価格は363万円~407万円 「BYDドルフィン」のお買い得度を検証する
2023.10.04 デイリーコラムゴルフサイズのBEV
中国車として初めて、日本の乗用車市場に本格参入を果たしたBYDは、一般メディアや経済メディアの一部で“黒船”とたとえられる。BYDは今やバッテリー電気自動車(BEV)の世界最大手だそうで、日本でも買い得なBEV専門ブランドとして勝負するようだ。そんなBYDを黒船ととらえるメディアは、“中国や欧米にBEVで出遅れた”とされる日本メーカーがBEV最大手のBYDにかなうはずもなく、日本市場もBYDに食い荒らされてしまう……と危惧するわけだ。
そんなBYDでも、先日発売となった「ドルフィン」は、既存の「ATTO 3」よりさらにコンパクトだ。日本のみならず欧州や豪州でも販売されるBYDのグローバルモデルとしては、もっとも手ごろでお買い得な位置づけとなる商品である。というわけで、ドルフィンは具体的にどれくらい買い得なのだろうか。
ドルフィンの全長4290×全幅1770×全高1550mmというスリーサイズは、われわれになじみ深いクルマでいうと、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」に匹敵する。ゴルフは世界的にはCセグメントに分類されるが、同時にCセグではもっともコンパクトな部類だ。ドルフィンのサイズを国産BEVと比較すると、正真正銘のCセグといえる「日産リーフ」や「マツダMX-30 EVモデル」と、ひとつ下のBセグメントに相当する「ホンダe」との中間と考えればいい。
日本で販売されるドルフィンには2グレードあり、総電力量44.9kWhのリチウムイオンバッテリーを積む通常グレードで本体価格363万円、同じく58.56kWhを積む「ロングレンジ」で407万円。ホンダeとMX-30 EVモデルのバッテリーはともに33.5kWhで、本体価格もともに500万円前後。少なくともバッテリー総電力量で計算すると、ドルフィンのコスパに、ホンダとマツダはまるでかなわない。
そんなドルフィンのバッテリー電力量と価格は、国産BEVの元祖ともいえるリーフを強く意識した印象が強い。実際、リーフにも40kWhを積む標準モデルと60kWhの「e+」があり、価格は前者が平均400万円台前半、後者が平均500万円台半ば(40kWhは現在受注停止中)といったところで、ドルフィンのほうが本体価格で実質50万~100万円ほど安く設定されている。
安全性や耐久性はどうか?
もっとも、バッテリーの劣化も気になるBEVの購入は、今はサブスク型リースが現実的かもしれない。というわけで、ドルフィン ロングレンジとリーフe+(のエントリーグレード「X」)で比較してみると、ドルフィンが4年契約で月々4万4700円~、リーフが5年契約で6万5670円~というプラン(ともに頭金/ボーナス加算なし、月間走行1000kmまで、任意保険別)が紹介されている。ここでもやはり、ドルフィンのほうが割安というほかない。
こう書くと「そうはいっても、BYDは安全性や耐久性に問題があるのでは?」というツッコミも少なくない。これについての正当な評価は長期間のウオッチを経るしかないが、少なくとも衝突安全性については、ドルフィンに先行したATTO 3で、BYDは2022年に実施された「ユーロNCAP」で最高ランクの5つ星を獲得している。
また、耐久性についても、ドルフィンを含むBYDは、リン酸鉄系の正極をもつリチウムイオンバッテリーを使う。充放電回数に対する耐久性と発火しにくさでは、リン酸鉄系はもともと定評が高い。対する国産BEVは今のところ、ほぼ例外なく三元系の正極をもつリチウムイオンを使う。三元系はリン酸鉄系に対して、低温に強く、またエネルギー密度も高い。つまり、バッテリーとしての限界性能は三元系のほうが高く、より大容量な電池をコンパクトにつくることができる。それが日本メーカーが三元系を好んできた理由でもある。
