マツダCX-5 XDレトロスポーツエディション(FF/6AT)
全方位的にちょうどいい 2024.01.16 試乗記 登場からすでに7年が経過し、モデル末期なのにもかかわらず「マツダCX-5」が売れている。最新ラインナップに追加設定された特別仕様車「Retro Sports Edition(レトロスポーツエディション)」に試乗し、その人気の秘密を確かめた。日本でもっとも売れたマツダ車は?
先日、マツダ車の2023年における国内年間販売データが明らかになった。現行の2代目になってからすでに7年が経過しているCX-5が、2万5714台を売り上げて、日本でもっとも売れたマツダ車となった。しかも、これで2022年に続いて、2年連続の国内販売トップだ。ちなみに、ほかのマツダ車の同年国内販売台数といえば、初のフルイヤー販売となった新型車「CX-60」が2万3941台、2021年は僅差でCX-5を上回った「マツダ2」が2万0706台、そして「CX-30」の1万8016台、「マツダ3」の1万4310台……の順である。
一時はCX-60を実質的な後継機種としてフェードアウト予定と思われていたCX-5だが、これだけ根強く売れ続ければやめるわけにもいかないだろう。というわけで、マツダもついに正式な次期型の開発に着手したとかしないとか……という話は、以前にwebCGでも書かせていただいた(参照)。これまでに報じられてきた情報を総合すると、その次期CX-5が実現するのは早くて2025年というから、この現行型もあと少し、主力として奮闘する必要がある。
そんな長寿モデルでも、毎年きっちりと手を入れるのがマツダ流である。CX-5は2021年秋にもフロントグリルを一新してオフロードモードを用意するなどの大幅改良を受けている。そして、2022年には新車体色やインパネにUSB Type-C端子が追加された。
今回試乗したのは、欧米流にいえば2024年モデルにあたる最新型で、2023年9月に発表、同10月中旬に発売となった。すでにモデル最末期といわざるをえず、さすがにメカニズム面には手は入っていない。グレードも整理されて、定番だった「プロアクティブ」と「Lパッケージ」は廃止されたいっぽうでレトロスポーツエディションという特別仕様を追加。搭載エンジンも相変わらず3種あり、FFと4WDという駆動方式の別も含めれば、いまだに16もの選択肢が残される。堂々たる主力商品というほかない。
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最新モデルに見劣りしない
今回試乗したのは前出の特別仕様車、レトロスポーツエディションだ。CX-5の一部改良と同時にCX-30やマツダ3にもいっせいに追加された同特別仕様車は、今回の試乗車にも塗られていた「ジルコンサンドメタリック」をイメージカラーとして、呼称にも“レトロ”とつくが、ただの懐古調グレードではない。
実際、レトロスポーツエディションではほかの車体色を選ぶことも可能で、外装における特徴はグリルやドアミラー、ウィンドウモール、バンパー下部、ホイールアーチなどがグロスブラック仕立てになることだ。ご承知の向きも多いように、これは最新のスポーツカーやスポーツモデルで使われているハヤリの手法である。
“レトロ”というネーミングの根拠となっているのは内装のほうで、テラコッタという茶系カラーの合皮とブラックのスエード調合皮のコンビシートは、なるほどちょっとレトロ、というかクラシカルな雰囲気だ。各部のステッチもテラコッタ色なのは凝っている。
それにしても、CX-5の内装のつくり込みには、いつ見ても感心する。運転席から見て右端のごく小さなスペースにも、ステッチ入りのレザーをきちんとあしらう丁寧な仕立てには、他メーカーの設計者も感心していた。垂直に切り立ったダッシュボード造形やアナログメーターに設計年次を感じなくもないが、マツダは最新のCX-60でも、次に新しいCX-30やマツダ3でも、内装は基本的にクラシカルなので、とくにCX-5だけが古臭いというわけでもない。
CX-5は最新より1世代前のプラットフォームを使うが、地道な改良によって、先進運転支援システムでも最新モデルに見劣りしない。まあ、厳密にはCX-30やマツダ3に備わる、ドライバーカメラによる「ドライバーモニタリング」が用意されないのは設計年次の宿命か。ただ、最新のマツダでもハンズオフ運転支援まで踏み込んでいない現状では、ドライバーカメラがなくてもさほど大きなデメリットはない気もする。
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長年の地道な改良のたまもの
すでに何度も試乗させていただいているCX-5だが、あらためて乗ると、そのちょうどいい存在感に、どこかホッとする。全長は「トヨタRAV4」や「スバル・フォレスター」「日産エクストレイル」より明らかに短く、さらに「ホンダZR-V」よりもわずかに短い。世の最新SUV群と比較すると、CX-5は絶妙にコンパクトで、心理的にも取り回しやすいのが美点だ。そのわりに全高は1690mmと高いので、見晴らしもよく、後席や荷室も適度に使いやすい広さが確保されている。
