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ヒョンデ・アイオニック5 N(4WD)

燃え上がる情熱 2024.07.16 試乗記 生方 聡 韓国ヒョンデの高性能ブランド「N」が日本に「アイオニック5 N」を送り込んできた。オシャレなカラーリングのハッチバックボディーに積まれたパワートレインは、なんと最高出力650PSを発生。高速道路と一般道でその実力の一端を味わってみた。
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Nの本気

際立つデザインとEVとしての優れたパフォーマンス、余裕ある室内スペース、そしてコストパフォーマンスの高さで、日本市場を驚かせた「ヒョンデ・アイオニック5」に、とんでもないスポーツモデルが登場した。アイオニック5 Nというモデル名こそ、最後にNの一文字が追加されただけだが、その中身はほぼ別モノというくらいにさまざまな部分に手が加えられている、いま注目の一台だ。

その目的は、「コーナリングが楽しめる高性能EV」「本物のハイパフォーマンスEV」を提供するためだというのだが、それが単にワインディングロードで速いEVを意味するのではなく、サーキットでのスポーツ走行を前提にしているのがすごいところ。というのも、EVでサーキットを走るとなると、エンジン車に比べて走行できる距離が極端に短いということ以前に、激しい加減速を繰り返すとバッテリーが高温になって出力が低下し、思う存分スポーツ走行が楽しめないという問題があるからだ。

かといって、一部のスポーツドライビング好きのために、高いコストをかけてオーバースペックなクルマを用意するなんてことは、自動車メーカーとしてはやりたがらない話。その点ヒョンデは、スポーツブランドのNを立ち上げ、WRC(FIA世界ラリー選手権)やニュルブルクリンク24時間レース、パイクスピーク・ヒルクライムなどに挑戦することでスポーツイメージを高め、またモータースポーツ参戦の成果としてそこで得られた技術を市販車にフィードバック。その一環として、これまで各メーカーが避けてきた“気軽にサーキットを走れるクルマ”を世に送り出してきたことには敬意を表したいし、その本気度にはいい意味であきれてしまうほどだ。

ヒョンデの高性能ブランドであるN初の電気自動車として登場した「アイオニック5 N」。「N」の名称は開発拠点のある韓国の南陽(Namyang)と開発テストの舞台であるドイツのニュルブルクリンク(Nürburgring)の頭文字からとっている。
ヒョンデの高性能ブランドであるN初の電気自動車として登場した「アイオニック5 N」。「N」の名称は開発拠点のある韓国の南陽(Namyang)と開発テストの舞台であるドイツのニュルブルクリンク(Nürburgring)の頭文字からとっている。拡大
日本での発売日は2024年6月5日で、価格は858万円。オプションで選べるのはボディーカラーのみという潔い設定だ(この試乗車の「パフォーマンスブルー」は0円)。
日本での発売日は2024年6月5日で、価格は858万円。オプションで選べるのはボディーカラーのみという潔い設定だ(この試乗車の「パフォーマンスブルー」は0円)。拡大
フロントには空力性能を高めるエアカーテンとアクティブエアフラップ付きの専用バンパーを装備する。
フロントには空力性能を高めるエアカーテンとアクティブエアフラップ付きの専用バンパーを装備する。拡大
リアには大型のディフューザーを装着。フロントバンパーの延長分と合わせてボディー全長がスタンダードな「アイオニック5」よりも70mm長い4715mmになっている。
リアには大型のディフューザーを装着。フロントバンパーの延長分と合わせてボディー全長がスタンダードな「アイオニック5」よりも70mm長い4715mmになっている。拡大
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バッテリーの温度管理がキモ

「パフォーマンスブルー」と名づけられた明るく派手なボディーカラーをまとう試乗車は、オーバーフェンダーやEVらしからぬ大きなエアインテークを備えたフロントバンパー、21インチアルミホイールなどにより、ベースモデルのアイオニック5以上に迫力あるエクステリアに仕上がっている。ひと目見ただけで気持ちが高ぶるデザインがいい。

その中身も目を見張るばかりで、2基の電気モーターの最高出力は、前:238PS/後ろ:412PSで、システム出力は609PSに達する。アイオニック5の最上級グレード「ラウンジAWD」が前:95PS/後ろ:210PSだから、倍近いことになる。搭載される駆動用バッテリーの容量も、72.6kWhから84kWhに増強され、0-100km/h加速が3.5秒、最高速は260km/hをマークするというのだから、そのモンスターぶりには驚くばかりだ。

しかし、その速さだけがウリでないのが、このアイオニック5 Nの見どころで、一番の注目点はバッテリーの温度管理。同社が第4世代のバッテリーセルと呼ぶ新しい設計では、バッテリーケースと冷却部分を一体化することで冷却性能を高めるとともに、サーキット走行の時間に合わせて、事前にバッテリー温度を適温まで上昇させたり、走行時のバッテリーとモーター温度をきめ細かく管理したりするなど、最大のパフォーマンスが得られるようにしているのだ。