ただ、リン酸鉄系を積むドルフィンの一充電走行距離(WLTCモード、以下同じ)は通常モデルで400km、ロングレンジで476km。対するリーフは40kWhモデルで400km、60kWhモデルで550kmをうたう。車体サイズや重量を考えれば、なるほど三元系のリーフのほうが高性能。しかし、実用BEVとして、リン酸鉄系があからさまに劣るわけでもない……のは、ドルフィンの性能からも分かる。
実際、少なくとも次世代バッテリーといわれる全固体電池が普及するまでは、耐久性や安全性に加えてコストでも有利なリン酸鉄系こそが、BEVの主流になるのでは……との声が高まっている。今までは三元系に集中してきたトヨタも、最近はリン酸鉄系の確保に乗り出したとの情報も伝わってくるくらいだ。
いかにも売れそうなポジションだけど
……と、単純な性能やコストを数字だけで比較すれば、現時点で最後発のドルフィンのコスパは、なるほど国産BEVをしのぐ。また、わざわざ右側に移設されたウインカーレバーを見ても、BYDが日本市場参入に向けて入念な準備を進めてきたことは想像にかたくない。
では、このBYDの大本命ともいえるドルフィンが、日本市場でも数ある国産・輸入BEVをなぎ倒すほど売れて、日本でのBEV普及の起爆剤になるか……といわれると、それはむずかしいだろうなというのが本音だ。
それは、日本の一部消費者に根強く存在する、中国製品に対する拒否反応だけが理由ではない。なにせ、日本は量産BEVの発売こそ世界に先がけたが、現在のBEV販売は、欧米や中国と比較すると「まだまだスタートラインにも立っていない」というほかない。たしかに日本でもBEV販売は右肩上がりの局面に足を踏み入れつつある。しかし、その絶対的な比率は、欧米や中国よりあからさまに低い。
たとえば、この2023年上半期(1~6月)の日本における新車販売全体に占めるBEV比率は2%強。同時期の中国では20%以上、同じくEUは14%強である。いまだに大排気V8のイメージのある北米ですら、6%を超えるという。もちろん、現在のBEV市場は補助金によってつくられた部分もあり、また最終的にBEVを普及させるのが正しいのかについても異論はある。そうはいっても、日本のBEV販売比率は、まがりなりにも先進的な自動車市場を自認するなかでは明らかに低い。
このようにかぎられたBEV市場では、ドルフィンのようなファーストカーとしての利便性や実用性、そしてコスパに真正面から取り組んだクルマはまだ売れにくい。
実際、日本でそれなりに売れているBEVといえば、輸入車ならテスラや欧州高級ブランド車、国産ならすでに累計5万台近い届け出台数に達していると思われる軽自動車の「日産サクラ」である。つまり、日本でのBEVはいまだに、それ以外にも移動手段をもつ富裕層が知的好奇心やステータスのために乗る高級車か、完全な街乗りコミューターとして割り切れる軽自動車か……の二極化傾向が見える。
街乗りから休日のお出かけまで、なんの気兼ねもなく1台のクルマでこなす……という用途には、今の日本ではBEVは明らかに不便である。本来はドルフィンのような普通のB~Cセグメント車こそ、そうした用途にぴったりのはずだが、市中や(賃貸を含めた)住宅での充電インフラがまるで整っていない日本では、BEVをごく普通に使うのはまだまだハードルが高いのが現状だ。
ドルフィンのような、普通に買い得で普通に使いやすいBEVが日本で売れるとすれば、それは日本でも真の意味でBEVが普通の存在になったときだろう。そもそも、そんな時代が日本に本当にやってくるか……は、よく分かりません(笑)。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
ガス代は下落しハイブリッド好調 では“燃費の相場”はどうなっている? 2026.2.9 暫定税率は廃止となり、高止まりしていた燃料代は下落。一方でBEV化の速度は下がり、ハイブリッド車需要が高まっている。では、2026年現在の燃費はいかほどか? 自動車購入時の目安になるであろう“燃費の相場”について考える。
-
