第816回:ライディングが激変! スポーツバイクの自動クラッチ式トランスミッションは一過性のブームで終わるのか?
2025.01.08 エディターから一言かつては四輪にもあった
ホンダの「Honda E-Clutch」発売に端を発し、ヤマハの「Y-AMT」、そして外国車勢ではBMWがあの「GS」に「ASA(Automated Shift Assistant)」を搭載するなど、矢継ぎ早にバイクのクラッチ操作を自動化する流れが続いている。どうしてなんでしょう?
このほど、これら3社の自動クラッチ式最新バイクに試乗する機会があったので、四輪の自動クラッチ機構の変遷とも比較しながら、それらの性能が現在どれほどのレベルに到達しているのか、さらにその将来性がどうなのかについて考えてみたいと思います。
そもそもこの“スポーツバイクの自動クラッチ機構”、20年近く前の2006年に、ヤマハが「YCC-S」という名称で大型ツアラーに搭載して発売しています。基本的な考え方や構造は今も同じです。
四輪車のオートマは、いわゆるトルクコンバーター(トルコン)を介したオートマチック変速が皆さんにとってなじみあるものですよね。その四輪でも、今のバイクのシステムに近い構造のものがあって、例えば「トヨタMR-S」に搭載されていた「SMT」や、いすゞの「NAVi-5」(ナビファイブ:New Advanced Vehicle with Intelligence 5-Speed)などは、トルコンレスで自動クラッチを持つバイクのそれに近いメカニズムでした。
しかしこの時代の技術と後述の根本的なトランスミッションの構造の違いにより、変速フィーリングの違和感を消すまでには至らず。DCTやロックアップを多用して進化したトルコンATに敗れ、選ばれることがなくなりました。シフトダウンのフィーリングだけは、とても良かったんですがね。
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王者ホンダのこだわり
バイクのトランスミッションと四輪車のHパターンのマニュアルトランスミッション(MT)の一番の構造的な違いは、ニュートラルのポジションの位置です。四輪のMT車は必ずニュートラルポジションを経由して他の段にシフトします。なので隣の段を飛ばして1速から3速とか5速から2速へといった変速が可能ですね。つまり変速時は必ず一度ニュートラルになって駆動が途切れる瞬間があるのです。そのため、最近の競技専用に開発された四輪車では、Hパターンのマニュアルシフトはレギュレーションで定められた場合を除いて、使われることはほぼありません。
一方のバイクは1段ずつアップ/ダウンします。ニュートラルは通常1速と2速の間にだけ設定されていて、そこ以外は常時ギアはかみ合っています。つまり1速から2速の間以外はギアのかみ合いが途切れないので、自動変速する際の制御が四輪車よりシームレスに感じられるわけ。よくできたクイックシフターも「1速から2速だけは何だか違和感があるなあ」と思っている人が多いのは、そこだけニュートラルを通過するからなんです。
これまでホンダは、四輪では主流となったDCTのバイクへの搭載に執念を燃やしていて、既に数車種に搭載し一定の評価を得ています。「アフリカツイン」などのDCTについては、私は2023年モデルには試乗しましたが、シフトショックや極低速の操作性などいまいちの出来でした。しかし2024年のモデルからは大幅に制御ソフトの改良で性能アップしたようです。このDCTの構造ですが、乱暴に言うと、トランスミッションを2台ぶん搭載して、次に変速する側が常にスタンバイすることで、ニュートラル通過のラグをなくして、非常に速くスムーズなシフトが可能になるシステムです。
ということは、トランスミッション2つぶんのスペースと重量が必要なわけで、四輪に比べ搭載スペースが限られ、重量増にもシビアなバイクではなかなか主流にはなれない。もちろんそれなりのコストもかかります。
「意識の変化」と「さらなる進化」
話はバイクのオートクラッチに戻ります。バイクの場合、特に坂路発進や右左折時のエンストは、他車両との接触や転倒につながるため大変危険。なので昔から自動クラッチ化のニーズは常にあって、各社ともずっと研究は継続していたようです。
趣味性の高いバイクは、ガチャガチャとシフト操作をやることがバイクに乗る楽しみのひとつなのに、なんでそんなものが要るのか? という強いアレルギーがあるのも各社が投入に慎重だった大きな理由です。もちろん“実用二輪”の世界では、カブやスクーターの自動遠心クラッチは確固たる地位を築いていますよね。
ではなぜここにきて、各社のスポーツバイクに製品化が続いているのでしょうか? 一番の理由はクイックシフターが一般化して、スポーツバイクユーザーのクラッチレスへのイメージが変化したことです。クイックシフターはもともとバイクレースからフィードバックされた技術なので、導入時からユーザーの印象は良かった。製品化初期のものは制御も雑でしたが、その後どんどん進化し、最近ではスタートでクラッチ操作をする以外はアップダウンすべてクラッチ不要と思っているライダーが普通ですね。
そんな背景があって、「それならいっそのこと、スタートも自動化してエンストのリスクをなくして安全性を高めよう」「クイックシフターにさらに半クラッチ制御も加えることで、よりスムーズでプロ並みの変速スピードが実現できるなら、必ずスポーツバイクユーザーに受け入れられる」と考えたはず。技術者だけでなく、営業・マーケティングのうえでも「これは売り物になる。これはいける!」という判断があったと思います。
守旧派はホンダ、新し物好きならヤマハ
さて現状の自動クラッチシステムについては、各社、微妙に根本的な考え方や操作系、制御の範囲が異なっています。
ホンダはクラッチの自動化のみに特化して、システムを簡素化し、既存のバイクへの横展開が早くできることを優先させています。このHonda E-Clutchの制御は秀逸で、3速発進まで試してみたところで「楽勝」なのです。あとで聞いたら、なんと6速発進も可能だとか(クラッチの摩耗が怖いけれど)! ただしATモードはなし。クラッチレバーも残していて、いつでも従来のクラッチ有りにも切り替えて乗れます。シフトも左足で従来どおりの操作系とあえて同じにすることで、従来のバイクからの乗り換え違和感が最も小さいシステムといえます。自動化テクノロジーという意味では、中途半端、ともいえるかな?
