BMWアルピナB3 GTリムジン アルラット(4WD/8AT)/B3 GTツーリング アルラット(4WD/8AT)/B4 GTグランクーペ アルラット(4WD/8AT)
極上のフィナーレ 2024.07.13 試乗記 2025年に、自社での車両開発・製造・販売を終了する独アルピナ社。同社の60年におよぶ歴史の最終章にその名を刻むのが「B3 GT」と「B4 GT」である。日本上陸を前にドイツ・ザクセンリンクで試乗した、純然たるアルピナの印象を報告する。アルピナ流の繊細なレシピ
2024年6月はじめにアルピナのニューモデルが発表された。「B3 GTリムジン アルラット」と「B3 GTツーリング アルラット」、そして「B4 GTグランクーペ アルラット」の3台である。つまり「B3」「B4」のマイナーチェンジ版ということになる。その国際試乗イベントに参加するために訪ねたのは、ドイツのザクセンリンクだった。
アルピナで「GT」といえば、昨2023年に台数250台限定で登場した「B5 GT」が思い浮かぶが、今回はカタログモデルだ。それでもGT化のレシピは似ていて、最高出力の向上、フロントスポイラーの左右端に追加された黒いカナード、そして「アルピナクラシックホイール」やエンブレム、シフトパドル等が専用色で彩られる。B5 GTは「マロン・ヴォルチャーノ」という茶色系だったが、今回B3 GT、B4 GTでは「オロ・テクニコ」というゴールドがアクセントカラーになっている。
パワーユニットは「BMW M」由来のS58ユニットで変わりないが、その最高出力は495PSから529PSに高められている。それ以外の変更点もいくつかあり、B3 GTではエンジンルーム内にドームバルクヘッドレインフォースメントが追加されている。このアルミ鋳物の補強部材はこれまではB4専用だったもの。また、リアダンパー取り付け方法がダイレクトになったことを受け、リアのスタビライザーを一段階細くしている。B4 GTでは逆に前のスタビを細くすることで、ステアリングのフィードバックを高める味つけにしているという。
そうした物理的レシピをチェックしてみると、繊細なチューンではあるがそこまで大きな改変ではない? と思ってしまいがち。しかしステアリングや足まわり、ソフトウエアのチューンを担当するトビアス・ウィーガー氏いわく、スタビ径の変更は新しいアルピナの味をつくり出すための一要素にすぎないとのこと。特に仕上げの段階では電子制御系のキャリブレーションが大きくものをいう。今回も10人のエンジニアが約1年がかりで電制を煮詰めたという。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
パワーアップしても扱いやすく
最初にB3 GTのステアリングを握り、コースインした。加速は強烈だが、姿勢はあくまでフラット。BMWの風洞で効果を確認済みだというカナードが効いている? というよりアルラット=AWDの駆動力配分が絶妙なのだろう。ハイスピードツアラーを標榜(ひょうぼう)するアルピナなので本当はアウトバーンを走りたかったのだが、今回の試乗はサーキットのみ。またアルピナ社の社員でレーサーでもあるというペースカーのドライバーが飛ばすので、こちらも最初から全開である。
だがサーキットでもアルピナらしさは健在で、その乗り心地の良さや静粛性から想像する以上にスピードが出ていた。DSCプログラムで「トラックDSC」を選びコーナーで少々無理をしても、決してテールがはらんだりしないハンドリングもBMW Mと対照的なキャラクターといえる。今回のリアスタビの仕様変更+フロント補強の狙いは、おそらくステアリングを通したフィードバックを増やしつつ、リアサスがしなやかさの確保に努めるといったあたりにあるのだろうか。全体的なハンドリングはこれまでのB3の延長線上にあり、積極的なスロットル操作でコーナーのエイペックスを狙うというより、スピードに関係なくステアリングを切り込んでいけば思ったとおりのラインをトレースしてくれる性格だ。
最高出力が34PS高まったS58ユニットは、サーキット試乗ということも関係しているとは思うが、むしろ穏やかになっていると感じた。B3ではトップエンド付近でこれまでのアルピナのイメージを覆すようなレスポンスの良さを覚えたが、その部分がフラットにならされ扱いやすくなったように感じられたのである。
続けてドライブしたB3 GTツーリングでもボディー形式の違いをほとんど感じさせない点はさすがだった。リムジンとは異なるスプリングやダンパーを使いつつリムジンと同じポイントを正確についてくるあたりは、いかにもアルピナらしい丁寧な仕事といえる。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
B4 GTはFR的な性格づけ
グランクーペタイプのB4 GTは、ボディーが違うだけのラインナップと思いがちだが、アンドレアス・ボーフェンジーペン社長いわく「出発点から異なる」とのこと。BEVの「i4」との関係性もあり、グランクーペのボディーはリムジンよりもフロアの剛性が高いのだそう。この特性を生かし、よりハードなスプリングとダンパー、そしてB5 GT譲りのキャパシティーが大きなアルピナ専用に開発されたピレリタイヤを組み合わせることで、よりスポーティーな性格を強調したという。