ほかにも、N専用の電子制御サスペンションや高性能ブレーキ、さらに、エンジン車を操るかのようなサウンドや疑似変速システムなど、スポーツ走行を楽しむための工夫がめじろ押し。試乗に向けて、期待は高まるばかりだ。

駆動用バッテリーの容量は84kWh。ヒョンデの自社計測値ながら、WLTCモードによる一充電走行距離は561kmに達するという。
駆動用バッテリーの容量は84kWh。ヒョンデの自社計測値ながら、WLTCモードによる一充電走行距離は561kmに達するという。拡大
スタンダードな「アイオニック5」ではホワイトやブラウンも選べるのに対し、インテリアカラーはブラックのみのストイックな設定だ。
スタンダードな「アイオニック5」ではホワイトやブラウンも選べるのに対し、インテリアカラーはブラックのみのストイックな設定だ。拡大
センターコンソールもまたスタンダードモデルにはない装備。サイドにニーパッドが貼られている。
センターコンソールもまたスタンダードモデルにはない装備。サイドにニーパッドが貼られている。拡大
シフトセレクターはステアリングコラムから生える。やけに太いのはウインカー(右)との間違いを防ぐためか。
シフトセレクターはステアリングコラムから生える。やけに太いのはウインカー(右)との間違いを防ぐためか。拡大

圧倒的な加速力

運転席からの眺めは、アイオニック5とはずいぶん違っている。黒を基調とした色使いに加えて、センター部のスライドコンソールや前席のオットマンが省かれるなど、くつろぎよりも走りを重視したデザインに変更されているのだ。センターパッドに「N」のロゴが描かれるステアリングホイールは、パンチングレザーとブルーのステッチ、さらに追加されたスイッチ類により、見た目もスポーティーだ。

まずは「エコ」「ノーマル」「スポーツ」の基本モードからエコを選んで走り始めるが、アクセルペダルのストローク前半の反応が鈍く、すぐにノーマルに切り替えることに。これだと、期待どおりの反応があり、素早い加速を見せるが、システム出力609PSのすごみとはほど遠い印象だ。ところが、アクセルペダルを踏み込んでいくと、途中から急にターボが効き始めたかのように勢いづき、その速さを思い知らされた。600PS超の実力を侮ってはならないのだ。

ここでスポーツモードに切り替えると、アクセルペダルに軽く触れた瞬間からモーターが鋭く反応。ふだんはノーマルモードでEVらしい力強いトルクを味わいながら、スポーツドライビングの場面では、よりダイレクトな反応が楽しめるというわけだ。

ステアリングホイールの右上にある赤いスイッチは、「N Grin Boost(NGB)」と呼ばれるブースト機能を作動させるもの。これを押すことで10秒間、システム出力が650PSにアップする。別の機会にサーキットのコース上で試したことがあるが、まさに背中を押されるような加速にしびれてしまった。公道ではそのお世話になる必要はないが、これだけの加速が簡単に手に入るのもEVらしいところだろう。

2モーターによる4WDのおかげで、740N・m(NGB作動時は770N・m)もの最大トルクを安心して使い切れるのも、このクルマの魅力である。

前後のモーターを合わせたシステム最高出力は609PSで、「N Grin Boost」作動時には650PSを発生。どちらのモーターも最高回転数は2万1000rpmとされており、これによって最高速260km/hを実現している。
前後のモーターを合わせたシステム最高出力は609PSで、「N Grin Boost」作動時には650PSを発生。どちらのモーターも最高回転数は2万1000rpmとされており、これによって最高速260km/hを実現している。拡大
シート表皮は本革とアルカンターラの組み合わせ。腰の部分が低く、少し膝が上がったような座り方になる。
シート表皮は本革とアルカンターラの組み合わせ。腰の部分が低く、少し膝が上がったような座り方になる。拡大
後席は座面のスライドとリクライニングが可能。ホイールベースが3000mmもあるため空間の広さは文句なし。
後席は座面のスライドとリクライニングが可能。ホイールベースが3000mmもあるため空間の広さは文句なし。拡大
荷室の容量はスタンダードモデルよりも47リッター小さい480リッター。ボンネット下の収納スペースもなくなっている。
荷室の容量はスタンダードモデルよりも47リッター小さい480リッター。ボンネット下の収納スペースもなくなっている。拡大

安心して飛ばせる高性能シャシー

アイオニック5 Nには「Nアクティブサウンド+」といって、エンジン車のようなエキゾーストノートを人工的に合成して、車内外に流す機能がある。「EVにはエンジン音やエキゾーストノートがなくてさびしい」という人にはうれしい機能で、そのクオリティーが限りなくエンジン車に近いのには驚く。さらに「N eシフト」といって、実際には固定ギアにもかかわらず、8段DCTを疑似的に再現したシステムも、本当にギアシフトをしているのかと錯覚するほど巧みな仕上がりで、スポーツドライビングをさらにエキサイティングに演出してくれるはずだ。

