第766回:テイン中国工場訪問記(その2)~理想の工場で地産地消~
2023.09.30 エディターから一言多品種少量生産で目指すのはプレミアム・リプレースメント
(その1からの続き)
「テスラ用の純正形状ダンパーが人気で、売れ行きが伸びているんです」と教えてくれたのは株式会社テインの古林 泰専務である。古林氏も学生時代は自動車部で鳴らした、いわば“こっち側”の人だ。「テインといえば車高調という認識がありましたから、純正形状ダンパーが果たして売れるんだろうかという疑問はありました。ところが、乗り心地を改善できると口コミで広がり、ここ数年で売上比率が増えているんです」という。
私自身も、いわば走り屋向けのテインのダンパーが、それほど走行性能にこだわりがあるとは思えないテスラオーナーに人気なのは不思議だと感じていたのだが、中国工場を訪問し、詳しく話を聞いて納得した。そもそも中国は一部を除いて道路事情が良くないうえに、日本などよりもクルマが過酷に扱われるのが普通なのだという(タイヤ交換の度にダンパー交換も当たり前という)。そんなシビアなコンディションのもと、乗り心地と耐久性が評価されて、中国のみならずモンゴルやインド、パキスタンといったアジア諸国でも売り上げを増やしているのだという。
クルマ好きの皆さんには釈迦(しゃか)に説法だとは思うが、ここで念のためにテインについてもあらためて振り返っておこう。そもそもは自分たちのラリーのために、自分たちが納得できる競技用ダンパーを自分たちで開発するために、1985年にテインの市野 諮代表取締役社長と藤本吉郎専務取締役を含めた数人で立ち上げたのがテインだ。両氏はコドライバーとドライバーとして、それ以前からラリー界では注目のコンビであり、早くから海外挑戦を目指していた。その後藤本専務はTTE(トヨタ・チーム・ヨーロッパ)のオーディションを勝ち抜いて日本人初のワークスドライバーに抜てきされ、1995年のサファリラリーで総合優勝(ST185型「セリカGT-FOUR」/現在でも唯一の日本人サファリウィナー)、さらに1998年にはアジアパシフィックラリーチャンピオンに輝いた。
それゆえにコンペティション分野に強いのは当然ながら、今では幅広い車種に対応するサスペンションシステムをラインナップしている(これまでの通算で4000車種)。もうひとつの特徴は、自動車メーカーへのOE納入を手がけていないこと。この点が例えばKYBやビルシュタインといった大手サプライヤーとの違いである。高品質なアフターマーケット製品に特化し(プレミアム・リプレースメントと称する)、競技用や特殊なダンパーまで含めて素早く開発(最短3カ月という)、生産できるフレキシブルな体制がテインの強みである。テインの売上高は直近で52億円あまり、それを2030年に100億円に引き上げる計画という。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テインはなぜ宿遷市に?
