BMW F900GS(6MT)/ロイヤルエンフィールド・ヒマラヤ450/トライアンフ・スクランブラー400X(6MT)
冒険へのパスポート 2024.05.19 JAIA輸入二輪車試乗会2024 アナタなら冒険のお供にどのバイクを選ぶ? JAIA輸入車合同試乗会のなかから、新型アドベンチャー「BMW F900GS」「ロイヤルエンフィールド・ヒマラヤ450」や、普通二輪免許で乗れる「トライアンフ・スクランブラー400X」の走りをリポートする。荒野に向かう準備が整っている
BMW F900GS
おそらく一般的にはアドベンチャー系。個人的にはパリダカ系と呼ぶジャンルの先頭をひた走るのがBMWの「GS」シリーズ。誰でも一度くらいは抱くはずだ。GSが醸し出す荒野への誘いに身を任せてみたい憧れを。けれど、これほど現実とのギャップを思い知らされるモデルがないのも事実だったりする。
ボクサーツインエンジンを搭載した「R1300」から、312cc単気筒エンジンの「G310」まで幅広いラインナップを有するのが現在のGSシリーズ。そのなかで中堅に位置するのが、今回フルモデルチェンジされた並列2気筒エンジンのF900GSだ。先代にあたる「F850GS」のエンジンスペックは排気量853ccの最高出力95PS。新型ではそれぞれ895cc、105PSへとアップしており、それに伴って車名まで変えてきた。その他多くの刷新箇所に鑑みると、正常進化した別種ととらえていいだろう。
なおかつシート高も10mmほどアップし、BMWモトラッドで最も高い870mmとした。これがGS! またいだ瞬間に聞こえてくるのは、憧れがパチンと破裂する音なのだ……。
身長175cmで標準的と信じている自分の股下長でも、両足のつま先が地面につくのはギリ。停車中でも強風にあおられたら立ちゴケ必至。その分不相応を体感する悲しい気持ちは、何年も前に借りた「R1100GS」でも体験した。そのときは山中の坂で2度も立ちゴケしたんだっけ。
だがしかし、走りだしてしまえば快適ゆえ、一瞬にして嫌な記憶を吹き飛ばしてくれるのもGSの特長だ。ブルンブルンと両肩をぶん回すように働くツインエンジンは「速い!」と感じる部類。視線の高さからくる見晴らしのよさは、試乗会の会場ですら旅先みたいに感じさせてくれた。
なのに小さなカーブを曲がろうとすると、ハンドルの“立ち”の強さに往生する。GSシリーズ唯一の21インチフロントホイール&ブロックタイヤは、本気オフローダーの証し。これを相棒にするなら、僕は一からオフロードモデルに適した操り方を学ばなくてはならないのだろう。
なんにせよシリーズ中堅のF900GSは、すぐにでも荒野に向かう準備が整っているモデルだ。言うまでもなく、またがってすぐに嫌な汗をかく僕には、御せるだけの体格をはじめ、それにふさわしい支度を用意することができない。つまりF900GSは、乗り手を選ぶ。そんな新車がこの時代に発売される事実にすがすがしさを覚えた。憧れとはそもそも、かなわないままだからこそ無垢(むく)の美しさを保てるものでもある。いや、負け惜しみじゃなく。
(文=田村十七男/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
純朴なキャラクターはそのままに
ロイヤルエンフィールド・ヒマラヤ450
「HIMALAYAN」と書いて「ヒマラヤ」。ロイヤルエンフィールドから2018年に国内デビューした、ノンビリとしていて誠に心地よかった“和み系”デュアルパーパスモデルだ。それが2023年に新型になった。車名はヒマラヤからヒマラヤ450になり、エンジンは排気量411ccの空冷単気筒SOHC 2バルブから452ccの水冷単気筒DOHC 4バルブへ。ちっとも強そうじゃなくてイイ感じだった外観は、新しくなってちょっとだけ強そうになっちゃったけれど、エンフィールドらしい素朴な雰囲気はしっかり残されていてホッとする。はっきり言おう。旧型のヒマラヤは「欲しいバイク」だった。だからこそ、その実直キャラがどこへいくのかちょっと気がかりなのだ。
ぐるりと車体を観察してみると、フロントフォークは倒立式に改まり、5段だったトランスミッションは6段に。スロットルは一般的なワイヤ式からバルブの開閉を電子制御で行うライドバイワイヤへと進化し、あわせてライディングモード(「パフォーマンス/ABS ON」「パフォーマンス/ABS OFF」「エコ/ABS ON」「エコ/ABS OFF」の4モード)が選択できるようになったという。前後サスペンションはSHOWAで、水冷エンジンの潤滑はセミドライサンプ式である。どれもこれもモダナイズのための正常進化といえる。
旧モデルで最もジブン好みだったのは、街乗りでもツーリングでもせかされない単気筒エンジンのおおらかでマイペースなフィーリングだった。そのことをにわかに思い返しつつエンジンスタート。好感の源だったロングストロークエンジン(ボア×ストローク=78×86mm)がショートストローク(同84×81.5mm)に変わったことは事前に知っていたので一抹の不安があったものの、JAIA会場の試乗コースを1周、2周、3周し……果たして新型車の“味”はそれほど変わっていなかったのである。ホッ! エンジンは明らかにスムーズに静かに回るようにリファインされていたが、50~60km/hで流しているのが一番爽快なのは前と同じだった。
結果を言うと、ヒマラヤらしい(と勝手に思っている)おおらかさは多くの部分で残されていた。着座するライダーの目の前、高めの位置にレイアウトされたメーター類やスクリーンは自分を囲んでくれているようで安心感がある。旧型同様に足つきもいいし、タンクガードやタンデムグリップなどの愚直なデザインも背伸びしていなくて親近感アリ。たしかに空冷のガサガサしたテイストは減ったけれど、ショートストロークながらわずか3000回転で最大トルクの90%を発生するトルクフルなエンジンには、それと引き換えてもいい快適さとイージーさが備わっていた。
シンプルさとタフネスを旨(むね)としていた旧型。そこに新型では、とりわけヨーロッパで求められる高速巡航性能が付与され行動半径が大きくなった。水冷エンジンを得たことで、スピード不足を感じるシーンはここ日本でももうそんなにないだろう。大型二輪免許がないと乗れないビミョーな450ccだけど、そんなさまつなことは気にしないのがヒマラヤ君の純朴さ。「他のバイク? 気にしたことないなあ」の体でサラッとヒマラヤ山脈超え。いちばんカッコいいヤツじゃん。
