ロータス・エレトレR(4WD)
革新の新章 2025.03.04 試乗記 ライトウェイトスポーツカーで知られたロータスは「BEVの高級ブランド」を目指し、新たな道を進み始めた。小さくて軽く、ハンドリングこそが命と刷り込まれてきたファンに、リッチな電動SUV「エレトレ」はどう映るのか。走りの印象を報告する。BEVの高級ブランドを目指す
シュッとしたデザインだし、「カイムグレー」というボディーカラーは引き締まって見えるから、パッと見ではそれほど大きいとは感じさせない。けれども周囲のクルマと比べてじっくりと眺めると、全長が5103mmもあるだけにやはりデカい。
デカいのと同時に、空気を切り裂いて大気圏を突破しそうなエッジの立ったフロントマスクとSUV的なフォルムが組み合わされて、ほかに似たクルマが思い浮かばないような独特のたたずまいになっている。クーペSUVが増えているけれど、これはスーパーSUEVだ。ちょっと語呂が悪いけれど。
それにしてもこれがロータスのニューモデルだとは……。よだれを垂らしながら漫画『サーキットの狼』を読んでいた小学生の自分に、「エレトレR」を見せてやりたい。電気で走るこのSUVが「ロータス・ヨーロッパ」の末裔(まつえい)だとは、絶対に信じないはずだ。
ご存じのように2017年に中国の吉利(ジーリー)傘下となったロータスは、BEVの高級ブランドに生まれ変わろうとしている。BEVのスーパーカー「エヴァイヤ」をブランドの象徴として派手に打ち上げた後、ハイパーSUVのエレトレ、ハイパーGTの「エメヤ」を矢継ぎ早に発表した。
いっぽうで、直4とV6のガソリンエンジンをミドシップする「エミーラ」が、常連さんのケアを担当する。
ハス(ロータス)の葉と蕾(つぼみ)を図案化したとされるエンブレムをかたどったおむすび型のキーには、ACBC、つまり創始者であるアンソニー・コーリン・ブルース・チャップマンのイニシャルが記される。ただし、もしこのクルマのオーナーになったら、スマートフォンの専用アプリで施錠・解錠や空調、充電の操作を行うはずだから、このキーの出番はそれほど多くないだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
上質な雰囲気のインテリア
キーを携えてドライバーズシートに収まると、なにも操作をしていないのに、音もなくシステムが立ち上がる。そしてインテリアの中央に鎮座する15.1インチの有機ELタッチスクリーンには、周囲の人やクルマが映し出された。
車両セッティングなどの操作はほとんどこのタッチスクリーンで完結。機械的なスイッチ類は最小限に抑えられている。また、助手席側にも12.6インチのパッセンジャーディスプレイが備わり、ここにはオーディオでプレイしている音楽の楽曲名などが表示される。
インテリアは、色使いも造形も派手な演出が施されているわけではないけれど上質な雰囲気に仕上がっていて、腕利きのデザイナーがいい素材を使って仕事をしたことをうかがわせる。
Dレンジにシフトして発進。駐車スペースから出るときに、思ったより小回りが利くことに感心する。3モデルが用意されるエレトレのうち最も上級仕様の「R」には後輪操舵が標準装備されており、これが狭い場所での取り回しを助けてくれるのだ。
一般道に出て真っ先に感じるのは、乗り心地のよさだ。4本のタイヤがしっかり地面に接地していることを伝えながら、それでも不快に感じるような突き上げはシャットアウトしている。スポーティーな手応えと、快適なライドのバランスが絶妙で、しかも凸凹を乗り越えた後の揺れはぴしっと一発で収束するから、気持ちよくドライブできる。
標準装備のアクティブエアサスペンションを含めた足まわりのセッティングは、インテリアのデザインと同様に、手だれがいい仕事をしていると感じさせる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
異次元のパフォーマンス
「おーっ、やっぱりロータスじゃん!」と感じたのは、ワインディングロードで小径の楕円(だえん)形ステアリングホイールを切った瞬間だった。操舵した瞬間、間髪入れずにノーズがインを向く。しかもその向きを変えるフィーリングがごく自然で、電子制御で無理やりに曲がっているとは感じさせない。コーナリング中は2.6t超の車重が半分ぐらいになったように、スパッと切れ味の鋭い動きを見せる。
よく研いだ包丁でリンゴの皮をむいているような気持ちよさは、かつてのロータスの軽量ミドシップスポーツカーをほうふつさせる。中国資本とはいっても、商品企画とデザインはイギリス、開発の拠点はドイツ、生産が中国の武漢ということだから、ロータス秘伝の味が引き継がれているのは、ある意味で当然なのかもしれない。
