第79回:新型マツダCX-5(前編) ―オトナになった? それとも堕落した? 最新の「魂動デザイン」にみるマツダの模索―
2025.08.06 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
マツダが最量販SUV「CX-5」の新型を発表! 今日のマツダにとって、絶対に失敗できない一台の登場である。一見すると従来型からあまり変わっていないように見えるが、カーデザインの識者いわく、その細部にはマツダの模索と新しい方向性が表れているという。
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実はデッカくなってます
webCGほった(以下、ほった):今回のテーマはですね、代わり映えしないのに話題騒然の(笑)、新型マツダCX-5でございます(参照)。新型のデザイン、単刀直入にどう思いますか?
渕野健太郎(以下、渕野):いや、これはこれでいいと思います。
ほった:単刀直入ですねー(笑)。清水さんはいかがです?
清水草一(以下、清水):CX-5は、前型もとってもよかったと思うんだ。すごく時間的耐久性があるデザインだったでしょ。発表から8年以上たつけど、今見たって全然古く感じない。現役バリバリ感あるからね。そっからのモデルチェンジとしては、キープコンセプトでありながら微妙にルーミーなイメージになって、それでいて顔とお尻とかでアグレッシブな感じを出してる。新型、とってもカッコいいと思うよ。
ほった:絶賛ですねぇ。
清水:なんかちょっと、ボディーの後ろ側が膨らんで、大きくなった感じがするじゃないですか。リアウィンドウを少し立てたりとかして。前型は完全バランスに近かったけど、新型は後ろのほうが大きくなって、重心が少し後ろに寄って、微妙にバランスが崩れた。そこがまたとってもいいなと思うんだ。前より個性的に感じられて。
渕野:自分はバランスが崩れたとは思いませんが、確かに旧型と比べるとリアゲートガラスが立ち気味になり、サイドのガラスラインを見てもルーフ側のリアドア付近でかなり上げたように感じられます。これらは室内空間の拡大やリアの乗降性をよくする狙いがあるのでしょう。
清水:それで後ろがちょっと重く感じるんですが、それがすごくいい。後ろ姿もカッコいい。
渕野:私も全然嫌いじゃない。そもそも新型は、全長が115mm拡大されてるんですよ。ホイールベースも多分違うのかなと思います。似たようなシルエットですけど、実は大きさが結構変わったんです。
ほった:ホイールベースは……現行比で+115mmですね。軸間距離の延長分が、そのままボディーサイズにいってる感じです。
個性派から王道のデザインに
渕野:以前から言っていますけど、私はマツダのカーデザインに、めちゃくちゃ期待しているんです。マツダデザインの期待値っていうのはものすごく高い。ほかのどのメーカーよりも。
清水:世界一高い?
渕野:個人的にはそれに近いです。で、その期待に照らし合わせると、「魂動デザイン」に属するモデルの最新作として、新型CX-5は「おとなしくなったなあ」と思います。いいとか悪いじゃなく。
ほった:いい悪いじゃないんですね。
清水:渕野さん、本音は「悪い」じゃないんですか(笑)?
渕野:いやいや(笑)。個人的に魂動デザインの頂点は、「マツダ3ファストバック」と「CX-30」だと思っているんですよ。マツダ車のなかでも、サイドのリフレクションが特に際立っているので。マツダのオフィシャルサイトを見ると、魂動デザインのキモとして「魂を吹き込む」「生命感を形にする」という言葉が使われていますよね。それを端的に表現しているのが、このボディーサイドのリフレクションの動きなんですよ。魂動デザインの一番のオリジナリティーは、ここだと思うんです。
ほった:こんなボディーがウネったクルマ、世界中探してもほかにないですもんね。
渕野:もちろんプロポーションにもすごくこだわっていますが、それに関しては欧州車も同じくらいこだわっているので、マツダのオリジナリティーとは言いづらい。魂動デザインの一番の特徴は、リフレクションの動きなんです。こんなにうまくリフレクションをコントロールしているメーカーは、ほかにない。
ほった:絶賛ですね。
渕野:ただ、今回の新型CX-5は、ショルダーラインを前から後ろまで、スッと通しているじゃないですか。ショルダーを通すと立体構成に制限が生まれるので、結果的にリフレクションの変化が限定的な、割と普通なデザインに落ち着いていると思います。
地味に見えてかなり大きな変化
清水:そういえば、先代はショルダーラインが面の中に溶けていく感じだったけど、新型は一直線ですね。で、サイドパネルがあんまりウネってない。
渕野:そう。新型は割とどこでもありそうな面構成になっているんですよ。これはこれでデザイナーの意図したものなんだろうと思うんですけど、これまでの魂動デザインを考えると、若干マイルドになっている。
で、ほかの最新のマツダ車を見てみると、電気自動車(BEV)の「マツダEZ-6/6e」もそうなんです。あのセダンもショルダーをしっかり通してるじゃないですか、真っすぐに。で、その下のリフレクションの変化で個性を見せてる。確かに、相変わらずレベルが高いんですけど……。もしかしたらマツダは、既存の魂動デザインとは異なる方向を模索しているんじゃないかと。もう少しシンプルな方向にシフトしているように思えますね。
清水:もうこれ以上、面をウネらせるのは無理だ! ってなったのかも。
ほった:これ以上シングルフレームグリルをデカくできなくなったアウディみたいに。(参照)
清水:あれがウネりの限界値だったのか。
渕野:だとしたら、これは地味に大きな変化ですよ。クルマのデザインのアイデアは、8割方がサイドに集中しているので。
清水:顔が8割じゃなく?(全員笑)。
渕野:いや、サイドが8割、なんなら9割って言ってもいい(笑)。言い方が難しいですが、ここで言う「サイド」というのは、フロントとリアのシルエットを含めたクルマ全体という意味です。
清水:そうなのか……。確かに私も、顔だけってのは好きじゃないですよ!
