BMW 220グランクーペ Mスポーツ(FF/7AT)/M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)
スポーツカーにもGTにも 2025.03.05 試乗記 BMWの4ドアクーペ「2シリーズ グランクーペ」がフルモデルチェンジ。内外装に加えてシャシーもブラッシュアップされ、FF系のコンパクトモデルとして走りのステージが一段上がったかのような印象だ。日本上陸を前にドイツ・ミュンヘンでステアリングを握った。今や希少なコンパクトセダンとしての支持
BMWの2シリーズには2つのクーペがある。ひとつはCLARプラットフォームを用いたFR系の2ドアクーペで、「M2」もこのファミリーに属するのはご存じのとおりだ。
もうひとつがFAARプラットフォームを用いるFF系の4&5ドアモデルで、「1シリーズ」や「2シリーズ グランツアラー」、そしてこの2シリーズ グランクーペが属している。
サッシュレスドアを持つグランクーペは1シリーズほどではないにせよ、ここ日本市場でも一定の人気を得ているという。一番の理由は3ボックスパッケージにしてコンパクトなサイズで、特に全幅が1800mmに収まることで「3シリーズ」からの代替的な需要をカバーできているそうだ。プレミアムブランドにとって前輪駆動が基となるCセグメント級のコンパクトものは損益分岐の値踏みが難しくなりつつあるが、BMWはMINIとのシナジーがうまく働いている側面もあって、現状はこのカテゴリーから降りるつもりはまったくないようだ。
新しい2シリーズ グランクーペは1シリーズと同様、「LCI」=ビッグマイナーチェンジの様相に見えて、BMW内ではフルモデルチェンジ相当という位置づけになっている。1シリーズがF40型からF70型へと型式名称を変えたのと同じく、2シリーズ グランクーペの型式名称もF44型からF74型へと改められた。ちなみに日本仕様では1シリーズが3気筒ガソリンの「120」と4気筒ディーゼルの「120d」、そして300PSオーバーのパワーを四駆で受け止めるMパフォーマンス銘柄「M135」の3バリエーションを展開するのに対して、2シリーズ グランクーペは「220」と「M235」の2バリエーションとなる。
BMWの最新インテリアへとアップデート
2シリーズ グランクーペはエクステリアもまた、1シリーズの進化に歩を合わせるかたちで変わっているが、特にリアまわりはバンパーのみならず、トランクフードの形状も全面的に見直された。当然金型も新規に作成したことになるわけだが、その恩恵としてリアのエンブレムが大きくなったこともさておき、デザイン的にも感じられていた腰高感がちょっと落ち着いたように見える。
内装や装備まわりでは、中央のタッチパネル式インフォテインメントシステムとつながるかたちでメーターパネルが置かれるカーブドディスプレイの採用が、新しさを象徴している。同様にシフトレバーもトグル式へと変わり、多彩なイルミネーションが配されるなど、一見しての商品力は分かりやすく進化した。操作系も今日的なBMWのそれに改められているが、物理ボタン類が減ったぶん、画面内の設定階層に収められた機能も多く、このあたりは賛否が分かれるだろう。そのぶん、車両機能やインフォメーションをつかさどるOSは9.0へと更新され、サードパーティーアプリへの対応も可能になるなど、拡張性には期待が抱けそうだ。
ハッチバックの1シリーズと骨格を共有しているだけあって、荷室の使い勝手は悪くない。リアシートは4:2:4の分割可倒式で荷物に応じたアレンジができるほか、バルクヘッド部の開口面も大きく採られている。容量も430リッターと1シリーズより50リッター大きい。ただし後席はキャビン上部や側部の絞り込みが1シリーズより大きく、ルーフライナーの形状を工夫したり座面を内側に寄せたりしているものの、身長181cmの筆者にとっては1シリーズに比べると天井まわりがさすがに窮屈だ。このクルマが4ドアのセダンではなく「グランクーペ」であることは、あらかじめきちんと認識しておく必要はあるだろう。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
まさに“クーペ”のハンドリング
試乗は220からM235と連続するかたちでできたが、乗り味はともに前型に対してしっかり洗練の跡がみてとれた。
220の試乗車は「Mスポーツ」のパッケージゆえ、タイヤ径なども含めて乗り心地に不利かと推していたが、走り始めてみると路面アタリも穏やかでBMWとしては十分許容できるライドフィールだ。パワートレインは1.5リッター3気筒ターボをベースとする48Vマイルドハイブリッドでシステム全体では最高出力170PS/最大トルク280N・mを発生するが、1シリーズと同じくモーターの協調領域や力感がぐっと広がり、中速域でも緩加速時にはググッと前に押し出してくれることが実感できる。燃費にも確実に効くだろう。
フロントのキャスターアングルを20%増やしつつ、ステアリングギアレシオを10%速めることで、スタビリティーとアジリティーの折り合いを再チューニングした新たなサスセッティングは、220をクーペと呼ぶにふさわしいシャープで高精度なハンドリングの持ち主へと進化させている。コーナーへのアタマの入りは速いが、リアのマルチリンクの追従性が高く、そのゲインの高さに不安感はつきまとわない。コーナリング時の動きはリニアでしっかりした粘りも伝わってくるため、自信をもってコントロールに臨める。
![]() |
![]() |
![]() |
小さなGTとしても使えるM235
