マセラティGT2ストラダーレ(MR/8AT)
スリル満点 2025.02.19 試乗記 その名のとおり「公道でも乗れるGT2マシン」として開発されたマセラティのスーパースポーツ「GT2ストラダーレ」。いったいどんな走りが味わえるのか、スペインのサーキットと一般道、2つのステージで確かめた。常にマシンが先を行く
「ついに本性を現したな」。ベースとなった「MC20」とは雰囲気のまるで異なるレーシーなコックピットスタイルのなか、ガンダムちっくなサベルト製カーボンシートに縛られ、目の端にイエローの“枠組み”を意識しながらピットロードを出る。アスカリサーキットの1コーナーへと向かう上り坂でアクセルを踏み、軽くブレーキングして下りながら左へと曲がったとき、早くもそう思った。
バラエティーに富んだコーナーをいくつもクリアするうちにそれは確信へと変わっていく。すべての動きにまるでためらいがない。前輪の反応はすこぶる正確で、その位置も状態も“まさに”手に取るようにわかる。同時に後輪への力の入り具合が足裏や尻腰と表裏一体になっているかのようで実にコントローラブルだ。ドライバーとマシンが一体となる、ミドシップカーにおける最大の魅力が存分に発揮されていた。なるほどこれはGTではない。「GT2」だ。
速い。思っているよりも相当に速く走ってしまう。久しぶりのコースだったとはいえ、自分の反応が多くの場面で遅れ気味になる。それが悔しい。頑張れば頑張るほどマシンのほうが一歩先を行くほどにスピードのノリがいい。ことにタイトベントの立ち上がりや、高速コーナーでの重心の預け具合がステキにすぎる。官能的とは言い難いものの盛大な呼吸を腹の底に感じさせる「ネットゥーノ」は、常にドライバーの脳に直接「もっと踏めよ」と命令する。コーヒーに例えればすべてにクリーミーな味わいのMC20には無縁であった鋭いブラックテイストだ。
オプションの「パフォーマンスパック」を選べば、ミシュランの「パイロットスポーツ カップ2 R」にコルサ・エボモード(4段階)に対応するe-LSD(電子制御リミテッドスリップディファレンシャル)とMSP(マセラティスタビリティープログラム)、TCS(トラクションコントロールシステム)、ABSセッティングのほか、さらにカーボンセラミックブレーキと4点式シートベルトなどが備わる。コルサモードはMSPやTCSを全カットする最もスパルタンなレベル1から、ABS以外の反応を適度に抑えたレベル4まであり、筆者はレベル4で走ったが、それでもしばしば後輪がブレークするスリルを味わった。
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さすがマセラティと思える仕事
そもそもMC20が良い意味で“不思議なマシン”だった。その見た目は他のどのスーパーカーよりも実はレーシングスタイル(試しに現車の前に立って見下ろしてみてほしい。そのあきれるまでに低くワイドな面構えに驚くはずだ)でありつつ、ブランドイメージに似つかわしくクラシックともとれるエレガンスさえたたえていた。派手な空力デバイスに頼ることなく、伝統的なイタリアンベルリネッタをミドシップに転用し、“ひけらかし”のないシンプルビューティーを気取ってみせたのだ。
ドライブフィールもまたその見た目のイメージに実に合致していた。プリプレグ成形のカーボンモノコックボディーにビルシュタイン製アダプティブダンピングシステムを組み合わせ、そして何よりレーシングカーライクにプレチャンバー燃焼を取り入れた純モデナ製V6“ネットゥーノ”エンジンをリアミドに収めており、ドライブモードをスポルトもしくはコルサにセットすれば扱いやすいレーシングカー風となり、GTにセットすれば、まるで「グラントゥーリズモ」のミドシップ版のように快適なクルーザーとなった。汗と香水をブレンドして見事に独自の、そして絶妙なバランスの芳香を立てるに至ったあたり、さすがは1914年創業の老舗であり、モータースポーツ活動を通じてその礎を築いたブランドだけのことはある。そもそもMCとは、マセラティ+コルセ(レーシング)を意味した。
2024年末に日本でも披露されたGT2ストラダーレは、創業年にちなんで(1/914を意図して)914台の世界限定車となった。その名のとおり、MC20ベースのGT2レーシングカーを再びロードカー(ストラダーレ)に仕立て直したモデルである。
注目すべきは空力性能
ジェントルマンドライバーの最高峰であるファンテックGT2選手権において参戦初年度ながらチャンピオンとなったマセラティGT2だったが、その高いポテンシャルをより多くのマセラティファンはもちろん、広くスーパーカーファンにロードカーとして提供するというアイデアは、彼らにとってほとんど“そうしなければならない”役目のひとつとして実行に移されたものだった。それゆえデビューまでわずか1年半という短期間で市販モデルとして供された。ちなみにカーボンモノコックボディーの基本設計に関していえば、MC20とGT2ストラダーレ、GT2で変わりはない。
