BEVの新型「トゥインゴ」は初代の復刻版 ルノーの電気自動車戦略が見えてきた
2023.12.07 デイリーコラムBEVの新型「トゥインゴ」は2026年に登場
2023年11月15日、ルノーが設立したバッテリー電気自動車(BEV)を手がける新会社「アンペア(Ampere)」の投資家向け説明会で、新型「トゥインゴ」のコンセプトモデルが発表された。会場でスピーチしたルノーグループとアンペアのCEOを兼ねるルカ・デメオ氏によると、この市販型は2026年にヨーロッパでデビューする予定という。
ということは、すでに発表済みの「メガーヌE-TECHエレクトリック」と「セニックE-TECHエレクトリック」に加えて、2024年発売予定のBセグメントBEVの「5(サンク)」、翌2025年発売予定の「4(キャトル)」、そしてこのトゥインゴ……と、2026年には計5台のルノーブランドBEV専用モデルが勢ぞろいすることになるわけだ。
発表時に「トゥインゴ レジェンド」と紹介されたこのBEVは、BEV専用モデルであること以外インテリアや細かな技術内容は公開されていない。ただ「占有面積は欧州車の平均より20%小さい」というデメオCEOの説明によると、Bセグメントハッチバックのサンクと同SUVのキャトルよりさらに小さいことになる。つまり、これが歴代トゥインゴ同様に、ルノーBEVのエントリーモデルになるのだろう。
さらに「価格は2万ユーロ(邦貨換算で約320万円)以下、月々のサブスク料金でも100ユーロ(約1万6000円)を切る。100kmあたり10kWh(=10.0km/kWh)というクラスベストの効率を誇るパワートレインを搭載する」という開発目標も明かされた。単純な為替換算額だけでは、記録的な円安下の日本人にはそんなに安く感じられないかもしれない。しかし、収入水準を考慮した現地での実質イメージは、本体価格が200万~250万円、サブスクが月々1万5000円以下……といったところだろうか。それなら、さすがにインパクトのある割安感だ。また、われらが「日産サクラ」のWTLCモード電費が8.06km/kWhだから、10.0km/kWhという目標もかなり野心的といえる。
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欧州生産の低価格EVとして登場
「これは30年ぶりのゲームチェンジャーになる」とデメオCEO。ここでいう30年前とは、いうまでもなく初代トゥインゴのデビューを指す。初代トゥインゴは当時の「ルーテシア」よりわずかに大きい車体と広い室内をもちながら、徹底的に簡素化したメカニズムで価格はルーテシアより安かった。それをポップなデザインで包んだ初代トゥインゴは既存のヒエラルキーを超越して、所得や年齢性別を問わず、あえて乗りたくなるクラスレスなゲームチェンジャーとしてヒットしたのだった。
で、今後予想される「そんなクルマが本当にできるの?」という疑問には、デメオCEOは、ルノー傘下の低価格ブランドが2021年に発売した「ダチア・スプリング」の例を回答とした。スプリングは26.8kWhの電池を積む小型SUVタイプのBEVで、フランスでのスタート価格で1万7000ユーロ(邦貨換算で約270万円)を切り、WLTPモード複合電費で8.39km/kWhをうたう。
スプリングが安い最大の秘密は中国で生産されていることだが、「トゥインゴはそれを欧州生産で実現する」とデメオCEO。実際の計画は明らかにされなかったが、現行トゥインゴと同じならスロベニア生産となる。デメオCEOはさらに「新しいトゥインゴはこうしてコンセプトを固めてから、わずか2年で生産開始するのですから、その開発速度は中国メーカーにも対抗できる記録的なものとなります」とつけ加えた。BEVが生命線となる欧州メーカーにとって、中国BEVメーカーのスピード感がいかに脅威となっているかがうかがえる。
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3連ダクトにある「92%」の意味は?
さて、そんなトゥインゴ レジェンドだが、デザインのモチーフは、いうまでもなく初代トゥインゴだ。そのワンモーションフォルムから、横一線のフロントグリル、ランプ類やドアハンドルで繰り返される円形モチーフ、さらにボンネット右側に配された3連ダクトまで、初代のデザイン的なハイライトがほぼすべて網羅された印象だ。ちなみに初代トゥインゴは3ドアだったが、今回のコンセプトはリアドアの存在感を巧妙に隠しながらも、実用的な5ドアである。
それにしても注目すべきは、初代トゥインゴのエクステリアにおける象徴のひとつでもあった、ボンネットの3連ダクトだ。当時は室内へ外気を導入するインテークダクトだったが、現代のクルマ……しかもBEVでここにダクトを置く機能的意味はない。実際、コンセプトのそれもインテーク構造ではなさそうで、先端にはなぜか「92%」という文字が光っている。
前記のとおり、クルマの技術的な詳細は未発表だし、92%の意味もいっさい説明されていない。それもあって、欧州ルノーファンによるチャットでは、この3連ダクトはちょっとした大喜利状態となっている。
チャットをのぞいてみると、3連ダクトについては“新しい歩行者保護デバイス”や“電池残量計”という意見が少なくない。歩行者保護デバイスというなら、ここからエアバッグがわりの風船でも放出されるのだろうか。また、電池残量計なら92%も説明はつくが、そもそもおおっぴらに公表する必要があるのか。まあ、ここが「00%」で立ち往生していたら、周囲の同情をひく効果はあるだろう……。
また、92%という数字については“新型トゥインゴのリサイクル率を主張しているのでは?”という指摘もあったが、初代トゥインゴがベールを脱いだ1992年のパリサロンのことでは……という見立てが(筆者も含めて)多かった。それならデメオCEOの「初代以来のゲームチェンジャー」という発言にも符合するが、それだと「%」が意味不明。まあ、結局はデザイナーのただの遊び心で、数字にも意味はない……というオチも十分ありえる。
それにしても、ルノーの新世代BEVは1960年代を席巻したキャトル、1970~1980年代を代表するサンク、そして1990年代のルノーを象徴する初代トゥインゴ……と、20世紀のルノー傑作ベーシックカーたちが再集合する布陣になるわけだ。われわれのような中高年のクルマ好きは、それだけで「ルノーのBEVいいじゃん」になってしまうからチョロいものだ。商品企画としては安易といえば安易だが、裏を返せば、それだけ失敗が許されない危機感のあらわれでもあるだろう。
(文=佐野弘宗/写真=ルノー/編集=櫻井健一)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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