ハンドリング性能はかつてのロータスを思わせたけれど、加速性能はまったくの別物に仕上がっている。エレトレRはフロントとリアにモーターを積み、システム全体の最高出力は918PS(675kW)。市街地で穏やかに走るぶんには静かで滑らかなBEVであるけれど、高速道路で試しに強くアクセルペダルを踏み込んでみると、一瞬車体が浮き上がってワープするような、加速というより吸い込まれるような異次元のパフォーマンスを見せる。これじゃあ『サーキットの狼』ではなく、『宇宙戦艦ヤマト』だ。
なんといっても0-100km/h加速は2.95秒なので、日本の公道では3秒以上は全開にできない計算なのだ。
まぁ、無理に全開にする必要はない。このパワートレインは微妙なアクセルペダルの踏み加減に対して、繊細かつ俊敏に反応してくれるから、気持ちよくワインディングロードを走ることができる。
ステアリングホイールにはパドルスイッチが備わり、左が回生ブレーキの強さ、右がドライブモードの切り替えを担当する。4段階で選べる回生ブレーキを最強にして、6つのドライブモードからスポーツを選んで走らせると、次第に頰が緩んでくる。
微妙にアクセルペダルを踏んだり戻したりするパーシャルスロットルでコーナーをクリアしていると、“セナ足”という懐かしいフレーズが脳裏に浮かぶ。乗り心地が快適で静かだからグランドツアラーとして使ってもいいけれど、やはりロータスはワインディングロードが似合う。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
革新こそがロータスの伝統
おもしろいのは、高速道路で試したADASの出来がよかったことだ。ステアリングホイールを握る左手親指のワンアクションでアダプティブクルーズコントロールのシステムが起動して、ハンドル操作をアシストしながら先行車両への追従を開始する。加減速とも滑らかかつ正確で、ハンドル操作のアシストはタイミング、操舵量ともにどんぴしゃ。現状の日本仕様ではステアリングホイールから手を放すハンズオフ走行には対応していないけれど、センサーやカメラなど、システムとしてはハンズオフ走行を可能とするレベル3の要件を満たしているという。
ハッとするようなデザインやシックなインテリア、圧巻の加速性能に目を奪われがちであるけれど、実はADASの充実こそ、ロータスが生まれ変わろうとしていることを如実に示している。昭和のクルマ好きとしては、ついついロータスの伝統は守られるのか、という点が気になってしまう。でもモーターの制御やADASなどをあーだこーだと言いながら試していると、切れ味の鋭いハンドリングだけがロータスの伝統ではないようにも思えてくる。
ACBCことアンソニー・コーリン・ブルース・チャップマンは、グランドエフェクトカーやアクティブサスペンションといったメカニズムでモータースポーツの世界に革新をもたらしたエンジニアだ。同時に、F1マシンの車体に初めて広告を導入したマーケッターでもある。
要は天才的な新しモノ好きで、存命だったら電気自動車も自動運転もブランド刷新も、先頭を切って取り組んでいたのではないだろうか。もしかすると、過去ときっぱり決別して未来を向くエレトレこそが、ロータスの伝統を形にしているのかもしれない。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一/車両協力=ロータス)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ロータス・エレトレR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5103×2019×1636mm
ホイールベース:3019mm
車重:2640kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:永久磁石同期電動機
リアモーター:永久磁石同期電動機
フロントモーター最高出力:--PS(--kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:--PS(--kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:918PS(675kW)
システム最大トルク:985N・m(100.4kgf・m)
タイヤ:(前)275/35R23 104Y XL/(後)315/30R23 108Y XL(ピレリPゼロELECT)
交流電力量消費率:--kWh/100km
一充電走行距離:490km(WLTPモード)
