第852回:筆者もヒヤリハット! イタリアでも逆走事故が頻発する理由
2024.03.28 マッキナ あらモーダ!ワースト州に住んでいた!
近年、筆者が住むシエナで、自動車専用道路における逆走事故がたびたび報道されるようになった。
新聞の電子版を振り返ってみると、2016年には82歳の男性が、2020年5月には46歳の男性が本線を逆走した。いずれも幸い負傷者はなかった。いっぽう2022年9月深夜には、飲酒運転をした運転者の乗用車がインター出口から進入して反対車線を走行。衝突されたクルマに乗っていた運転者が死亡した。2022年12月には「ランチア・イプシロン」を運転していた83歳の男性が誤ってインター出口から反対の本線に進入。正しい進行方向を走ってきたクルマと衝突して命を落とした。最も近いものでは2023年10月、本線から出口ランプに入った自動車が、一般道から誤進入してきた車両と衝突した。
イタリア全国ではどうかと考えた筆者は、交通警察隊の関連団体ASAPSによる逆走事故の統計を調べてみた(2020年は統計無し)。それによると、2016年に445件だったものが、現時点で最後のデータである2022年には101件まで減少している。ただし死者数は19人から22人とあまり改善がみられない。負傷者数も192人から2018年には108人にまで減少したが、2021年にはふたたび212人まで増えている。
要するに件数は減ったものの、死者や負傷者は減っていないのである。さらに、筆者が住むトスカーナ州は全体の十数%を占めており、ワースト上位に顔を出す年が多いこともわかった。そのため、頻繁に報道されるようになったことは容易に想像できる。
自分もやってしまった
筆者自身も逆走を目撃したことがある。フィアット製ピックアップ「ストラーダ」が、小さな道から進入する際、巨大なロータリーを交互通行と勘違いして、誤った方向に入ってしまった。周囲の歩行者が止めたことで事故には至らなかったが、直後に正しい方向を走るクルマがやってきたことからして大変危険だった。
運転中に遭遇したこともあった。環状道路の本線から出口ランプをたどっていたところ、反対方向から白いハッチバック車がこちらに向かってきた。幸い見晴らしがよく、先方も早く気づいてバックしたので、事故には至らなかった。そこは、まさに前述の2023年10月に事故が発生したのと同じ出口ランプだ。
実は筆者も逆走してしまったことがあった。いずれもミラノ郊外のことだ。十数年前のことである。高速道路の出口ランプで片側2車線だと思い込み、車線を乗り越えて対向車線に入ってしまったのだ。幸い対向車が来る前に、助手席の女房が気づいてくれたが、思えば極めて危険だった。どうしてこうした勘違いが起きるのかについては、後ほど説明しよう。当日は下取り車を販売店に運転して持っていく途中だった。もし正面衝突でもして全損にしていたらと思うと、身震いがした。
もう一度は数年前、一般道でロータリー(イタリアでは反時計回り)にもかかわらず、単なる交差点だと思い込んで左折してしまった。対向車が来てしまったのでハザードを点灯しながら、徐々にロータリーの外側に退避した。
事なきを得た筆者であるが、ついに知人が逆走事故に巻き込まれた。2023年夏のことである。彼は通勤中に国道の出口ランプに差しかかったところ、逆走してきた女性が運転するクルマと正面衝突した。クリスマス前に職場復帰するまで、全治半年の重傷を負ってしまった。
道路自体が逆走してしまいやすい
ここからはイタリアで逆走事故が起こりやすく、また結果が重大になりやすい原因を考察してみる。
第1は高齢者だ。ふたたびASAPSの統計を参照すると、2022年の逆走事故件数中、高齢運転者が関連した事故は件数こそ15.8%にとどまった。だが、死亡者におけるパーセンテージは33.3%と全体の3分の1を占めた。
イタリアの2020年の65歳以上人口は23.2%で、欧州連合域内で最も高い。にもかかわらず、都市部以外は公共交通機関が十分でない。生活のためには運転せざるを得ない人々が多いのである。高齢者は重大事故に遭遇した場合、体力的に命を落とす確率が高いのは明らかだ。
続く2点は、これからイタリアでドライブする機会がある読者にも有益であろう。第2はインターチェンジや分岐の構造である。イタリアでは、下りランプと上りランプを片側1車線ずつで済ませている箇所が多数ある。さらによくないことに、そうした地点では中央分離帯やポールが整備されておらず、白線(区画線)のみで区切られていることが大半だ。したがって、2車線道路と思い込み、容易に反対車線に入ってしまえるのである。筆者が起こした最初の逆走も、これである。加えていえば、トスカーナ州で逆走事故が少なくないのは、こうした道路の設計が原因にあると考えられる。
第3は、信号の代わりにロータリーを用いる箇所が多いことだ。ロータリーであるとわからないほど大きな直径であることから、ただのT字路と誤認してしまうのである。筆者が目撃した例や、自分で陥った2番目の逆走がまさにそれであった。
さらに前述の事故に遭った知人は、自身が巻き込まれた事故とは別に、重要なことを指摘してくれた。それは「交通管制が頻繁に変更されること」だ。たしかに、以前訪れたときは交互通行だった道路が、数年後訪れてみると一方通行になっていたり、最悪の場合、反対方向への一方通行になっていたりといった場所に遭遇することがある。そうした箇所を通る際、古い地図ソフトが入ったカーナビゲーションや、アップデートが追いつかない地図アプリに頼っていると、さらに危険になる。
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こんなものまで逆走してきた
そのような状況ゆえ、運転時は自分が逆走しないよう注意するとともに、自動車専用道路では、以下の2点を心がけている。本線では逆走車に遭遇したときに備え、見通しの悪いカーブで追い越し車線を走行しないこと。ランプでは少しでも衝突のインパクトを軽減するため、路側帯に近い側を走るということだ。
ただし、そうした心得がまったく通用しないであろう逆走事件が、これまた筆者が住むシエナの自動車専用道路で起きたのは、2023年4月のことだった。クルマではなく、本線上に馬が進入――当然、自動車とあえて逆方向に向かおうという意識はなかったと思うが――数百mを逆走したのである。最終的に馬はみずから道路を離れたあと、警察に捕獲されて所有者のもとに返った。負傷者もいなかった。
この自動車道の通称は“アウトパリオ(Autopalio)”という。パリオとは、シエナで毎夏催される競馬のことだ。スリリングなコーナーの連続は、たしかに競馬に似ている。その道に本物の馬が走るとは。いやいや、笑いごとではない。
(文と写真=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>、大矢麻里<Mari OYA>/編集=堀田剛資)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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