今回の2.2リッターディーゼルも、マツダでは1世代前のトップエンジンである。このエンジンはCX-30やマツダ3には搭載されず、CX-60に搭載される直列6気筒ディーゼルが事実上の後継なので、おそらくCX-5とともにフェードアウトする運命なのだろうと予想される。
そんなマツダの2.2リッター直4ディーゼルは、5500rpmというリミットこそディーゼルそのものだが、トルク特性はどこかディーゼルらしくない。このクラスのディーゼルとしては低回転トルクも強力ともいえず、かわりに回転上昇とともに力を出して4000rpmから4500rpmくらいまでじわじわと積み増していく。こうした思わず回したくなる、良くも悪くもディーゼルっぽくない特性はマツダの2.2リッターの個性でもある。加速側も減速側も、右足のわずかな動きにもピタリと追従するツキの良さは、長年の地道な改良のたまものだろう。
最近常識化しつつあるマイルドハイブリッド機構も備わらないので、アイドルストップやその再始動のマナーはちょっと唐突で振動多めというほかない。また、今の目で見ると燃費も思ったほど伸びない感がなきにしもあらずだが、運転スタイルによる燃費変化が少ない点は、個人的には評価すべきと思う。
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乗り続けたくなる理由がわかる
それにしても、この乗り心地と操縦性は、乗っていて気にさわるところが見事なまでに皆無だ。途中でフルチェンジされているものの、基本骨格自体は2011年の初代から連綿と使い続けられており、まさに熟成きわまるというほかない。しいていえば、19インチという低偏平気味タイヤサイズのせいか、低速でのフラットライド感がもう少し高まってほしい気もする。しかし、路面からの突きあげはきれいにまるめられているから、不快感はない。
直進性にもあらためて感心した。高速道をアダプティブクルーズコントロールと「レーンキープアシストシステム」を作動させて、ステアリングに軽く手を添えるだけで、クルマ側のステアリング制御はピタリと安定し、ほとんど修正舵を当てていないことに気づく。クルマ自体の安定性が高いからだろう。
また、みずから積極的に運転するときには、リアの独立マルチリンクサスペンションがどっしりと接地した安心感と信頼感がいい。CX-30やマツダ3が使う新世代スモールプラットフォームのリアの半独立トーションビームは重量や空力では有利というが、ちょっと尻軽で重厚感に欠けるきらいがある。また、CX-60は乗り心地が路面を選ぶという点で、CX-5の域にはまだまだ達していない。
これだけの完成度と日本の交通環境にピタリとマッチした絶妙なサイズ、荷物がかさばる趣味にも使える実用性、そして一部改良で少し値上げされたとはいえ、高価なディーゼルでもほぼ300万円台におさまる本体価格……と、CX-5に乗り続けるファンが少なくない理由は、今回もよく理解できた。これと比較すると、CX-30は使い勝手にちょっとだけ我慢が必要だし、CX-60は今の日本市場で売れ筋商品とするにはちょっと上級すぎるし、走りにもあと少しの熟成が必要か。これらと比較すると、CX-5は全方位的にちょうどいい。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
マツダCX-5 XDレトロスポーツエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4575×1845×1690mm
ホイールベース:2700mm
車重:1650kg
駆動方式:FF
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:200PS(147kW)/4000rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)225/55R19 99Y/(後)225/55R19 99Y(トーヨー・プロクセスR46)
燃費:17.6km/リッター(WLTCモード)
価格:374万5500円/テスト車=380万1420円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ナビゲーション用SDカード(5万5920円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:3765km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:356.9km
使用燃料:26.1リッター(軽油)
参考燃費:13.6km/リッター(満タン法)/14.2km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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