テイン中国工場は上海から北におよそ500km、ざっくりいうと上海と北京の中ほどの江蘇省宿遷市に位置する。江蘇省の省都は南京だが、古くから運河が縦横に走り水運に恵まれた地域で、現在は高速道路だけでなくCRH(中国新幹線)も通っている。CRHを使うと上海までは3時間ほどである。
とはいえ、上海からもそれなりに時間がかかる宿遷市に立地するのはなぜか。広大な中国とはいえ、いくつもの条件を満たす場所は実はなかなか見つからなかったという(決定までに7年を要したらしい)。というのも、主要部品の部材加工から最終仕上げまで内製できる工場、すなわちダンパーの要であるピストンロッドの品質確保のための硬質クロームメッキや超仕上げ研磨の工程を含めて一貫生産する場合、中国でも(特にメッキ処理の)認可を得るのは簡単ではないからだ。進出企業に対する優遇措置などを含めて検討した結果が現在の立地というわけだ。
もちろん中国の環境基準が緩いわけではなく(むしろ日本よりも厳しいほどだという)、工場は排出物管理が徹底されたスマートファクトリーである。敷地面積は約2万1000平方m(およそ国際規格のサッカーピッチ3面分、横浜本社工場の4倍)、従業員数は260人、建屋の屋根全面にソーラーパネルを備え(発電能力1万kWh/日)、工場の必要な電力の9割を賄えるほどだという。内部部品は徹底的に洗浄された後、最終組み立ては陽圧管理されたクリーンルームで行われ、画像検査による品質検査も導入されている。標準装着品とはレベルが違う高品質へのこだわりである。現在の年間生産量は30万本(ちなみに大手のカヤバは日産10万本)、これを2030年には100万本にする計画である。(さらに続く)
(文=高平高輝/写真=テイン、高平高輝/編集=藤沢 勝)

高平 高輝
-
第851回:「シティ ターボII」の現代版!? ホンダの「スーパーONE」(プロトタイプ)を試す 2025.11.6 ホンダが内外のジャーナリスト向けに技術ワークショップを開催。ジャパンモビリティショー2025で披露したばかりの「スーパーONE」(プロトタイプ)に加えて、次世代の「シビック」等に使う車台のテスト車両をドライブできた。その模様をリポートする。
-
第850回:10年後の未来を見に行こう! 「Tokyo Future Tour 2035」体験記 2025.11.1 「ジャパンモビリティショー2025」の会場のなかでも、ひときわ異彩を放っているエリアといえば「Tokyo Future Tour 2035」だ。「2035年の未来を体験できる」という企画展示のなかでもおすすめのコーナーを、技術ジャーナリストの林 愛子氏がリポートする。
-
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して 2025.10.15 レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。
-
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た 2025.10.3 頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。
-
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す 2025.10.3 2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。
-
NEW
アウディSQ5スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】
2025.11.8試乗記新型「アウディSQ5スポーツバック」に試乗。最高出力367PSのアウディの「S」と聞くと思わず身構えてしまうものだが、この新たなSUVクーペにその心配は無用だ。時に速く、時に優しく。ドライバーの意思に忠実に反応するその様子は、まるで長年連れ添ってきた相棒かのように感じられた。 -
MINIジョンクーパーワークスE(FWD)【試乗記】
2025.11.7試乗記現行MINIの電気自動車モデルのなかでも、最強の動力性能を誇る「MINIジョンクーパーワークス(JCW)E」に試乗。ジャジャ馬なパワートレインとガッチガチの乗り味を併せ持つ電動のJCWは、往年のクラシックMiniを思い起こさせる一台となっていた。 -
新型「日産エルグランド」はこうして生まれた! 開発のキーマンがその背景を語る
2025.11.7デイリーコラム日産が「ジャパンモビリティショー2025」に新型「エルグランド」を出展! およそ16年ぶりにフルモデルチェンジする大型ミニバンは、どのようなクルマに仕上がっており、またそこにはどんな狙いや思いが込められているのか? 商品企画の担当者に聞いた。 -
ジャパンモビリティショー2025(ホンダ)
2025.11.6画像・写真「ジャパンモビリティショー2025」に、電気自動車のプロトタイプモデル「Honda 0 α(ホンダ0アルファ)」や「Super-ONE Prototype(スーパーONE プロトタイプ)」など、多くのモデルを出展したホンダ。ブースの様子を写真で詳しく紹介する。 -
ジャパンモビリティショー2025(マツダ・ビジョンXコンパクト)
2025.11.6画像・写真マツダが「ジャパンモビリティショー2025」で世界初披露したコンセプトモデル「MAZDA VISION X-COMPACT(ビジョン クロスコンパクト)」。次期「マツダ2」のプレビューともうわさされる注目の車両を、写真で詳しく紹介する。 -
ジャパンモビリティショー2025(マツダ)
2025.11.6画像・写真「ジャパンモビリティショー2025」で、コンセプトモデル「MAZDA VISION X-COUPE(ビジョン クロスクーペ)」と「MAZDA VISION X-COMPACT(ビジョン クロスコンパクト)」、新型「CX-5」を初披露したマツダ。車両とブースの様子を写真で紹介する。








