ホンダN-BOXジョイ(FF/CVT)/スズキ・スペーシア ギア ハイブリッドXZターボ(FF/CVT)
もつれゆく戦況 2024.12.03 試乗記 「ホンダN-BOXジョイ」と新型「スズキ・スペーシア ギア」の比較試乗記の後編。試乗車を価格でそろえたところ、前者は自然吸気、後者はターボとなったのが興味深いところだ。果たして走りの満足度ではどちらに軍配が上がるのだろうか。まったりと過ごしたいN-BOXジョイ
(前編からの続き)
N-BOXジョイの最大の特徴はいうまでもなく、クラストップの広い空間に、タータンチェックのはっ水ファブリックを張り込んだ荷室だ。後席を倒すだけで、ちょっと上質なレジャーシートを敷き詰めたかような雰囲気である。前席はわずかに前傾した角度で止めることもできるので、フロントのシートバック裏に寄りかかり、足を伸ばすとちょうどいい。
気持ちのいい気候の日に好きな場所に駐車して、リアゲートを開け放して、まったりと過ごす……のがジョイ本来の使いかたなのだろう。シートバックと荷室フロアにはあくまでファブリックが張られているだけで、クッション性のある素材が追加されているわけではないのだが、座ったり寝転んだりして数時間過ごすには、十分に心地よい肌ざわりである。
ジョイの荷室が数時間程度の滞在に割り切っているのは、そこは車中泊には物足りない空間だからだ。後席を倒したときの荷室長は150cm強なので、平均的な成人男性が縦に寝転ぶことはできない。ひとりなら斜めに寝ることは不可能ではないが、そこで一夜を明かすのはあまり現実的ではない。
ところで、最新のN-BOXに対するネットなどでの反応を観察していると「先代よりインテリアの質感が低下した、安っぽくなった」といった評価をときおり見かける。全体に低くフラットでシンプルなデザインのダッシュボードは、小高く存在感のあった先代のそれより、もしかしたら貧相に感じる向きもあるのかもしれない。
ただ、実際のダッシュボードの樹脂シボなどは、先代よりツヤが抑えられた素材感は明らかに高級である。また、助手席前のトレイに使われている素焼き風の素材も普通の樹脂よりはコストが高そうだ。全面液晶化されたメーターパネルは「フィット」などとの共有部品だとしても、今なおアナログよりはコスト高だという。
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スペーシア ギアなら車中泊も(多分)できる
そうした視点でいうと、スペーシア ギアの内装の仕立てはN-BOXのそれより安っぽい。ただ、助手席前の大型テーブルや引き出し、メーターフード、ドアトリム上面……と、これでもかとちりばめられた収納スペースなど、とにかく手数の多い意匠を高級感と受け取る向きもいるだろう。メーターグラフィックの品質は、カラーTFT液晶1枚のN-BOXにはゆずるが、見た目にはギアのほうがにぎやか。スペーシアの人気ぶりから見ると、こういう楽しげなガジェット感のほうが、軽自動車(以下、軽)には親和性が高いのかもしれない。
ギアだからといって、インテリアの機能や装備に特別なものがないのは前記のとおりだが、それはつまり、後席に仕込まれた自慢の「マルチユースフラップ」も、ギアにそのまま受け継がれることを意味する。
マルチユースフラップは高級車の代名詞でもあるオットマンモードに注目が集まりがちだが、その本質は、軽の永遠のテーマ(?)でもある「日常の手荷物やちょっとした買い物袋を車内のどこに置くか問題」に正面から切り込んだ点にあると思う。ワンタッチで折り返すだけで、走行中に荷物が滑り落ちるのを防いでくれるのは、目からウロコが落ちる思いだ。
ギアの荷室は室内長、室内高、室内幅のすべてで、N-BOXに少しずつゆずるが、シートバックやフロアがぬれたモノにも対応しているのは、そういう用途を求める向きには不可欠な機能となるだろう。助手席も前倒しすることが可能なので、N-BOXでは不可能な長尺物が載せられるほか、マットなどの工夫次第では、大人がひとり縦に寝ることは不可能ではない。ただ、N-BOX、スペーシアともども、車中泊にはフロントシートとリアシートをつなげるフルフラットモードを想定している。スペーシア ギアの純正アクセサリーにはそのときのシートの凹凸を埋める専用クッションも用意される。
さすがホンダの走りの質感
繰り返しになるが、今回の試乗車のパワートレインは、N-BOXジョイが自然吸気(NA)エンジンのFF、スペーシア ギアがターボのFFだった。というわけで、2台の走りをそのまま正面から比較するのは不公平かもしれないが、いっぽうで主要装備内容をほぼそろえた2台はほぼ同価格でもある。額面的にはスペーシアの割安感が光る。
ただ、今回のジョイも積むホンダの軽用NAエンジンは、最高出力58PS、最大トルク65N・mというスペックで頭ひとつ抜けている。ちなみにスズキを含むホンダ以外の軽3メーカーのNAエンジンは、最高出力が49~52PS、最大トルクが58~60N・mの範囲におさまっている。
実際、今回の2台を交互に乗り比べれば、さすがにターボのスペーシア ギアのほうがパワフルだが、体感的には事前に予想したよりもその差は小さい。まして今回のN-BOXジョイを単独で乗っているかぎり、よほどの急勾配の上り坂(今回試乗したルートでいうと、中央自動車道下りの談合坂付近)でもなければ、現実的にパワー不足で困ることはほぼない。
それにしても、操縦安定性や快適性はさすがN-BOXというほかない。とくに高速でのビシッと安定した直進性と静粛性、そして滑らかな乗り心地は、軽スーパーハイトでは抜けた仕上がりだ。また、大きくうねるような路面でもフラットライドをキープする所作は、軽という小ささを考えると感心するしかない。
N-BOXのもうひとつの美点は、柔軟でリニアなパワートレインだ。じわりとしたアクセルワークでもしっかりと加減速してくれるので、足指の力加減だけで望みの速度を引き出しやすい。「新型でもずっと代わり映えしないデザイン」や高めの価格の影響か、売り上げには以前ほどの勢いを感じさせないN-BOXだが、その走りはさすが横綱である。
ターボのパワーは強力なものの……
スペーシア ギアに乗り換えると、さすがターボ、当たり前だがジョイより明らかに強力だ。また室内の装備もいちいち充実しており、これで値段がほぼ同じ……となれば、N-BOXよりスペーシアに食指が動く人も多かろう。
