今では絶対に使えないフレーズも 古いクルマのキャッチコピーを大特集
2024.06.26 デイリーコラム今では使えないキャッチコピー
webCG編集部のFくんから、「クルマのキャッチコピーに関するコラムを書いてもらえませんか?」と打診された。「簡単にキャッチコピーっていうけど、星の数ほどあるなかから選ぶのは大変だよ」と返したところ、「例えばコピーはカッコイイのに実際のクルマは……とか、沼田さんがオモシロイとかヘンだと思うヤツでいいです」とのこと。しかも私の得意な旧車関連、古いもの中心でいいという。理由は「古いほうがヘンなコピーがありそうだから」とのこと。まあ、確かにそうだよな。今日ではコンプライアンス上、絶対に無理なものとかもあるし。ということで、しばしキャッチコピーにまつわるヨタ話にお付き合いいただきたい。
今日ではコンプライアンス上……と前述したが、その意味において今ならセクハラ&女性蔑視で一発退場レッドカード、それどころか不買運動にまで発展しちゃいそうな恐れがあるのが、「お、パイザー」。1996年に登場したコンパクトハイトワゴン「ダイハツ・パイザー」のキャッチコピーである。
車名に「お、」を付けただけでなぜ? かといえば、その答えはイメージキャラクターに起用されたアグネス・ラムにある。1975年に日本にデビュー、初代クラリオンガールにも選ばれたハワイ生まれの彼女は、愛くるしい笑顔と小柄ながらグラマラスな肢体でしばしの間日本の青少年をとりこにした。それから20年、母親となった彼女は双子の男児を伴い久々に日本のテレビCMに出演したのだが、やはりカメラは豊かな胸に……その絵面にこのコピーがかぶせられたといえば、お分かりでしょう。
セクシャリティーや女性がらみのコピーでいうと、「ダットサン・ブルーバードU」(1971年~)の「愛されてますか。奥さん」とか「日産レパードJ.フェリー」(1992年~)の「美しい妻と一緒です。」あたりも、今ならどこからか突っ込まれそうで、怖くて使えないかもしれない。
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女性が乗せられる側から乗る側へ
女性がらみのキャッチコピーは数多くあれども、「日産チェリーF-II」(1974年~)の「クミコ、君をのせるのだから」は、スペースの半分以上がイメージキャラクターだった女優、秋吉久美子の顔面アップだった広告のビジュアルともども強く印象に残っている。
このコピーの「クミコ」は、まっとうに考えれば彼女や恋人だろうが、数あるコピーのなかにはそうではない関係の女性をフィーチャーしたものがあった。「三菱ランサー セレステ」(1975年~)の「妹は20歳」。イメージキャラクターはハーフのタレント・女優だった純アリスで、ビキニ姿で広告に登場していた。その絵面を見て「20歳の妹の愛車がセレステ、あるいは兄が妹にセレステを貸してるのならいいけど、乗せてるのだとしたらちょっとヤバくね?」などと思ったものだった。うがちすぎかもしれないが、これも今なら思いつかない設定ではないだろうか。
乗せられるばかりだった女性タレントが演じるイメージキャラクターが、乗る側に進出したのが1980年代以降の軽自動車やコンパクトカーの広告。とくに軽では、一家に一台から一人一台になった地方の若い女性ユーザーが憧れる、あるいは共感を覚えるであろう若い女性タレントが積極的に起用された。
そのなかでキャッチコピーが記憶に残るのが6代目「三菱ミニカ」(1989年~)。当時浅野ゆう子との“W浅野”で人気絶頂だった女優の浅野温子がストレートの長い髪をかき上げ、ガンを飛ばしながら「ハンパだったら、乗らないよ」と言い放っていた。これには「カッコだけなら、遊ばない」「変なヤツほど、おもしろい」というバリエーションもあって、勝手に“浅野メンチ切り三部作”と呼んでいた。
もうひとつは1994年に登場した4代目「ダイハツ・ミラ」の「森口エンジン」。イメージキャラクターを務めていた、現在も活躍中の“元祖バラドル”こと森口博子が「わたくし森口のように元気でパワフルなエンジン」とCMで語っていたが、それを省略してキャッチコピーにしてしまったのである。このミラに積まれてデビューしたダイハツの「JB」型エンジン(659cc直4 DOHC 16バルブ)は今も愛好家の間では“森口エンジン”で通るというから、たいしたものである。
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“ハード”とは何か?
