンマ1秒、速いか遅いかで一喜一憂したけれど、このクルマは0-10km/h加速がリッチだ。
マイルドハイブリッドシステムは、48V電源で働くBSG(ベルト駆動式スタータージェネレーター)と、エンジンをアシストするeBoosterで構成される。このシステムは、もちろん省燃費にも寄与するはずだけれど、ドライバーが体感するのは素早いレスポンスという恩恵だ。ジェネレーターで発電した電気は、ほとんどすべてをeBoosterで使うという。
おかげで低速域からトルクはもりもりで、連続して赤信号に捕まるようなツイていない日でも、ストレスを感じない。スペックを見れば、昔だったら4リッターV8に匹敵する450N・mの大トルクを2250rpmという低い回転域から発生していて、なるほど、と思う。
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電制ダンパーが効いている
乗り心地はいい。基本的には上下動や横傾き(ロール)の少ない引き締まった乗り心地であるけれど、足まわりが硬いという印象を受けないのは、サスペンションがよく動いているからだろう。
サスペンションのストローク量がしっかり確保されているから、路面の不整を乗り越える際にしっかりと伸びたり縮んだりして、路面からの衝撃を緩和してくれる。そして衝撃を乗り越えた後で、ビシッと上下動を抑えて、フラットな姿勢を保つ。
試乗車はオプションのエアサスではなく、アクティブショックアブソーバーと呼ばれるモデナに標準装備される電子制御式ダンパーを備えていた。ステアリングホイールのスポーク部に位置するダイヤルで、この電制ダンパーのセッティングを「COMFORT」から「SPORT」に切り替えると、明らかに上下動と横傾きが少なくなり、スポーツドライビングに向いたセッティングとなる。
ここでもう一度、SPORTからCOMFORTに切り替えると、ふんわり丸い乗り心地に変化する。だからこの電制ダンパーは効果的に機能していると感じた。ただしこの2つのモードの中間にあたる「GT」というドライブモードは、いまいち存在意義がわからなかった。おそらく、その名のとおりグランドツーリングの高速巡航で効果を発揮するモードで、試乗会でのチョイ乗りではその意味を見いだしにくいモードなのかもしれない。
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デザインも走りも魅力的
新しいマセラティのファンはパフォーマンスには興味がないということだけど、やはりこのクルマはワインディングロードで輝くと思った。電制ダンパーと同じく、パワートレインのドライブモードセレクターもステアリングホイールのスポーク部分にあって、これをクリっと回してSPORTを選ぶと、高いエンジン回転数を保つようになるとともに、「ホロホロホロ」という抜けのよい排気音が耳に届くようになる。
決して高回転域まで突き抜けるように回るエンジンではないけれど、アクセルペダルを踏んだ瞬間にバチッとトルクが伝わるレスポンスと、コーナーでアクセルペダルを微妙に踏んだり戻したりする時の反応がナチュラルで、気持ちがいい。低回転域ではeBoosterがサポートし、回転が上がるとエンジンが主役になるという連携が上手だ。
8段ATとのコンビネーションも出色で、加速が欲しいときにわざわざシフトパドルに手を伸ばさなくても、アクセルペダルの踏み加減でピッとギアを落としてくれる。
インテリアやデザインで選んでもよし、走るのが好きなクルマ好きが選んでもよし、グレカーレというモデルは、マセラティというブランドの間口を広げてくれるクルマになるだろう。
マセラティ・ジャパンのマーケティング担当者によれば、販売好調のグレカーレであるけれど、同じパワートレインのチューン違いであるモデナとGTの差別化が難しいとのことだった。
実はこの日、同条件でエントリーモデルのGTと乗り比べることができた。結論から言うと、高速道路やワインディングロードを走るくらいだったら、30PSの違いはわからないし、トルクの立ち上がりなどのキャラクターも含めて両者に違いを見いだすのは難しかった。だったら1000万円以下のGTでいいじゃないか、と思ったけれど、スペック表とにらめっこしていると、それほど単純な話ではなかった。
モデナに標準装備されるものがGTではオプションになるものがあって、そうしたオプションを付けると、結局モデナのほうがお得、ということになりかねないのだ。装備や設(しつら)えなどを吟味して、もちろんお財布とも相談して、どっちが自分のスタイルに合っているかをじっくり検討する必要がある。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
マセラティ・グレカーレ モデナ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4845×1980×1670mm
ホイールベース:2900mm
車重:1920kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ+eBooster
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:330PS(243kW)/5750rpm
エンジン最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/2250rpm
モーター最高出力:13.6PS(10kW)/3000rpm
モーター最大トルク:54N・m(5.5kgf・m)
タイヤ:(前)255/40R21 102W/(後)295/35R21 107W(ピレリPゼロ)
燃費:8.7-9.2リッター/100km(約10.8-11.4km/リッター、WLTPモード)
価格:1114万円/テスト車=1348万円
オプション装備:メタリックペイント<ブルーインテンソ>(15万円)/ラミネートガラス(14万円)/21インチペガソスタッガードホイール<グロッシーブラック>(41万円)/イエローキャリパー(4万円)/パノラマサンルーフ(23万円)/テックアシスタントパッケージ<ヘッドアップディスプレイ、IRカットフロントガラス、ワイヤレスフォンチャージャー>(22万円)/フロントシートベンチレーション(12万円)/リアシートヒーター(7万円)/トラベルパッケージ<アルミニウムトランクシル、トランクカーゴレール>(7万円)/ヘッドレストトライデントステッチ(6万円)/ヒーテッドレザーステアリングホイール(4万円)/3Dカーボンファイバーインテリアトリム(46万円)
テスト車の年式:2023年型
テスト車の走行距離:1092km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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