ハーレーダビッドソン・パン アメリカ1250スペシャル(6MT)/ドゥカティ・デザートX(6MT)/ロイヤルエンフィールド・ヒマラヤ(5MT)
これからのバイクの本流 2023.05.17 試乗記 数あるバイクのジャンルのなかでも、今、世界的に人気を博しているのが“アドベンチャー”だ。JAIA二輪輸入車試乗会より、ブランドの個性が光る「ハーレーダビッドソン・パン アメリカ」「ドゥカティ・デザートX」「ロイヤルエンフィールド・ヒマラヤ」の走りを報告する。Vツインの新たな傍流
ハーレーダビッドソン・パン アメリカ1250スペシャル
ハーレーに乗っている感じがしない! それが、2021年の夏に国内発売されてからようやく試乗がかなった、「パン アメリカ1250スペシャル」の偽りなきファーストインプレッションだ。
業界が呼ぶところのアドベンチャーモデル。ハーレーがこのジャンルに挑もうとした事実がまず衝撃的だったので、ヘッドライトまわりに古いAppleコンピューターのボディーをかぶせたような特異なデザインを施してきたことには、感心こそしても驚きはしなかった。ジャンルからして、すでにハーレーの本流から大きくそれていたからだ。
そんなわけで、大河に注ぎ込む支流のような違いを想像して走りだしてみたら、流れの強さも川幅も支流のイメージを凌駕(りょうが)していた。湧き出る最初の一滴は同じ場所かもしれないが、パン アメリカは完全に別の一級河川。まずレバーやペダルのつくりとタッチが、アメリカの大男でなくても難なく受け入れられるユニバーサルレベルだ。オフロード走行も想定内のアドベンチャーモデルゆえ、操作系の扱いやすさは必須条件だったと思うが、そこに既存の極太レバーやグリップを用いなかっただけでも、ハーレーが別の景色を用意する意欲が強く感じ取れた。
それから、「レボリューションマックス」と命名された1252ccの水冷ツインエンジン。形式こそハーレーらしいが、鼓動感より加速感が重視されているようで、軽やかな吹け上がりには異次元を見た思いがした。
加えて、電子デバイスの大量投入。車速が7km/h以下になると自動的に車高を下げるという「アダプティブライドハイト」。それに連動するセミアクティブサスペンション。その他もろもろ。ライドハイトの動きなんて、あまりに滑らかすぎて体感できなかった。
これはある種の総論。いまだ多くの人が『イージー・ライダー』の世界観をハーレーに求めてやまないことを知っていながら、ハーレー自身は新しい流れをつくった。その象徴がパン アメリカ。これを何と呼ぶかをひたすら考えて、自分のボキャブラリーでは「傍流」という言葉にたどり着いた。
さて、オン・オフ混然のロングツーリングでパーフェクトな性能を発揮しそうな製品にひとつ問題があるとしたら、誰がこれに乗るかだろう。ハーレーを欲する人は、よくこんなセリフを口にする。「大型バイクではなくハーレーに乗りたい」と。そんな信条の持ち主が「ハーレーに乗っている感じがしない」パン アメリカも目指すかといえば、たぶん眼中に入らない。それはハーレーも承知しているはず。では誰が喜ぶのか? アドベンチャーモデルを好む人々?
個人的にはアドベンチャーモデルにそこまで精通していないので、オチがつけ難い。なおかつ困っているのは、次の別ブランドでも似たような問題にぶち当たったことだ。
(文=田村十七男/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
レース好きの血が騒ぐ“パリダカ・レプリカ”
ドゥカティ・デザートX
正面にはツタンカーメンの棺(ひつぎ)を想像させる顏。横からの眺めはまるで白いピラミッド。これほどの高い壁を積極的に登ろうとするには、どれほどの身長が必要なんだとおじけづいてしまう。もちろん、登ってしまえば見晴らしのいい快適な世界が待っているのだけど。
「Dream Wilder」を標榜(ひょうぼう)した、ドゥカティ初の本格オフロードモデルがデザートX。ルックス的にはアドベンチャーモデルと目してよさそうだが、ドゥカティが目指したのは、往年のアフリカンラリーのイメージを引き継いだ、いわばパリダカ・レプリカらしい。フロントマスクのデザインしかり、オフロードモデルで典型的なフロント21インチ/リア18インチのホイールを備えた点も、コンセプトの明確さが如実に表れている。
日本仕様はシート高を2cm下げているそうだが、地上に片足をつけたままでまたぐのはさすがに難儀。それはこの類いの通例と理解しつつ、何より驚いたのはエンジンの“速さ”だ。ホームページによると「937ccテスタストレッタ11°デスモ・エンジンの最新バージョンを搭載。先代バージョンと比較して1.7kgの軽量化を達成」したそうだが、その加速は試乗コースの直線があっという間に終わってしまうほどだった。オフロード向けでもこれほどのエンジンを用意するのは、やはりレース好きの血が騒ぐからなのだろうと妙に納得できた。
かなりコンペ向きながら、街なかでのスムーズさを醸し出す「アーバン」や、雨天時向けの「ウエット」をふくむ6種のライディングモードが用意されている。各モードによって駆動力の出方が異なるので、セッティングによっておだやかなツーリングも楽しめるのだろう。
特筆すべきは、カウリング内のデジタルメーターだ。大型のスマホを縦置きにしたようなデザインで、表示されるグラフィックも洗練されていて好感が持てた。
で、やはり避けて通れないのは、誰が乗るのか問題。ドゥカティにしてもロードスポーツのイメージが強いから、「ドゥカティに乗りたい」と憧れ続けた人にとってデザートXも欲求対象になり得るかといえば、どうなんだろう。