見た目にMC20との相関はあらゆる視点で明らかだが、一方で、GT2マシンのエッセンスも積極的に取り入れ、総合パフォーマンスを一気に引き上げている。フロントバンパーやボンネット、ルーバーフェンダー、サイドエアインテーク、リアディフューザー、そして何より巨大なスワン型リアウイングは、いちいちGT2マシンのデザインを“本歌取り”したもの。これらカーボンファイバー主体のデバイス群により、空力性能はもちろん、冷却性能も大いに引き上げられた。20インチ鍛造アロイホイールもGT2と酷似したトライデントデザインだ。
一方で、ネットゥーノを主体とするパワートレインのスペックに、目を見張る数値アップはない。最高出力はわずかに10PSアップの640PSで、最大トルクは逆に10N・mダウンの720N・m。そもそも効率的で高出力なエンジンゆえ、空力などを踏まえた総合性能アップと乾いた雑巾を絞るかの如き軽量化を念頭に置けば、数値そのものなどほとんど意味を持たない。それよりも絶妙な芳香バランスをより高次元で成立させるべく総合性能を上げてきたわけで、ある意味“これ見よがし”な空力デバイスの数々も、絶妙なバランスの上位移行には欠かせぬアイテムだった。ちなみにリアウイングをハイドラッグ設定にすると、280km/h時で最大500kg(前130kg:後ろ370kg)のダウンフォースを得る(MC20は35kg:110kg)。
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一般道でもサーキット気分
サーキット走行を終え、特注フォーリセリエで派手に仕立てられたブルーのGT2ストラダーレに乗り込んだ。パイロットスポーツ カップ2 Rやカーボンコンポジットブレーキを備えたパフォーマンスパック仕様だ。シエラ・デ・ラス・ニエベス国立公園に沿ったワインディングロードを軽く攻めてみる。モードはスポルト。一般道ではさすがに硬質なライドフィールが先に立つ。サーキットでは扱いやすく感じた正確な前輪の動きもややニンブルに思えたし、後輪へ常に蓄えられるパワーがスリリングな展開を予期させる。サスペンションのセッティングだけを変更することもできるが、“GT2”と名乗る以上は少しばかり緩めたとて、コンフォートとは言い難い。
もっとも、ドライバーがその気になって、それこそ公道であることを忘れサーキット気分になったとすれば話は別だ。乗り心地のハードさなどさっさと忘れてしまって、リアミドシップRWDの血気盛んなパフォーマンスに夢中となる。LEDシフトアップインジケーターを組み込んで上辺を平らにしたステアリングホイールが、目の前でせわしなくブレ動いていた。
ちょっとしたバイパスで高速クルージングする。80km/hを超えたあたりから、フラットなライドフィールが功を奏して心地良くなった。これで“ガンダム”ではなく“スポーツ”シートをあえて選べば、一般道でもなんとか使えそうである。
GT2の勝ったストラダーレ。レーシングな仕立てがもちろん似合うが、フォーリセリエを駆使してあえてラグジュアリーに仕立てるのも面白い。会場には「テクスチャード・パウダー・ヌード」というアースゴールドのマットカラーの個体があった。ボディーを触ってみるとザラザラとしている(テクスチャード)。カーボンパーツやホイール、エンブレム、ウィンドウフレームなどはすべてブラックアウトされていた。しゃれている。勇気がいるコンフィグだ。もう一歩スペシャルオーダーを進めて、GT2ばりのエアスクープも特注デザインで付けてみたらいい、とも思った。
(文=西川 淳/写真=マセラティ/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
マセラティGT2ストラダーレ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4669×1965×1222mm
ホイールベース:2700mm
車重:1365kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:640PS(470.6kW)/7500rpm
最大トルク:720N・m(73.4kgf・m)/3000-5500rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)305/30ZR20 105Y(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2 R)
燃費:--km/リッター
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション/トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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