ヒョンデ・コナ ラウンジ(FWD)
すべてがやさしい 2024.01.10 試乗記 韓国ヒョンデのグローバルモデル「コナ」が上陸。街なかで埋もれることのない個性的なスタイリングと日本の道路事情にもマッチするコンパクトなサイズ、そして300万円台から始まるプライスが注目される電動クロスオーバーSUVの仕上がりをリポートする。日本で扱いやすいサイズ感
左折をしようとウインカーを操作して、ふたつのことに気づく。まずひとつは、ウインカーレバーが日本車と同じように右側に設置されていること。もうひとつは、メーターパネルの左右ふたつのメーターのうち、左側の速度計に、左斜め後方の死角となる部分の画像が映し出されることだ。バイクや自転車の存在が一発で確認できるからめっちゃ安心だし、車線変更のときには安全にも大いに貢献するだろう。
乗り心地がソフトで快適であることも加わって、ヒョンデ・コナの第一印象は、気配りのできるやさしいクルマ、というものだった。
ヒョンデ・コナは、これが2代目。2017年に発表された初代コナは日本には導入されなかったものの、北米とヨーロッパでは人気を博し、たとえばスペインのカー・オブ・ザ・イヤーや北米のSUVオブ・ザ・イヤーなど、数多くのアワードを獲得している。
先代と2023年に登場した現行モデルの違いは、先代がエンジン車をベースに開発されたのに対して、2代目はBEVありきで設計されていること。ヒョンデはこれを「EV-to-ICE設計」と呼び、グローバルではエンジン仕様も存在するけれど、日本市場にはBEVのみが導入される。
BEVを優先することに加えて、フルモデルチェンジにあたっては室内空間の拡大が大きな眼目だった。初代モデルよりも全長は175mm長い4355mmで、ホイールベースは60mm長い2660mm、全幅は25mm幅広い1825mm、全高は35mm高い1590mm。ボディーがひとまわり大きくなったことで、後席のレッグルームは77mm、ヘッドルームは11mm拡大されている。
サイズ的には「カローラ クロス」よりひとまわり小さく、「ヤリス クロス」よりひとまわり大きいというあたりで、日本で扱いやすいサイズ感のコンパクトなクロスオーバーSUVにカテゴライズできる。
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水平基調のインテリアは機能的
ヒョンデ・コナの大きな特徴は、ほかに似たクルマが思い浮かばない、個性的なデザインだろう。ヒョンデが「シームレスホライゾンランプ」と呼ぶフロントとリアの真一文字の灯火や、マッシブに盛り上がったリアフェンダーとそこに組み込まれたリアのコンビネーションランプなどなど、ヨーロッパ車ともアメリカ車とも違う独特の存在感を放っている。
聞けば、韓国に2カ所、中国に2カ所、ドイツのフランクフルトとアメリカ西海岸にそれぞれ1カ所のデザイン拠点があり、日本にも横浜に小さなスタジオを持っているという。日本におけるヒョンデ・コナの発表会において、デザインを統括したサイモン・ロースビー氏は、ヒョンデ・コナのデザインについて「ダイバーシティーが特徴」と語った。さまざまなバックグラウンドを持つデザイナーがそれぞれのアイデアを持ち寄ることで化学反応が起こり、斬新な造形が生まれたのだという。
ハッとする外観に比べると、12.3インチのスクリーンがふたつ並ぶインテリアのデザインはオーソドックス。シフトセレクターをハンドルの後ろに配置することですっきりとしたセンターコンソールには、USBのポートやスマホのワイヤレスチャージなど、現代生活の準必需品が備わっている。
水平基調のインテリアは機能的で、必要なものが適所に配置されているという印象。すべてのインターフェイスをタッチスクリーンに集約するのではなく、オーディオや空調など頻繁に操作するものに関しては、スイッチやツマミを残していることも好印象だった。
また、ヘッドライニングやフロアカーペットには再生PET素材が多用されるほか、天然皮革は低クロムの原材料を採用。ゼロエミッションというだけでなく、トータルで持続可能なモデルを目指したというのがヒョンデの主張だ。
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低速での乗り心地を重視?
