スバル・インプレッサST-H(FF/CVT)
大事なことは伝わりにくい 2023.06.27 試乗記 「スバル・インプレッサ」がフルモデルチェンジ。パワートレインは洗練され、自慢の先進運転支援装備はさらに進化。スバルの懸案だった燃費も(少し)改善されたというのだから万歳三唱だ。多少地味だっていいじゃないか!パワーユニットは2リッターのみの設定に
撮影機材を荷室に積み終えて、助手席に座ったカメラマンが運転者の言葉に驚いた。「エッ!? コレ、新型なの?」「そうですよ。編集部の社有車じゃあ、ありませんよ」。思わず失笑するふたり。
メチャメチャいいクルマだけれど、人に薦めるのがメチャメチャ難しいクルマ。それが新しいスバル・インプレッサである。
発売は、2023年4月20日。「フルモデルチェンジを機に名称がインプレッサに変更された6代目」とのニュース記事を読むと「なんのこっちゃ?」と脳がバグるが、要はセダンの「G4」が廃止され、従来は「インプレッサスポーツ」と呼ばれていた5ドアハッチのみのラインナップとなった。
パワーソースは1.6リッターが落とされ、2リッターエンジンと2リッター+電気モーターのハイブリッドが用意される。言うまでもなくエンジンは水平対向4気筒で、トランスミッションは全車「リニアトロニック」ことチェーン式CVT。スバル得意の4輪駆動に加え、FF(前輪駆動)も選択できる。
価格は、ピュアボクサーの「ST」が229万9000円(FF)と251万9000円(AWD)。「e-BOXER」ことハイブリッドシステム搭載の「ST-G」が278万3000円(FF)と300万3000円(AWD)。さらに装備をおごったST-Hが299万2000円(FF)と321万2000円(AWD)となる。2リッターガソリン車がこれまで1.6リッターが担ってきたベーシックな役割を担当し、これからのメインとなるe-BOXERモデルが、プレミアム方向にグレードを拡大したカタチだ。
スマートフォン化を推進
6代目インプレッサの外観の変化は、地味。全体にエッジが立ってシャープさを増したとはいえ、実車を見ても「7年ぶりのニューモデル」と気づかない人も多いのでは。見かけから察せられるとおり、大きさもほぼ変わらない。先代と同じ2670mmのホイールベースに、全長×全幅×全高=4475×1780×1515mmのボディーを載せる。旧型より5mm広く、35mm高い。
一方、中身……というか、骨格はがっつり強化された。先代インプレッサから「レヴォーグ」にパスされた新世代プラットフォーム「スバルグローバルプラットフォーム」はさらに熟成が進み、サスペンション取り付け部に補強が施された。さらに車体の前半分にとどまっていた、骨組みを先に組んでからパネルを取り付けるボディーのインナーフレーム構造を後方にも広げてフルインナーフレーム化。剛性アップに貢献する構造用接着剤の塗布範囲も拡大している。クルマの基礎をしっかり固めたうえで、上級車種たるレヴォーグから各種の新技術、新装備を下ろしてきたのが今度のインプレッサである。
インテリアも全体にキープコンセプトだが、レヴォーグ同様、タブレット端末のように使える縦長11.6インチ液晶ディスプレイが採用された。柄にもなく(!?)クルマのスマホ化を推進しているわけだ。とはいえ、ボトムレンジのSTグレードには同ディスプレイが標準装備されないこともあってか、室温やデフロスター、オーディオといった頻繁に用いる機能のために物理的なダイヤルやボタン類が残されているのが、むしろ好ましい。シートヒーターのスイッチがATシフター横にあるのもありがたい。寒さにかじかむ手で、イライラしながら画面上のメニューを“掘って”いきたくないですからね。
個人的には、派手に目を引く大型画面より、医学的アプローチが採られたという新設計のフロントシートに関心が向いた。技術オリエンテッドなメーカーと目されることが多いスバルだが、初代インプレッサが登場した1990年代から、トップエンドのスポーツモデルを除いて、車種横断的にシートのデキがいまひとつなのが長年の謎だった。単に自分の好みと体形に合わないだけかもしれないが、座り心地が平板で、腰痛持ちでもないのに疲労がたまりがち。ライバルのマツダ車がさりげなくいいシートをそろえているので、なおさら不満に感じることが多かった。
インプレッサの新シートは、骨盤をベースに上半身を支え、頭部の揺れの減少を狙ったもの。控えめな形状だが、座ってみると確かに体の収まりがよくて快適。今回は、東京から千葉へ片道100kmほどの試乗だったが、降車時も好印象は変わらず。すっきりした読後感ならぬ、運転後感がうれしい。これなら長距離ドライブでも期待が持てそうだ。
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余裕を秘めた走り
“シートつながり”で述べておくと、後席の居住性の高さもインプレッサの目立たない美点である。座面の高さは適正で、座ったときのクッション感もいい。膝前、頭部まわりとも実用的な余裕がある。「スポーツワゴン」と呼ばれていたころのリアシートときたら、「人ではなくモノを置くためのスペースでしょ」とケチをつけたくなる……って、もう四半世紀も前のことなのですね! 21世紀のインプレッサでは、前後席ともこれだけキチンとした居住空間を築きながら、静粛性の面で有利なスリーボックスがカタログから落ち、開口部の大きなハッチバックが残る。なんだか皮肉なハナシだ。
この日の試乗車は、最上級グレードST-HのFFモデル。搭載するハイブリッドシステムは基本的にこれまでと同じで、2リッターのフラット4(最高出力145PS、最大トルク188N・m)と、電気モーター(13.6PS、65N・m)付きのCVTを組み合わせる。CVTがもともと備えていたクラッチ(前進後退切り替え用など)を活用してエンジンとモーターを切り離せるのが特徴で、モーターのみでの走行や、減速時の効率的なエネルギー回収(回生)が可能だ。