一方、EVらしく静かな移動を楽しみたいという人には、設定でサウンドをオフにできるのだが、スポーツモードに限っては常にオンになるのが個人的には不満。私が少数派なのかもしれないが、音もなく鋭く加速することに快感を覚える人のために、モードにかかわらずサウンドがオフにできるようにしてほしいと思った。

アイオニック5 Nのサスペンションは、ノーマルモードでも明らかに硬めの印象。しかし、標準モデルに見られるリアの突き上げがなく、またボディー剛性が向上したこともあって、むしろこちらのほうが乗り心地は好ましいくらいだ。

自慢のハンドリングは、車両重量が2210kgと重いぶん、動きが機敏というわけではないが、アンダーステアが抑えられ、接地感も高いことから、気持ちのいいコーナリングが楽しめる。強力な回生ブレーキが使えるのも頼もしく、もし手元にこのクルマがあれば、サーキットに出かけたくなるに違いない。

試乗の途中で、90kW出力の急速充電器につないでみると、80kW超の高速で電気を蓄えていく。韓国で350kWの急速充電器を利用すると、バッテリー残量10%から80%までの充電が18分を切るというから、サーキット走行のインターバルで十分に容量の回復が望めそうだ。

日本のサーキットも急速充電設備を整えてくれたら、安心してスポーツドライビングが楽しめそう……などと期待に胸膨らむアイオニック5 N。そのうえ普段使いに不満はなく、このコンセプトに共感できるなら、買って損はないクルマである。

(文=生方 聡/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

ホイールのGセンサーと6軸のジャイロセンサーでセンシングする電子制御式可変ダンパーを装備。ボディー剛性がアップしていることとも相まって乗り心地は良好に感じられた。
ホイールのGセンサーと6軸のジャイロセンサーでセンシングする電子制御式可変ダンパーを装備。ボディー剛性がアップしていることとも相まって乗り心地は良好に感じられた。拡大
「ノーマル」モード時の液晶メーター。センター部分の表示はカスタマイズできるが、バッテリー温度の管理をいかに重視しているかがよく分かる。
「ノーマル」モード時の液晶メーター。センター部分の表示はカスタマイズできるが、バッテリー温度の管理をいかに重視しているかがよく分かる。拡大
「N eシフト」をオンにするとタコメーターが表示され、8段DCTのような疑似変速が可能。パドルで手動変速してもいいが、何もしないといかにもDCTのような自動変速もしてくれる。
「N eシフト」をオンにするとタコメーターが表示され、8段DCTのような疑似変速が可能。パドルで手動変速してもいいが、何もしないといかにもDCTのような自動変速もしてくれる。拡大
12.3インチのタッチスクリーンでスポーツドライビングにまつわる各種項目を非常に細かく設定できる。画面右下の「パフォーマンスオプション」をタッチするとメニューの深い階層に入れる。
12.3インチのタッチスクリーンでスポーツドライビングにまつわる各種項目を非常に細かく設定できる。画面右下の「パフォーマンスオプション」をタッチするとメニューの深い階層に入れる。拡大
「パフォーマンスオプション」をタッチしたところ。「N eシフト」や「Nアクティブサウンド+」はここでアクティブにできる。
「パフォーマンスオプション」をタッチしたところ。「N eシフト」や「Nアクティブサウンド+」はここでアクティブにできる。拡大
タッチスクリーンは普通のインフォテインメントシステムとしても優秀。左にフローティングしているウィンドウは、スライドすると表示項目を変えられる。
タッチスクリーンは普通のインフォテインメントシステムとしても優秀。左にフローティングしているウィンドウは、スライドすると表示項目を変えられる。拡大

テスト車のデータ

ヒョンデ・アイオニック5 N

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4715×1940×1625mm
ホイールベース:3000mm
車重:2210kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:238PS(175kW)/4600-1万rpm
フロントモーター最大トルク:370N・m(37.7kgf・m)/0-4000rpm
リアモーター最高出力:412PS(303kW)/7400-1万0400rpm
リアモーター最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/0-7200rpm
システム最高出力:650PS(478kW)(N Grin Boost作動時)
システム最大トルク:770N・m(78.5kgf・m)(N Grin Boost作動時)
タイヤ:(前)275/35ZR21 103V XL/(後)275/35ZR21 103V XL(ピレリPゼロ)
一充電走行距離:561km(WLTCモードによる自社測定値)
交流電力量消費率:167Wh/km(WLTCモードによる自社測定値)
価格:858万円/テスト車=858万円
オプション装備:なし

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:2729km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:159.8km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:5.1km/kWh(車載電費計計測値)

ヒョンデ・アイオニック5 N
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生方 聡

生方 聡

モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。

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