冒頭に記したように乗り心地はソフトで快適。無音・無振動のモーター駆動であることとあいまって、コンパクトなクロスオーバーSUVというより、小さな高級車という趣だ。乗り心地のよさに輪をかけて、コナ専用に設計されたという標準装備のボーズのサウンドシステムがイイ感じで音楽を鳴らす。小さな高級車という印象が、さらに強まる。
いや、いいじゃないですか、と思いながら一般道から高速道路に上がる。すると、馬脚を現すというほど大げさなことではないけれど、「むむむ?」と脳裏にクエスチョンマークが浮かんだ。100km/hに近づくにつれて車体の動きの収まりが悪くなるのだ。ちょっとした凹凸を乗り越えた後も、「ふわーん、ふわーん」という悪い意味での余韻が残り、落ち着かない感じになるのだ。
落ち着かないとはいってもハンドルの手応えはしっかりしているし、直進安定性はしっかりと確保されているから、不安になるほどのものではない。けれど高速域では、もうちょいダンピングの効いた、上下動を抑えた乗り心地のほうが気持ちよく走れることは間違いない。
以下は、筆者の完全な臆測です。
ヒョンデは、各モデルをグローバルに展開するにあたって、仕向け地に合わせてきめ細かくチューニングを施すという。ヒョンデ・コナの日本仕様を開発するにあたっては、日本での使われ方や道路事情を勘案して、低速での乗り心地のよさを最重視したのではないだろうか。
タウンスピードでの快適さと、高速道路で感じた小さな不満をてんびんにかけながら、そんなことを妄想した。
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グローバルでの評価に納得
センターコンソールの「DRIVE MODE」のセレクターを操作して「SPORT」モードを選ぶと、予想よりはるかに大きくクルマがキャラ変する。アクセル操作に対するレスポンスが鋭くなり、ちょこっと踏んだだけなのにバチッ! と加速する。ただしハンドルを切った状態でドンとアクセルと踏むと、ハンドルをとられるような感覚、いわゆるトルクステアを感じる。
ハンドルに備わるパドルを操作すると、回生ブレーキの強度を調節することができ、最強に設定すると、BEVではおなじみのワンペダルドライブが可能となる。コツをつかんで滑らかに減速できるようになると、アクセルペダルからブレーキペダルに踏み変える頻度が大きく減って、なかなか快適だ。
トルクステアとか高速域でのダンピング不足など、重箱の隅を突くようなことを言わなければ、快適に移動できる“暮らしのよき友”だ。乗り心地とともに静粛性もハイレベルで、窓ガラスなどの細かい部分にまで遮音対策が施されていることがうかがえる。後席には大人ふたりが余裕を持って座ることができるし、荷室も広い。
正直、数時間の試乗では最後までARナビゲーションには慣れることができなかったけれど、充電場所を示す機能は便利。充電ステーションのアイコンをクリックすると、利用可能であるかどうかや、充電器の種類が表示される。
やさしいクルマという第一印象は最後まで変わらず、最廉価版で400万円を切るという価格設定も含めて、ヒョンデというブランドがグローバルで評価されていることがよくわかる仕上がりだった。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ヒョンデ・コナ ラウンジ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4355×1825×1590mm
ホイールベース:2660mm
車重:1770kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:204PS(150kW)/5800-9000rpm
最大トルク:255N・m(26.0kgf・m)/0-5600rpm
タイヤ:(前)235/45R19 99V/(後)235/45R19 99V(クムホ・エクスタPS71)
一充電走行距離:541km(WLTCモード)
交流電力量消費率:137Wh/km(WLTCモード)
価格:489万5000円/テスト車=498万3000円
オプション装備:ボディーカラー<メタブルーパール>(5万5000円)/インテリアカラー<ベージュ2トーン>(3万3000円) ※以下、販売店オプション KONAカーマット(3万3000円)/ETC2.0車載器(4万4000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1993km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:215.7km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:6.4km/kWh(車載電費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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