実車を見ての印象は? 関係者は何を語った!? 「フェラーリ12チリンドリ」発表会見聞録
2024.06.28 デイリーコラム 拡大 |
2024年6月11日、東京は虎ノ門で、「フェラーリ12チリンドリ」が日本初公開された。12気筒フェラーリのモデルチェンジなんて、それだけでも吉事。その披露会にお呼ばれするとは。お勤めとはいえついつい口角が上がってしまう。一介の編集記者がシアワセを独占するのももったいないので、実車を見、関係者の話を聞き、同業他者と語らって感じたことを、読者諸氏と共有させていただきます。
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賛否両論は承知の上
記者が抱いた実車の第一印象は、お下品で恐縮だが「こりゃスゲえな」、次いで「攻めたなぁ、フェラーリ」というものだった。具体的な造形の特徴については、過日の「カーデザイン曼荼羅」(その1、その2)で考察したとおりだが、とにもかくにも、これまでのFR 12気筒フェラーリとは全く異なる無機質デザイン。皆がまんべんなく「カッコイイかも」と思うものではなく、デザイナーが自分の“好き”をぶっ込んできた感じだ。嫌われることをいとわないその姿勢にシビれるし、そもそもスーパースポーツのデザインって、そうあるべきではないかと思う。
もちろん、賛否両論はフェラーリも承知の上。この日はフェラーリのヘッド・オブ・プロダクトマーケティングであるエマヌエレ・カランド氏のグループインタビューにも参加したのだが、質疑が始まるや氏は「実車を見てどう思いました?」と逆質問。報道陣の「慣れるまでに時間がかかるかもしれません」という回答にもわが意を得たりといった様子で、「皆がすぐに見慣れる、すぐに気に入るようなものより、こういったデザインのほうが、ずっと長く楽しめるでしょ?」とのことだった。
ちなみに、恐れながら記者の私見を述べますと、カッコイイよ。大いにアリです。FRといえばアメリカンな欲望全開デザインこそ至高とする筆者が、コンセプトはむしろ逆のモデルでありながら、初めてそれに比肩すると思えたFRのフェラーリだった。
これ本当に“デイトナ”のオマージュ?
加えてデザイン関連では、実車を見てひとつ確信……なんて言うとおこがましいけど、思いを強くしたことがある。これ、ちまたで言われているような「365GTB/4」通称“デイトナ”のセルフカバーじゃないぞ。フロントデザインをはじめ、ディテールを見れば確かにオマージュっぽいポイントを発見できるが、全体の印象は全然違うし、そのオマージュポイントにしても、再解釈というかモダナイズの仕方に、通底したデザイナーの意思みたいなものを感じる。記者のような半可通ですらそうなのだから、フェラーリに精通する人は、なおのこと「おや……フムフム」と感じることでしょう。
ちなみに、先述のカランド氏も「(フェラーリの最新モデルが)ひとつのモデルに立ち返ることはありません」とのこと。オマージュという意味では「フェラーリの歴史を振り返ったもので、“デイトナ”以外にもさまざまなモデルのテーマを盛り込んでいる」のだそうだ。
また、同時に新しいテーマへの挑戦にも前のめりで、「顧客の志向やマインドが変わるのと呼応して、フェラーリも変わっています。過去のモデルでは『目を見て、口を見て』といったアントロモルフィックな手法をとっていたが、12チリンドリでは1970~1980年代のSFや、そこに登場する宇宙船を意識しました。デザイン史的にも、重要な時代のモチーフです」とのことである。
記者個人としては、「ショーカー文化華やかなりしころのそれに似ているなぁ。新しいんだけど、なんかレトロな感じもして」なんて思っていたので、カランド氏が言った“往年のSF”という表現が、実にふに落ちた。……いや、後出しジャンケンじゃないですよ。本当にそう思ってたんだってば。
パフォーマンスも大切だけど
発表会の冒頭、カランド氏のプレゼンテーションでは、“御大”エンツォ・フェラーリのムービーも流しつつ、12チリンドリがブランドの核となるモデルであることを主張していた。1947年に初めてマラネロの門を出たフェラーリはFRの12気筒だったし、日本に初めて正規輸入された「275GTB」を含め、1960年代のあまたの名車、傑作も同様。その伝統を継ぐ12チリンドリこそ、フェラーリの本流であるという筋書きだ。
いっぽうで、カランド氏はこのクルマがパフォーマンスと快適性を両立したロードモデルであることにも言及していた。例えば「ホイールには精緻なデザイン性を重視して、鍛造削り出しのアイテムも用意しました。逆にカーボンホイールの設定はナシ。これはレーシングに特化したモデルではないので」といった具合だ。
