日産セレナe-POWER AUTECHスポーツスペック(FF)
これが日産の底力 2025.03.31 試乗記 「日産セレナAUTECHスポーツスペック」をワインディングロードでドライブ。その成り立ちを簡単に説明するならば、上品に飾り立てたセレナAUTECHに、さらに走りのチューニングを加えたスポーティーなミニバンということになる。結果からお伝えするとこの“スポーティー”はまぎれもない本物だった。ノートとセレナとそれ以外……
苦境が続く日産。その不振の一因は地場である日本市場での脆弱(ぜいじゃく)なラインナップだといわれている。社販の使える中の人々でさえ「買いたくなるクルマがないんすよ」とボヤいていたくらいで、確かに2010年代の後半などはあからさまにスカスカな時期もあった。
ちなみに現在の国内販売動向をみると、「ノート」とセレナはほぼほぼベスト10の常連だ。直近ではダイハツの生産再開もあってトヨタの「ライズ」と「ルーミー」がどかんと数を伸ばしている、それに押し出されるかたちでセレナは12位に沈んだが、それでも対前年同月比は9%増で「ノア」と「ヴォクシー」の間にきっちり割って入っている。ノートを含めての販売状況をみるに、報道風評も含めて不振の痕跡は感じない。
むしろ問題はそれ以外がまるで手薄なことにあって、SUVの「エクストレイル」と「キックス」は対前年同月比で5~6割、そして突然「フェアレディZ」が登場と、ベスト50以内に入るのは以上5車種。ちなみに数的にはスズキと同じだ。ノートつながりなら小型のピープルムーバーやSUV、セレナつながりなら大型ミニバンなど、売れ筋のオルタナティブな選択肢がお留守に等しいことが、釣果的に丸損となっていることは想像に難くない。
そこに是正が加わるとしても間違いなく1~2年は今の顔ぶれで戦わなければならないわけで、それもあってか日産としてはノートとセレナの販売強化の一環でバリエーション追加に余念がない。そこで援護射撃にフル活用されているのがNMC=日産モータースポーツ&カスタマイズが擁するブランドであるNISMOとAUTECHだ。
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見えないところが大きく違う
うち、AUTECHは「ノート オーラ」とセレナ向けに、内外装をスポーティーかつ上質にまとめた仕様をAUTECHとして用意している。そしてさらに企画されたのが、動的質感にも手を加えたAUTECHスポーツスペックだ。ちなみにノート オーラには「NISMO」も用意されるが、そちらはリアモーターのアウトプットを高めるなど動力性能自体にも手が加わって走りのポテンシャルを押し出している。
対してAUTECHのスポーツスペックは動力性能自体ではなく出力特性に再チューニングを加えつつも、主なメニューはシャシー側のアップデートに寄っている。駆動方式はセレナもノート オーラもFFのみ、パワートレインは「e-POWER」のみだ。まあまあややこしい話になっているが、ともあれ兵力総動員の戦いになっていることが伝わってくる。
セレナAUTECHをベースとするスポーツスペックの変更点として外観で識別できるのは専用エンブレムのほか、インチアップされたホイールと組み合わせられる「ミシュラン・パイロットスポーツ5」のみだ。が、外からは見えない中身には手が尽くされている。
まずモノコックはフロント部にサスメンバーのステーとクロスバーを追加。リア部もクロスバーの板厚アップによって剛性を向上させたほか、リアのフロア部にパフォーマンスダンパーを追加し、減衰特性を最適化した。加えて前ドアのガラスの板厚を増やし、ダッシュロアにはインシュレーターを追加するなどの遮音対策も施してある。
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ミニバンらしからぬシャシーのセットアップ
サスペンションは前で15%、後ろで20%ほどスプリングレートを高め、あわせてダンパーセッティングを変更。電動パワーステアリングのアシスト設定にもモディファイが加えられた。エンジンや駆動モーターの出力そのものに変更はないが、パワーコントロールユニット(PCU)のセットアップはオリジナルだ。アクセル開度にして40%付近までのピックアップを高め、操作の応答性や加速フィーリングを向上させている。加えて電動パワステの制御にも再チューニングが施されるなど、動的面でのブラッシュアップはかなりキメが細かい。
果たして、その走りは刮目(かつもく)させられるものだった。もう3代目のC25型から擦り切れんばかりに使い尽くしたプラットフォームに、まだ引き出せるものがあったかのかと驚くほどだ。こういう体験をすると、クルマは設計年次の新しさですべての優劣が決まるわけではない、つくり手の引き出しによって化ける余地はいくらでもあると思い知らされる。
パワートレインのフィーリングの変化もともあれ、それ以上に感心させられたのがやはりシャシーのセットアップだ。直進時には舵の据わりのよさをしっかり伝えてきながら、切り始めからのゲインの高まり方も高精細で、そこから舵角を増すほどにじわりじわりと旋回度を高めていく。そのつながりがベースモデルとは段違いに味わい深い。
