幸せな結婚ばかりにあらず!? 自動車メーカーの過去の合従連衡劇を振り返る
2025.03.26 デイリーコラムすべては生き残りのため
2024年12月、ホンダと日産が経営統合に向けて協議を開始という話が突如として報道され、世間を驚かせた。それから2カ月もたたない2025年2月初旬には破談となってしまったが、3月に入ると今度は「一転、日産がホンダからの出資受け入れを再検討」というニュースが流れてわれわれを混乱させている。
この先、果たしてこの件がどうなるのかは分からないが、古くから自動車メーカーは生き残りをかけて合併や買収などの合従連衡を繰り返してきた。自動車産業の歴史は合従連衡の歴史、と言っても過言ではないくらいである。当然ながら、そのなかには成功した例もあれば、うまく機能しなかった例もある。ということで、ここではそうした合従連衡の歴史を振り返ってみたい。
といっても、1926年にダイムラーとベンツが合併してダイムラー・ベンツが発足した……などという時代から始めたら連載記事になってしまうので、起点は第2次大戦後とする。それにしたって80年もの歴史があるのだから。また商用車・大型車メーカーを含めると話がさらに複雑になるので、原則として乗用車メーカー限定とさせていただく。
今日では合従連衡というと、世界規模での業界再編を見据えた多国間での動きが常識化している。だが、かつてはその前段階として、ちょうどホンダと日産のように同国内での合併や吸収劇が多く見られたのだった。
民族資本メーカーが大同団結したイギリス
同国内での合従連衡というと、私のような年配者が真っ先に思い浮かべるのはイギリス。戦前から進出していた米国資本のフォードとボクスホール(ゼネラルモーターズ<GM>傘下)に対抗すべく、1952年に2大民族資本メーカーだったオースチンとナッフィールドグループ(ブランドはモーリス、MG、ライレー、ウーズレー)が合併、BMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)が誕生した。そのBMCが、1966年にはすでにデイムラーを傘下に収めていたジャガーを吸収。いっぽうでは1960年に商用車メーカーのレイランドがスタンダード・トライアンフを買収していた。
1968年になるとBMCとレイランドグループ、そしてローバーグループが大同団結してBLMC(ブリティッシュ・レイランド・モーター・コーポレーション)を結成。ここにオースチン、モーリス、MG、ライレー、ウーズレー、ヴァンデン・プラ、トライアンフ、ローバー、ランドローバー、ジャガー、デイムラー、レイランドなどのブランドが呉越同舟となった。つまりロールス・ロイス/ベントレーやアストンマーティン、ロータスなど少量生産の高級車やスポーツカーのメイクを除く民族資本のメーカーは一本化されたのである。
いや、一本化されたというのは語弊があるかもしれない。イギリスにはもう1社、ヒルマン、サンビーム、ハンバー、シンガーなどのブランドを擁するルーツグループという民族資本メーカーがあったのだが、これについては後述しよう。
話をBLMCに戻すと、1960年代以降の英国経済の低迷を背景に業績低下に歯止めがかからず、1975年には国有化されてBL(ブリティッシュ・レイランド)に改称。1986年には再度名称をローバーグループに改めた。その後は所有するブランドの切り売りが始まるのである。
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“ドイツ御三家”の図式がなかった可能性も
ドイツ国内では合従連衡が比較的少なかった。1965年にフォルクスワーゲン(VW)が、そもそもは戦前にホルヒ、アウディ、ヴァンダラー、DKWの4社で結成されたアウトウニオンを傘下に収めた。続いてVWは1969年にはNSUも吸収、支配下の2社を統合してアウディ-NSU-アウトウニオンとした。それが1985年にアウディに改名して、アウトウニオンとNSUの社名は消滅した。
そのほかの動きとしては、1966年にBMWがグラースを吸収したり、VWとポルシェが互いに親会社になったり子会社になったりしたことくらいである。余談になるが、アウトウニオンはVW傘下となる前の1958年から1965年まではダイムラー・ベンツの支配下にあり、ダイムラー・ベンツは1959年にBMWを買収しようとしたこともある。今となってはあまり知られていない事実だが、もしかしたらアウディ、BMWともにダイムラー・ベンツの傘下となって、いわゆる“ドイツ御三家”は存在しなかったかもしれない、と考えるとちょっとおもしろい。
イタリアでは、自動車産業だけでなく産業界全体を支配していたフィアットが1968年にフェラーリを、翌1969年にランチアを、そして1986年には国営企業だったアルファ・ロメオも傘下に収めた。なおフェラーリは2016年に再び独立している。
数奇な運命をたどったのがマセラティ。1968年に仏シトロエン、1972年にデ・トマソの傘下となった後に1993年にフィアットの支配下となり、1997年には同グループ内でフェラーリの子会社となる。2005年にはフェラーリから離れ今度はアルファ・ロメオと統合された。そして現在はステランティスの一員であることはご存じのとおり。ランボルギーニは1987年に米クライスラーの傘下となった後、1999年からはVWグループのアウディの下にある。
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欧州進出を目指したクライスラー
フランスでは1976年にプジョーがシトロエンを傘下に収めてPSAプジョー・シトロエンとなった。そのプジョーとシトロエン、そしてルノーがフランスの3大メーカーだが、1960年代まではそれらに続くシムカというメーカーが存在した。そもそもは1930年代に伊フィアットのライセンス生産から始まったシムカは、戦後もフィアットの影響下にありながらも1950年代にフォード・フランスやタルボを吸収するなどして徐々に規模を拡大していた。
それに目をつけたのが、アメリカのビッグスリーの一角を占めていたクライスラー。戦前から欧州に進出していたフォードやGMに遅ればせながら対抗すべく欧州デビューを企図した同社は、1963年にシムカを、そして先に紹介したイギリスのルーツグループを1967年に半ば強引に買収。両社を統合してクライスラー・ヨーロッパを設立した。だが米本社の経営不振によって、約10年後の1978年にはPSAプジョー・シトロエンに売却されてしまうのだ。
