BMW X7 M60i xDrive(4WD/8AT)【試乗記】
テクノロジーの勝利 2023.07.04 試乗記 「BMW X7」がマイナーチェンジ。最新のBMW車らしくフロントまわりのインパクトが強烈だが、ラグジュアリーSUVとして中身も堅実な進化を遂げている。4.4リッターV8ツインターボエンジン搭載の「M60i xDrive」の仕上がりをリポート。あくまで部分的な刷新
X7はBMWのSUVフラッグシップである。その世界発表は2018年10月、国内発売が翌2019年6月なので、今回はモデルライフ中間地点でのマイナーチェンジということだ。
対してセダンのフラッグシップは、いうまでもなく、フルモデルチェンジされた新型が2022年に上陸したばかりの「7シリーズ」である。その新型7と“マイチェン”版X7は上陸時期こそ半年ほどずれているものの、本国での発表はともに2022年の4月だった。
今回のX7は外装、内装、メカニズムがくまなくアップデートされているが、もっとも目立つのはやはり“顔”だろう。キドニーグリルのサイズはすでに限界だったのか、今回は基本デザインも含めて大きく変わらず。かわりに夜間にあやしく輝くLEDが内蔵されて、ヘッドライトが2階建てデザイン(メインビームは下段)の「ツインサーキュラー&ダブルライト」となった。これはつまり、新型7と似た顔つきに整形されたともいえ、ならび立つフラッグシップの顔が、新旧バラバラにならないための配慮だろうか。
内装は2枚の大型液晶を一体化したカーブドディスプレイやトグル式の小型シフトセレクター、スリムなエアコン吹き出し口……など、随所に最新世代のアイテムをあしらう。助手席前のイルミネーションも、デザインはちがえど新型7にも見られるディテールだ。
ただ、マイチェンなのでダッシュボードなどの基本デザインは従来と酷似しており、さすがに完全刷新とまではいかなかったようだ。センターコンソールも最新のアイランド型ではない見慣れた形状のままである。ステアリングホイールもマイチェン前とは少しデザインがちがうが、7シリーズのような2スポークではないし、スポーク上のスイッチ類もいわば旧世代タイプである。このあたりはやはり、電装システムまで含めた基本設計を刷新する“フルチェン”でないと手を入れにくいのだろう。
「M50i」から「M60i」へ
3リッター直6ディーゼルと4.4リッターV8ツインターボというエンジンラインナップは従来と同様だが、駆動アシストもするスターター兼発電機による48Vマイルドハイブリッドが全車に追加された。
パワートレイン性能を象徴するグレード数字が大きくなり、今回試乗した「Mパフォーマンスエンジン」のV8搭載車は、従来の「M50i」から「M60i」へと改名された。
ただし、エンジン本体の性能値(最高出力530PS/5500rpm、最大トルク750N・m/1800-4600rpm)も、4.7秒という0-100km/h加速性能値も従来と変わりない。出力で12PS、トルクで200N・mをうたうマイルドハイブリッドが追加されても、公表されるトータルのシステム出力は、なぜかエンジン単体性能から上乗せなし。
「じゃあ、なんで50から60なのよ?」なのだが、今回のマイチェンで30kg重くなってもスピードが変わらないということは、差し引きでパワートレイン性能が上がっている計算になるのは間違いない。しかも、WLTCモードのカタログ燃費にいたっては7.5km/リッターから8.2km/リッターへと向上しており、マイルドハイブリッドの霊験はあらたかである。
クルマに乗りこもうとすると、外側のドアハンドルが伝統的なグラブ式であることに気づく。最近フルチェンされるBMWのドアハンドルは電磁式、手動式を問わずにフラッシュサーフェス化されているが、さすがにこの部分もマイチェンでの手直しは困難だろう。
運転席に座って、新しいシフトレバーに手を伸ばすと、「コンフォート」「スポーツ」「エコプロ」といった、これまた見慣れたドライブモードボタンが健在だ。最新のBMWはエアコンやシート、イルミネーション、あるいはアロマまでが一体となって乗り味を演出する「マイモード」が売りだが、それもマイチェンでは導入できないくらい凝った技術ということか。昭和世代の筆者には、このX7のドライブモードのほうがしっくりくるけれど。
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量産エンジンとしては頂点クラス
それにしても、4.4リッターV8ツインターボは、「M8」が積む頂点の「Mハイパフォーマンスエンジン」よりは控えめな仕様ながら、素直にたまらなく気持ちいい。最新ターボらしく低速域からトルキーなのに、4000rpm以上で本領を発揮しはじめて、最上の「スポーツプラス」モードでは5000~6000rpmでいよいよレスポンスを増していく……という回転上昇にともなうドラマはいかにもMだ。
これほどのチューンでありながら、低速域でのスロットルの細かいオンオフでも過給ラグめいたものをほとんど感じさせないのは、エンジンの素性のよさに加えて、マイルドハイブリッドの効果だろうか。
さらにエコプロモードやコンフォートモードだとギアシフトが滑らかそのものなのはいかにもラグジュアリーSUVらしい。しかし、スポーツ、そしてスポーツプラスとモードを上げる(?)につれて、変速の小気味よさとともに、あからさまなシフトショックが発生するようになる。こんなとき、4.4リッターV8ツインターボが、量産エンジンとしての絶対性能が頂点クラスのひとつということを、あらためて思い知る。
