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ヒョンデ・アイオニック5 N(4WD)

ほえるEV 2024.05.04 試乗記 高平 高輝 BMWに「M」、メルセデスに「AMG」、レクサスに「F」があれば、韓国のヒョンデには「N」がある! Nモデルとして日本初上陸を果たした「アイオニック5 N」は、システム最高出力650PSを発生する超ド級の電気自動車(EV)だ。サーキットと一般道で仕上がりを試した。
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凝りに凝ったバーチャルシステム

スピードとともにドライで精悍(せいかん)な排気音が高く大きく盛り上がっていく。右パドルでシフトアップすると、パンという音と同時に明確なシフトショックも感じるし、さらにそのままリミッターに当たるまで踏むと、バラバラという音と一緒に前後に揺動する振動も伝わってくる。運転しているドライバーでさえ、いったい何に乗っているんだっけ? と混乱するぐらいだから、何も知らされずに助手席に乗せられた人にはまったく分からないはずである。

もちろんヒョンデ・アイオニック5 Nは内燃エンジンもギアボックスも持たない100%EVであるから、これらはすべてバーチャルであり、演出されたものである。EVなのにエンジン車のような音を発するものや、モーター駆動のハイブリッドなのにギアボックスを備えているかのようなシフトアップ感を演出するクルマはこれまでにもあったが、アイオニック5 Nの細部へのこだわりというか、徹底的な再現ぶりには驚いた。EVでもここまでできるということを見せつけられた思いである。しかもヒョンデの高性能サブブランドのNモデルであるからには雰囲気だけではなく、実際に驚くほど速く、ドリフトさえ自在である。正式発売前にサーキットを中心に事前試乗会を開催したということは、それだけアイオニック5 Nの出来栄えに自信を持っている証しだろう。

ヒョンデのサブブランドである「N」初の電気自動車としてデビューした「アイオニック5 N」。日本では2024年6月5日に発売される。
ヒョンデのサブブランドである「N」初の電気自動車としてデビューした「アイオニック5 N」。日本では2024年6月5日に発売される。拡大
ボディーのスリーサイズは全長×全幅×全高=4715×1940×1625mm。小型ハッチバックのように見えてかなり大きい。ホイールベースは3000mmもある。
ボディーのスリーサイズは全長×全幅×全高=4715×1940×1625mm。小型ハッチバックのように見えてかなり大きい。ホイールベースは3000mmもある。拡大
タイヤサイズは275/35ZR21。専用開発を示す「HN(Hyundai N)」マーク入りの「ピレリPゼロ」を履く。
タイヤサイズは275/35ZR21。専用開発を示す「HN(Hyundai N)」マーク入りの「ピレリPゼロ」を履く。拡大
専用フロントバンパーにはエアカーテンとアクティブエアロフラップが備わっている。車両の下部を彩るオレンジのラインがちょっとNISMOっぽい。
専用フロントバンパーにはエアカーテンとアクティブエアロフラップが備わっている。車両の下部を彩るオレンジのラインがちょっとNISMOっぽい。拡大
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Nって何だ? 

EVと水素燃料電池車を引っ提げて2022年に日本市場に再上陸したヒョンデの代表モデルがアイオニック5だが、これに「N」の文字がつくとまったく普通のEVではない。Nはヒョンデのソウル近郊の開発拠点であるナムヤン(南陽)と開発テストの舞台であるニュルブルクリンクにちなんだネーミングで、2015年にスタートした同社の高性能ブランドである。ご存じのとおりWRCのトップカテゴリーでトヨタとタイトルを争うラリー1マシン「i20 Nラリー1ハイブリッド」にもNの文字がついている。アイオニック5 NはそのNブランド初のEVモデルである。