などと書いてみて、気づいた。あえて本流とは異なる新たな傍流をつくってこそ、ブランドイメージは強固になる。そういう狙いが、どうやら人気定番化しつつあるアドベンチャーモデルに向けられているのではないか。あるいは、各ブランドが同時多発的にひとつの流れを生み出すことで、現時点では傍流のアドベンチャー系を活性化し、本流に匹敵する大河に育てようとしているのかもしれない。
とか、いろいろ言っているお前は「乗るのか?」と問われたらどうしよう。ひとまず、従来のドゥカティとは一味違う巨大なデザートXで人前に現れる爽快感と、このサイズを取り回せる自信のバランスを正しく算定するまで、回答を少し待ってほしい。
(文=田村十七男/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
ガンジーの国のアドベンチャー
ロイヤルエンフィールド・ヒマラヤ
ヒマラヤを旅するための新型モデル、それがヒマラヤだ。ロイヤルエンフィールド社が発売したフロント21インチモデルの、そのあまりにも直截(ちょくせつ)なネーミングセンスに「インドの方も分かりやすいのがお好みなのね」と思ったのは最初だけ。脚長のタフなオフロード系アドベンチャーマシンを試乗前に想像したのもつかの間、目の前に現れたのはことのほか実直なルックスのツーリングバイクだった。
大磯プリンスホテルの広大な駐車場を走りだせば、その第一印象もまたルックスどおりのおだやかなもの。空冷単気筒エンジンはスタタタタンッ! と軽いサウンドとともに始動し、スロットルをあおっても鼓舞されるというよりは和んでしまうような、そんなジェントルなフィーリングにあふれている。ひとことで言えば、のどか。長閑……うんうん、漢字にするとますますピッタリな感じがする。酸素濃度が平地の約半分といわれている過酷なヒマラヤ山脈の高地を行く骨っぽいマシンコンセプトは、単気筒の鼓動を楽しみながらスロットルを開けるうちにすぐに忘れてしまった。
なんで411ccなの? えらく中途半端じゃない? の声はここニッポンにおいては「さもありなん」だが、このヒマラヤはインドで企画されてインドで生産されている純血インド車。この際細かなことは脇に置いておこう。SOHC 2バルブの古典的な空冷単気筒エンジンは、最高出力24.3PSにも最大トルク32N・mという数値にもなんらトガったところはない。平凡極まりないスペックといえる。
車体構成はフレームを含むほぼすべてのパーツがスチール製というオーソドックスなつくりだし、車重も199kgとオフモデルとしてはまったく軽くない。それでも内燃機関のフィーリングはなかなかに味わい深く、マイペースが貫ければパワーも十分と感じた。あえて1段高いギアで加速する快感は、きっと乗らなきゃ分からない単気筒の味だろう。「奥へ奥へと分け入るパフォーマンス」みたいなものが冒険バイクには必須なのだろうけれど、このヒマラヤには角が取れたまったりとした乗り味とおおらかなハンドリングが備わっている。刺激はないが、平和があった。かのガンジーは「速度を上げるばかりが、人生ではない。」と言ったそうな。ヒマラヤでヒマラヤ、走ってみたいなあ。
(文=宮崎正行/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ハーレーダビッドソン・パン アメリカ1250スペシャル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2270×--×--mm
ホイールベース:1585mm
シート高:低830mm/高875mm
重量:258kg
エンジン:1252cc 水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:150HP(112kW)/8750rpm
最大トルク:128N・m(13.1kgf・m)/6750rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:5.5リッター/100km(約18.2km/リッター、EU134/2014)
価格:319万8800円
ドゥカティ・デザートX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1608mm
シート高:875mm
重量:223kg
エンジン:937cc 水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:110PS(81kW)/9250rpm
最大トルク:92N・m(9.4kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:199万9000円~208万7000円
ロイヤルエンフィールド・ヒマラヤ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2190×840×1370mm
ホイールベース:--mm
シート高:800mm
重量:199kg
エンジン:411cc 空冷4ストローク単気筒SOHC 2バルブ
最高出力:24.3PS(17.9kW)/6500rpm
最大トルク:32N・m(3.3kgf・m)/4250rpm
トランスミッション:5段MT
燃費:--km/リッター
価格:87万4500円~89万4300円
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田村 十七男

宮崎 正行
1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。
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