ホンダの「Hマーク」がいよいよ刷新! ブランドロゴ刷新の経緯とホンダのねらい 2026.2.6 長く親しまれたホンダ四輪車のロゴ、通称「Hマーク」がついに刷新!? 当初は「新しい電気自動車用」とされていた新Hマークは、どのようにして“四輪事業全体の象徴”となるに至ったのか? 新ロゴの適用拡大に至る経緯と、そこに宿るホンダの覚悟を解説する。
-
ライバルはGR? ホンダが発表したHRCのモデルラインナップとその狙いに迫る 2026.2.5 ホンダが東京オートサロン2026で、HRC(ホンダ・レーシング)の名を冠したコンセプトモデルを6台同時に発表した。ホンダのカスタマイズカーとして知られるモデューロや無限との違い、そしてHRCをメジャーシーンに押し上げる真の狙いを解説する。
-
社長が明言! 三菱自動車が2026年に発売する新型「クロスカントリーSUV」とは? 2026.2.4 三菱自動車が2026年に新型クロスカントリーSUVの導入を明言した。かねてうわさになっている次期型「パジェロ」であることに疑いはないが、まだ見ぬ新型は果たしてどんなクルマになるのだろうか。状況証拠から割り出してみた。
-
電気自動車の中古相場はどうなっている? いま狙い目のユーズドEV 5選 2026.2.2 電気自動車(EV)の普及が本格化し公共の充電設備が混み合う間に、驚くほどお買い得な中古EVを手に入れて、EVライフを満喫するのはいかが? 大チャンスかもしれない今、狙い目のフル電動モデルをピックアップしてみよう。
-
NEW
第859回:トーヨーのSUV向け冬タイヤを北海道で試す! アナタのベストマッチはどれ?
2026.2.10エディターから一言トーヨータイヤが擁するSUV向けの冬タイヤに、北海道で試乗! スタンダードなスタッドレスタイヤから「スノーフレークマーク」付きのオールテレインタイヤまで、個性豊かな4商品の実力に触れた。アナタのクルマにマッチする商品が、きっとある? -
NEW
ホンダN-ONE RS(FF/6MT)【試乗記】
2026.2.10試乗記多くのカーマニアが軽自動車で唯一の“ホットハッチ”と支持する「ホンダN-ONE RS」。デビューから5年目に登場した一部改良モデルでは、いかなる改良・改善がおこなわれたのか。開発陣がこだわったというアップデートメニューと、進化・熟成した走りをリポートする。 -
NEW
開発したクルマについて、発売後にモヤモヤすることはある?
2026.2.10あの多田哲哉のクルマQ&Aセールスの良しあしにかかわらず、世に出たクルマに対して、その開発エンジニアがモヤモヤと後悔することがあるという。それは一体どうしてか? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんが語る。 -
ガス代は下落しハイブリッド好調 では“燃費の相場”はどうなっている?
2026.2.9デイリーコラム暫定税率は廃止となり、高止まりしていた燃料代は下落。一方でBEV化の速度は下がり、ハイブリッド車需要が高まっている。では、2026年現在の燃費はいかほどか? 自動車購入時の目安になるであろう“燃費の相場”について考える。 -
日産キャラバン グランドプレミアムGX MYROOM(FR/7AT)【試乗記】
2026.2.9試乗記「日産キャラバン」がマイナーチェンジでアダプティブクルーズコントロールを搭載。こうした先進運転支援システムとは無縁だった商用ワンボックスへの採用だけに、これは事件だ。キャンパー仕様の「MYROOM」でその性能をチェックした。 -
トヨタ・カローラ クロス“GRスポーツ”(前編)
2026.2.8思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「トヨタ・カローラ クロス“GRスポーツ”」に試乗。人気の都市型SUVに、GRのデザイン要素と走りの味つけを加味した特別なモデルだ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。