ベース車はもちろんアイオニック5だが、戦闘的な前後の専用エアロパーツによってスタンダードモデルより長く(ホイールベースは同じ3000mm)、幅広く低く仕立てられている。前後アクスルに搭載されるモーターは、フロント用が238PS、リア用は412PSの最高出力を発生。最大トルクはそれぞれ370N・mと400N・m、トータルでは650PSと770N・mというものすごさだ。ただしこれは「N Grin Boost(NGB)」と称するブースト機能使用時(10秒間)のスペックで、通常は609PS/740N・mとなる。“Grin”とは英語で、ステアリングホイール右上の赤いボタンを押せば思わず笑いがこぼれるということらしい。このほかにも「N eシフト」や「Nアクティブサウンド+」などいちいち機能に名前がついているのが特徴的だ。

スタンダードのアイオニック5(AWD車)は合計305PSだったから倍以上の出力で、パフォーマンスは最高速260km/h、0-100km/h加速は3.4秒(NGB使用時)というから、まさにスーパースポーツ級である。ちなみに駆動用リチウムイオン電池の容量は84kWh(標準モデルのAWDは72.6kWh)、一充電走行距離はまだ発表されていない。

前後アクスルにそれぞれモーターを搭載し、システム全体で最高出力650PSと最大トルク770N・mを発生。「ポルシェ・タイカン」のような変速機を伴わずに最高速260km/hを実現している。
前後アクスルにそれぞれモーターを搭載し、システム全体で最高出力650PSと最大トルク770N・mを発生。「ポルシェ・タイカン」のような変速機を伴わずに最高速260km/hを実現している。拡大
スタンダードな「アイオニック5」は左右のウオークスルーが可能なのに対し、「アイオニック5 N」ではニーパッド付きの立派なセンターコンソールを装備する。
スタンダードな「アイオニック5」は左右のウオークスルーが可能なのに対し、「アイオニック5 N」ではニーパッド付きの立派なセンターコンソールを装備する。拡大
バケット形状のフロントシートは本革とアルカンターラによる仕立て。ヒーター&ベンチレーション機能も完備だ。
バケット形状のフロントシートは本革とアルカンターラによる仕立て。ヒーター&ベンチレーション機能も完備だ。拡大
リクライニング&スライド機能や座面下のコンセントなど、後席まわりの快適装備はスタンダードな「アイオニック5」からきちんと受け継いでいる。
リクライニング&スライド機能や座面下のコンセントなど、後席まわりの快適装備はスタンダードな「アイオニック5」からきちんと受け継いでいる。拡大

ドリフト自在でへこたれない

サーキットとその近辺の一般道という事前試乗会だったが、EVでサーキットを(5周ぐらいとはいえ)思い切り走ってよし、という試乗会は珍しい。何しろごく一部を除いて、瞬発力は強力だが、それが長続きしないのがEVの弱点であり、サーキットで全開走行をするとほんの数ラップでシステムの温度が上がり、セーフモードに入ってしまうものがほとんどである。ところがこのアイオニック5 Nはサーキットでも、水をまいたパドックでドリフトを試すために(ほぼ後輪駆動になる「Nドリフトオプティマイザー」なる機能もあり)振り回したときも、まったくそんな気配も見せなかった。

聞けばニュルブルクリンク北コースを2周走れるという(40km以上の全力走行に耐えるということ。独『シュポルトアウト』誌の独自テストでは7分45秒を記録したという)。さらにもうすぐ韓国ではアイオニック5 Nをベース車としたワンメイクレースも始まるという。バッテリーのみならずシステム全体の温度制御とタフネスには自信たっぷりで、それをアピールするための舞台設定というわけだ。さらに冷却性能を最大化する「Nレースモード」では「スプリント」と「エンデュランス」というサブモードを選択できる徹底ぶりだ。

水をまいた路面でドリフトを試す。ドリフト走行専用に前後トルク配分と車両の制御を最適化する「Nドリフトオプティマイザー」機能が備わっている。
水をまいた路面でドリフトを試す。ドリフト走行専用に前後トルク配分と車両の制御を最適化する「Nドリフトオプティマイザー」機能が備わっている。拡大
ステアリングホイールは機能満載。ACCなどのスポークスイッチに加えて、左右のパドル、右手親指位置の「NGB」ボタン、左手親指位置のドライブモードセレクター、さらに好みの走行設定を呼び出す「Nモードボタン」(左右のスポーク下に1つずつ)が備わっている。
ステアリングホイールは機能満載。ACCなどのスポークスイッチに加えて、左右のパドル、右手親指位置の「NGB」ボタン、左手親指位置のドライブモードセレクター、さらに好みの走行設定を呼び出す「Nモードボタン」(左右のスポーク下に1つずつ)が備わっている。拡大
「Nモード」時のメーターパネル。モーターとバッテリーの温度管理を重視していることがよく分かる。
「Nモード」時のメーターパネル。モーターとバッテリーの温度管理を重視していることがよく分かる。拡大

多機能すぎる?