軽市場でダイハツのライバルといえばスズキだが、スズキのキャッチコピーでは軽よりもコンパクトカーのほうが印象が強い。といえば、お分かりの方もおられるだろう。今もイケオジとして人気のある俳優の舘ひろしをイメージキャラクターに迎えた初代「カルタス」(1983年~)の「オレ・タチ、カルタス」である。言うまでもなく“俺たち”と“俺、舘”をかけたしょーもないダジャレだが、こんなのがテレビCMでバンバン流れ、新聞や雑誌の紙(誌)面に踊っていたのだ。1.3リッターDOHC 16バルブユニットを積んだホットモデルの「1300GT-i」の追加時には、“Hard Touch”をもじった「ハード・タチ、カルタス」というバリエーションが使われた。
ちなみに1988年にフルモデルチェンジした2代目カルタスのキャッチコピーも、イメージキャラクターを務めた当時シンガー・ソングライター、現ジャズピアニストの大江千里にかけた「カルタス、千里走る」だった。だが初代の印象が強すぎたようで、こちらが話題に上がることは少ないようだ。
ダジャレ系キャッチコピーといえば、アメリカ人俳優のマイケル・J・フォックスをイメージキャラクターに起用した2代目「ホンダ・インテグラ」(1989年~)。「カッコインテグラ」、「気持ちインテグラ」、「めちゃインテグラ」、「調子インテグラ」なんていう四部作(?)がありましたな。
「ハード・タチ、カルタス。」で思い出したのだが、“ハード”という言葉は、かつてはよくコピーに登場した。例えば初代「ホンダ・プレリュード」(1978年~)の「ハードエレガンス感覚」など、たいていは高性能を訴求する場合に使われた。
ところがこの“ハード”が、なんとも似合わないクルマに使われたことがあるのだ。それが何かといえば、1969年に登場した「スバルR-2」。高性能軽ブームの渦中とあってバリエーションにはハイパフォーマンス仕様もあったものの、丸っこいその姿は愛らしく、今の目には“癒やし系”に映るだろう。ところがデビュー時のうたい文句は、なんと「ハードミニ」だったのである。
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答えは友よ、どこにある?
ダジャレでも、ヘンなわけでも、だからといってカッコいいわけでもないが、妙に記憶に残っているのが「トヨタ・セリカ カムリ」(1980年~)の「男30 GTアゲイン」。2代目「カリーナ」をベースに「セリカ」の4ドア版としてデビューした初代カムリのキャッチコピーである。おそらく「若いときは(2ドアの)GTを乗り回していたが、30代になり落ち着いたところで再び(大人の4ドア)GTに……」といった意味合いなのだろう。四十数年前は30歳が大人の年齢と考えられていたと思うと、なかなか感慨深い。
初代カムリの兄弟車である2代目セリカ(1977年~)の登場時のコピーも引っ掛かった。クーペとリフトバック(LB)が存在したが、とりわけ後者が空力に配慮したことにフォーカスして「友よ、答えは風の中にあった」とうたっていたのだ。「答えは風の中にあった」は分かるが、なぜ「友よ」が付くのか疑問だったのだが、その答えは風の中ではなく、ノーベル文学賞受賞者でもあるボブ・ディランの代表曲のひとつである『Blowin’ in The Wind(風に吹かれて)』の歌詞の中にあった。おそらくこれは、「The answer, my friend, is blowin’ in the wind(答えは友よ、風の中だ)」という一説から引用したのではないだろうか。
この2代目セリカの後期型から始まった、ライバルだった「日産スカイライン」とのキャッチコピーによる挑発合戦。それについてはよく語られているのでここでは触れないが、その延長線上にちょっと気になるコピーがある。
イメージキャラクターが俳優のポール・ニューマンだったことから“ニューマン・スカイライン”と俗称される6代目R30系。1983年、そのR30系に加えられた2リッター直4 DOHC 16バルブターボエンジン搭載の「2000RSターボ」が掲げた「史上最強のスカイライン」は、よく知られているキャッチコピーであろう。
