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ヤマハXSR900 GP ABS(6MT)

あの感動がよみがえる 2024.08.25 試乗記 後藤 武 ヤマハから、懐かしくも新しいロードスポーツ「XSR900 GP」が登場。往年のファクトリーレーサー「YZR500」をオマージュしたという意匠に目を奪われるが、よみがえったのはデザインだけではなかった。往年の名マシンの手応えが宿る、その走りを報告する。
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細部まで手抜きなし

スポーツネイキッドの「XSR900」をベースとして、80年代レーシングシーンをイメージさせる外装を与えられているのがXSR900 GPだ。コイツがデビューしたとき、テスターの世代には相当にインパクトがあった。その最大の要因はデザインよりもカラーリングである。シルキーホワイトと名づけられているが、塗り分けがまんまYZR500のマルボロカラーだったからだ。

マルボロカラーは1980年代の「TZR250」や「YSR50」などの限定モデルに採用されていたものの、通常のラインナップには加わっていなかったと思う。もともとレア度が高いカラーリングだったものが、40年を経過してから登場したのだから、当時からのレースファンの心を強烈に揺さぶったことは間違いない。カウルの固定がベーターピンだったり、サイドカバーにクイックファスナーを使ったりしているところなど、細かい部分までレーシーな雰囲気にこだわっているところも泣かせる。

オプションのアンダーカウルやシングルシートカウルまで装着したら一気にYZR感がアップするし、当時のスポンサーステッカーなどを自作するようなコタツカスタムも楽しそうだ。テスターの後藤は1980年代からヤマハのマシンでレースに参戦していたし、市販レーサーの「TZ250」や「TZ350」を所有していたこともあるから、懐かしさもひとしおだ。

ヤマハが“スポーツヘリテージモデル”と紹介する「XSR900 GP」。ヤマハ正規ディーラーのなかでも、専門店のYSPおよびアドバンスディーラーのみで販売される「ヤマハモーターサイクル エクスクルーシブモデル」に属するマシンだ。
ヤマハが“スポーツヘリテージモデル”と紹介する「XSR900 GP」。ヤマハ正規ディーラーのなかでも、専門店のYSPおよびアドバンスディーラーのみで販売される「ヤマハモーターサイクル エクスクルーシブモデル」に属するマシンだ。拡大
デザインモチーフは往年のレーシングモデル「YZR500」で、カウルまわりではビス留めで増設されたナックルバイザーまで再現。LED式のヘッドランプは非常にコンパクトで、思わずフロントにゼッケンナンバーを描きたくなる。
デザインモチーフは往年のレーシングモデル「YZR500」で、カウルまわりではビス留めで増設されたナックルバイザーまで再現。LED式のヘッドランプは非常にコンパクトで、思わずフロントにゼッケンナンバーを描きたくなる。拡大
カウルの上端部とフレームをつなぐステーは丸パイプで製作。アッパーカウル上部に見られる、「TZR250R」(1991年)を思い出させるナット構造や、カウルを固定するベーターピンが泣かせる。
カウルの上端部とフレームをつなぐステーは丸パイプで製作。アッパーカウル上部に見られる、「TZR250R」(1991年)を思い出させるナット構造や、カウルを固定するベーターピンが泣かせる。拡大

往年のヤマハレーサーの走りが宿る

XSR900 GPは、単にXSR900の外装とポジションを変更しただけではなく、車体にも大幅に手が入っている。フレームも各部の板厚を変更し締結剛性を調整しているし、フロントフォークは全長が延ばされて特性が変わっているからほぼ別物。リアショックは完全に専用設計だ。前後サスペンションともにフルアジャスタブルで調整の幅もXSR900から広がっている。

二輪でも四輪でも、昔の雰囲気やデザインをオマージュしたマシンは少なくない。いい雰囲気だなと思う反面、当時への思い入れが強い場合は偽物的なイメージが残ってしまって素直によさが認められないこともある。実際、後藤もXSR900 GPを最初に見た瞬間は「オオッ」と声を上げたが、「ちょっとあざとくねーか?」という気持ちも湧き上がってきたのだ。しかし実際に走らせてみたらネガティブな印象など吹き飛んでしまった。デザインだけでなく走りのテイストも深く吟味されていたのである。正直に言えば、試乗してみてメロメロになってしまったほどである。

猛烈に楽しかったのはワインディングである。XSR900の足まわりを一新し、前傾のポジションとなったこのバイクのコーナリングは感動的だった。バンクさせていくときの車体の動きやステアリングの反応が、実にシットリとしているのである。サスペンションがしなやかに動き、コーナリングのGでタイヤが押し付けられると旋回力が高まっていく。

