第828回:【Movie】あの絶版車がひそかな人気に! 大矢アキオ、捨て身の路上調査員「ローマ編」
2023.10.05 マッキナ あらモーダ!スマートが一番多い都市
スマートがヨーロッパで、積極的なプロモーション展開を図り始めている。
それまで同車を製造していたメルセデス・ベンツが、中国の浙江吉利控股集団と合弁会社を設立することで合意したのが2019年。以来ヨーロッパでは、2017年に投入された電気自動車(EV)「スマートEQ」が、いわばつなぎモデルとして販売されてきた。
中国製EVとしてのスマート第1弾である「#1」は2023年5月、ミラノ・デザインウイークに展示された。同年9月にミュンヘンで開催されたIAAモビリティー市内会場にもブースが設営され、第2のモデルである「#3」が紹介されていた。イタリア国内のメルセデス・ベンツ販売店にも並び始めている。
イタリアでスマートといえば首都ローマである。1998年の発売以来、この地では約20万台のスマートが販売された。メーカーによると「世界で最もスマートが売れる都市」である。イタリアを代表するメルセデス・ベンツディーラーであり、長年にわたりドイツ本社との深いつながりを持つ「メルセデス・ベンツ・ローマ」の販売力も、それを後押ししたことは間違いない。
しかし最大の理由は、し烈な駐車スペース獲得合戦に困らない「フォーツー」の車体寸法だった。この街でコンパクトさがいかに重要かを教えてくれるのが、知人であるイタリア人弁護士の話だ。彼が日本の最高裁判事に相当する破毀院の判事と会食したときのこと。どんな高級車で来るのか観察していたら、日本で言うところの10円パンチだらけの「フィアット“ヌオーヴァ”500」に夫人を乗せて現れたという。
実用と同時に、趣味としてスマートを愛好する市民も多かったようだ。かつて各国持ちまわりで行われていたメーカー主催ファンイベント「スマートタイムス」には、ローマ周辺のファンたちが必ず愛車でやってきていたものだ。
各地の街を走っているクルマをご覧いただく「捨て身の路上調査員シリーズ」。久々の今回は、そのローマが舞台だ。筆者が住むシエナからは、高速道路A1号線「太陽の道」経由で南下すること約3時間、距離にして約235kmである。
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トヨタも奮闘
本当にスマートが多いのか? ということで、筆者が観察の場に選んだのは、市内におけるランドマーク的存在である「ヴィットリオ・エマヌエーレII世記念堂」横。正確にはアラコエリのサンタマリア聖堂に続く階段から見下ろした。約10分にわたって数えた結果は、以下のとおりである。タクシー、ハイヤー、商用車は除外した。
1位 フィアット:22台
2位 スマート、トヨタ:各8台
4位 プジョー、フォルクスワーゲン:各5台
6位 ジープ、日産、ルノー、BMW:各3台
10位 ダチア、オペル、アルファ・ロメオ、メルセデス・ベンツ:各2台
14位 アウディ、キア、リンク&コー、クライスラー、キア、ヒョンデ、ランチア、MINI、ボルボ、フォード、ベントレー、テスラ、DR:各1台
圧勝は、他の多くのイタリア都市同様フィアットであった。しかしながらスマートは、トヨタとともに依然2位という結果になった。ちなみにテヴェレ川の反対側、ローマの下町といえるトラステヴェレ地区では、よりスマートを見かける頻度が高くなる。主流は2代目、3代目で、2017年に登場したEV版であるスマートEQもミラノを超える普及ぶりだ。いっぽう吉利系スマートの全長は、小さいほうの#1でも4270mm。もはや普通のコンパクトカーと同じである。ローマ市民にどれだけ認知されるかは未知数だ。
他ブランドではトヨタが奮闘している。やってきたクルマの大半はハイブリッドだ。さらに上記でカウントしなかったタクシーにおいては抜群ともいえる割合である。背景には、ローマ市およびラツィオ州が、他のイタリア都市に先行して2010年代から、環境対策車のタクシーに対する優遇措置を実施してきたことがある。トヨタの現地法人も、本社がローマ・フィウミチーノという地の利を生かし、それに積極対応してきた。地元トヨタ販売店も、タクシー業者に対して定期点検代金の30%引きといったプロモーションで拡販を図っている。「iQ」でスマートに勝てなかったトヨタだが、別のマーケットでローマに地歩を築いたのである。
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旧「メルセデス・ベンツAクラス」が引く手あまた
ところで調査時には上がってこなかったが、滞在中、ローマ人の間で意外なクルマが人気であることがうかがえた。メルセデス・ベンツの2代目「Aクラス」(W169)である。現役時代、いわばスマートの姉貴分だったモデルだ。現地で知り合ったレンタカー業者と高級文具店のオーナー2人にプライベートカーを聞いたところ、偶然にも2人とも「2代目Aクラス」と教えてくれた。彼らが最初に評価するのは、やはりその小ささだ。全長4m以下だった最後のAクラスで、前述のスマート#1よりも短い。貴重なコンパクトカーなのである。たしかに、前述のトラステヴェレを中心に少なからず目撃した。
彼らが第2に挙げる理由が、その品質だ。サンピエトリーノと呼ばれるローマ独特の石畳を走る際、新車で比較すると全体的にイタリア車のほうが乗員に伝わる不快な振動は少ない。しかし年が経過すると、ドイツ車のほうが車体の劣化が小さいという。筆者の印象を付け加えれば、ブランド初のコンパクトカーということで必要以上に入っていた初代Aクラスの気負いが、2代目では適度に和らいでいるのが好ましい。
中古車市場も2代目Aクラスの人気を証明している。個人売買サイト「スービト・プントイット」を通じてローマ一帯のW169を検索すると、2011年式すなわち12年落ち・走行10万km以上にもかかわらず、6200ユーロ(約97万円)で売り出されているものが確認できた。
ちなみに、筆者が住む中部トスカーナに多い三輪トラックは、永遠の都のカオス的トラフィックにはなじめないようで、市場や公共用作業車を除いてほぼ見られない。同じイタリアでも、そうしたヴァナキュラーな生態系の違いは、面白いものである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=堀田剛資)
【Movie】捨て身の路上調査員「ローマ編」
(撮影と編集=大矢麻里<Mari OYA>)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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