一般道を走らせた限りでは乗り心地も悪くない。EVでは車重に対応するために固めた足まわりのせいで、突き上げとピッチングを抑えきれないクルマが多いが、電子制御可変ダンパーを備えたアイオニック5 Nは、もちろん締まった足まわりながら、ラフな突き上げを感じさせない。Nモデル化にあたって大幅に強化したボディー構造のせいか、スタンダードモデルよりもむしろ上等な乗り心地に感じられた。

もちろん選択モード(ステアリングホイール左上のボタンで選択。「エコ」「ノーマル」「スポーツ」の基本モードあり)によっては(そのほかにNモードでカスタム1&2を設定可能)、EVらしいほぼ無音走行も可能だ。ちなみにNアクティブサウンド+(バーチャルサウンド)では3種類の音質、室内だけか車外にも発するか否か、そしてそのボリュームまでもタッチスクリーンでコントロールできる。

短時間ですべて試すには多機能すぎるし、ちょっと煩雑な感じもするが、細かなセッティングをあれこれと試したいモータースポーツ好きには歓迎されるかもしれない。サーキットで走らせてもおもちゃっぽさを感じさせない頑健さが備わっているアイオニック5 Nは限定50台の「ファーストエディション」も通常モデルも900万円前後になる見込みである。

(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

足まわりはフロントがストラットでリアがマルチリンク。ホイールのGセンサーと6軸のジャイロセンサーを使った電子制御可変ダンパーを装備する。
足まわりはフロントがストラットでリアがマルチリンク。ホイールのGセンサーと6軸のジャイロセンサーを使った電子制御可変ダンパーを装備する。拡大
センタースクリーンを使った車両のセッティングはマニアックすぎるほどに項目が細かい。
センタースクリーンを使った車両のセッティングはマニアックすぎるほどに項目が細かい。拡大
セッティングメニューの項目をさらに掘り下げてみる。「Nトルクディストリビューション」では前後モーターのトルク配分をドライバーが10段階で設定できる。
セッティングメニューの項目をさらに掘り下げてみる。「Nトルクディストリビューション」では前後モーターのトルク配分をドライバーが10段階で設定できる。拡大
「N eシフト」では、電気自動車でありながら8段DCT車を操るかのようにドライブできる。パドルで変速できるほか、仮想のレッドゾーンを超えて踏み込むと、サウンドと車両の揺動によってリミッターに当たる感じが味わえる。
「N eシフト」では、電気自動車でありながら8段DCT車を操るかのようにドライブできる。パドルで変速できるほか、仮想のレッドゾーンを超えて踏み込むと、サウンドと車両の揺動によってリミッターに当たる感じが味わえる。拡大

テスト車のデータ

ヒョンデ・アイオニック5 N

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4715×1940×1625mm
ホイールベース:3000mm
車重:2210kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:238PS(175kW)/4600-1万rpm
フロントモーター最大トルク:370N・m(37.7kgf・m)/0-4000rpm
リアモーター最高出力:412PS(303kW)/7400-1万0400rpm
リアモーター最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/0-7200rpm
システム最高出力:650PS(478kW)
システム最大トルク:770N・m(78.5kgf・m)
タイヤ:(前)275/35ZR21 103V XL/(後)275/35ZR21 103V XL(ピレリPゼロ)
一充電走行距離:--km
交流電力量消費率:--Wh/km
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:なし

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1316km
テスト形態:ロード&トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

ヒョンデ・アイオニック5 N
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