第805回:SUVやEVとの相性は? ヨコハマのスタッドレスタイヤ「アイスガード7」を雪上で試す
2024.10.01 エディターから一言![]() |
横浜ゴムの「アイスガード7」は、歴代最高の氷上性能をうたうスタッドレスタイヤ。販売開始から4シーズン目を迎え、サイズバリエーションの拡大にも余念がない。今回は冬のテストコースであらためて試走を行い、人気カテゴリーとなったSUVと普及が進むEVにも対応するという、その実力を確かめた。
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SUVやEVへにも対応するサイズ展開
2021年9月に発売された乗用車向けのアイスガード7(以下iG70)は「よりちゃんと曲がる、よりちゃんと止まる」をセリングポイントとする横浜ゴムのフラッグシップスタッドタイヤ。2002年に登場した「アイスガード」から数えて第7世代にあたるということから、製品名に「7」が採用されている。
新開発の左右非対称パターンや「ウルトラ吸水ゴム」、「吸水スーパーゲル」といった新機軸を盛り込み、転がり抵抗やウエット性能、静粛性、ドライ性能、耐摩耗性能については従来製品と同等のレベルを維持しながら、氷上制動性能は14%、雪上制動性能は3%の向上を果たしている。つまり、快適性と耐久性を損なわずに、雪道性能のみをアップさせているところが自慢というわけである。
耐摩耗性能については従来製品と同等とアナウンスされるが、50%摩耗時に表面に現れるサイプが太くなるよう形状を工夫した「クワトロピラミッド グロウンサイプ」によって、マイレージを重ねても新品時のグリップ感がよみがえるといった工夫も施されている。
今回は前述のとおり、4シーズン目を迎えたアイスガード7をあらためて冬の北海道で試すことができた。テストステージとなったのは、横浜ゴムの北海道・旭川に位置する「北海道タイヤテストセンター(Tire Test Center of Hokkaido=TTCH)」である。
「氷に効く・永く効く・雪に効く」を特徴とするアイスガード7の走りを再度チェックするとともに、人気のSUVや販売台数を伸ばしつつあるEVにも対応する、市場を見据えた冬用タイヤとしての実力を確かめるのが試走のテーマだ。
氷上制動テストで分かった性能の違い
そして今回は目的がもう一つ。アイスガードの最新技術を用いて開発されたSUV用スタッドレスタイヤ「アイスガードSUV G075」(以下G075)とバッティングするサイズの比較試走である。乗用車向けのiG07とSUV用のG075の特徴と、どちらを選ぶべきかもチェックしてみたい。
横浜ゴムによれば、SUVの販売台数は2016年の約45万台超から2022年には80万台超へと、大幅に増えているという。2023年には、新車販売台数の30%以上がSUVであったというデータもあり、依然としてSUV人気に陰りは見えない。いっぽうEVも保有台数・販売台数ともに着実に伸長。2021年の調査では、35万台近いEVが日本の道を走っていると報告される。
これらの数字はいずれも無視できるものではない。乗用車用としてラインナップするスタッドレスタイヤと、SUV用として開発されたものの特徴や違いを確かめることができれば、いちユーザーとしてありがたい。より愛車にマッチするタイヤを選びたいのは誰しも同じであろう。
試走用として用意されていたのは「トヨタRAV4」(4WD)。前述のとおり乗用車用のiG07と、SUV用のG075を履いた車両で乗り比べを行った。装着タイヤのサイズはいずれも225/65R17で、ステージは3つ。TTCHの屋内氷盤試験場に設けられた直線コースでの制動テストと、屋内氷盤旋回試験場における旋回テスト、そして雪上におけるスラロームと制動テストである。
氷盤直線コースでの制動テストでは、iG07とG075の装着車両で、いずれも30km/hからのフル制動を試す。制動ポイントでABSを作動させるように目いっぱいブレーキペダルを踏み込み完全停止までの制動距離を比較してみると、iG70がおよそ平均15m、G075はおよそ平均17mだった。
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その差がタイムになって表れる
