メルセデスAMG E53ハイブリッド4MATIC+(4WD/9AT)【試乗記】
どこからきたの? 2025.03.03 試乗記 メルセデスの基幹セダン「Eクラス」のラインナップに「メルセデスAMG E53ハイブリッド4MATIC+」が登場。612PSものシステム出力と100km以上のEV走行を両立した、極めて高度なプラグインハイブリッド車(PHEV)だ。その仕上がりをリポートする。戦車かゴジラかウルトラマンか
最新の「フォルクスワーゲン・ゴルフeTSI Rライン」(参照)を試乗したあと、東京・恵比寿のwebCGオフィスに寄って、メルセデスAMG E53ハイブリッド4MATIC+に乗り換えた。走りだしてわずか数分後、旧山手通りの代官山 蔦屋書店の前あたりまできたころには、いやはやあきれた。つい最前まで、やっぱりゴルフはスゴイ! と感心していたのに、こいつはもっとスゴイ!! まるで重戦車。剛性感のレベルが違う。装甲がめちゃんこ厚い。それでいて、鉄の塊、というのではない。鍛え上げた筋肉の躍動感がひしひし伝わってくる。普通に走っているだけなのに……。いったいなぜなのか?
ひとつには極太のステアリングホイールである。革巻きのリムのソフトな感触が肉感的で、重めの操舵フィールにも秘密があるかもしれない。シートが硬めなこともある。パンと張ってあって、スポーツカーっぽい。
シートの硬さもあって、低速だと乗り心地は快適とはいえない。路面の微妙な凸凹に、20インチの前265/40、後ろ295/35という極太超偏平タイヤがビビッドに反応し、ドシンドシンドシンドシンとお尻に伝えてくるからだ。
ドシンドシンドシン。街で暴れるゴジラかウルトラマンみたい。ドシンドシンドシン。大地を踏みつぶすようにして前進する。この日、箱根まで行って体に染みついたゴルフeTSI Rラインは車重1350kg。まだなじんでいないE53ハイブリッド4MATIC+は2430kgもある。1tと80kgの重量差が、重戦車、ゴジラ、ウルトラマンなどの言葉を浮かばせたに違いない。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
電気の力だけで101kmも走れる
同時に、こいつは動きもスポーツカーっぽくもある。ゴルフRラインも硬めの乗り心地ではあるけれど、こちらは重くて硬くて、しかも、全長5m弱、ホイールベース3m弱の巨体なのに敏しょうに動いている感がある。もっさりしていない。キビキビしている。9段オートマチックに統合された電気モーターのなせるワザか。
3リッター直6ターボと電気モーターのハイブリッドは、システムトータルで最高出力585PS、レーススタートモードだと612PSを発生する。612PSは、4リッターV8ターボの先代「メルセデスAMG E63 S 4MATIC+」と同じだ。直6になっても612PS! そこにメルセデスAMGの意地と張りがうかがえる。
システム最大トルクは750N・m。電気モーター単体で480N・mを発生する。しかも、この大パワーと大トルクを、連続トルク可変配分4輪駆動の「4MATIC+」で大地に余すことなく伝達する。612PSと750N・mには電子制御の4WDが必要だ。とメルセデスAMGのエンジニアも考えたのだろう。