ナビでルート案内してもらうと、ポイントごとにセンターディスプレイに前方カメラ映像が映し出されて、進むべき方向を示すアイコンが前景に重ねて表示される。いわゆる「AR(拡張現実)機能搭載ナビ」も今回から標準搭載された新技術だ。
ARナビはBMWより少しだけメルセデスが先行した。画面上に方向指示器のように巨大な矢印が鮮やかに点滅するメルセデスと比較すると、転回する小さなアイコンと控えめな矢印によるBMWのほうが見た目はスマートで大人っぽいが、純粋な視認性や分かりやすさでは先行したメルセデス方式に軍配が上がる。現状ではもろもろの都合で異なるデザインを使っているのだろうが、このあたりはメーカーの壁を越えて共通化できればいいのにと思う。
アクセルオンでグイグイ曲がる
新しいX7にはこれまでより1インチ大きい23インチホイールがオプション設定されて、今回の試乗車もその23インチを履いていた。しかし、車体が無粋に揺すられることはなく、また低偏平タイヤ特有の突き上げもほとんど感じさせず、コンフォートモードの、ゆったりした快適至極な乗り心地には素直に感心する。街なかではよくも悪くも柔らかな上下動が目立つが、そのまま高速に乗り入れると、速度が高まるにつれてフラットに落ち着いていく。その乗り心地には、Mのクセに(失礼!)やんごとなきオーラすらただよう。
いっぽうで、スポーツもしくはスポーツプラス(両モードではパワートレイン制御が変わるが、シャシー関連制御は共通)に設定すると、走りも一変する。エアスプリングに連続可変ダンパー、前輪の可変ギアレシオステアリング+後輪操舵、アクティブスタビライザー、リアトルクベクタリング……といった電子制御が、寄ってたかってこの全高1.85m、重さ2.6t以上の鉄とアルミのカタマリをほとんどロールさせず、わずかでもヨーが発生していれば、アクセルオンでグイグイとインに引きずり込むように曲げていく。
この巨体をまるでホットハッチのように走らせるのは素直にすごい技術だ……みたいなことは、以前の「X5」の試乗記でも書いた気がする。ただ、今回のX7はそのX5よりホイールベースにして30mm、車重にして(同エンジン搭載車でも)100kg以上重い。よって、さしずめX5が「GRヤリス」なら、X7は「GRカローラ」くらいのちがいはある。
今回の試乗個体は23インチホイールや高級オーディオシステムなどのオプション込みで1800万円台。V8エンジンを積むハイエンド3列SUVとしては、価格は「キャデラック・エスカレード」や「メルセデス・ベンツGLS580」と同等。同じGLSでも「メルセデスAMG GLS63」よりは明確に安いが、スポーツ的な走行性能という意味ではAMGに匹敵する。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW X7 M60i xDrive
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5170×2000×1835mm
ホイールベース:3105mm
車重:2610kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:530PS(390kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1800-4600rpm
モーター最高出力:12PS(9kW)/2000rpm
モーター最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)/0-300rpm
タイヤ:(前)HL275/35R23 103Y/(後)HL315/30R23 111Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.2km/リッター(WLTCモード)
価格:1698万円/テスト車=1824万円
オプション装備:ボディーカラー<Mブルックリングレー>(11万円)/BMWインディビジュアルエクステンドレザーメリノ<コーヒーブラウン×ブラック>(0円)/Mスポーツパッケージプロ(11万円)/23インチBMWインディビジュアルライトアロイホイール<Vスポーク スタイリング9141>(29万4000円)/スカイラウンジパノラマガラスサンルーフ(13万7000円)/Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(60万9000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:5861km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(3)/山岳路(2)
テスト距離:364.6km
使用燃料:65.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.6km/リッター(満タン法)/5.7km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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