ポルシェ・マカンT(4WD/7AT)
ポルシェ版“足のいいやつ” 2023.11.06 試乗記 ポルシェのエントリーSUV「マカン」に、より軽快な走りが楽しめる新グレード「マカンT」が登場。2リッター直4エンジンがかなえるノーズの軽さと、スポーティーな専用チューニングのサスペンションが織りなすドライブフィールに触れた。積極的に走りを楽しめる新グレード
T! T! ティーティーティティ!
チョコレートプラネットの一発ギャグも今となっては古いネタだけど、ポルシェではいまごろ「T」が大はやりだ。ファンならご存じのこの“ティー”は、1967年に登場した「ポルシェ911」のベース仕様になぞらえたグレードで、当時は「356」から高額になりすぎた911における、低価格なエントリーモデルとしての役割が与えられていた。ゆえにそのエンジンは部分的にデチューンされ、内外装のトリムも簡略化されたわけだが、だからこそカスタマーは走りを楽しめた。そのイニシャルに込められた意味は“Touring”だが、ちょっとした走りのグレードとしても認識されたというわけだ。
そんなTグレードは、2017年に先代911(タイプ991後期型)で「カレラT」として復活を果たしたわけだが、その立ち位置は「『カレラ』以上『カレラS』未満」と、かつてよりちょっと昇格。装備を簡略化した廉価グレードではなく、軽さを生かしたスポーティーモデルとしてよみがえったコンセプトがユーザーに受け入れられ、ポルシェは現行911(タイプ992)だけでなく「718ケイマン/ボクスター」にも展開し、今回初の“SUVのT”としてマカンTがラインナップされたという運びである。
とはいえマカンの“T”は、現行911カレラTのようにリアシートを撤去したり、遮音材を取り去ったりして涙ぐましい軽量化をしているわけではない。代わりに、シリーズで一番ベーシックで軽量な2リッター直列4気筒ターボ(最高出力265PS、最大トルク400N・m)をパワーユニットに選び、スポーティーな足まわりを与えることで軽さとスポーティネスを表現している。ちなみにドライブトレインは“素”の「マカン」と同じで、トランスミッションは7段PDK、駆動方式は4WDだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
まずはシャシーに感心させられる
要するに、マカンTの“T”としてのスパイスはフットワークが中心で、そのダンパーには「PASM」(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネジメント)が標準装備され、モードに応じて減衰力が適宜アジャストされるようになった。またそこに組み合わされる専用のスプリングにより、車高も通常より15mm低く設定されているが、試乗車には4気筒モデルとしては初となるオプションのエアサスペンションが装着されていた。細かい所では、フロントのスタビライザーも剛性が高められている。
ホイールは「マカンS」と同じ大径の20インチで、そのカラーリングはダークチタンだ。そしてここにトーンを合わせるように、フロント、サイド、リアのトリムが「アゲートグレーメタリック」で塗装される。シンプルだがスポーティーなルックスだ。
そんなマカンTでまず感心するのは、シャシーの素晴らしさだった。乗った瞬間からDセグメントSUVらしからぬ上質感と、それが創出するある種の“威厳”に圧倒される。にもかかわらず、乗り心地は地に足がついており、必要以上にフワフワ感やラグジュアリーさがないのもポルシェらしくてまたいい。
こうした味つけに寄与しているのは、エアサスとこれを制御するPASMの減衰特性だ。まずバネ下で突き上げる20インチタイヤの入力は、その角がきれいに取り去られており、操舵すればピタリと正確に進路をトレースすることができる。小径ステアリングホイールの操作は本当に無駄なく、しかし神経質すぎないから、街なかでも走りがすこぶる気持ちいい。
“T”ならではの軽さとライドフィール
エンジンは、2リッターの排気量や直列4気筒のデメリットがまったく感じられない。0-100km/h加速は6.2秒と月並みだが、ターボのレスポンスが良好で回り方も精緻。7段PDKをシフトパドルで操れば、適切なギア比によって低速から400N・mの最大トルクをいつでも引き出せるから、ストレスを感じないのだ。それどころか、精密な機械を操っている楽しさがある。
またポルシェのアピールどおり、軽量な4気筒のアルミ製エンジンブロックが、ハンドリングに軽快感を与えている。全長が短い直列4気筒ターボの採用は、フロントアクスル上でいうと2.9リッターV6ユニットを積む「マカンGTS」より58.8kgの軽量化を実現しており(車両全体としては95kg)、サスペンションの適度なしなやかさとも相まって、マカン“T”に乗っていることを強く実感させる。確かにV6ツインターボの重厚感とステータスは魅力だが、この身軽さはポルシェ本来の魅力のひとつだ。