その素性に300PSのパワーが乗るM235は、相変わらず後軸側の駆動力が積極的に旋回に加わっている感が伝わってくるファンな仕上がりだ。ロードホールディングはすこぶる高いが回頭性の軽快さを削(そ)がないあたりも、四駆をうまく使いこなしている証左だろう。ただし、試乗した欧州仕様は、エンジンのフィーリングがトップエンド付近で気持ちダルに感じられるところが気になった。ユーロ6eへの対応で出力的にも若干のドロップをみているが、小排気量にしてハイチューンのターボユニットにはますます厳しい時代になっている。それを補える小気味よさという点からも、8段ATから7段DCTへの変更はプラスに働いているのではないだろうか。
一方でM235、アダプティブダンパーの効果に加えて装着タイヤ「グッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツ」の縦ばねやノイズの特性がぴたりとかみ合っているようで、「コンフォート」モードでのタウンライドは220をも上回る快適性をみせてくれた。スポーツ一辺倒というだけでなく、天候や路面状況を選ばず気持ちよく移動できるサルーン的GT――というカテゴライズも、このグレードにはぴたりとはまるのかもしれない。
(文=渡辺敏史/写真=BMW/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW 220グランクーペ Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4546×1800×1435mm
ホイールベース:2670mm
車重:1450kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:156PS(115kW)/4700-6500rpm
エンジン最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/1500-4400rpm
モーター最高出力:20PS(15kW)
モーター最大トルク:55N・m(5.6kgf・m)
システム最高出力:170PS(125kW)
システム最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)
タイヤ:(前)225/45R18 95Y XL/(後)225/45R18 95Y XL(コンチネンタル・スポーツコンタクト7)
燃費:5.8リッター/100km(WLTPモード。約17.2km/リッター)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
BMW M235i xDriveグランクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4546×1800×1435mm
ホイールベース:2670mm
車重:1575kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:300PS(221kW)/5750-6500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2000-4500rpm
タイヤ:(前)235/40R19 96Y XL/(後)235/40R19 96Y XL(グッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツ)
燃費:8.2リッター/100km(WLTPモード。約12.2km/リッター)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
トヨタ・カローラ クロスZ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.10 「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジモデルが登場。一目で分かるのはデザイン変更だが、真に注目すべきはその乗り味の進化だ。特に初期型オーナーは「まさかここまで」と驚くに違いない。最上級グレード「Z」の4WDモデルを試す。
-
ホンダ・レブル250 SエディションE-Clutch(6MT)【レビュー】 2025.9.9 クラッチ操作はバイクにお任せ! ホンダ自慢の「E-Clutch」を搭載した「レブル250」に試乗。和製クルーザーの不動の人気モデルは、先進の自動クラッチシステムを得て、どんなマシンに進化したのか? まさに「鬼に金棒」な一台の走りを報告する。
-
NEW
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。 -
スズキが未来の技術戦略を発表! “身近なクルマ”にこだわるメーカーが示した問題提起
2025.9.15デイリーコラムスズキが、劇的な車両の軽量化をかなえる「Sライト」や、次世代パワートレインなどの開発状況を発表。未来の自動車はどうあるべきか? どうすれば、生活に寄りそうクルマを提供し続けられるのか? 彼らの示した問題提起と、“身近なクルマ”の未来を考える。 -
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(後編)
2025.9.14ミスター・スバル 辰己英治の目利き万能ハッチバック「フォルクスワーゲン・ゴルフ」をベースに、4WDと高出力ターボエンジンで走りを徹底的に磨いた「ゴルフR」。そんな夢のようなクルマに欠けているものとは何か? ミスター・スバルこと辰己英治が感じた「期待とのズレ」とは? -
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】
2025.9.13試乗記「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。 -
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】
2025.9.12試乗記レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。