カワサキ・エリミネーターSE(6MT)
常識を排除せよ 2023.07.26 試乗記 往年の人気バイク「カワサキ・エリミネーター」が復活! 待望の新型は、見た目はクルーザーだが、いざ走らせると“新種のスポーツバイク”ともいうべき一台となっていた。常識外れなこのマシンは、ライダーの古い観念をエリミネート(eliminate:排除)するに違いない。かつての人気モデルがいよいよ復活
エリミネーター。過去幾度となくその車名を口にしたことはあるけれど、いま気がついた。実際に乗るのは今回が初めてだ。そもそもエリミネーターってどんなバイクだったっけ? と、初代が発売された1985年に思いをはせてみる。
……ファーストモデルの“無印”の「エリミネーター」は、排気量900cc。いわゆるアメリカンとは一線を画すドラッグレーサー風のデザインが特徴で、その後はこのエリミネーターらしい筋肉質イメージを、さまざまな排気量で(125cc、250cc、400cc、500cc、600cc、750cc、900cc、1000ccと全部で8種!)、2つの世代にわたって展開していった。そう。かつてエリミネーターは人気者だったのだ。
そんなエリミネーターが復活した。何年ぶりかは車種が多すぎて定かではないが、とにかく久しぶりの“エリミ”なのである。先のモーターサイクルショー(参照)でお披露目されたときの「エリミネーターSE」のルックスには、ドラッグマシンというよりもクルーザーっぽい雰囲気を感じていた。そして試乗当日。全身マットブラックのいでたちはちょっとだけ露悪的かつ日サロっぽいと苦笑いしてしまったが、カバー類の装飾を大きくすることで立派に見せようとはしていない。そんなところに好感が持てた。
こう見えてライトウェイト
いざ走り始めようとサイドスタンドを左足で払いながら車体を起こした瞬間、「ウッ」とうなってしまった。想像以上に軽いのだ。その驚きを引きずったまま並列2気筒エンジンを点火。足つきのことなんて忘れてしまうくらい両ヒザには余裕があるし、ステップも少し前方にレイアウトされているので、足元が広く感じる。ちなみに、純正オプションにはシート高を2cmダウンさせるローシートに加え、3cmアップさせるハイシートも用意されている。令和のエリミネーターはライダー思いだ。
軽いクラッチを左指で引いてシフトをローに。ていねいに発進すると、重そうに見えた車体は軽やかにスッと前に出た。「なんだこのライトさは?」。エリミネーターへの勝手な“重厚長大”イメージがどんどん覆されていく。後で調べたらウェイトは178kgだった。
そこから2速、3速、4速とギアをポンポンとつないでいくが、ストレスなくシャープに吹け上がる180°クランクの回転フィールとともに、クルーザーらしくないリズミカルさでスピードがどんどん乗っていく。こりゃ快感! これも後から調べたのだが、最高出力の48PSは「ホンダCBR400R」の46PSの上をいっており、しかも車両重量は14kgも軽いときている。エリミネーターは本当にライト級なのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
一番の魅力はハンドリングのよさ
搭載されるパラレルツインエンジンはスポーツラインである「ニンジャ400」からの流用なのだが、スペックなども含めて仕様にはほとんど変更がない。開発エンジニアはギア比をわずかにローギアード化(2次減速比14/41→14/43)するだけにとどめるという判断をしたようだ。
しかし車体構成パートについては、その大半が専用設計で組まれているという力の入りようだ。メインフレームは高張力鋼管を使用したトリレスタイプを採用。さらにエンジンの後ろ側にスイングアームマウントプレートをボルトで留めるという、オリジナリティーの高いメカニズムを盛り込んできた。むむむカワサキ、気合入ってんじゃん。
ちょっとだけ太いタイヤ(130/70-18)を履かせるフロントホイールは18インチ、リアは16インチ(150/80-16)。これがあえてのチョイスだとすれば、そのトライはかなりの部分で成功している。この前後バランスとニュートラルな旋回性は絶妙なセットなのだ。エリミネーターの購入検討者にそのグッドポイントを事前に聞かれたら、いの一番に答えたいのがハンドリングのよさだろう。「こんなナリだけど、めちゃスムーズに曲がるんですよ!」と鼻息荒くして語りたい。