2023年1月から運用が開始された屋内氷盤旋回試験場の旋回テストでは、半径15mのコースにおけるiG70のラップタイムは20.12秒、G075は21.46秒だった。ドライバーの腕が良ければラップタイムはもっと縮まったかもしれないが、ポイントはそこではなく、タイムとステアリングへの反応の差である。
同じように旋回したつもりでも1秒以上もの差が表れると、iG70の氷上性能がいかに優れているのかが理解できる。また、オーバースピードに陥ってクルマが外にはらむような挙動を見せた際、アクセルを戻せばiG70のグリップはそれに反応するように回復する傾向が顕著に感じられた。比較すれば、G075は減速に伴うグリップ力の回復がわずかに劣る。その差がタイムになって表れているといっていい。
ライントレース性や氷盤で滑り出した後のリカバリーを含め、アクセルやステアリングの操作にリニアに反応し運転がしやすいと感じたのはiG70である。言葉を変えるなら、ステアリングインフォメーションがしっかりしていて、路面の状況がつかみやすいということになる。
「アイスガード6」の「プレミアム吸水ゴム」よりも7%吸水率をアップした「ウルトラ吸水ゴム」を新開発し、「氷に効く」をセリングポイントに挙げるだけはある。G075の接地面積を100%とした場合はiG70が109%、前者のエッジ量を同様に100%とした場合に103%となるトレッドパターンの採用も、そのパフォーマンスに寄与しているはずだ。
G075の氷に食いつく感覚や滑り出しの分かりやすさは、車両をコントロールするうえで、決してマイナスにはならないはずだが、この2つの結果だけを見ると、軍配はiG70に上がる。そのいっぽうでSUV用をうたうG075を選ぶメリットは、雪上コースに移動して確認できた。
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ロバスト性の高さは申し分ない
G075を装着したRAV4で、雪上コースにおける制動とスラロームを試すと、路面への食いつきの良さが分かる。もちろんiG70のハンドリングも申し分はないが、走りだし、特にラフにアクセルペダルを踏んだ際の最初のひと転がりの確かさにG075のアドバンテージを感じる。
G075が雪上に強い理由はトレッドパターンの構成にある。G075のほうがiG70に比べ、溝の面積が大きく深い。溝の面積はG075を100%とした場合、アイスガード7は84%にとどまる。溝の深さはG075が10.5mmであるのに対してiG70は8.8mmである。
雪柱せん断力と呼ぶ踏み固めた雪の柱を排出する性能を中心に、排雪や排水を効率的に行うトレッドデザインを採用することで、深い雪やシャーベット状の路面への対応などにおいて強みを発揮するのがG075である。今回は整備された雪道での走行に終始したため断言はできないが、リアルワールドの荒れた路面や、除雪が行き届いていない山道などの走行では、力強いグリップ感が頼もしいだろう。街なかが中心であればiG70、レジャーなどで山間部にまで足を延ばすのであればG075のほうがよさそうだ。
EVとiG70のマッチングは、ディーゼルエンジン搭載の「BMW X1 xDrive20d」とEVの「iX1 xDrive30」との比較で確かめることができた。前者は車両重量が1770kgと、2030kgの後者よりも軽量だが、フロント1000kgに対してリアが770kgという重量配分。いっぽうのiX1 xDrive30は前後重量バランスが理想的とされるほぼ50:50である。パワートレインや重量バランスの違いから生じるグリップ力や走安性に大きな違いは感じられなかったが、2tオーバーのEVではやはり制動距離が長めになる。
反対に考えれば重量増に起因するブレーキ性能以外、両者を乗り比べて違和感を覚えなかったのだから、iG70のロバスト性の高さは申し分ない。今回のような試走イベントで車重もボディーサイズも異なる車両に何度も乗り換えて、どのモデルでも不満を感じないのだから、あらためてその実力に感心してしまう。iG70が多くの人に支持される理由は、きっとそこにありそうだ。
(文=櫻井健一/写真=横浜ゴム/編集=櫻井健一)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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