第864回:【Movie】「アルファ・ロメオ・ジュニア」が走る姿を見た!
2024.06.20 マッキナ あらモーダ!「ミッレミリア2024」で
2024年6月11日から15日まで、イタリアでヒストリックカー・ラリー「ミッレミリア」が開催された。
筆者が住むシエナは過去数年、ランチ会場として昼ごろの到着だったが、今回は大幅にコースが変更され、4日目午後のチェックポイントとなった。
42回目の開催となる今回、筆者が注目したのは、2024年2月に発表されたBセグメントのハッチバック・新型「ランチア・イプシロン」と、同年4月に発表されたBセグメントSUV「アルファ・ロメオ・ジュニア」が走ることだった。とくに後者は初の公道走行披露であるという。
走る台数は両モデルとも2台。イプシロンは1台が3気筒エンジン+マイルドハイブリッドの100HP仕様で、メーカーの歴史車部門「ヘリティッジ・ハブ」から出場した1951年「アウレリアB20GT」のサポートカーとして参加。もう1台は115kWの電気自動車(BEV)仕様で、自動車誌『クアトロルオーテ』のスタッフが乗り、同時開催の「ミッレミリア・グリーン」に参戦した。
いっぽうジュニア2台はいずれも136HPのマイルドハイブリッド仕様。こちらは「ヘリティッジ・ハブ」から出場した1954年「アルファ・ロメオ1900スポルト スパイダー」および1956年「アルファ・ロメオ1900スーパースプリント」のサポートカーというステータスでの参加だった。
カンポ広場でひとときの交流
筆者がシエナ旧市街のカンポ広場に赴くと、すでにイプシロンが到着していた。近年のカーデザインにみるトレンドである、横幅を強調した意匠はとかくどう猛な印象に陥ることが少なくないが、品よくまとめられている。前部のデザインに関していえば、4つの小さなグリルが追加されたマイルドハイブリッド仕様よりも、それがないBEV仕様のほうが簡潔で好感がもてる。
クアトロルオーテ号のドライバーに声をかけてみる。彼によると、航続距離は最初の2日間はカタログ値に近かった(参考:WLTP複合モードで403km)が、取材日のような暑い日にエアコンを使用すると300km台前半まで落ちるので、スイッチオンには配慮したと語る。
ディスプレイ上に表示されるチャージングポイントはかなり正確で、困ることはなかったという。また、普段開放されていない施設も、連絡先を頼りに電話をすると開放してくれたと教えてくれた。確認を失念したが、おそらく自動車販売店の中にあるチャージング設備のことと思われる。
30分ほど経過すると、ジュニア2台もカンポ広場に到着した。同車には2種類のフロントグリルが用意されている。ビッショーネをくり抜いたものと、戦前のスポーツモデルをほうふつとさせる網目模様のものだ。基本的にBEV仕様は前者、マイルドハイブリッド仕様は後者だが、マイルドハイブリッドでも「スペチアーレ」仕様はビッショーネが装着される。今回やってきたのはこのスペチアーレだった。
ジュニアのドライバー氏は極めてフレンドリーで、ドアを開けて筆者をドライバーズシートに着座させてくれた。左右エアコン吹き出し口の中央に据えられたエンブレムが赤く光る。こうしたサプライズの照明ディテールは近年、一部のサプライヤーが盛んに売り込んでいて、まずはドイツ系プレミアムブランドが積極的に採用していたが、アルファ・ロメオのこのクラスにも及んできた。それはともかく、スポーツパッケージに設定されているサベルト製シートは極めてタイトだ。十分に理解して選択する必要があろう。
ジュニアにも例の「DNA」ドライブモードが装着されている。どれが一番楽しいか? と問うと、ドライバー氏は即座に「D(ダイナミック)!」と答えた。とくにステアリングのアシスト量とブレーキの感覚が絶妙だと語る。
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ダリと同じ心情か
ただし、正直に記さなければならないことがある。広場には多くのギャラリーが参加車を取り巻いていたが、イプシロン、ジュニアとも「極度に目立ってはいなかった」ということだ。実際、ある少年グループはジュニアではなく、同様にサポートカーとしてやってきた「アルファ・ロメオ・ジュリア クアドリフォリオQ4スーペルスポルト」のほうに、より熱心にスマートフォンのカメラを向けていた。
しかし、両車とも歴史的旧市街の中世・ルネサンスの建築物のなかでもかすまない彫刻的量感(マッス)がある。そうした景観とのマッチングは、動画でもご覧いただこう。これは意外に大切で、近年洗練がめざましい日本ブランド車にも、そうした量感が不足しているモデルが少なくないのだ。
同時に、デザイナーの努力も察することができた。イプシロン、ジュニアともプラットフォームは、旧グループPSAの流れをくむ「STLAスモール」(旧名称「CMP」)および、その電動車用である「e-CMP」を使用している。電装系のワイヤーハーネスでさえ厳しい制約があるなか、ランチアらしさ、アルファ・ロメオらしさを演出するのは極めて高度な造形技術を要したことがうかがえる。
思い出したのは、2022年の映画『Daliland』(邦題:ウェルカム トゥ ダリ)だ。20世紀を代表する奇才アーティストのひとり、サルバドール・ダリを描いた作品である。ベン・キングズレー演じるダリは1974年のニューヨークで、ミューズでもあった妻ガラによる、徹底したプロデュース下にある。そうしたなか、彼女が見ていない場所で吐露する心情は「サルバドール・ダリでいることは大変だ」であった。
車台の共有、EU法をはじめとする最新の保安基準への対応、といった事項を乗り越え、ランチアやアルファ・ロメオであることは、ダリと同様に大変なことに違いない。その日ボローニャに旅立ってゆく2モデルを見送りながら、そう思ったのであった。
【Movie】Ypsilon & Junior take part in Mille Miglia
(文と写真=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/動画=大矢麻里<Mari OYA>、Akio Lorenzo OYA/編集=堀田剛資)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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