おまけにPHEVでもある。リアの荷室の下に大容量のリチウムイオン電池を搭載し、EV走行換算距離はWLTCモード計測で101kmをうたう。電気ですか~っ。電気があれば、なんでもできる。電池の容量は28.6kWh。2023年に発売された「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」はEV走行可能距離が37kmだから、なんと3倍近いレンジを誇る。電池ですか~っ。声に出して叫んでみよう。
モーターの位置が異なるところにも注目しておきたい。S63 Eパフォーマンスがリアアクスルを直接駆動するのに対して、E53ハイブリッドのモーターは、欧州のマイルドハイブリッド車に多いトランスミッション統合型を採用している。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
極めて上質な直6エンジン
足まわりにはアダプティブダンピングとリアアクスルステアリング、それに電子制御のLSDを標準装備する。まさに全部載せ。3リッター直6ターボと電気モーターのハイブリッドで、4MATIC+のフルタイム4WD、アダプティブダンピングに4WSで電子制御LSDも付いている。あれやこれやのてんこ盛り、天丼と親子丼とうな丼の具を全載せみたいな豪華絢爛(けんらん)、ぜいたくな一品で、重くなるはずだよ、2430kgのスーパーヘビー級。それでいてE53ハイブリッドがスゴイのは、おいしいことだ。おいしいんです、このクルマ。濃厚だけど、さらりとしている。
PHEVの文法どおり、始動時のデフォルトは「EL」モードになっていて、最初はモーターで走り始める。EV走行でもただ者ではない。スゴみがある。最大トルク480N・mによって、爽快な加速を披露するのだ。エンジンは休止中で何も語らずとも、アスファルトとタイヤが織りなす摩擦と風速が加速のスゴさを音にしてドライバーに伝えてくる。
首都高速に上がってアクセルをガバチョと踏むと、直6エンジンが目を覚ます。ところがこのエンジン、上まで回さない限り極めて静かで、始動しても気にならない。これにはE53初採用の、エンジンマウントの固さを状況に応じて自動調整する「AMGダイナミックエンジンマウント」の貢献もあるに違いない。
速度が上がると、ドシンドシンドシンというハーシュネスは雲散霧消する。高速走行中、これはエアサスだな。と思ったくらいまろやかで快適な乗り心地を提供してくれるのだ。素晴らしい。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
全部載せなのにお買い得
AMGダイナミックセレクトという名前のドライブモードを「スポーツ」、とりわけ「スポーツ+」に切り替えると、3リッター直6がグオオオオオオオオオオッと叫び始める。コンフォートだと、3000rpmに達するや早めのシフトアップを心がけていた9段オートマチックが、がぜん上まで引っ張るようになる。3リッター直6ターボは極めてスムーズに回る。AMGなのにV8のビートがないのは、正直、ちょっと寂しい。だけど、そのぶん理知的に思える。いまや化石燃料をバンバン燃やす時代ではない。
スポーツ+にすると素晴らしいのは、9段オートマチックが、ぶおんぶおんっ、とブリッピングを入れてダウンシフトしてくれることだ。そんな時代ではない。と言いつつ、人間は矛盾したことをしでかす。4000rpm以上回すと、グオオオオオオオオオオオオッ! とシートに押しつけられるような加速を披露する。うれしい。その矛盾をなんとか両立しようとしたのが、メルセデスAMGの全部載せ、新型E53ハイブリッド 4MATIC+なのだ。車両価格の1698万円は安い!
