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ホンダが50ccバイクの生産を終了? 私たちの“生活の足”はこれからどうなるのか

2024.07.05 デイリーコラム 森口 将之
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慣れ親しんだ50ccよ、サヨウナラ

ホンダが2025年に、50ccエンジンを積んだ原付(原動機付自転車)の生産を終えるというニュースが、いくつかのメディアで報じられた。

ホンダ自身が発表したものではないが、排気量が50ccでは同年施行の新しい排出ガス規制にパスすることが難しいというのは、以前から知られていた。また「125ccクラスをベースに最高出力を4kW(5.4PS)に抑えたモデルが代わりに原付になる」というニュースも2023年暮れに出ているので、自然な成り行きとして受け止めている人もいるだろう。従って、一部のニュースにあるような「『スーパーカブ』がなくなる」ということはなく、現在国内向けには50cc/110cc/125ccとあるスーパーカブのうち50ccがなくなり、110ccが出力違いで原付一種、原付二種と2種類用意されることになるはずだ。

とはいえ、自分を含めた多くのライダーにとって、50ccの原付はかつて「ゼロハン」と呼ばれ親しまれてきた存在であり、なくなるかもしれないというのは一大事だ。普通二輪の免許を取っていたので50ccにこだわる理由はなかった僕も、実は何台か所有していた。昔は排出ガス規制がなかったので、制限速度30km/hのはずなのにスポーツモデルは80km/hぐらい出たし、ヘルメットは努力義務、交差点での2段階右折もなく、なによりも魅力的な車種がたくさんあったからだ。

しかし1980年代にヘルメット着用と2段階右折が義務づけられ、1990年代にはヤマハ発動機が電動アシスト自転車を発売。続いて二輪車にも排出ガス規制が導入された。こうした流れのなかで、僕もいつしか50ccから距離を置くようになった。現在所有しているスーパーカブも125ccだ。

このなかで気になるのは排出ガス規制で、最近の内容が欧州と同調していることには疑問がある。それでも「ユーロ4」までは納得できたが、日本の「令和2年規制」とほぼ同じ内容の「ユーロ5」では、ほとんどの規制値において排気量や出力による区分がなくなってしまった。少ない空気しか取り込めず、高価な後処理装置の採用が難しい小排気量車でも、上級モデルと同じ環境性能が求められるようになった格好だ。たしかに海外では125ccクラスが主流であり、欧州では日本の50ccと同じようにクルマの免許で125ccに乗れる国も多い。逆に、今なお二輪車の販売台数の約3分の1が50cc以下という日本にとっては、明らかに重荷になる。

メーカー側は、この数字では対応が難しいと国土交通省に直訴。その結果、50ccだけは猶予期間が設けられることになった。ただそれも2025年11月までで、再延長の気配はない。ということで、冒頭のニュースが流れたようだ。

50ccのエンジンを積んだ、原付一種の「ホンダ・タクト」。ホンダでは現在、同モデルを含めて6機種(競技用の「CRF50F」は除く)の50ccバイクをラインナップしているが、報道が本当ならば、これらはすべて2025年に生産終了となる。
50ccのエンジンを積んだ、原付一種の「ホンダ・タクト」。ホンダでは現在、同モデルを含めて6機種(競技用の「CRF50F」は除く)の50ccバイクをラインナップしているが、報道が本当ならば、これらはすべて2025年に生産終了となる。拡大
「ホンダ・スーパーカブ50」については、後継機種として、新たな原付一種の規定に合わせた低出力仕様の110ccモデルが登場すると思われる。
「ホンダ・スーパーカブ50」については、後継機種として、新たな原付一種の規定に合わせた低出力仕様の110ccモデルが登場すると思われる。拡大
欧州にも排気量50cc未満のバイクの区分はあるが、125cc未満の区分のほうが、日本における原付一種に近いポジションに位置する国も多い。写真はオーストリアの「KTM 125デューク」。
欧州にも排気量50cc未満のバイクの区分はあるが、125cc未満の区分のほうが、日本における原付一種に近いポジションに位置する国も多い。写真はオーストリアの「KTM 125デューク」。拡大

