スズキ・スペーシア 開発者インタビュー
アナタの生活に寄り添います 2023.12.08 試乗記 いよいよ登場したスズキの新型「スペーシア」。その車内は、従来モデルにはない工夫にあふれている。巨大なオープントレーに新開発のシートバックテーブル、そして後席の「マルチユースフラップ」と、アイデアものの機能・装備はいかにして実現したのか? 開発関係者に誕生秘話を聞いた。スズキ
商品企画部
製品・用品企画グループ
小杉好香(こすぎ よしか)さん
スズキ
四輪プラットフォーム設計部
シート設計グループ 係長
竹尾久幸(たけお ひさゆき)さん
世相が変えた“クルマの使われ方”
新型スズキ・スペーシアは、パッケージレイアウトやプラットフォーム、エクステリアデザインなどを見ると、明確なキープコンセプトのクルマだ。そのいっぽうで、インテリアの使い勝手はスミズミまで新しい。とくにリアシートの「マルチユースフラップ」は、新型スペーシア最大のハイライトだ。そこで今回は、このクルマの使い勝手をとことん突き詰めた商品企画担当の小杉好香さんと、話題のリアシートの設計をまとめた竹尾久幸さんに話をうかがった。
――試乗前のプレゼンテーションによると、新型スペーシアの企画でおこなったさまざまな調査から、「これまでのお客さんは空間を使いきれていないことが分かった」とのことですが……。
小杉好香さん(以下、小杉):スーパーハイトワゴンは広くて便利なのが特色とされていますが、実際にお客さまのお宅にうかがって観察させていただいたり、同乗していろいろとお話を聞いたりしてみると、後席に置かれている荷物が整頓されていないとか、スイッチに手が届きにくい……といった、広いがゆえに逆に使いにくさを感じられているケースが少なくなかったんです。
――プレゼンテーションでは、コロナ禍以降は車内で食事する人に加えて、テイクアウト需要も増えたと聞きました。先代のリッドつき収納にかえて「ビッグオープントレー」とした助手席前のスペースは、お弁当などをそのまま置けるサイズになっているそうですね。
小杉:コロナに加えてレジ袋が有料化されたことで、お弁当などを袋に入れずにトレーに置くシーンも増えました。コンビニでいろいろなお弁当を買ってみると、どうやら各社とも「ざるそば」の容器がとくに大きいことが分かりました。そこで今回のビッグオープントレーも、ざるそばを置けるサイズを基準としました。
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「このテーブルは本当に使えるの?」
――ドアインナーハンドルの上部にも、とても小さなトレーが追加されていますね。
小杉:あれは、リップクリームなど、ちょっとしたものを置きたいという私たちの気づきがキッカケです。それ以外にも、コロナ禍で一般的になったスリムタイプの除菌スプレーや、ボールペンなども想定しています。
竹尾久幸さん(以下、竹尾):軽自動車(以下、軽)の開発では、企画担当がスペースを見つけては「タナをつくれ」といってきます(笑)。これ以前に私が担当した「スイフト」とは、まるで対照的です。
小杉:最近は収納もシンプル化するのがトレンドにもなっているのですが、新型スペーシアはあえて、とにかく使いやすく便利なクルマにしたかったんです。
――シートバックテーブルも新開発ですね。その名も「パーソナルテーブル」とか……。
小杉:シートバックテーブルについては、これまであまり真剣に見ていなかったのが正直なところです。ただ、今回あらためて競合車と装備を比較してみると、そのテーブルが実際どれだけ使えるのか疑問がわきました。
竹尾:商品企画担当から「テーブルを新しくしたい」という話がきましたので、まずは従来のテーブルの問題点を洗い出しました。たとえば、従来のテーブルにもフックはついていたのですが「フックがあること自体に気づかなかった」という声が、お客さまだけでなく、小杉をはじめとする社内の企画担当からも出たときはちょっとさびしかったです(笑)。
――従来はテーブルの下にフックがありました。テーブルを上げたときには使えますが、収納時にはテーブルのフチにあるフックにつけ替える必要があって、使い方が複雑ですし、そもそもフックも見えづらい。
竹尾:今回は、事前知識がなくてもすぐにフックだと分かって、フックを使ったまま、テーブルも上げ下げできる形状を考えました。
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装備があっても不便では意味がない