MBUXの音声アシスタントに質問してみた。「ヘイ、メルセデス。君はどこからきたの?」
「優秀なエンジニアの頭脳から生まれました」
そうだと思ったよ。
(文=今尾直樹/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=メルセデス・ベンツ日本)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
メルセデスAMG E53ハイブリッド4MATIC+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4970×1900×1475mm
ホイールベース:2960mm
車重:2430kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:449PS(330kW)/5800-6100rpm
エンジン最大トルク:560N・m(57.1kgf・m)/2200-5000rpm
モーター最高出力:163PS(120kW)/2400-6800rpm
モーター最大トルク:480N・m(50.0kgf・m)/0-2400rpm
システム最高出力:612PS(450kW)
システム最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)
タイヤ:(前)265/40R20 104Y XL/(後)295/35R20 105Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:11.5km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:101km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:101km(WLTCモード)
交流電力量消費率:279Wh/km(WLTCモード)
価格:1698万円/テスト車=1846万4000円
オプション装備:ボディーカラー<MANUFAKTURアルペングレー[ソリッド]>(50万5000円)/アドバンストパッケージ(60万円)/デジタルインテリアパッケージ(40万4000円)/アドバンストパーキングパッケージ(15万5000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1347km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:379.6km
使用燃料:36.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.4km/リッター(満タン法)/10.8km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
ビモータKB4RC(6MT)【レビュー】 2025.9.27 イタリアに居を構えるハンドメイドのバイクメーカー、ビモータ。彼らの手になるネイキッドスポーツが「KB4RC」だ。ミドル級の軽量コンパクトな車体に、リッタークラスのエンジンを積んだ一台は、刺激的な走りと独創の美を併せ持つマシンに仕上がっていた。
-
アウディRS e-tron GTパフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.9.26 大幅な改良を受けた「アウディe-tron GT」のなかでも、とくに高い性能を誇る「RS e-tron GTパフォーマンス」に試乗。アウディとポルシェの合作であるハイパフォーマンスな電気自動車は、さらにアグレッシブに、かつ洗練されたモデルに進化していた。
-
ボルボEX30ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.9.24 ボルボのフル電動SUV「EX30」のラインナップに、高性能4WDモデル「EX30ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」が追加設定された。「ポルシェ911」に迫るという加速力や、ブラッシュアップされたパワートレインの仕上がりをワインディングロードで確かめた。
-
マクラーレン750Sスパイダー(MR/7AT)/アルトゥーラ(MR/8AT)/GTS(MR/7AT)【試乗記】 2025.9.23 晩夏の軽井沢でマクラーレンの高性能スポーツモデル「750S」「アルトゥーラ」「GTS」に一挙試乗。乗ればキャラクターの違いがわかる、ていねいなつくり分けに感嘆するとともに、変革の時を迎えたブランドの未来に思いをはせた。
-
プジョー3008 GTアルカンターラパッケージ ハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2025.9.22 世界130カ国で累計132万台を売り上げたプジョーのベストセラーSUV「3008」がフルモデルチェンジ。見た目はキープコンセプトながら、シャシーやパワートレインが刷新され、採用技術のほぼすべてが新しい。その進化した走りやいかに。
-
NEW
カタログ燃費と実燃費に差が出てしまうのはなぜか?
2025.9.30あの多田哲哉のクルマQ&Aカタログに記載されているクルマの燃費と、実際に公道を運転した際の燃費とでは、前者のほうが“いい値”になることが多い。このような差は、どうして生じてしまうのか? 元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
MINIカントリーマンD(FF/7AT)【試乗記】
2025.9.30試乗記大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。 -
なぜ伝統の名を使うのか? フェラーリの新たな「テスタロッサ」に思うこと
2025.9.29デイリーコラムフェラーリはなぜ、新型のプラグインハイブリッドモデルに、伝説的かつ伝統的な「テスタロッサ」の名前を与えたのか。その背景を、今昔の跳ね馬に詳しいモータージャーナリスト西川 淳が語る。 -
BMW 220dグランクーペMスポーツ(FF/7AT)【試乗記】
2025.9.29試乗記「BMW 2シリーズ グランクーペ」がフルモデルチェンジ。新型を端的に表現するならば「正常進化」がふさわしい。絶妙なボディーサイズはそのままに、最新の装備類によって機能面では大幅なステップアップを果たしている。2リッターディーゼルモデルを試す。 -
ランボルギーニ・ウルスSE(後編)
2025.9.28思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「ランボルギーニ・ウルスSE」に試乗。前編ではエンジンとモーターの絶妙な連携を絶賛した山野。後編では車重2.6tにも達する超ヘビー級SUVのハンドリング性能について話を聞いた。 -
ビモータKB4RC(6MT)【レビュー】
2025.9.27試乗記イタリアに居を構えるハンドメイドのバイクメーカー、ビモータ。彼らの手になるネイキッドスポーツが「KB4RC」だ。ミドル級の軽量コンパクトな車体に、リッタークラスのエンジンを積んだ一台は、刺激的な走りと独創の美を併せ持つマシンに仕上がっていた。