フォルクスワーゲン・ポロGTI(FF/7AT)【試乗記】
かみ合う瞬間 2010.11.22 試乗記 フォルクスワーゲン・ポロGTI(FF/7AT)……334万9500円
排気量が小さくなって、パワーも燃費も大幅アップ。そんな魔法みたいな進化を遂げた「ポロGTI」は、ハンドリングもスゴかった。
クリッピングを射抜ける
ああなるほど、そうなのだ。日本の典型的なせまい山道で、コーナリングのキレアジを求めるなら、「ゴルフ」ではもはやデカすぎるし、重すぎるし、価格が高くなりすぎるのだ。新しい「ポロGTI」に乗って、心からそう思った。
今の大きなゴルフでこれに匹敵するシャープネスを出そうと思ったら、それはとんでもないモンスターにならざるをえず、気軽に買えない超マニア限定商品になるしかない。スピード域が高まるから、ド派手な本気エアロパーツの武装も必要かもしれない。それはもはや大企業のフォルクスワーゲンみずからが300万円そこそこでやる仕事ではない。少なくとも彼らはそう思っているはず。そんなヤンチャを大まじめにやる大企業は、もはやルノーと欧州フォードくらい(?)しか残っていないのではないか。
先代のポロGTIはこうではなかった。運動性能を重視していたのは明らかにゴルフのほうで、ポロはどちらかといえば直線番長っぽかった。当時の1.8リッターターボはターボラグが大きく、シャシーも快適性優先で、クリッピングポイントを正確に狙おうとはあまり思えなかったのだ。
しかし新しいポロGTIのハンドリングは正確そのものだ。路面のうねりに遭遇しても姿勢はピタッと安定してブレない。バネもダンピングも明らかに引き締まっている。ステアリングだけでラインが決まらなくても、スロットルで微調整するだけでクリッピングを射抜ける。
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ノーマルよりも快適!?
クリップを通過して右足を深く押し込めば、ほぼ間髪いれずに加速態勢にうつる。前輪がギャリッとかきむしるほどのトルクだが、それは瞬間的なものだから、心配はいらない。本格的な加速モードになればトラクションは十分だ。イン側の駆動輪に適度なブレーキをかける「XDS(電子制御式デファレンシャルロック)」がアンダーステアも抑制する。S字の切り返しでも鋭く、よけいな動きを見事におさえこんでくれる。
こういうフットワークチューンなのに普段の乗り心地が絶望的ではない背景には、もちろんチューニングのうまさやポロのボディ剛性の優秀さがあるだろう。しかし、最も貢献しているのは、おそらく、ポロが小さくて軽いことだ。小さいからこそタイトなつづら折れでも自由にラインが選べて、理想的なコーナリングラインを描きやすい。軽いからこそ暴力的に締め上げなくても、S字の切り返しでもボディの動きはピタリと安定する。
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高速道路に乗り出すと、それがよく分かる。山道でのすこぶるつきの活発さとは対照的に、高速ではフラットで気持ちいい。むやみに硬いだけではない。わずかでも横Gのかかる高速コーナーでもGTIはピタリと路面に吸いついて、わずかにダンピング不足感のあるノーマルより快適なくらいだ。
さわやか 快活 キュート
新しいポロGTIは179psというライバルに負けない出力を1.4リッターのツイン過給で得ているが、この選択も絶妙というほかない。小型エンジンはノーズの軽さを生み、それがそのままポロGTIのハンドリングに多大な貢献をしている。ノーズが軽ければフロントのロール剛性をさほど上げなくても、ステアリング反応が鋭くできるからだ。これが重い2リッターだったら、その重量を支えるためにフロントサスペンションをさらに硬くせざるをえず、マジタイムの痛快さとオフタイムの快適さを、これほど高度にバランスさせるのは難しかっただろう。
しかもツイン過給なのがいい。さすがに1.4リッターで180psクラスだから最大過給圧はかなり高い。いかに最新の過給技術といえども、ターボチャージャーが本格稼働するまでのラグは無視できないレベルになるはずだ。しかし、ポロGTIはその空白域を機械過給で補うわけで、実際、ほとんど全域で素晴らしいスロットルレスポンスを披露する。クルマの走りはシャシーだけで決まるものではない。荷重移動をつかさどるスロットルもオンオフ両面でビビッドで正確でなければ、クルマと人間は一体にはなれない。これらすべてがかみ合ってはじめて、本当の意味での素晴らしい“ハンドリング”が完成する。
今さら言うまでもないが、7段DSGの電光石火ギアチェンジもポロGTIにぴったり合っている。これがノーマルのTSIだと乾式ツインクラッチはときに小気味よすぎて、煩わしく感じることもある。だが、GTIのようなスポーツモデルなら、DSGはそのまま素直に快感発生装置になる。
300万円以下のポロGTIのためにエンジンやトランスミッションをゼロから専用開発するわけにはいかない。1.4リッターツインチャージャーも7段DSGも、当たり前だがポロGTIのためだけに作られたものではなく、いくつかある既存の選択肢からGTIの開発チームが選んだにすぎない。しかし、結果論とはいえ、なんともGTIにおあつらえ向きのパワートレインがあったものだ。もしこれらがフォルクスワーゲンのパーツ倉庫になかったら、ポロGTIがこんなにさわやかで今っぽく、快活でキュートなコンパクトスポーツにはなれなかっただろう。心からそう思う。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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