ささやかな欠点なんて忘れてしまう
クイックではないが、まったり安定方向でもない。クルーザーモデルではしばしば味わわされる、いきなりハンドルがグラっと切れ込むようなドキドキは一切無し。安定感をキープしながら車体が自然にバンクし、コーナーをスムーズに旋回。やがて加速態勢に移行しながらスピーディーに脱出する──。
これが一線のスポーツバイクならいざ知らず、エリミネーターはキャスター角30°、トレール121mmのクルーザー種。前方へと抱き抱えるようなコンパクトなライディングポジションのおかげでフルブレーキが怖くないし、深くバンクしてもなかなかステップは地面に届かない。水冷の2気筒エンジンはビャンビャン回って痛快、シフトアップ/ダウンもきっちりキマる。
ネガがあるとすれば停車時のニュートラルへの入りづらさか。エンジンも吹け方と低回転でのザラつきに個性はあるが、そのサウンド自体は官能的というほどではないような気がする。積載もタンデムも芳しくなさそうだ。けれども総じてそれらは大した欠点ではない。数々の長所のほうがはるかにエリミネーターの個性に彩りを添えているし、そもそもエリミネーターはかなりの欲張りといえる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
クルーザーの形をした“新しいスポーツバイク”
試乗後でようやく理解できたのだが、エリミネーターはクルーザーではなく、街乗りもツーリングもこなせる万能系スポーツバイクなのだ。スポーツするためのバイクは少々前傾じゃないとね、という既成概念は、ロー&ロングなエリミネーターにはまったく通用しないのである。ハンドル幅も意外にタイトだし、左右のミラーもきっちりその幅に収まっている。だからすり抜けだってイケちゃうのだ(でもムリは禁物ですよ)。
加えて、このデザインである。エリミネーターの姿を真正面から見ると分かるのだが、丸型ヘッドライトと丸い単眼メーター、丸型ミラー……それら小さな「○」と、太めかつ大径な前輪の対比において、エリミネーターのエリミネーターらしさは際立っている。優れたハンドリングを犠牲にしない程度に、エリミネーターはほどよく太足なのだ。
あれ。そういえばエリミネーター(eliminator)ってどんな意味だっけ? と思って英和辞典を繰ってみたら、どうやら「排除する人」という意味らしい。その車名、マットブラックに包まれた強そうなフォルムには似合っているが、実はいい人という素性を考えると似合っていないような気もする。でも強いて言うなら、エリミネーターが排除するのは「スポーツバイクはスポーツバイクらしく」という世俗のステレオタイプかもしれない。
3代目エリミ、久々に褒めたい“ヨンヒャク”の登場だ。
(文=宮崎正行/写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2250×785×1140mm
ホイールベース:1520mm
シート高:735mm
重量:178kg
エンジン:398cc 水冷4ストローク直列2気筒SOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:48PS(35kW)/1万rpm
最大トルク:37N・m(3.8kgf・m)/8000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:25.7km/リッター(WMTCモード)
価格:85万8000円
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆画像・写真:東京モーターサイクルショー2023(カワサキ)
◆関連ニュース:「カワサキ・エリミネーター」復活 装備の異なる2タイプをラインナップ

宮崎 正行
1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。
-
スズキ・ワゴンR ZL(FF/5MT)【試乗記】 2026.1.28 スズキの「ワゴンR」がマイナーチェンジ。デザインを変更しただけでなく、予防安全装備もアップデート。工場設備を刷新してドライバビリティーまで強化しているというから見逃せない。今や希少な5段MTモデルを試す。
