マツダ・ロードスターRS(FR/6MT)
サグラダ・ファミリアのように 2024.03.15 試乗記 2015年に登場したND型こと4代目「マツダ・ロードスター」のマイナーチェンジモデルに試乗。過去最大規模の改良を施し、走りやデザインに磨きをかけ、安全性を強化したとアナウンスされる最新モデルの仕上がりやいかに。ネルソン・ピケになりきる
大幅な商品改良を受けたというマツダ・ロードスターをwebCG編集部に引き取りに行く道中、大げさではなく、少しどきどきした。変わっちゃったらイヤだな、速くて立派になったぶん、ヒラヒラと舞う軽快感が失われたら残念だな、と不安だった。「Just the way you are」というと、最近はビリー・ジョエルじゃなくてブルーノ・マーズらしいけれど、素顔のままでいてほしい。
webCG編集部が入居するビルの地下駐車場で対面した「マツダ・ロードスターRS」は、幸いにもデザインの変更はほとんどなかった。デイタイムランニングランプがヘッドランプのシールド内部に組み込まれ、リアコンビネーションランプを含めて灯火類がすべてLEDになったくらいで、取ってつけたようなお化粧直しはない。
けれども編集部員たちがロードスターを取り囲み、表情を曇らせながら腕組みをしている。イヤな予感がする。話を聞くと、どうやらギアボックスに不調をきたしているらしい。「3速に入れる時にゴリっというんです」とのことだ。仕方がない、でも丁寧に扱えばなんとかなるでしょうと、編集部を出発する。
でも甘かった。どんなに丁寧に扱っても、2速から3速にシフトアップしようとすると、ゴリっという不快な手応えが伝わってくる。それはホントにイヤ〜な感触で、ロードスターが発する悲鳴のようで心が苦しくなる。かつて乗っていた初代ロードスター(NA型)は、10万kmを超えてもギアボックスからは「コリッ」とも音はしなかったし、クラッチだって一度も交換しなかったぞ。このロードスターRSは、どんなにひどい扱い方をされたのだろう……。
心の中で、ピットリポーターの川井ちゃんこと川井一仁さんが、「今宮さん、大変です! ピケのマシンは3速ギアを失っているようです!」と、緊急事態を告げた。仕方がないので、「レース後もギアボックスの内部は新品のようにピカピカだった」とたたえられたシフトの達人、ネルソン・ピケになりきる。3速はスキップ、2速を少し引っ張って、次は4速だ。
こんなイレギュラーなシフト操作でも、マツダ・ロードスターの6段MTは、「滑らかに入る」と「節度がある」が絶妙にバランスしている。望ましい状況ではないけれど、図らずもSKYACTIV-MTの優秀さを身をもって知った。
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地道な作業のたまもの
「3速のないロードスターなんて……」と最初は思ったけれど、置かれた場所で咲きなさいという言葉もある。ワインディングロードは諦めて首都高速をはじめとする高速道路で、4速から上を使って走る。
ギアボックスへの落胆を頭から追い払うと、ビビッときたのがステアリングホイールの手応えのよさだ。
タイヤがどれくらいたわんだ状態で路面と接しているのか、路面のコンディションはどんな感じなのか、といったインフォメーションが、くっきりと伝わってくる。マイチェン前からステアリングフィールはエクセレントだと感じていたのに、それがファビュラスになった。0点を50点にするのも大変でしょうが、90点を95点にするのはまた別の種類の難しさがあるはずだ。
マツダによるとポイントは2つで、ステアリングラックの摩擦を低減することと、パワステのモーターによるアシストの制御ロジックをより緻密にしたことだという。もう少し具体的に書くと、ステアリングホイールを切る時だけでなく、切ってから戻す時の制御にこだわったとのこと。
摩擦の低減にしろ制御ロジックの精査にしろ、いずれも「ハイ、これで一発正解!」という類いのものではないはず。何千回、何万回と試作とテストを繰り返す、地道な作業のたまものだろう。
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安定感と軽快感を両立
1.5リッターの直4エンジンは、国内に流通するハイオクガソリンに合わせた専用セッティングを施すことで、最高出力が4PS強化され、同時に効率化も図られたという。実際にアクセルペダルを踏んで感じるのは、速くなったということではなく、抜けがよくなったというフィーリング面での前進だ。いままでより軽やかに、かつ伸びやかに回転を上げる。
もともと耳に心地よかったエキゾーストノートも心なしか雑味成分が減ったような……。マイチェン前の音と直接比べたわけではないのでどのくらい変わったのかについては、断言できない。でも、好感が持てる音であることは間違いない。
中高速コーナーを走らせて感じるのは、減速からターンインという過程での安定感の高さだ。新たに加わったアシンメトリックLSDと、RSグレードに装備される専用チューンが施されたビルシュタイン製ダンパーとの組み合わせによって、まさに地面に吸い付くようにコーナーへと進入し、旋回する。
興味深いのは、安定しているけれどヒラヒラ感は失われていないことだ。どっしりと走らせるチューニングではなく、無駄な動きを減らす方向のチューニングだから、安定感と軽快感が両立していると受け取った。
ただし、アシンメトリックLSDが加速時に効果的に駆動力を伝える、という点に関しては、この日の試乗では確認できなかった。これは、ワインディングロードやサーキットでもう少し攻め込まないと体感できないだろう。
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これで完成と妥協はしない
ロードスターの大幅改良の眼目が、電気・電子プラットフォームを刷新することで実現した先進安全技術の採用だ。率直に言って、このクルマに乗る方がどれだけ「マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール」(アダプティブクルーズコントロール)を喜ぶのかはわからないけれど、後退時の危険を知らせる「スマート・ブレーキ・サポート」など、安全装備が充実することはだれにとっても福音だ。
昔は「スポーツカーを乗り回す」という表現があって、スポーツカーはよろしくないことでお金をもうけた人が乗るよろしくないクルマだった。けれどもマツダ・ロードスターに乗っている人を見て、「スポーツカーを乗り回している」とは思わないはずだ。われわれの目に映るのは、クルマと運転が好きな人が趣味や人生を楽しんでいる姿だ。
1989年のデビュー以来、このクルマは35年かけて、そうしたロードスター文化を育ててきた。「素顔のままで」などとぬかしたことが恥ずかしい。マツダのみなさんは、これで完成だと妥協せずに、ロードスターをさらなる高みに引き上げようとしている。
マツダ・ロードスターは、言ってみれば走るサグラダ・ファミリア。このまま、永久に完成しないでほしい。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
マツダ・ロードスターRS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3915×1735×1235mm
ホイールベース:2310mm
車重:1040kg
駆動方式:FR
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:136PS(100kW)/7000rpm
最大トルク:152N・m(15.5kgf・m)/4500rpm
タイヤ:(前)195/50R16 84V/(後)195/50R16 84V(ヨコハマ・アドバンスポーツV105)
燃費:16.8km/リッター(WLTCモード)
価格:367万9500円/テスト車=407万5500円
オプション装備:ボディーカラー<ソウルレッドクリスタルメタリック>(6万6000円)/フロントブレーキ<ブレンボ製ベンチレーテッドディスク&ブレンボ製対向4ピストンキャリパー[レッド塗装]>+リアブレーキ<キャリパー[レッド塗装]>+195/50R16 84Vタイヤ&16×7JインチRAYS製鍛造アルミホイール<ダークガンメタリック塗装>(33万円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:3505km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:264.2km
使用燃料:16.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:15.9km/リッター(満タン法)/16.5km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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