もちろん制御面でのブラッシュアップも進んでいて、発進、減速をはじめ、走行全般にわたってエレキが介入する違和感がない。よくも悪くも「ハイブリッド」を意識させない性格で、そうと言われなければ気づかない人がいるかもしれない。
気になる燃費は、FF車のカタログ値で16.6km/リッター(WLTCモード)。特に目を引く数字ではないが、旧型のe-BOXERモデル「アドバンス」(4WD)が車重1530kgで15.2km/リッター。新型は4WDのST-Hで1580kgと重くなりながら燃費は16.0km/リッターに向上しているから、開発陣のご苦労は推して知るべし。ちなみに、ピュアボクサーSTの4WD車は13.6km/リッターだ。
スバルのe-BOXERは、もともと「動力性能の底上げ」をうたっていて、新型の場合は「走りの上質化」にも大いに貢献していると思う。動きだしがスムーズで力強いし、巡航時の追い越し加速も嫌みなくこなす。過不足なく自然なフィールがいい。ひけらかすことがない、余裕を秘めた走りといいましょうか。
動力系から話題がズレるが、6代目の良好なドライブフィールには、レヴォーグゆずりの2ピニオン式電動ステアリングアシストを採用した恩恵も大きい。ドライバーの操作を読み取るセンサーと実際にアシストするモーターを切り離した機構で、正確性はもちろん、フィールも念入りにチューンされたらしく、操舵していて爽やかな印象を受ける。
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やっぱりメチャメチャ難しい
乗り心地も素晴らしい。重厚感さえ伴ってしっとりしていて、「インプレッサとは思えない」などと言うと失礼極まりないが、一度は輸入車に流れたユーザーも、手ごろなボディーサイズを求めて試しにインプレッサのステアリングホイールを握ってみたなら、きっと納得できるはず。六連星のセールスパーソンに代わって言うなら、「酸いも甘いもかみ分けたクルマ好きの方にこそ乗っていただきたい」。
ただ、広告を見ると小さい子供がいるファミリー層をターゲットにしているらしい。クルマの買い替えを検討している際、財布を握っているパートナーに、プラットフォーム、インナーフレーム、2ピニオン式のパワステ……といった単語を並べて力説してみても、「またオタクな話が始まった」と眉をひそめられるだけ。悲しい。そのうえ、マイルドもストロングも頓着せずに「ハイブリッド=燃費がいい」と理解していると、「トヨタの『カローラ スポーツ』はリッター30kmも走るらしい」と言われかねない。うーむ。
そこで「こども、いのち、インプレッサ。」の3ワードですよ。公式ホームページを確認すると、新型訴求ポイントの第一が「3つのカメラで命を守る、最新のアイサイト」である。運転支援システムのアイサイトに、ステレオカメラと前後4つのレーダーに加え、広角単眼カメラを増設。低速時に歩行者や二輪車を認識し、交差点などでの衝突回避を支援するよう改良された。拍手!
そうした改良点とは別に、該当ページで「スバル車1万台あたりの追突事故発生率」が、アイサイト(ver.2)非搭載車の0.56%(2010~2014年)から、アイサイトver.2搭載車では0.09%(2010~2014年)、アイサイトver.3搭載車では0.06%(2014~2018年)に減少と、具体的な数字を紹介しているのがスゴい。他社に先駆けて「ぶつからない技術」を搭載してきた実績があるからこそできることだ。
「それなら『クロストレック』のほうが……」と最近のトレンドに沿った提案をされると、反論は難しい。
人に薦めるのがメチャメチャ難しいけれど、それで諦めてしまうのはメチャメチャ惜しいクルマ。それが新しいスバル・インプレッサである。
(文=青木禎之/写真=峰 昌弘/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
スバル・インプレッサST-H
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4475×1780×1515mm
ホイールベース:2670mm
車重:1540kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:145PS(107kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:188N・m(19.2kgf・m)/4000rpm
モーター最高出力:13.6PS(10kW)
モーター最大トルク:65N・m(6.6kgf・m)
タイヤ:(前)215/50R17 91V/(後)215/50R17 91V(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:16.6km/リッター(WLTCモード)
価格:299万2000円/テスト車=313万5000円
オプション装備:LEDリアフォグランプ(5500円)/ナビゲーション機能(8万8000円)/ステアリングヒーター(1万6500円)/フロントシートヒーター(3万3000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:834km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:199.3km
使用燃料:18.8リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:10.6km/リッター(満タン法)/10.8km/リッター(車載燃費計計測値)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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