(文=宮崎正行/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
ノンビリ行くもよし スポーティーに駆けるもよし
トライアンフ・スクランブラー400X
トライアンフの400ccモデル、初めて乗った。ブォォォーーーン! ちょっとだけ長めのセルスタートで始動する単気筒エンジンは、心地のいいバイブレーションを伴いながら高回転まで一気に吹け上がる。一瞬、2気筒だっけ? と疑ってしまった。
ここ日本において中型免許で乗ることができるトライアンフの新しい400ccモデルは、「スピード400」とこのスクランブラー400Xの2台となる。オーソドックスなロードモデルのスピード400に対して、スクランブラー400Xはクロスオーバーモデルという立ち位置になり、今日はスクランブラー400Xに試乗した。
ボディーはなかなかにビッグサイズだ。フォルムにボリュームがあることに加え、外装にはしっかりトライアンフらしさが貫かれており、リッチな雰囲気をたたえている。まるで“ヨンヒャク”に見えない。しかもプライスは80万円を切る78万9000円ときているので、初見で「売れそうだな……」とつぶやいてしまった。いざまたがってみると、体重が乗せられないほどツンツンではないが、身長172cmにとってのシート高835mmの足つきは(悔しいが)大してよくはない。シート高って、足つきってホントに大事……という思いはこんな仕事をしているにもかかわらず年々強くしている。
「TRシリーズ」と呼ばれる新設計の水冷単気筒DOHCエンジンは、8000rpmで40PSを出力。単気筒というエンジン形式と排気量でのみざっくり比較すると、「KTM 390デューク」が45PSで「ホンダGB350」が20PS。ちなみに例は古いがあの「ヤマハSRX400」は33PS。そんなこんなでスクランブラー400はかなり頑張っているほうの単気筒といえるだろう。もちろん水冷であることがハイパワーを可能にしている一因だ。ただ、同じ水冷でも向いている方向は390デュークとスクランブラー400Xでは異なっているような気がする。
スクランブラー400Xは端的に言って、ノンビリとハイペースの両方を欲張れるバイクだ。ブンブンもいけるし、トコトコもいけそう。スピード400よりも脚長なフロントサスペンションのセットはソフト寄りで、でもそれをしてスポーティーではないということではなく、路面の状態がつかみにくいツーリング先などでもそれほど神経質になることなくコーナーに進入していけるメリットがある。そんな気やすさ、扱いやすさこそが、トライアンフのモダンクラシックシリーズらしさなのかもしれないと感じた。
うーん、このスクランブラー400Xは、もっともっと距離を重ねないと見えてこないものが多そうだぞ。ヨーロッパのハイウェイをそれなりのスピードでカッ飛んでいくには400ccという排気量は不足ぎみかもしれないが、ここ日本であればきっとちょうどいいキャパシティーである。マシンの評判のよさは伝え聞いていたけれど、なるほど想像を(ちょっとだけ)超えて“両刀”なマシンだった。いつも事前のイメージを(グイッと)超えてそのアグレッシブさに驚かされるトライアンフのスポーツモデル群。このスクランブラー400Xは(ギューンと)遠くまでひた走るロングライドがきっとハマる。お蔵入りだったあなたの中免、今年の夏によみがえらせてみませんか?
(文=宮崎正行/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
BMW F900GS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2270×945×1395mm
ホイールベース:1600mm
シート高:870mm
重量:224kg
エンジン:894cc 水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:105PS(77kW)/8500rpm
最大トルク:93N・m(9.5kgf・m)/6750rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:22.72km/リッター(WMTCモード)
価格:209万5000円
ロイヤルエンフィールド・ヒマラヤ450
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2245×852×1316mm
ホイールベース:1510mm
シート高:825/845mm(調整式)
重量:196kg
エンジン:452cc 水冷4ストローク単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:40.02PS(29.44kW)/8000rpm
最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/5500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:未定
トライアンフ・スクランブラー400X
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×901×1169mm
ホイールベース:1418mm
シート高:835mm
重量:179kg
エンジン:398.15cc 水冷4ストローク単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:40PS(29.4kW)/8000rpm
最大トルク:37.5N・m(3.8kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:78万9000円

宮崎 正行
1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。

田村 十七男
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