「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI」の祭典「GTI FAN FEST 2024」で歴史と魅力を再確認
2024.08.15 デイリーコラムヴェルターゼーからヴォルフスブルクへ
ご存じのようにドイツ北部のヴォルフスブルクは、フォルクスワーゲンが本社を構える“ワーゲンの街”だ。2024年7月最後の週末、全ヨーロッパからフォルクスワーゲンのファンが集まり、さらにフォルクスワーゲン濃度が高くなった。7月26日(金)から28日(日)にかけての3日間、「GTI FAN FEST 2024」が開催されたのだ。
1976年に「ゴルフ」の高性能モデルとして登場し、その歴史を紡いできた「GTI」を中心とする参加車両は計2500台。来場者の延べ人数は1万5000人を超えたという。特にイベント2日目の土曜日の朝は、街のあちこちでフォルクスワーゲン渋滞を目にした。
このイベントの取材は、前から楽しみにしていた。というのも、10年前に取材したフォルクスワーゲンの巨大オーナーズミーティングに、度肝を抜かれた経験があるからだ。GTI FAN FEST 2024の模様をお伝えする前に、このイベントがヴォルフスブルクで開催されるようになった経緯を簡単に振り返っておきたい。
1982年、数十人のゴルフGTIのオーナーが、オーストリア南部のヴェルター湖という風光明媚(めいび)な避暑地に集まった。これが後にヴェルターゼーという愛称で呼ばれるようになったオーナーズミーティングのはじまりで、筆者が取材した2014年には、3日間で延べ20万人を動員する巨大イベントに成長していた。
湖畔にはさまざまな国のナンバープレートを掲げるフォルクスワーゲンが集い、なかにはアウディやランボルギーニといったフォルクスワーゲングループの車両も交じっていた。湖畔にはDJブースが設けられ、参加者は踊ったりバーベキューをしたり、思い思いにイベントを楽しんでいた。その様子はオーナーズミーティングというより“フォルクスワーゲングループの夏フェス”で、このブランドがいかにヨーロッパの人々から愛されているのかを実感した。
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7枚ドアのゴルフを発見!
ところが2023年、あまりに多くの人がこのイベントを訪れることから、地元自治体より「環境負荷に耐えられない」と、中止の要請が入ってしまう。これをもって、ヴェルターゼーは41年の歴史に幕を閉じた。
その代わりといってはなんだけれど、2024年より本拠地であるヴォルフスブルクでファンミーティングを開くことになった。それがGTI FAN FEST 2024で、今回が記念すべき第1回ということになる。
ヴェルターゼーはあくまでファンが主催するもので、フォルクスワーゲンは公式スポンサーという立場だったけれど、GTI FAN FEST 2024はフォルクスワーゲンが主催者となる。
会場となったフォルクスワーゲンアリーナに入場して真っ先に感じたのは、オーガナイズされたイベントに変化しているということだった。ヴェルターゼーのときのように、勝手に路駐してバーベキューを始めるような人は皆無で、皆さんきちんと駐車場の定められたスペースに愛車を止めている。
整理整頓されたぶん、盛り上がりに欠けるかなと思ったけれど、そんなことはなかった。興味深いチューニングを施した車両には人だかりができ、ステージで繰り広げられる“愛車自慢”に多くの人が拍手を送る。
フランスのリヨンから来たという、「ゴルフI」を7枚ドア(!)にカスタマイズした車両に乗る女性に話を聞こうとすると、気さくに応じてくれた。長いボディーが目を引く車両は1985年にスイスのコーチビルダーが2台のゴルフIを合体させたもので、シャシーはオリジナル。2020年にリヨンで購入したときの走行距離は7万2000kmだったが、この4年間で1万1000kmほど距離を重ねたとのことだ。
会場には、これくらいキャラの濃いフォルクスワーゲンがごろごろいて、いつまで会場を歩き回っても飽きるということがない。
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各世代に共通する飾らない機能美
イベント初日には同社CEOのトーマス・シェーファー氏がステージに上り、フォルクスワーゲンファンに向けて次のように語りかけた。
「ヴェルター湖でイベントを続けたいという気持ちもありましたが、地元で開催することでヴォルフスブルク市に貢献できると考えています。また、オーナーの皆さんがこの街を訪れることで、フォルクスワーゲンがどんなところで生産されているのかを知ってもらういい機会になったと思います」
また、イベントとは別に日本のメディア向けに取材に応じてくれたデザイン責任者のアンドレアス・ミント氏は、「私もカスタマイズが大好きなので、会場に集まったクルマは参考になります」と笑顔で切り出した。
「フォルクスワーゲン・ゴルフというモデルは、遠くから見てもひとめでゴルフだとわかる必要があると思います。また、ゴルフのデザインの大きな特徴は安定性にあると考えているので、そこは維持しなければならないでしょう。近年、クルマのデザインはアグレッシブに、装飾的になる傾向にあります。けれどもわれわれとしてはそのトレンドに乗らずに、ゴルフらしさを保っていきたいと考えています」
ミント氏の言うとおり、会場に集まった初代から最新の「ゴルフVIII」に至るまで、どの世代を見ても飾らない機能美を備えている。そして、ミント氏の言葉から、フォルクスワーゲン・ゴルフが誕生から50年を経ても愛され続けている理由が理解できたような気がした。それは、クルマが主役になるのではなく、乗る人を主役にするようにデザイン、設計されているからではないだろうか。イベントに集まった無数のゴルフを見ながら、そんなことを考えた。
(文=サトータケシ/写真=サトータケシ、フォルクスワーゲン/編集=櫻井健一)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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