重心の高いミニバンの苦手領域であるロールの推移もスポーツスペックの特筆すべきポイントだろう。負荷に応じて定量的に傾きを増しながら、ドキッとする手前のところでガチッと規制するのではなくやんわりと止めてくれる。つづら折れを切り返し左右に車体が揺さぶられるような状況でも、結果的にベースモデルより怖さがないし上屋の動きも快適だ。と、あえてそうやって振り回してみて気づくのはリアサスの追従感がすこぶる高く、ブレークするような不安感が限りなく軽減されていることだったりもする。
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静かに宿る901活動の魂
もちろん乗り味的には骨格の古さを完全に拭い切れてはいないところもある。ハコのアコースティックを改善する意味合いもあって用いられただろうパフォーマンスダンパーは、巡航時の質感向上などに確実な効果がある一方で、フロアに集まる低周波の微振を完全に解消できるものではない。でも、e-POWERによって低減される音・振動のレベルに対して見劣り感のあった乗り心地はきちんと改善されている。
AUTECHは折につけベース車両を著しく上回るパフォーマンスのコンプリートモデルを手がけている。個人的に最も印象に残るのはK12型ベースの「マーチ12SR」だが、それを取りまとめた中島繁治さんは、かつて日産の901活動を支えたキーマンでもあった。その氏が自ら箱根を走り込んでは切った貼ったを繰り返して仕上げたその小さなモデルには、かめばかむほど染み出るうまみがぎゅっと詰まっていた。
いま、901活動に携わった日産のエンジニアたちは次々と定年を迎えて本体を離れている。が、幾人かのOBは、アドバイザー的な立場として、AUTECHやNISMO銘柄のクルマづくりにあの時代の日産のDNAを託する機会を得てもいる。このマンパワーが宿り始めていることがスポーツスペックに乗ると伝わってくる……というのはいささかオカルトっぽい話に聞こえてしまうかもしれない。
でも、日産のクルマには特に動的側面においてクルマ好きの琴線をくすぐるところがあって、それは代々の踏める曲がれるエンジニアたちによって支えられてきたことも確かだ。クルマ好きがクルマ軸で商品をみるにつけ、この現場力があれば日産はまだまだ全然余裕で戦える。今回の取材をもって、そういう前向きな気持ちにさせられた。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=日産自動車)
テスト車のデータ
日産セレナe-POWER AUTECHスポーツスペック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4810×1725×1865mm
ホイールベース:2870mm
車重:1820kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:123N・m(12.5kgf・m)/5600rpm
モーター最高出力:163PS(120kW)
モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)
タイヤ:(前)215/55ZR17 98Y XL/(後)215/55ZR17 98Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ5)
燃費:--km/リッター
価格:438万6800円/テスト車=512万7340円
オプション装備:特別塗装色<カスピアンブルー×ダイヤモンドブラック>(8万2500円)/アダプティブLEDヘッドライトシステム+アドバンストドライブアシストディスプレイ<12.3インチカラーディスプレイ>+統合型インターフェイスディスプレイ+ワイヤレス充電器+Nissan Connectナビゲーションシステム<地デジ内蔵>+車載通信ユニット+ETC2.0ユニット<ビルトインタイプ>+ドライブレコーダー<前後セット>+プロパイロット<ナビリンク機能付き>+プロパイロット緊急停止支援システム<SOSコール機能付き>+SOSコール+プロパイロットパーキング(45万4300円)/100V AC電源<1500W>(5万5000円) ※以下、販売店オプション フロアカーペット<ブルー、「AUTECH」エンブレム付き、吸遮音・消臭機能付き>(7万0340円)/ラゲッジカーペット<ブルー、「AUTECH」ステッチ入り、消臭機能付き>(2万3400円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1449km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:329.7km
使用燃料:26.6リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:12.6km/リッター(満タン法)/12.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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