BMWアルピナD4 Sグランクーペ(4WD/8AT)
麗しのアルピナ 2023.08.26 試乗記 ライバルがどのような戦略をとろうとも、アルピナは自分の道を突き進む。最新の「D4 Sグランクーペ」は直6ディーゼルのあふれるトルクが魅力だが、そのコントロールもまた自由自在。フラットな乗り味とともに、まさにどこまでも行けるグランツーリスモである。大人のグランツーリスモ
本家BMWのMやメルセデスAMGの高性能セダンがサーキット志向を強めているせいか、あるいは単に私が年を取ったせいか、これ見よがしでない端正な高性能を追求してきたアルピナのユニークさが以前にも増して心にしみる。ガツガツ攻撃的に曲がり、爆発的に加速するスポーツカーのようにその特徴が分かりやすくはないけれど、高性能を洗練で包み込んで大げさにしないのが昔からのアルピナの流儀である。
フルサイズSUVの「XB7」から乗り換えたこともあるが、このD4 Sなどは走りだした途端に、靴を履き替えたように、体が軽くなったように軽快で、足まわりもパワートレインもしっとり滑らか、路面をなめるようなしなやかな身のこなしがお見事である。かといってソフトで優しいだけの旦那仕様などではない。どこにも緩んだところはなく、一分の隙もなく体にフィットするスーツのようだ。これぞアルピナである。しかもこれがディーゼルエンジン搭載モデルなのだから驚きだ。270km/hも出る高性能セダン(例によって最高巡航速度)をつかまえてこのぐらいがちょうどいいなんて言っては恐れ多いけれど、普段は過剰さを感じさせない実用的な高性能こそアルピナの真骨頂である。
もう本当に分からない
新しいD4 Sグランクーペはテールゲートを持つ「4シリーズ グランクーペ」をベースにしたアルピナの新型車で2022年に受注が始まっていたモデルだ。車名のとおりエンジンは3リッター6気筒ツインターボディーゼルだが、本家BMWの日本仕様でB57型直6ディーゼルターボを搭載するのはごく一部のモデルに限られ、「3シリーズ」や4シリーズのボディーと直6ディーゼルの組み合わせが選べるのはアルピナだけである。しかも新型は48V駆動のBSGを備えたマイルドハイブリッド仕様となった。BMWの新世代ディーゼルは4気筒でも十分パワフルでスムーズであることはご承知のとおりだが、直6ディーゼルの滑らかさと力強さはまた格別で、初めて乗る人ならもう本当にディーゼルとは気づかないかもしれない。
例によってアルピナ独自の手が入った直6ツインターボディーゼルは355PS/4000-4200rpmと730N・m/1750-2750rpmを発生する。最大トルクはガソリンツインターボの「B4」と同一だが、より低い回転数で最大値に達する。これほど強大なトルクゆえに初めからアルラット(4WD)だが、内外装のどこにもそれを主張するバッジの類いが付かないのもまたアルピナ流である。0-100km/h加速は4.8秒、いつものように巡航最高速度と公表されるトップスピードは270km/hという。
そもそも定評のあるBMW製B57型6気筒ディーゼルを独自につくり直すのはなぜか? といぶかしむ人もいるだろうが、本当に最高速ですっ飛んでいくうるさ型のカスタマーの要求に応えるためには、瞬間風速の最高速ではなく、そのスピードを何時間でも維持できるように冷却系も潤滑系もタフに仕立てなければならないというのがアルピナの返答である。
きめ細かくたくましく
実際にこれならどこまでも走れる。2000rpm以下から750N・mもの最大トルクを生み出すのだから、スイッチトロニック付き8段ATのシフトパドル(今はスポーク裏のボタンではなくパドルもオプションで選べる)に手を伸ばさなくても自由自在に望むだけの加速が得られるが、その強大なトルクすらも思いどおりに、繊細にコントロールできるところがエレガントである。
ジェントルに加速したければ行儀よく、ドカーンと飛び出したければ爆発的に、どのようにも反応してくれる。まことにきめ細かいスイートな6気筒ディーゼルターボである。1999年の「D10ビターボ」(E39型「5シリーズ」ベースの当時世界最速のディーゼルセダン)以降、高性能ディーゼルモデルのノウハウを積み重ねてきたアルピナの面目躍如である。
せっかくのアルピナならば、やはりガソリンエンジンを、という気持ちも当然ながら、このディーゼルならむしろ積極的に選びたい。とりわけ、日常的に長距離を走る人、しかも平均速度を重視する人にはうってつけだ。揺るぎないスタビリティーとフラットでしなやかな乗り心地を備えるD4 Sはグランドツアラーとして文句なしといえるだろう。
定番には理由がある
かつてのアルピナはタイヤ銘柄やホイールサイズが一本化されており、それに合わせ込んだセッティングをするからこそ、ザラザラした粗さを感じさせない透き通った乗り心地が可能であると言われていたが、最近ではタイヤこそ「ALP」マーク付きの専用開発ピレリを採用しているものの、ホイールサイズは複数用意されているモデルもある。乗り心地も以前より引き締まってダイナミックに変化してきたが、このD4 Sは20インチだけの設定で、乗り心地もこれまでどおりの洗練されたアルピナライドに感じられた。
D4 Sにはセンターキャップ付きのクラシックデザイン鍛造ホイールが装着されている。繊細な20本スポークデザインが特徴のアルピナクラシックホイール(ただし最近のものは細かなリブ付き)はもともとアルミ鋳造ホイールで、センターキャップの中にエアバルブが設けられており(スポーク部が中空構造)、リム部分には何もないすっきり削ぎ落としたデザインがウリだった。鍛造になってスタッドボルトが露出したデザインになったはずなのだが、昔ながらのデザインを好む声も多かったのか(あるいは盗難防止のためか)、ホイールキャップ付きも用意されたという。「B3」などには星型スポークの19インチダイナミックホイールも設定されているが、端正なエレガンスを旨とするアルピナはやはりクラシックホイールが似合うと思う。みずみずしい緑の中を駆け抜けるのに最高の一台である。
(文=高平高輝/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMWアルピナD4 Sグランクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4790×1850×1440mm
ホイールベース:2855mm
車重:2020kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ツインターボ
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:355PS(261kW)/4000-4200rpm
エンジン最大トルク:730N・m(74.4kgf・m)/1750-2750rpm
モーター最高出力:11PS(8kW)
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y/(後)285/30ZR20 99Y(ピレリPゼロ)
燃費:14.5km/リッター(WLTPモード)
価格:1280万円/テスト車=1550万4000円
オプション装備:アルピナスペシャルカラー<アルピナブルー>(44万円)/フルレザーメリノ<フィヨルドブルー>(59万6000円)/アルピナセーフティーパッケージ(61万円)/アルピナパドルシフト(7万円)/アルピナ高性能ブレーキ(40万円)/ガラスサンルーフ(16万4000円)/サンプロテクションガラス(9万円)/ランバーサポート(2万円)/シートヒーティング(6万2000円)/ガルバニックフィニッシュ(2万3000円)/TVチューナー(13万7000円)/harman/kardonサウンドシステム(9万2000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2506km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--m/リッター

高平 高輝
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