価格:2324万3000円/テスト車=--円
オプション装備:ボディーカラー<カイムグレー>/KEFリファレンスオーディオ/インテリジェントグラスルーフ/パーキングパック<パーキングエマージェンシーブレーキ、自立リモートパーキングアシスト>/ハイウェイパックアシスト<ハイウェイアシスト&インテリジェントHWA、回避操舵サポート、LiDARシステム、LiDARウオッシャー、LiDAR ON/OFF>
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:8104km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:265.2km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:28.2kWh/100km<約3.5km/kWh>(車載電費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
アウディA6アバントTFSIクワトロ200kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.5 今も昔もアウディの中核を担うアッパーモデル「A6」。その最新世代の「アバント」に試乗した。堂々とした優雅なボディーに最新のハイブリッドシステムを搭載したステーションワゴンは、いかなる走りを見せてくれるのか。その実力をリポートする。
-
ホンダN-BOXカスタム ターボ コーディネートスタイル2トーン(FF/CVT)【試乗記】 2026.10.3 フロントグリルとメッキパーツの面積が大きくなって迫力が増した最新の「ホンダN-BOXカスタム ターボ」に試乗。マイナーチェンジで進化した内外装の仕上がりと、軽四輪車の販売で11年連続の首位を誇る“絶対王者”の走りを報告する。
-
日産エルグランドG e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.9.30 日産のプレミアムミニバン「エルグランド」がフルモデルチェンジ。その動力を担う第3世代の「e-POWER」は優れたドライバビリティーとともに、懸案だった高速燃費の改善もうたう。ロングドライブで進化のほどを確かめた。
-
NEW
パナソニックが市販カーナビを終売! 巨人の撤退からカーエレクトロニクスの変化を読み解く
2026.10.9デイリーコラムパナソニックが、市販市場向けカーナビゲーション、ドライブレコーダー、リアビューカメラの終売を発表! カーエレクトロニクス界の巨人は、なぜ市場からの撤退を選んだのか? 変化し続けるマーケットの在りようを振り返り、車載機器の未来を考察した。 -
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.10.8試乗記フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。 -
「アプライドD」で何が変わった? スバルの「インプレッサ」と「クロストレック」の進化を探る
2026.10.8デイリーコラムスバルが「インプレッサ」と「クロストレック」の改良モデル「アプライドD」を発表した。モデルライフの折り返し地点となる今回の改良では、ラインナップの刷新がトピック。その内容とスバルの狙いを、スバリスト玉川ニコ氏が解説する。 -
“クルマづくりのプロ”の話をライブで配信! 「あの多田哲哉のクルマQ&A」公開収録のお知らせ
2026.10.7From Our Staff元トヨタの多田哲哉さんが、自動車に関するさまざまな疑問・質問に答える「あの多田哲哉のクルマQ&A」。その話がライブで聞けて質問もできる公開収録を、10月15日(木)の夜、19時半から実施します。 -
咆哮なき電気自動車「ジャガーTYPE 01(タイプ01)」に“ジャガーの魂”は宿るのか?
2026.10.7デイリーコラムいよいよ正式デビューを飾った、新生ジャガーのラグジュアリー4ドアGT「TYPE 01(タイプ01)」。いったいどんなクルマなのか、従来のファンも納得できる“ジャガーらしさ”はあるのか? 先行チェックした西川 淳がリポートする。 -
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】
2026.10.7試乗記新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。


















