1980年代の市販レーサーTZは、まさしくこんな感じのハンドリングだった。安心感があるからライダーも思い切ったライディングをしたくなる。結果として速く走れるだけでなく、バイクを操る喜びも大きい。当時、多くのライダーを魅了した「ヤマハのハンドリング」が再現されているわけだ。デザインだけでなく……というよりもデザイン以上に走りも当時を彷彿(ほうふつ)させるものだったのである。しかもストリートを考えて前後サスペンションがよく動くから、ワインディングを流すくらいのペースでもこの楽しさが感じられるというのが、このバイクの魅力だ。

フレームは「XSR900」から設計を変更。新設計のリアフレームを採用したほか、ヘッドパイプまわりやエンジン懸架部、ピボット部の締結剛性調整を中心にねじり剛性を強化。コーナリング中の走行安定性を高めている。
フレームは「XSR900」から設計を変更。新設計のリアフレームを採用したほか、ヘッドパイプまわりやエンジン懸架部、ピボット部の締結剛性調整を中心にねじり剛性を強化。コーナリング中の走行安定性を高めている。拡大
足まわりには前後ともに同車専用設計のKYBフルアジャスタブルサスペンションを採用。「XSR900」のものと比べると、フロントでは縮み側の減衰が高速・低速の2系統で調整可能となったほか(XSR900は低速のみ)、調整段階も縮み側(低速)は11段から18段に。伸び側は11段から26段に、幅が広げられている。
足まわりには前後ともに同車専用設計のKYBフルアジャスタブルサスペンションを採用。「XSR900」のものと比べると、フロントでは縮み側の減衰が高速・低速の2系統で調整可能となったほか(XSR900は低速のみ)、調整段階も縮み側(低速)は11段から18段に。伸び側は11段から26段に、幅が広げられている。拡大
リアサスペンションでは、プリロードアジャスターをカム式(7段)からリモートコントローラー付きの油圧ダイヤル式(24段)に変更。また新たに圧縮の調整が可能となった。調整用のツールは、すべてシート下に収納される。
リアサスペンションでは、プリロードアジャスターをカム式(7段)からリモートコントローラー付きの油圧ダイヤル式(24段)に変更。また新たに圧縮の調整が可能となった。調整用のツールは、すべてシート下に収納される。拡大
タイヤサイズは前:120/70ZR17、後ろ:180/55ZR17で、試乗車はブリヂストンのハイパフォーマンスタイヤ「バトラックス ハイパースポーツS23」を装着。ヤマハ独自の後方で製造される、軽量なスピンフォージドホイールが組み合わされる。
タイヤサイズは前:120/70ZR17、後ろ:180/55ZR17で、試乗車はブリヂストンのハイパフォーマンスタイヤ「バトラックス ハイパースポーツS23」を装着。ヤマハ独自の後方で製造される、軽量なスピンフォージドホイールが組み合わされる。拡大

購入前にライディングポジションの確認を

3気筒エンジンの特性もこのハンドリングとベストマッチ。低回転からトルクがあるから、どの回転からでもスロットルでバイクの姿勢をコントロールでき、リアタイヤに駆動力を与えることができる。もちろん高回転まで回せば気持ちよく伸びていくし、このときの排気音やフィーリングもエキサイティングなのだけれど、個人的にこの3気筒エンジンは、低中回転を使っていても走る楽しさがあまり変わらないというところがとてもいいと思う。リッターバイクで高回転型エンジンを搭載している場合、楽しいところまで回すと速度が上がりすぎてしまうから、ストリートで使い切ることが難しくなってしまうのだ。

ワインディングはとても楽しかった。ここ最近、乗ったバイクのなかでは一番興奮したバイクである。ただ、前傾姿勢はそれなりにキツイ。スーパースポーツほどスパルタンではなく、ヤマハも週末にワインディングまで走りに行くことを考えて最適のポジションにしたということだが、このあたりの感覚はライダーによって大きな差がある。

テスターの後藤の場合、前傾が苦手なので、ストリートや高速道路を長く走っていると首や背中が疲れてきてしまう。たぶん、このバイクに食指を動かしている中高年オヤジライダーのなかにも前傾姿勢が苦手になりつつある人は少なくないはずだから、人によってはこのポジションが許容できるかどうかが問題になる。