日本発の電動バイクにあらためて光を

では、50ccのバイクがいなくなった後、私たちの生活の足となってくれるミニマルなモビリティーの準備は進んでいるのだろうか。

日本では2023年、特定小型原付なる新しいジャンルが生まれた。電動キックスケーターのためのカテゴリーと思っている人もいるようだが、実際は外寸や性能が規定内なら自転車タイプでもシニアカータイプでもいい。とはいえ、制限速度は19km/hと50ccよりさらに低く、性能的には限りなく自転車に近い乗り物だろう。既存の原付一種と置き換わる存在にはならないと思われる。

また、最近東京都内などで見かけるようになった電動モペッドは、本来ならば原付登録になるものの、多くのユーザーは見た目が自転車そっくりであることをいいことに、ナンバープレートもヘルメットもなしで乗っている。しかも多くは外国から輸入され、インターネットで販売されている。日本のメーカーが開発から販売まで関わる50ccの原付とは、信頼性や安全性で大きく差があると考える人が多いはずだ。既報のように原付が125ccクラスベースになると、50cc専用設計のコンパクトなモデルは生産を終えてしまうが、その代替がインターネットで売られる外国製モペッドというのでは……。そう不安を覚える人も多いはずだ。

それよりも個人的に注目しているのは電動の原付バイク、特にホンダの「EM1 e:」だ。脱着式のバッテリーパックを積んでいて、価格はバッテリーと充電器を含めても、出川哲朗のテレビ番組でおなじみの「ヤマハE-Vino」とさほど変わらない。一方で、満充電での航続距離はヤマハの32kmに対して53kmと、1.5倍以上になっている。

しかもこのバッテリーパックは、国内二輪メーカー4社とENEOSの合弁企業Gachacoが交換ステーションを整備してシェアリングサービスを展開。コマツの小型建設機械も使用するなど(参照)、展開が広がりつつある。これをヤマハやスズキにも使ってもらいコストダウンを進めるとともに、東南アジアなどにも展開していってほしい。

Gachacoが展開するバッテリーパックは、日本発のプラットフォームという貴重な存在になる資質がある。50ccエンジンがなくなることはたしかに寂しいけれど、これを機にバッテリーパックを世界標準にすべく、ピンチをチャンスに変える気持ちも大切ではないだろうか。

(文=森口将之/写真=本田技研工業、森口将之/編集=堀田剛資)

シェアリングサービスで提供される電動キックスケーター。このタイプの特定小型原付は走行が不安定で万人に薦めるのが難しく、スズキなどでは四輪タイプのモデルの研究開発を進めている。(写真:森口将之)
シェアリングサービスで提供される電動キックスケーター。このタイプの特定小型原付は走行が不安定で万人に薦めるのが難しく、スズキなどでは四輪タイプのモデルの研究開発を進めている。(写真:森口将之)拡大
自転車タイプの特定小型原付。本来であれば、写真のようにナンバーを取得・装着する必要があるが、なかには自転車を装って乗っている人も……。(写真:森口将之)
自転車タイプの特定小型原付。本来であれば、写真のようにナンバーを取得・装着する必要があるが、なかには自転車を装って乗っている人も……。(写真:森口将之)拡大
2023年8月に発売された「ホンダEM1 e:」。航続距離53kmの電動スクーターで、車両の価格は15万6200円。脱着式バッテリーが10万8900円、その充電器が5万5000円となっている。
2023年8月に発売された「ホンダEM1 e:」。航続距離53kmの電動スクーターで、車両の価格は15万6200円。脱着式バッテリーが10万8900円、その充電器が5万5000円となっている。拡大
ホンダが開発した脱着式バッテリー「モバイルパワーパックe:」。モビリティーのみならずさまざまな分野での活用が模索されており、東京や大阪、埼玉県和光市ではシェアリングサービスも展開されている。
ホンダが開発した脱着式バッテリー「モバイルパワーパックe:」。モビリティーのみならずさまざまな分野での活用が模索されており、東京や大阪、埼玉県和光市ではシェアリングサービスも展開されている。拡大
森口 将之

森口 将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。

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