-
スバル・ソルテラET-HS(4WD)【試乗記】 2026.1.27 “マイナーチェンジ”と呼ぶにはいささか大きすぎる改良を受けた、スバルの電気自動車(BEV)「ソルテラ」。試乗を通して、劇的に改善した“BEVとしての性能”に触れていると、あまりに速いクルマの進化がもたらす、さまざまな弊害にも気づかされるのだった。
-
ホンダ・シビック タイプR/ヴェゼルe:HEV RS 純正アクセサリー装着車【試乗記】 2026.1.26 ホンダアクセスが手がける純正パーツを装着した最新ラインナップのなかから、「シビック タイプR」と「ヴェゼルe:HEV RS」に試乗。独自のコンセプトとマニアックなこだわりでつくられたカスタマイズパーツの特徴と、その印象を報告する。
-
トヨタbZ4X Z(4WD)【試乗記】 2026.1.24 トヨタの電気自動車「bZ4X」の一部改良モデルが登場。「一部」はトヨタの表現だが、実際にはデザインをはじめ、駆動用の電池やモーターなども刷新した「全部改良」だ。最上級グレード「Z」(4WD)の仕上がりをリポートする。
-
アウディA5 TDIクワトロ150kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.1.21 「アウディA5」の2リッターディーゼルモデルが登場。ただでさえトルクフルなエンジンに高度な制御を自慢とするマイルドハイブリッドが組み合わされたリッチなパワートレインを搭載している。260km余りをドライブした印象をリポートする。
-
NEW
レクサスRZ550e“Fスポーツ”(4WD)【試乗記】
2026.1.31試乗記レクサスの電気自動車「RZ」が大型アップデートを敢行。特に今回連れ出した「RZ550e“Fスポーツ”」は「ステアバイワイヤ」と「インタラクティブマニュアルドライブ」の2大新機軸を採用し、性能とともに個性も強化している。ワインディングロードでの印象を報告する。 -
NEW
「スズキGSX-8T/GSX-8TT」発表会の会場から
2026.1.30画像・写真スズキが新型モーターサイクル「GSX-8T/GSX-8TT」をいよいよ日本で発売。イタリアのデザインセンターが手がけた新型のネオクラシックモデルは、スズキに新しい風を吹き込むか? タイムレスなデザインと高次元の走りを標榜する一台を、写真で紹介する。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――トヨタ・クラウン エステートRS編
2026.1.30webCG Movies「クラウン」らしからぬデザインや4車種展開などで話題になった、新世代のトヨタ・クラウン。そのうちの一台「クラウン エステート」に試乗した、元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんの感想は? -
待望の7人乗りMPV「ルノー・グランカングー」を大解剖 ライバルにはない魅力はあるか?
2026.1.30デイリーコラムいよいよ日本に導入された、ロングボディー・3列シートの「ルノー・グランカングー」。満を持して登場した真打ちは、競合する国産ミニバンや7人乗りの輸入MPVに対し、どのような特徴があり、どんな人におススメなのか? 取材会で実車に触れた印象を報告する。 -
第946回:欧州に「277万円以下」のクルマなし! キューバ化を覚悟した冬
2026.1.29マッキナ あらモーダ!欧州でお値段1万5000ユーロ未満の大衆車が壊滅状態に! 自動車の価格高騰はなぜ起き、そしていつまで続くのか? 一般の自動車ユーザーは、この嵐をいかにしてやり過ごそうとしているのか? イタリア在住の大矢アキオがリポートする。 -
第286回:才人監督が描くディストピアのデスゲーム 『ランニング・マン』
2026.1.29読んでますカー、観てますカー「アルピーヌA290」で追っ手のハンターから逃げ延びろ! スティーブン・キングが50年前に予見した未来は、まさに現在の状況そのもの。分断とフェイクが支配する現実を鋭くえぐった最新型デスゲーム映画。


