特に興味深いのはリアタイヤの太さ。265幅のB3 GTに対しB4 GTは285幅となり、前後タイヤの太さの比率も異なる。「出発点から異なる」というひとことを思い浮かべつつ走りはじめると、B3 GTとの違いはすぐに理解できた。
AWDらしいスタビリティーの高さに支配されたB3 GTに対し、B4 GTはFR的な性格づけがなされているのだ。コーナーへのアプローチではブレーキング時にしっかりとしたターンインを意識して、鼻先が出口を向いたらリア2輪に目いっぱいのパワーをかけ脱出していく感じ。リアに備わる電制LSDの効果はB4 GTのほうがよくわかる。前出のトビアス氏も、フロントのスタビを細くした理由についてハンドリングの敏しょう性を高めるためとコメントしていた。確かに、B3 GTよりもメリハリのあるドライビングを要求する感じがしっかりと伝わってきた。
それでもボディーの硬さに対するアシの柔らかさ、そして500PSオーバーというイメージを覆すような扱いやすさは“いかにもアルピナ”という印象。スキール音を鳴らして走りながら冷静に状況を分析できている自分がいる。200km/hオーバーでもドライバーの心拍数を上げないような仕上がりになっていなければ「巡航最高速度305km/h!」などと主張する資格はないということなのだろう。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
“ベリースペシャル”の理由
今回の試乗イベントにはアルピナのスタッフだけでなく、2015年からアルピナ御用達となったピレリの開発陣も同席していた。聞けば基礎開発はイタリアだが、チューニング作業と実際の生産はドイツの拠点で行っているという。また彼らはアルピナのみならずBMWやMも担当しているのだとか。以前のミシュランに比べアルピナ専用に開発されたピレリは柔らかく、クルマ全体を通してしなやかな印象が増したと感じていたので、その質問を投げかけてみた。
「柔らかいと感じたのであれば、そのフィーリングをアルピナが求めたということでしょう。アルピナ専用タイヤはベリースペシャルですよ。特徴をひとつ挙げるとすれば、サイズに対してトレッドの真ん中付近の剛性を落としてあるということです」。これはおそらくサイズはスーパースポーツレベルだが、性格はバランス型ということを言いたいのだろう。ちなみに今回のB3 GT、B4 GTに標準装着されるタイヤはこれまでのB3、B4と同じものである。
トビアス・ウィーガー氏も「どんどん車重やパワーが増えており、乗り心地の確保が難しくなっている」と言っていたので、現代アルピナの味づくりに対するピレリの貢献度は想像以上に大きいに違いない。
試乗の合間に、自らステアリングを握り積極的にサーキットドライビングを楽しんでいたアンドレアス・ボーフェンジーペン社長に、この3台がアルピナのファイナルモデルかと聞いてみた。「いえ、アルピナはこれからも続きます(それは2025年以降もBMWの手でという意味だろう)。でもわれわれは次の車両を考えていません」。そして今後ブッフローエが進む道に関しても「まだ言えませんがわれわれは技術力のあるチームだと思っています」とのこと。おそらく今回のGTがブッフローエ発の最終のアルピナとなるはず。もちろんその仕上がりは、これまでと同じように“極上”だったのである。
(文=吉田拓生/写真=アルピナ/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
BMWアルピナB3 GTリムジン アルラット
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4725×1827×1440mm
ホイールベース:2851mm
車重:1875kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:529PS(389kW)/6250-6500rpm
最大トルク:730N・m(74.4kgf・m)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 92Y XL/(後)265/30ZR20 94Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:1600万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
BMWアルピナB3 GTツーリング アルラット
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4725×1827×1438mm
ホイールベース:2851mm
車重:1945kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:529PS(389kW)/6250-6500rpm
最大トルク:730N・m(74.4kgf・m)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 92Y XL/(後)265/30ZR20 94Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:1670万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