その点ヤマハは、古くからバイクの自動クラッチ化に取り組んでいて、市場実績もあり、ユーザーからの自動クラッチへのフィードバックもかなりたまっている。
そこで新しいシステムだとユーザーに感じてもらえるように、Y-AMTはけっこう攻めたつくりにしています。クラッチレバーは完全に取っ払って、左指でシフトアップダウンボタンを操作します。少し慣れが必要ですが、足先よりも指のほうがずっと繊細かつ速い動きができるので、ゲームとか、自動車のパドルシフト感覚で新しいバイクの走りが楽しめる。
電子スロットルとも協調制御しているようで、ホンダのシステムよりさらにスムーズ。マニュアルモードとATモードが切り替えられて、一般道を普通に走る時は、ATモードは快適そのものです。サーキットやワインディングロードでATは違和感があるというユーザーのコメントも目にしますが、そこをATモードで走って文句を言うセンスがわからない。マニュアルモードで電光石火のシフトをエンジョイしてください。
さらに将来はフロントカメラを搭載して先のコーナーを認識し、IMU(慣性計測ユニット)と連携してプロライダーのライディングをAI学習させていけば、サーキットも完璧な自動変速ってのも技術的に可能ですね。これが売れるのかどうかは極めて疑問ですが……「推しのレーサーのシフトパターンソフトをオプションで売る」って商売も、そのうち出てきそうな気がします。
ところでヤマハのシステムは今のところ、せっかくのIMUとは連動していないようで、コーナリング中も変速することがある。これはちょっと怖いけれど、まあアップデートされるのは時間の問題でしょう。新し物好きは、ヤマハを選びましょう!
遠からず常識になる!?
次にBMW。かのGSにいきなり搭載したということは、同社のASAはかなりの自信作なのでしょうか? まずスタートのスムーズさは3社のなかでも頭ひとつ抜けています。IMUとも連動制御してるようで、「コーナリング中はギアポジションが固定され、コーナーを抜けた途端にすーっとシフトアップする感じ」は未来的です。BMWもクラッチレバーレス、シフト操作は足で(スイッチにつながってるだけですが)。ATモードも選べ、アクセルの開け方やブレーキをかける強さでもシフトアップダウンのタイミングを変化させられるなど、走り込むほどに思いどおりにシフトポイントもコントロールできる。今のところ、3社ではBMWのシステムが最も進んでいて、完成度も高いですね。
もちろん、シフトポイントは走行モードとも連携して変化します。残念なのは、せっかく「アクティブクルーズコントロール(ACC)」を搭載しているのにこれとは連動していない点。速度が低下すると、クラッチ付きと同じく制御がキャンセルされます。停車するまでコントロールできるのですから、早いところアップデートしてほしいですね。
ところでシフト操作は手で行うのがいいか? それとも、従来どおり足で? どっちがいいかは、しばらくは賛否が分かれるところだと思います。私は最終的には「手でコントロール」が主流になると思いますが。
こうしたバイクの自動変速システムの製品化が相次ぐ別の理由は、制御モーターの小型高性能化が進み、各社ともにシステム重量増が2~3kg程度に抑えられるようになったこと。かつ作動スピードや制御アルゴリズムの熟成で、プロが操作する以上にすばやく正確なシフトアップダウンができるようになったことにあると思います。
このシフトの速さと正確さは感動もので、バイクの新しいライディングの世界の扉が開いたと感じます。さらに電子スロットル化がバイクでも当たり前になっており、これをうまく組み合わせられることがシステム構成上大きな利点になっています。
クイックシフターを当たり前に使って楽しんでいるライダーの皆さん。「ギクシャクしていた初期のモデルからすれば、最新モデルはもう別物だ。すごいな!」と感じている人は特に、そのはるか上をいく最新バイクのスムーズ&クイックな感覚を早く体験してほしいですね。
心配なのはコストアップですが、部品構成から推定すると、DCTの3分の1くらいで市販できるでしょう。さらに量産が進んで価格も下がってほとんどのスポーツバイクにこのシステムが普及、次々に搭載される日はそう遠くないと思います。
皆さん、食わず嫌いはもったいない。ぜひ早期の体験を。何より、大きな事故につながる、うっかりエンストして立ちゴケするリスクがゼロになるのは、新たな予防安全技術といえます。私自身、ASAのないクラッチレバー付きR1300GSと半年ほど過ごしてから、ASA搭載モデルに乗り換えました。より安心で楽しいバイクライフにつながるわけですから、おすすめですね。
(文=多田哲哉/写真=本田技研工業、ヤマハ発動機、BMW/編集=関 顕也)
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多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。
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