機械式のメーターは消えるしかない?

2024.12.10 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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近年の新車は軒並みフル液晶メーターで、それらを見るたびに味気ないなと思います。今後、機械式の円形メーターは消滅するしかないのでしょうか。両者のコスト的な違いはどれほど大きいのでしょうか。

今や、先進運転支援システムの車間距離表示をはじめ、メーターに表示すべき情報は大幅に増え、しかも複雑化しています。こうした状況に、アナログメーターに計器を追加することで対応するには限界があり、必然的に、液晶画面を使ってボタンひとつであれもこれも表示できるという方式にせざるを得なくなります。フル液晶メーターへの移行は、もはや不可逆的な流れといえるでしょう。

「機械式メーターが廃れてしまったのは、デジタルの液晶メーターのほうが開発コストが安く、効率的につくれるからじゃないか?」と言われる方もおられるようですが、実際は逆です。単純にコストでいうなら、近年の液晶メーターのほうが圧倒的にお金がかかっています。

機械式しかなかったころは、車種ごとにメーターのデザインが違っていました。「ヴィッツ」と「クラウン」が同じメーターを共有しているなどということは、あり得なかったわけです。それは、コスト的にもそういうことができたから、ともいえます。

対する液晶メーターでは、ハードウエア・ソフトウエアの“車種ごとの違い”はほとんどありません。「レクサスとトヨタのブランド違いでいくらか変わっている」というケースもありますが、大きくは同じ。なぜなら、莫大(ばくだい)な開発費がかかっているからで、車種やブランドを超えた共有前提でないと、もはや成り立たないものになっているというのが現実なんです。

先日、某計器メーカーのエンジニアと話をする機会があったのですが、「デジタル液晶メーターを新開発しようとすると、人もお金も機械式時代とは比べ物にならないほどかかって、本当に大変です。昔が懐かしいですよ……」などと嘆いていました。

今は、液晶表示のグラフィックに付加価値をつけて、「デザインを売る」というビジネスも成立する時代になっています。現に、KINTOはそれを展開していますね。一方、スポーツカーなどのなかには、走りの機能の演出としてあえて機械式のタコメーターなどを追加しつつ液晶画面も併用するというものもありますが、デザイン的にはやや中途半端で、決して親和性がいいとはいえないように思います。

計器の話題は、例えばSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)や、「スマホのメーカーが携帯端末との連携を超えてクルマの制御系の深いところまで支配しようしている」といった問題にも関係してきますが、それはまた、別の機会に。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。