考えてみれば12チリンドリは、今なおパフォーマンス原理主義を掲げるスーパースポーツのトレンドとは、微妙に距離を置いている。確かに最高出力830PS、0-100km/h加速2.9秒、最高速340km/hという動力性能は十分に狂気だが、このかいわいでは同門の「SF90」を含め、今や「ターボやモーターの力を借りて最高出力1000PSオーバー。4WDでコーナリングも別次元」なんてクルマも珍しくない。過給機もハイブリッドも四駆もなしという12チリンドリは、ある意味非常に禁欲的だ。恐らくはサーキットでのタイムより、古典的なスポーツカーを操る喜び、自然吸気の12気筒エンジンを回す幸せを大切にしたのでしょう。
またプレゼンテーションでは、現在のラインナップにおける12チリンドリのポジションも説明された。いわく、GT寄りの「ローマ」「プロサングエ」と、レーシング寄りの「SF90」「296」の中央、ラインナップのど真ん中に位置するモデルとのことだ。……それにしても、こうしてみると(スペチアーレのような特殊モデルを除いても)ラインナップは実に5車種! こんな大所帯のスーパーカーブランドは、フェラーリをおいてほかにない。だからこそ、各モデルは本領以外の役割を負わされることなく、“あるべき姿”を追求できるのだろう。
伝統的なフェラーリのGTを体現する12チリンドリにしても、その純粋さが許されるのは先述のSF90があるがゆえ。レースのイメージが濃いブランドながら、過度に速さを求めない(と言うと語弊があるけど)モデルを中心に据えられるあたりに、フェラーリの伝統と地力を感じた次第である。
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実際のカスタマーの反応やいかに?
最後に、そんな12チリンドリをファン……というか実際の購入者&購入者予備群がどう受け止めているかについて紹介したい。先述のカランド氏、およびフェラーリ・ジャパンのドナート・ロマニエッロ社長の話によると、本年度の日本割り当て分はクーペ/スパイダーともに完売御礼。納車開始は「グローバルでクーペが2024年末、スパイダーは2025年春」とされているが、実際には「スパイダーの納車開始はクーペの6~8カ月遅れになるかも」とのことだ。
毎度おなじみ、「発表時には完売」というパターンに反感を抱く人もおられようが、これについては、記者は「まぁ、仕方ないよね」という了見である。ブランドとしてはロイヤルティーの高いお客さまを優先するのは当たり前だし、むしろ何台も乗り継ぐ人と一見さんを一緒くたにしてくじ引きさせるより、よっぽど理解できる売り方だと思う。そもそもハイエンドのラグジュアリーブランドって、そういうもんでしょうよ。
またクーペとスパイダーの比率については、太陽バンザイの米国はスパイダー一辺倒、ドイツやオーストラリアではクーペ寄りなのに対し、日本はだいたい半々だそうだ。興味深いのが、一部スパイダーの需要が高いマーケットの変節で、普段は「オープン一択!」のイタリアでも、12チリンドリでは「このデザインを見たら……」とクーペの需要が高まっているとのこと。確かに“デルタウイングシェイプ”による独特の意匠は、電動ハードトップのスパイダーではかなり薄れてしまう。先に触れた12チリンドリの攻めたデザインは、カスタマーの間では存外ポジティブに受け止められているのだろう。
以上が、12チリンドリ発表会の、現場からのリポートである。マラネロにもついに電動パワートレインのプラントが完成したりと(参照)、ご多分に漏れず変革の真っただ中にあるフェラーリ。いっぽうでカランド氏いわく、「フェラーリがいつまで12気筒をつくり続けるかは、お客さまが決めること」とのことだ。
12チリンドリがフェラーリの伝統を体現する最後のマシンになるのか、あるいはシレッと歴史が続くのかはわからないが、「これは欲しい!」と心に火がついたティフォシさんは、難しいことは考えずに懇意のセールスマンに電話してしまいましょう。今月注文した場合の納車待ちは、18カ月以内だそうです。
(文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=webCG、フェラーリ/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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