BMWアルピナB4 GTグランクーペ アルラット
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1850×1440mm
ホイールベース:2856mm
車重:1965kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:529PS(389kW)/6250-6500rpm
最大トルク:730N・m(74.4kgf・m)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y XL/(後)285/30ZR20 99Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:1660万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
-
メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.1 「メルセデス・ベンツGLE」の3リッターディーゼルモデルに、仕様を吟味して価格を抑えた新グレード「GLE450d 4MATICスポーツ コア」が登場。お値段1379万円の“お値打ち仕様”に納得感はあるか? 実車に触れ、他のグレードと比較して考えた。
-
MINIカントリーマンD(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.30 大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。
-
BMW 220dグランクーペMスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.29 「BMW 2シリーズ グランクーペ」がフルモデルチェンジ。新型を端的に表現するならば「正常進化」がふさわしい。絶妙なボディーサイズはそのままに、最新の装備類によって機能面では大幅なステップアップを果たしている。2リッターディーゼルモデルを試す。
-
ビモータKB4RC(6MT)【レビュー】 2025.9.27 イタリアに居を構えるハンドメイドのバイクメーカー、ビモータ。彼らの手になるネイキッドスポーツが「KB4RC」だ。ミドル級の軽量コンパクトな車体に、リッタークラスのエンジンを積んだ一台は、刺激的な走りと独創の美を併せ持つマシンに仕上がっていた。
-
アウディRS e-tron GTパフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.9.26 大幅な改良を受けた「アウディe-tron GT」のなかでも、とくに高い性能を誇る「RS e-tron GTパフォーマンス」に試乗。アウディとポルシェの合作であるハイパフォーマンスな電気自動車は、さらにアグレッシブに、かつ洗練されたモデルに進化していた。
-
NEW
マツダ・ロードスターS(前編)
2025.10.5ミスター・スバル 辰己英治の目利き長きにわたりスバルの走りを鍛えてきた辰己英治氏が、話題の新車を批評。今回題材となるのは、「ND型」こと4代目「マツダ・ロードスター」だ。車重およそ1tという軽さで好評を得ているライトウェイトスポーツカーを、辰己氏はどう評価するのだろうか? -
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】
2025.10.4試乗記ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。 -
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た
2025.10.3エディターから一言頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。 -
ブリヂストンの交通安全啓発イベント「ファミリー交通安全パーク」の会場から
2025.10.3画像・写真ブリヂストンが2025年9月27日、千葉県内のショッピングモールで、交通安全を啓発するイベント「ファミリー交通安全パーク」を開催した。多様な催しでオープン直後からにぎわいをみせた、同イベントの様子を写真で紹介する。 -
「eビターラ」の発表会で技術統括を直撃! スズキが考えるSDVの機能と未来
2025.10.3デイリーコラムスズキ初の量産電気自動車で、SDVの第1号でもある「eビターラ」がいよいよ登場。彼らは、アフォーダブルで「ちょうどいい」ことを是とする「SDVライト」で、どんな機能を実現しようとしているのか? 発表会の会場で、加藤勝弘技術統括に話を聞いた。 -
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す
2025.10.3エディターから一言2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。