ただ、高速道路をひたすらまっすぐ巡航するような場面では、エアサス特有の浮遊感が若干ステアリングセンターに甘さを与えている印象もある。矢のように、どっしり突き進む感じじゃない。
また、Tモデルでは4WDのセッティングも「PTM」(ポルシェ・トラクション・マネジメント)によってリア寄りのトルク配分となっており、さらに「PTV Plus」(ポルシェ・トルク・ベクタリング・プラス)がその旋回性を高めてくれているとのことだったが、曲率の高いワインディングロードだとロールが大きく、身のこなしにシャープさが足りなかった。ダンパーはしなやかに伸び縮みしてくれるのだが、単純にこの車重と速さに対して、エアサスのスプリングレートが低い。また6ポットキャリパー(フロント)のタッチはいいのだが、ローター径が小さく容量が少し足りない感じがある。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
“ポルシェのSUV”であることを思えば……
折しも、今回試乗したワインディングロードは、マカンが日本に初上陸したときに走った道だった(今から10年近く前の話だ!)。そのとき筆者は、マカンのあまりに鋭い旋回性能に驚いたのだが、同時にリアの接地性不足が一般向けにはややピーキーだと感じた。それだけポルシェも、初めての小型SUVに気合が入っていたのだろう。
対してマカンTは、走りがグッと大人びていた。同じコーナーでも、後ろが巻き込むようなムズムズ感がなくなった。それは、ポルシェのSUVとしてはある意味悲しいことだが、熟成とはこういうことだともいえる。もっとも、ここにリアアクスルステアリングがあれば問題は簡単に解決しそうな気もするのだが、そこはマカンの車格やTモデルとしてのシンプルさを考えれば、望むことではないのかもしれない。
そういう意味では、若干乗り心地に硬さが出ても、スチールスプリングのほうがマカンには似合う気がする。小さなSUVボディーで上質な走りを求めたいならエアサスはありだが、やっぱりマカンはポルシェがつくる、スポーツSUVなのだ。
(文=山田弘樹/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ポルシェ・マカンT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4726×1927×1606mm
ホイールベース:2807mm
車重:1865kg(空車重量)
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7AT
最高出力:265PS(195kW)/6000-6500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1800-4500rpm
タイヤ:(前)265/45R20 104Y/(後)295/40R20 106Y(ピレリPゼロ)
燃費:10.7-10.1リッター/100km(約9.3-9.9km/リッター、WLTPモード)
価格:901万円/テスト車=1115万2000円
オプション装備:ボディーカラー<キャララホワイトメタリック>(14万3000円)/スポーツエキゾーストシステム スポーツテールパイプ<ブラック>(24万5000円)/アダプティブエアサスペンション<レベルコントロールおよびライドハイトコントロール付き>PASMを含む(22万1000円)/パワーステアリング・プラス(4万円)/ポルシェ・トルクベクタリング・プラス(22万3000円)/イオナイザー(4万3000円)/パノラマルーフ・システム(24万7000円)/ドライバーメモリーパッケージ(4万9000円)/シートヒーター<フロントおよびリア>(6万3000円)/リアシート用サイドエアバッグ(6万1000円)/レーンキーピングアシスト(8万8000円)/Race-Texのルーフライニング(19万7000円)/LEDヘッドライト、ポルシェ・ダイナミックライトシステム・プラス含む(6万8000円)/シートベルト<ぺブルグレー>(6万6000円)/エクステリアパッケージ<エクステリア同色塗装>(23万8000円)/ストレージパッケージ(3万6000円)/「PORSCHE」ロゴLEDドアカーテシーライト(4万3000円)/プライバシーガラス(7万1000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:3336km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:285.6km
使用燃料:36.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.9km/リッター(満タン法)/9.1km/リッター(車載燃費計計測値)