戦前に行われた合従連衡によって、GM、フォード、クライスラーのビッグスリーが形成されていたアメリカ。1954年に小メーカーのナッシュとハドソンが合併してアメリカン・モーターズ(AMC)が発足した。そのAMCはジープをつくっていたカイザーを1970年に買収した後に1979年には仏ルノーの傘下となるが、1987年にはクライスラーに買収された。
日本では、1966年に日産がプリンスを吸収合併したのが唯一にして最大の経営統合。資本提携レベルではトヨタが1966年に日野と、翌1967年にダイハツと提携。やがて前者は2001年、後者は1998年に子会社化された。日産はスバルと1968年に提携するが、1999年に解消された。
外資との関係では、1970年に三菱がクライスラー、1971年にいすゞがGM、1981年にスズキがGM、2000年にスバルがGM、同じく2000年に三菱がダイムラー・クライスラー、2009年にスズキがVWと資本提携したが、いずれも現在までに解消されている。そして現在では、いすゞ、スバル、スズキそしてマツダがトヨタと業務資本提携を結んでいる。
なおマツダとフォードの提携、日産とルノー、三菱とのアライアンスについては後述することとしよう。
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6つの高級車ブランドの統括を目指したフォード
前述したように、1960年代に米クライスラーが仏シムカと英ルーツグループを傘下に収めたことはあったものの、こうした他国籍間における合従連衡の動きが活発化したのはおおむね1990年代以降のことである。
1994年、BMWは英ローバーグループを買収した。だが傘下のブランドで重用されたのはMiniだけで、ランドローバーは2000年にフォードに、そのほか大半のブランドも売却された。BMWは同時期にロールス・ロイス/ベントレーの買収にも乗り出したが、これにはVWも名乗りを上げて両社の激しい応酬の末、1998年にロールス・ロイスはBMW、ベントレーはVWに属するということで決着がついた。
フォードは1999年に、その傘下にプレミア・オートモーティブ・グループ(PAG)を設立した。その名のとおり高級ブランドを統括する部門で、最盛期にはもともと自社が所有していたリンカーン、マーキュリーに買収したジャガー、アストンマーティン、ボルボ、ランドローバーを加えた6ブランドを保有していた。だが期待したような相乗効果はみられなかったため、2006年以降はアストンマーティンを投資家グループに、ジャガーとランドローバーをインドのタタ・モーターに、ボルボを中国のジーリーに売却。PAGは2010年に消滅した。
フォードは、アジアでは1971年に提携を始めた日本のマツダへの影響力を徐々に強めていく。1994年には実質的に支配するようになり、1996年には本社から社長を送り込むようになった。しかし2008年のリーマンショックをきっかけに本社の業績が低迷したことからコミットを弱めていき、2015年についに資本関係を解消した。つまり、フォードはこの時点で1970年代以降に傘下に入れた海外メーカーやブランドをすべて手放したわけである。
フォードに比べるとGMの欧州での動きは小さく、1980~1990年代にロータスとサーブを傘下に収めただけ。なおロータスは1993年、サーブも2010年に売却されている。
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短命に終わった世紀の合併劇
それまでとはスケールの異なる、世界を震撼(しんかん)させた合従連衡が1998年のダイムラー・クライスラーの誕生である。ドイツが誇る高級車メーカーのダイムラー・ベンツとアメリカのビッグスリーのひとつであるクライスラーの大西洋を挟んだ合併。当初は両ブランドともに業績を伸ばしてスケールメリットの重要性、業界再編の必要性を業界に再認識させたが、徐々に低迷。双方の国民性や企業文化の違いもあって関係は悪化していき、9年後の2007年には離婚、もとい合併解消に至った。
そしてアメリカの投資会社に売却されたものの、翌2008年のリーマンショックに端を発する世界規模の金融危機によって経営破綻したクライスラーに2009年からフィアットが資本参加。2014年に完全子会社化して発足したのがフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)である。
ダイムラー・クライスラーの誕生と前後して、経営危機にひんしていた日産に、やはりダイムラーが資本参加するという情報が流れた。だが、その直後に正式発表された日産の相手はダイムラーではなくルノーだった。1999年のことである。ルノーとのアライアンス(協業)によって業績が回復した日産は、2016年に経営危機にあった三菱の筆頭株主となり、ルノー・日産・三菱アライアンスが誕生。翌2017年の上半期にはトヨタやVWグループを抑えて世界販売台数首位の座を獲得した。だが、それから8年たった現在では、日産は冒頭に記したような状況に陥っている。
再編劇は続く。2017年にはPSAプジョー・シトロエン改めグループPSAが戦前から存在していたGMの欧州子会社であるドイツのオペルとイギリスのボクスホールを買収。これによってグループPSAはVWに次ぐ欧州第2位のグループになり、いっぽうGMは約90年ぶりにヨーロッパから完全撤退することになった。そして2021年、グループPSAとFCAが経営統合、双方が所有する15のブランドを抱えるステランティスが誕生したのである。
以上、駆け足で自動車業界の主だった合従連衡の歴史を振り返ってみた。事実の羅列だけだが、その効果や評価については読者の判断におまかせしたい。そして、今後の新たなる展開についても……。
(文=沼田 亨/写真=日産自動車、メルセデス・ベンツ、ジャガー・ランドローバー、アウディ、ステランティス、BMW、アストンマーティン、TNライブラリー/編集=藤沢 勝)
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沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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