エンジンは「MT-09」や「XSR900」でおなじみの、排気量888ccの水冷3気筒DOHC。トランスミッションには加速中のシフトアップと減速中のシフトダウンに加え、加速中のシフトダウン、減速中のシフトアップにも対応する、最新のクイックシフターが組み合わされる。
エンジンは「MT-09」や「XSR900」でおなじみの、排気量888ccの水冷3気筒DOHC。トランスミッションには加速中のシフトアップと減速中のシフトダウンに加え、加速中のシフトダウン、減速中のシフトアップにも対応する、最新のクイックシフターが組み合わされる。拡大
5インチのTFT液晶メーターは、専用のアナログ風タコメーターを含め、4種類の表示デザインを用意。ヤマハの専用アプリやガーミンのナビアプリに対応しており、後者をインストールした携帯端末をつなげば、画面上でナビゲーション機能も使用できる。
5インチのTFT液晶メーターは、専用のアナログ風タコメーターを含め、4種類の表示デザインを用意。ヤマハの専用アプリやガーミンのナビアプリに対応しており、後者をインストールした携帯端末をつなげば、画面上でナビゲーション機能も使用できる。拡大
シート高は835mmと高めで、セパレートハンドルの採用とも相まってライディングポジションはかなりの前傾姿勢となる(オフィシャルサイトの解説を見ると、フルカウルの「YZF-R7」に近い)。購入を検討している人は、ぜひ一度、販売店でご確認を。
シート高は835mmと高めで、セパレートハンドルの採用とも相まってライディングポジションはかなりの前傾姿勢となる(オフィシャルサイトの解説を見ると、フルカウルの「YZF-R7」に近い)。購入を検討している人は、ぜひ一度、販売店でご確認を。拡大

高い人気もうなずける

もっとも、周囲のベテランたちに話を聞いてみると、多少疲れてもいいから、今のうち(前傾姿勢に耐えられる年齢のうち)にセパハンのスポーツバイクに乗っておきたいという意見は少なくない。そしてこの世代は、80年代のレーシングシーンを鮮明に覚えている。

年齢的なことを考えて最後のスポーツバイク探していたところにXSR900 GPが絶妙なタイミングで登場してきたら、運命的な出会いを感じてしまうことだろう。しかもこのカラーリングで心をわしづかみにされ、XSR900 GPのサイトにある「再び咆哮(ほうこう)をあげる日がやってきた」というキャッチコピーが目に飛び込んできた日には、「オレにもついにその日がやってきた」と思ってしまう。発売するやいなや好調な売り上げを記録したのもある意味当然という気がする。

そんな感じでXSR900 GPを手に入れたライダーは、このバイクを選んで後悔することはないと思う。サーキットや峠で昔感じた感動が、思い起こされるはずである。

(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

既定のライディングモードは「SPORT」「STREET」「RAIN」の3種類で、カスタマイズモードも2種類設定が可能。またこれらとは別に、トラクションコントロール、リフトコントロール、スライドコントロール、バックスリップレギュレーターのオン/オフも可能となっている。
既定のライディングモードは「SPORT」「STREET」「RAIN」の3種類で、カスタマイズモードも2種類設定が可能。またこれらとは別に、トラクションコントロール、リフトコントロール、スライドコントロール、バックスリップレギュレーターのオン/オフも可能となっている。拡大
細かいところでは、フロントのブレーキホースの変更も「XSR900 GP」のトピック。レバーを握り込んだ際のストローク量を吟味し、良好な操作フィールを実現している。
細かいところでは、フロントのブレーキホースの変更も「XSR900 GP」のトピック。レバーを握り込んだ際のストローク量を吟味し、良好な操作フィールを実現している。拡大
デザインだけでなく、走りの面でも往年のレーサーを彷彿とさせるマシンに仕上がっていた「XSR900 GP」。「The Embodiment of Yamaha Racing History (ヤマハレースヒストリーの体現者)」という開発コンセプトに、偽りなしだ。
デザインだけでなく、走りの面でも往年のレーサーを彷彿とさせるマシンに仕上がっていた「XSR900 GP」。「The Embodiment of Yamaha Racing History (ヤマハレースヒストリーの体現者)」という開発コンセプトに、偽りなしだ。拡大

テスト車のデータ

ヤマハXSR900 GP ABS

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2160×690×1180mm
ホイールベース:1500mm
シート高:835mm
重量:200kg
エンジン:888cc 水冷4ストローク直列3気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:120PS(88kW)/1万rpm
最大トルク:93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:21.1km/リッター(WMTCモード)
価格:143万円

ヤマハXSR900 GP
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後藤 武

後藤 武

ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。

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