小杉:テーブルのフックはきっかけのひとつであって、すべての装備を単純な有無でなく、本当に使いやすいかで徹底的に考えたんです。企画初期には、自分たちで先代スペーシアに乗って何度も遠出してみました。途中でお弁当を買って後席で食べたりもして「今のテーブルって使いにくくないか?」と気づきました。他社さんも含めて、ひとつのテーブルにカップホルダーが2個ついているのも疑問でした。それだと使っていないカップホルダーの穴から下に、ものが落ちてしまうんです。
――カップホルダーの数は、テーブルの部品を小型登録車と共用しているのが主な理由だそうですね。小型車の後席定員=最大3人分のカップホルダーを、左右共通のテーブルで確保するためだとか。実際、スズキ以外の軽のシートバックテーブルも、以前のスズキと同タイプが多いです。でも、新しいパーソナルテーブルはカップホルダーが各1個で、しかも細い紙パックや子供用マグなども置ける。さらに、スマホやタブレットなどが立てられる溝も複数ついています。
竹尾:複数の溝があるのは、新型スペーシアには微妙に形状のちがうフロントシートが2種類あって、またお客さまが使われるスマホやタブレットのサイズも多様なので、溝がひとつだと立てられないことも多いからです。社内中のスマホやタブレットをかき集めて、検証しました。
「マルチユースフラップ」誕生物語
――リアシートのマルチユースフラップができたきっかけはなんですか?
竹尾:あれも企画からの、“後席に置いた荷物を落ちなくしたい”という提案が最初でした。
小杉:スズキでは「今のクルマにどんな困りごとがあるか?」について、普段から社内でアンケートを採っています。私たちも長く軽の企画にたずさわっているなかで、荷物を後席まわりに置くときに“座面派”と“足もと派”に分かれることは把握していました。足もと派は荷物が座面から滑り落ちるのを避けたいからですが、足もとのような汚れている場所に荷物は置きたくないのが本音なんです。それを解決したいと、ずっと思っていました。
竹尾:最初は単純に荷物を押さえる“ついたて”のようなものを考えたのですが、それでは芸がないという話になりました。次にスライド機能のないサポートクッションを追加したのですが、脚の長さに個人差があるのもあって、固定式では局所的に脚に当たって痛くなりました。そこで前後スライドを追加した、今のようなカタチに変わっていきました。
今回のリアシートは、結果的に完全な新作です。企画からはマルチユースフラップだけでなく、アームレストも追加して、しかもたたんだときの高さも抑えたいといわれて、それらを全部実現するにはゼロからつくり直すしかありませんでした。
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リアシートはコダワリのかたまり
――可倒してたたんだときのシートをさらに低くするのは、自転車を積むためですか?
竹尾:そうです。でも、先代でも「アルベルト」は載せられていたはずですが……。
※ 竹尾さんのいうアルベルトとは「ブリヂストンサイクル」が製造販売する定番のシティーサイクルで、大半の自動車メーカーが自転車積載性のベンチマークとしている。自転車が積めることは軽スーパーハイトワゴンの必須科目で、スペーシアも以前から27インチタイヤのシティーサイクルが積めるとうたっていた。しかし、現実にはハンドル形状などによっては載せられない、載せにくいとの声があったという。そこで新型では、リアシートの可倒時の高さを先代より40mm低めたのだ。
竹尾:もともと空間に制約があるなかで、新しい機構を入れて、さらにスペースも広げるとは、最初は「本気ですか?」といってしまいました。今回はより小さくたためるようにチルト機構のリンクもやり直して、シート厚も一部を薄くしていますが、座り心地は悪くしたくないのでウレタンの処方も見直しています。
小杉:さらに室内側のスライドレバーも両端に分散していたのを、中央側にまとめてもらいました。これまでのレバー位置だと、お子さまをチャイルドシートに座らせたまま前に引き寄せる操作が、前席からではやりにくかったんです。それにスライドレバーがまとまっていれば、左右同時のスライド操作もできます。
竹尾:初代スペーシアのリアシートはそれ以前と同じダイブダウン式(注:後席足もとに落とし込むタイプ)でしたが、軽量化のために新設計しました。そして2代目にあたる先代では、初めてチルトダウン式に変わりました。今回も従来どおりのチルトダウン式ですが、結局は新設計となりました。これでスペーシアは、3世代続けてリアシートを新開発することになりました。こんな例はなかなかありません。
――スペーシアのリアシートに歴史あり。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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