日産・ホンダの統合騒動だけにあらず 激動の2024年を時事問題で振り返る
2024.12.27 デイリーコラム業界全体で行われていた認証不正
2024年もそろそろ終わりに近づいて、今年のクルマ重大ニュースは……などと編集部と話していると、最後の最後に特大ニュースが世界を駆けめぐった。いうまでもなく、「日産とホンダが経営統合?」のスクープである。
それを受けて、年末も押しせまった12月23日に、日産自動車とホンダ、さらに日産と資本関係にある三菱自動車の3社長が、顔をそろえての記者会見を開催。日産とホンダによる「経営統合に向けた検討に関する基本合意書」および、そこに三菱を加えた「3社協業形態の検討に関する覚書」の締結を発表した(その1、その2)。
そういえば、ちょうど1年前も大騒ぎだったような記憶が……と、あらためて振り返ってみたら、昨2023年の年末にもクルマ業界に激震が走っていた。すでにご承知の向きも多いように、ダイハツの認証不正問題である。
この問題を引きずったまま年を越した2024年の前半、認証にまつわる国内全メーカーの総点検が行われた結果、トヨタ、ホンダ、スズキ、マツダ、そして二輪のヤマハにも不正があったことが公表された。その詳細はここでは繰り返さないが、厳格に定められた型式指定の認証試験をごまかした行為は許されることではない。それ相応の処分はあって当然だろう。
そんな認証不正問題も、2024年7月にダイハツが宣伝活動を再開、最後まで出荷停止指示が続いていたトヨタも9月2日にすべての生産を再開したことで、健全化への一応のメドがついた。それにしても、不正はあったが、その不正が行われたクルマの安全性や品質に現実の問題があったかといえば、そうでもない。その意味ではひと安心しつつも、一連の認証不正問題については、なんだかモヤモヤした気分のまま終わった感もなくはない。
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営業利益9割減という衝撃
それに続いて、2024年のクルマ業界スズメたちの井戸端会議の中心となったのが、型式指定の認証については「不正なし」と胸を張った日産、そして三菱である。
発端は11月7日に発表された日産の2024年度上半期の決算だ。それによると、いわゆる本業でのもうけを示す営業利益が、前年同期の3367億円から329億円にまで激減した。金額にして3038億円、率にすると90.2%という巨額マイナスである。と同時に、日産の内田 誠社長兼CEOは、9000人(日産のグローバル正規雇用従業員の1割弱!)の人員減、世界生産能力の20%削減、そしてアライアンス関係にある三菱自動車の持ち株34%のうち10%を売却といったリストラ策を公表した(参照)。
今回の要因は、日産が生命線としてきた中国と北米という世界の2大市場での不振とされた。まあ、今の中国では外国メーカーはほぼ例外なく苦戦させられているが、日産は日本勢では中国でもっとも成功していたメーカーだったこともあり、その反動がとくに大きい。
いっぽうの北米市場では、現行モデルの大半が長寿化してしまっているなかで、頼みの綱であった「ローグ(日本名:エクストレイル)」のまさかの販売不振が効いた。そのローグがもうからない最大原因は、トヨタやホンダとちがってハイブリッドがないから………というのが、経済メディア筋の見立てだ。なるほど短期的には、それは間違っていないだろう。
しかし、日産も手をこまねいていたわけではない。まず、北米ではこの2025年モデルから「キックス」と「ムラーノ」という、ローグの上下を固めるSUVが同時にフルモデルチェンジされる。これで、北米での売れ筋となるSUVの大・中・小モデルが、すべて新世代でそろうことになる。
また、日産の北米ラインナップに現在ハイブリッドがないことをとらえて「日産独自のハイブリッドである『e-POWER』はガラパゴス技術で、北米では通用しない」と断定的に伝える経済メディアも少なくない。なるほど、e-POWERは高速燃費を比較的苦手とするのはたしかだが、北米市場でウケるかどうかは、やってみなければわからない。日産も遅ればせながら、2026年後半以降、e-POWERを(おそらくローグから)北米市場に投入する計画も明らかにしている。
あえて日産の味方をさせていただければ、北米市場を立て直すための方向性は見えていた。ただ、すべてのタイミングがちょっと遅かっただけなのだ。
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これもゴーン時代の“負の遺産”なのか
日産といえば、あのカルロス・ゴーンCEO(当時)が2002年に打ち出した「日産180」のもとで、わずか数年の間に膨大な数の新型車を一気に発売した。それが現在にも響いており、日産の新車発売スケジュールはいまだに波が大きい。そう考えると、今回の不振も、中国市場の変化、コロナ明けの供給過多、電気自動車(BEV)政策の反動によるハイブリッド人気……が、日産の新型車が出てこない谷の時期にちょうど重なってしまった不運も大きいと思われる。
さらにいうと、ゴーン時代の日産は利益率をことさら重視する経営だったこともあり、新ジャンルや新技術などのチャレンジングな商品企画が通りにくい雰囲気だったともいわれる。せっかくのe-POWERの北米市場投入がこれまで実現してこなかったのも、それが理由かもしれない。
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これまでと同じ仕事の仕方でいいの?
今の日産も、ぎりぎりではあるが赤字に転落したわけではないし、内部留保もそれなりにある。今日明日にも破綻の危機というわけではないはずなのに、こうしてホンダとの統合話がいきなり出てきた背景には、世界最大の電子機器受託メーカーといわれる台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)が、日産を買収しようとしたから……とささやかれる。日産ほどの企業ともなれば、当然ながら経済産業省≒日本政府が動いたとしても不思議はない。しかも、ホンハイ側のBEV事業最高戦略責任者が、2019年に日産社長の座を内田 誠氏と争って敗れた因縁の関潤氏……ともなれば、ウワサがウワサを呼ぶ展開になるのも、むべなるかな。
ただし、12月23日の会見を見るかぎり、現段階では「日産とホンダの経営統合、そこに三菱も絡むのかどうか……についての話し合いを、これからはじめる」ということに合意したにすぎない。売上高や株価の時価総額では完全にホンダが優位だが、ホンダの三部敏宏社長は会見の場で「はっきり申し上げるのは(日産の)救済ではない」「ホンダと日産が自立した会社として成り立たなければ、経営統合は成就しない」と、あくまで日産の自力再建が大前提であることを念押しした。
さらに、「今回はまだ検討を開始する段階であり、経営統合を決定したわけではありません」とも発言。三部社長の言葉には、周囲が前のめりになりすぎないよう、慎重なものが多かった。現段階での正式な情報だけでは、ホンダ、日産、三菱がどうなっていくのかは、正直よくわからない。今回の騒動の具体像が見えてくるには、もう少し時間が必要だろう。
それにしても、2年連続、しかも年末に、あまりポジティブとはいいがたいビッグニュースが飛び込んでくるとは、自動車産業が“100年に一度の変革期”というのも、あながちウソではないのだと実感する。この“100年に~”とは、一般的にはBEVや自動運転をコアとする論説ではあるけれど、一見関係なさそうな認証不正問題もまた、「昔ながらのやりかたを続けていいのか?」と問いかけている意味では、根っこは同じ気もする。
(文=佐野弘宗/写真=本田技研工業、日産自動車/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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