第771回:カタチのすべてに理由がある 新型「スズキ・スイフト」のデザインに元カーデザイナーが切り込む!
2023.12.06 エディターから一言Z世代にも訴求するための新たな挑戦
今回は新型「スズキ・スイフト」の撮影・取材会で、担当されたデザイナーの方々にインタビューする機会を得ました。
この新型スイフトですが、私の第一印象は「先代のスポーティー重視なデザインから、スイフトらしさを維持しつつ先進的でありながら親しみやすい方向へ変化したな」というものです。先代までは、主に側面視(サイドビューのことです)で動きを出して、それがわかりやすい躍動感につながっていました。それに比べて新型は、一見シンプルなのですが、上面視(上から見たビューです。プランビューともいいます)で大胆な絞り込みを行っていて、造形にリズムを出しています。
このあたりの変化は、社内から「これまでより幅広いユーザー、特に新しい世代(Z世代)にも訴求できるよう、デザインを変えてくれ」との要望があったそうです。どういう表現の狙いに注力したのか、担当したデザイナー4人にお話を伺いました。
お付き合いいただいたのは、エクステリアグループの高橋秀典さん、琴田克也さん、インテリアグループの江口裕司さん、邉田紘一さんです。
エクステリアデザイン:次世代のスイフトらしさを追求
エクステリアでは、まず“スイフトらしさ”を「パーソナルなイメージ」「キビキビ走りそうな動感」「特徴的なデザイン」の3つと定義し、それを皆が共有してデザイン開発を行ったということです。
「スタイリングのヒントとして、ターゲットの一部であるZ世代の感覚を意識しました。その世代のメンバーも参加しながら次世代のデザインを模索するなかで、クルマ以外のプロダクトの面処理やテイストを参考にしました。スポーティーで筋肉質なデザインではなく、基本となる骨格のよさを少ない面数で表現することを目指しています」(琴田さん)
なるほど。特にフロントはモチーフが明快で、グリルから始まる立体がうまくサイドにつながっていますが、これによりカタマリ感の強さがあり、上質感も出ているように思います。また私の抽象的な感想ですが、レトロフューチャー的な魅力もありますね。このクルマは、グリルから始まる基本立体と、ランプを含めたフェンダー部を別の立体にしています。こうした構成は「フォルクスワーゲン・タイプI(ビートル)」など、昔のクルマに多く見られるものなのですが、それをモダンにうまく昇華させています。
「実は新型は、先代から車両骨格を踏襲しているので、ボディーの基本断面を大きくは変化させられませんでした。ただ、構成としてはわかりやすいので、目標を明確にして進められました」(琴田さん)
また、上面視で動きを出している代わりに側面視はシンプルに仕上げていますが、ドア断面にはピークを複数つくり、タイヤへ向かうリフレクション(光の反射)や“面の強さ”をうまく表現するつくり込みもされています。
惜しいと感じたのは、フロント、リアのクオータービュー(斜めから見たビュー)のシルエットで、前後のランプのあたりが、やや出っ張りすぎな気がします。もう少し内側に入れられたら、よりタイヤとの関係がうまく見えたと思いました。ただ、これについては「さまざまな仕様に対応できる位置にランプを置いた」とのこと。ボディーの内部構造やら部品の配置やら、量産車はいろいろあるんですよね……。ただ、その代わりに顔まわりの“目標”であるロー&ワイドな印象は、しっかり出ていると感じました。
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インテリアデザイン:主役はあくまでドライバー
インテリアは、乗った感じ囲まれ感が強く、写真で見た印象以上にスポーティーでした。センター部分がドライバー側に向いていることも関係していますが、久しぶりにスポーティーなクルマに乗ったなとワクワクしましたね(笑)。残念ながら、運転はできませんでしたが。
「スイフトのアイデンティティーは“ドライバー中心”である、という考えをさらに進化させました。先代はセンタークラスターやナビ画面などをドライバー側に5°傾けていたのですが、今回はさらにもう3°傾けて、8°にしました」(江口さん)
最近のインテリアデザインのトレンドは、どのセグメントでも、横方向の広さや薄いダッシュボードによる軽快感の表現なのですが、スイフトはそれだけでなく、「このクルマではドライバーが主役」というメッセージも感じさせてくれました。
「乗員の目の前のデザインを景色と捉え、“遠景”“中景”“近景”の3つにゾーニングし、役割を持たせました。遠景の部分は、乗員を囲むモチーフで安心感やクルマとの一体感を表現。中景は浮遊感や先進感、軽やかさを表現。近景はスイフトらしいドライバー中心の機能部位と、役割を明確にしました」(江口さん)
持参してもらった明快なスケッチに比べると、実車はやや複雑に見える部位もあるのですが、それについては設計要件的な理由が大きいようです。寸法上のゆとりや奥行きがないなかで、スケッチのイメージをどう実現するか、苦心されたと思います。
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CMFデザイン:ようやく日の目を見た“100周年の青”
CMFとは「カラー、マテリアル、フィニッシュ」のこと。インテリアの3Dテクスチャーは、素地部(樹脂パーツで無塗装の部位)の質感をどれだけ高められるかが考えられていて、スズキの真骨頂が見えた気がします。
「審査会で役員から指摘があり、やり直しました。造形とCMFとで協力しながら多くのパターンを製作し、そうしてつくったうちのひとつを採用しています。見栄えと傷つきにくさを両立させるため、シボの深さをサンプルで確認しながらつくり込みました」(邉田さん)
ちなみに、実はフロントグリルのツヤ黒の格子も素地だそうです。ここについては、内蔵されるレーダーの要件で塗装がNGだったこともあって、そうせざるを得なかったようですけど、見た目は塗装のようにツヤツヤしてましたね。驚きました。
ボディーカラーは新色の2色を見ることができたのですが、どちらも魅力的でした。ブルーのほうはスズキ100周年の記念カラーとして企画されたもので、スイフトの硬質な印象がさらに際立っていました。イエローのほうは、親しみがありながらクールな印象も覚えるものです。
「ブルーのほうは3コートで、色目標は早めに決まっていましたが、コロナ禍や原材料費の高騰などで量産に時間がかかりました。これまでのスイフトのイメージで最高の到達点だと思っています。イエローのほうはZ世代や新しいお客さまに向け、これまでとは違うテイストを模索しました。イエローですがカジュアルというよりはクールさを意図し、先進的なスポーツウエアなどに見られる薄膜感をイメージしました。柔らかいものを硬いもので表現した面白さがあります」(高橋さん)
新型スイフトは、これまでのスイフトらしさを維持しつつ、より幅広いユーザーに訴求できるデザインに進化していました。特に走りのイメージを期待しているユーザーには、やや戸惑いもあるかもしれませんが、そこは後々出るであろう「スイフトスポーツ」に期待しましょう。
私はカーデザイナーの現役時代に、「量産車デザインはパズルのよう」と常々感じていたのですが、無数の要件をかいくぐるデザイナーの苦労や達成感も垣間見られ、実りのあるインタビューでした。
(文=渕野健太郎/写真=webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。
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