ほった:顔しか見てないくせに。
清水:顔しか見てないようでいて、少しは全体も見てるんだよ。2割くらい(笑)。
ストイックさが少し薄れた?
渕野:まぁとにかく、自動車のデザインというのは、サイドのシルエットと基本の立体構成に注力するのがだいご味なわけです。その流れのなかで、全体に合わせるかたちでフロントをつくる、と言えばいいでしょうか。ただ実際のデザインの現場では、バンパーやグリルなど樹脂部品は比較的「開発時間」の余裕がありますから、結局その部位のみをこねくり回すことが多いですが。
清水:やっぱり顔が命ですから。
渕野:ただ、これまでのマツダは、顔まわりのつくり方がピュアにプロポーション第一でした。でも新型CX-5は、プロポーションにこだわりつつも、これまでのストイックさが少し薄れたなと思います。より強い顔まわりにしたいんでしょう。スケッチを見ると、グリルから下方向にハの字の強い立体をつくるねらいですね。
清水:「武士は食わねど高ようじ」を、ちょっと修正したのかな。
渕野:斜め方向から見ると分かりやすいんですけど、バンパー下が、結構飛び出してる。広報写真は暗めなので分かりづらいんですけど、こんな風に(写真を見せる)かなり飛び出しているんですよ。これまでのに比べると。
清水:エアダムより上側が張り出てるっぽいね。
ほった:歯茎というか下あごというか、の部分ですね。
渕野:こっちが旧型、こっちが新型です。似たような立体構成ですが、旧型はタイヤに向かって真っすぐにシルエットが収束している感じがする。それに対して新型は、1段、2段って感じで下側のボリュームが強くなっている。そのぶん、タイヤからシルエットが離れるわけで、オーバーハングが重く見えるんです。これまでのマツダのプロポーションに対するストイックさを思うと、ちょっと……。
ほった:不純ですなっ(笑)。
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こういうのを待ってたんだ!
渕野:ただ、このデザインも要件絡みかなと思うんですよ。イメージスケッチを見ると……少なくともこの段階のスケッチでは、ランプまわりが強くて下あごはスッとなっているんですけど、実車を見ると明らかにバンパー下部が強くなっている。デザイナーの本来の意図としては、もう少しシルエットを……要は、斜め前から見たときのフロント奥側のボディーの縁を、タイヤに絡ませたかったんでしょう。
清水:絡ませるっていうのは、タイヤに向けて自然に収めていくってことですね。
渕野:そうです。でも、なにかの要件……たとえば衝突安全とかの要件があって、こうなったのかもしれない。この張り出しをなくすと、グリルやヘッドラップまわりをもっと前に出さないといけなくなるんじゃないか。そうすると、顔全体がすごく前に突き出て見えてしまうので、それを避けたのかもしれない。
ほった:アゴが突き出たんじゃなくて、顔を引っ込ませて、アゴだけ残したんですね。
渕野:で、結果的にこうなったのかもしれない。そういう推測をしています。これでも、他メーカーのモデルと比べれば素晴らしいんですけど……やっぱりマツダの期待値は限りなく高いので。
清水:せっかく顔の話になったのでついでに話しますけど、新型ではグリルとヘッドライトの下側に、黒い部分が増えてるじゃないですか。ピュアなマツダデザインからすると雑味なんでしょうけど、これのおかげで前よりアグレッシブな感じが出てると思うんです。その下の出っ張った感じも、ちょっとラッセル車みたいで(全員笑)、微妙にオラオラ感があってイイ。旧型を8年見てきた目からすると、こういうのを待ってたよ! ってのがあるんです。
ほった:ラッセル車を待ってたんですね(笑)。
清水:そう、地面に食い込む力強さだよ! 旧型も、マイナーチェンジでグリルサイドのメッキ部が増えたけど、あれはイマイチだった。やっぱストイックなマツダはメッキより黒でしょ(笑)! 10年後にどう感じるかを考えると「先代のほうがピュアで飽きがこなかった」って評価される気はするけど、現時点では、新型がすごく魅力的に見える。
ほった:清水さん、顔の話になると力が入りますねぇ。
(後編に続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=マツダ、ポルシェ、newspress/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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