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆ポルシェ伝統のネーミングを受け継ぐ「ポルシェ・マカンT」登場
◆軽さと爽快な走りを追求 新型「ポルシェ911カレラT」上陸

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ ヴォランテ(FR/8AT)【試乗記】 2026.3.14 英国の名門、アストンマーティンの旗艦車種「ヴァンキッシュ」に、待望の「ヴォランテ」が登場。5.2リッターV12エンジンを搭載した最上級コンバーチブルは、妥協のないパフォーマンスと爽快なオープンエアのドライブ体験を、完璧に両立した一台となっていた。
-
プジョーE-3008 GTアルカンターラパッケージ(FWD)【試乗記】 2026.3.11 「プジョー3008」の電気自動車版、その名も「E-3008」が日本に上陸。新しいプラットフォームに未来感あふれるボディーをかぶせた意欲作だが、その乗り味はこれまでのプジョーとは明らかに違う。ステランティスのような大所帯で個性を発揮するのは大変だ。
-
ジープ・アベンジャー アップランド4xeハイブリッド スタイルパック装着車(4WD/6AT)【試乗記】 2026.3.10 「ジープ・アベンジャー」のラインナップに、待望の「4xeハイブリッド」が登場。既存の電気自動車バージョンから、パワートレインもリアの足まわりも置き換えられたハイブリッド四駆の新顔は、悪路でもジープの名に恥じないタフネスを披露してくれた。
-
三菱デリカD:5 P(4WD/8AT)【試乗記】 2026.3.9 デビュー19年目を迎えた三菱のオフロードミニバン「デリカD:5」がまたもマイナーチェンジを敢行。お化粧直しに加えて機能装備も強化し、次の10年を見据えた(?)基礎体力の底上げを図っている。スノードライブを目的に冬の信州を目指した。
-
ホンダCB1000F SE(6MT)【レビュー】 2026.3.7 ホンダから満を持して登場した、リッタークラスの4気筒マシン「CB1000F」。往年のCBをほうふつさせるスタイルと、モダンなパフォーマンスを併せ持つネイキッドスポーツは、先行するライバルを追い落とすことができるのか? ホンダ渾身(こんしん)の一台の実力に触れた。
-
NEW
いまこそ、かき回したい! 新車で買えるおすすめMT車はこれだ!
2026.3.16デイリーコラム改良型「トヨタ・ヤリス」に、新たに6段MTモデルが設定された。現実的にMT車はレアであり、消滅する可能性もある時代だが……。これを機に、いま新車で買えるMT車のなかで、特におすすめできるモデルをピックアップしてみよう。 -
NEW
第331回:デカいぞ「ルークス」
2026.3.16カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。首都高で新型「日産ルークス」の自然吸気モデルに試乗した。今、新車で購入される軽ハイトワゴンの8割はターボじゃないほうだと聞く。同じターボなしの愛車「ダイハツ・タント」と比較しつつ、カーマニア目線でチェックした。 -
ポルシェ・タイカンGTS(後編)
2026.3.15思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「ポルシェ・タイカン」に試乗。後編ではコーナリングマシンとしての評価を聞く。山野は最新の「GTS」に、普通のクルマとはだいぶ違う特性を感じているようだ。 -
アストンマーティン・ヴァンキッシュ ヴォランテ(FR/8AT)【試乗記】
2026.3.14試乗記英国の名門、アストンマーティンの旗艦車種「ヴァンキッシュ」に、待望の「ヴォランテ」が登場。5.2リッターV12エンジンを搭載した最上級コンバーチブルは、妥協のないパフォーマンスと爽快なオープンエアのドライブ体験を、完璧に両立した一台となっていた。 -
テスラ・モデルYプレミアム ロングレンジAWD(4WD)
2026.3.13JAIA輸入車試乗会2026電気自動車(BEV)「テスラ・モデルY」の最新モデルは、これまで以上に無駄を省いた潔いまでのシンプルさが特徴だ。JAIA輸入車試乗会に参加し、マイナーチェンジによってより軽くより上質に進化したアメリカンBEVの走りを確かめた。 -
ルノーから新型車「フィランテ」が登場 仏韓中の協業が生んだ新たな旗艦はどんなクルマ?
2026.3.13デイリーコラムルノーが韓国で新型クーペSUV「フィランテ」を世界初公開! 突如発表された新たな旗艦車種(?)は、どのようないきさつで誕生したのか? フランス、韓国、そして中国の協業が生んだニューモデルの概要と、そこに込められたルノーの狙いを解説する。























