では、その裏に「史上最強のスカイラインの弟か」という冗談のようなコピーが存在したことをご存じだろうか? 「パルサー」の双子車で、同じ日産プリンス店扱いのスカイラインの弟分だった「ラングレー」。「愛のラングレー」(初代)、「ポールとポーラの新ラングレー」(2代目)というキャッチコピーもスカイラインのお下がりだったのだが、そのラングレーの2代目(N12)に高性能版の「ターボGT」が加えられた際にカタログに躍っていたのがこのフレーズだったのだ。「弟か」と問われても、こちらが否定したところでそっちはそう思ってるんでしょう? としか言いようがないのだが。
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日本車史上最も珍妙なキャッチコピー
前述した「史上最強のスカイライン」のように明快なキャッチコピーをうたっていたスカイラインが、1985年に登場した次世代の通称“7th”こと7代目(R31)では、一転して「都市工学です。」という分かりにくいフレーズを掲げた。ハイソカーブームをけん引していたトヨタの「マークII」3兄弟に対抗すべくキャラ変を敢行したうえでのことだった。
そのスカイラインの兄弟車だった「ローレル」。生涯を通じてヨーロピアン調とアメリカン調を行ったり来たりで落ち着かなかったが、1984年に実施された4代目(C31)から5代目(C32)への世代交代に際してのキャッチコピーの豹変(ひょうへん)ぶりは見事だった。
当時の日本車としては空力を重視していた4代目のキャッチコピーは「アウトバーンの旋風(かぜ)」。ところがそのプレーンなエアロルックが不評だったため、5代目では仏壇調と揶揄(やゆ)されたほど角張らせて光り物を増やした。そしてアウトバーンを語ったことなどなかったかのように、軽々と大西洋を越えて「ビバリーヒルズの共感 ローレル」とブチ上げたのだった。
1970年代から1980年代にかけての日産車には上級車のミニ版的なモデルがいくつか存在した。前ページで触れたミニスカイラインのラングレー、「サニー」をベースにズバリ車名を入れ込んだ「ローレル スピリット」。そして正面から掲げてはいなかったが、「セドリック」を縮小したようなモデルが1977年に登場した初代「スタンザ」(A10)。2代目「バイオレット」、初代「オースター」と3兄弟を構成したが、最もゴージャスに仕立てられていたのがスタンザだった。
このスタンザのキャッチコピーが強烈だった。「男と女とバラとスタンザ」。そのフレーズのとおり、広告やカタログのビジュアルにはラテン系(?)を思わせるルックスの若い男女をフィーチャー。フレーズ自体の意味不明さもさることながら、ミニセドリック的なクルマのキャラとのマッチングも疑問で、担当したコピーライターが何も思いつかず、ヤケクソで書いたデタラメが通ってしまったような感じすらある。
このコピーの話を編集担当のFくんにしたところ、「バラはどこからきたんですかね?」という。どこからきたのかは不明だが、このコピーのキモが「バラ」なのは間違いない。これがもし「男と女とスタンザ」だったら、なんの引っ掛かりもなく、筆者の記憶にも残らなかった可能性が大。となれば、私が思うに日本車史上最も珍妙なこのキャッチコピーも、立派なプロの業ということになるのだろうか。
(文=沼田 亨/写真=ダイハツ工業、日産自動車、三菱自動車、スズキ、本田技研工業、トヨタ自動車、TNライブラリー/編集=藤沢 勝)
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沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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