ただし、その運転感覚や乗り味が、全方位的にN-BOXに少しずつゆずるのは否定できない。小排気量ターボということもあって、ていねいなアクセルワークを心がけても、加速時はイメージ以上にエンジンが吹け上がってしまうことが皆無ではない。、完全停止直前に作動するアイドルストップ機構のせいか、低速でときおりギクシャクするクセもある。
ただ、マイルドハイブリッドらしく、さすがアイドル停止からの再始動は滑らかだ。また、ステアリング上のボタンを押すと、わずかに速度が上積みされる「パワーモード」は、ちょっとした追い越しや合流などで意外と重宝して疲れにくい。
さらにN-BOXと比較すると、スペーシアのロールスピードはちょっと速く、荒れた路面での微振動やロードノイズも多めだし、上屋の落ち着きも不足気味に思える。直進性もN-BOXと比較すると見劣りする。しかし、こうした印象もすべて2台をならべて比較しているからであって、単独で乗るスペーシア ギアは、乗り心地もまずまず快適だし、直進性も特筆するほど悪いわけではない。ステアリングの操舵力は重めで、高速では肩の力も抜ける。
カタログ燃費(WLTCモード)はスズキの自慢のひとつで、スペーシア ギアはターボながら21.9km/リッターと、NAのN-BOXジョイの21.6km/リッターをしのぐ。ただ、今回燃費でホンダに軍配が上がったのは、もともと実燃費に定評があるのに加えて、スペーシア ギアは高速で筆者がちょっと調子に乗りすぎたから……という理由もある。本来の実燃費は大差ないが、しいていえばN-BOXがちょっと優秀……というのが体感的な印象だ。
アウトドア風味をかもし出しつつ、それはあくまで雰囲気だけ。機能的には普通の軽スーパーハイトになんら劣るところも、優るところもない……というのが、良くも悪くも、ジョイやギアのような第3の軽スーパーハイトの実像である。逆にいえば、その雰囲気にピンときて、勢いだけで買っても公開もとくになさそうだ。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=本田技研工業、スズキ)
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テスト車のデータ
ホンダN-BOXジョイ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1790mm
ホイールベース:2520mm
車重:920kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:58PS(43kW)/7300rpm
最大トルク:65N・m(6.6kgf・m)/4800rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:21.3km/リッター(WLTCモード)
価格:192万7200円/テスト車=244万3200円
オプション装備:コンビニフック付きシートバックテーブル<運転席&助手席>(6万6600円)/マルチビューカメラシステム(7万3200円) ※以下、販売店オプション フロアマットカーペット(2万9700円)/N-BOX専用9インチナビ(24万8600円)/ナビ取り付けアタッチメント(5500円)/ナビパネルキット(5500円)/ETC2.0車載器(1万9800円)/ETC取り付けアタッチメント(9900円)/ドライブレコーダー<前後2カメラ>(5万7200円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:309km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:303.4km
使用燃料:18.8リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.1km/リッター(満タン法)/16.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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スズキ・スペーシア ギア ハイブリッドXZターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1800mm
ホイールベース:2460mm
車重:910kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:64PS(47kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:98N・m(10.0kgf・m)/3000rpm
モーター最高出力:3.1PS(2.3kW)/1000rpm
モーター最大トルク:50N・m(5.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:21.9km/リッター(WLTCモード)
価格:203万7200円/テスト車=239万0740円
オプション装備:ボディーカラー<クールカーキパールメタリック ツートンルーフ>(6万0500円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション(19万5800円)/ ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン ファイングリッド>(2万7060円)/ETC車載器(2万2440円)/ドライブレコーダー(4万7740円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:869km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:380.1km
使用燃料:26.8リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:14.2km/リッター(満タン法)/14.4km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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