フォルクスワーゲン・ゴルフRヴァリアント アドバンス(4WD/7AT)
もうすっかり高級車 2025.04.19 試乗記 「フォルクスワーゲン・ゴルフR」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。フロントに積まれる2リッター4気筒ターボエンジンは歴代最強の最高出力333PSにまで到達している。ステーションワゴンの「ゴルフRヴァリアント」を試す。Rもマイナーチェンジ
2024年夏にドーンと計5車種のニューモデルの国内導入を発表して、それまでの元気のなさがウソのように一気に新車攻勢をかけているフォルクスワーゲン ジャパンだが、今どきはどこもSUV推しとはいえ、やはり大黒柱はゴルフである。2021年に国内導入された8世代目、すなわち「ゴルフ8」がいまひとつ勢いに欠けるなかで、マイナーチェンジ版の「ゴルフ8.5」に寄せられる期待は大きい。
スタンダードシリーズに続いて年明けの東京オートサロンでお披露目されたのが「GTI」のさらに上を行く最強力版のゴルフR。RヴァリアントはRのステーションワゴン版である。しかも今回紹介する「アドバンス」はナッパレザーシートなどを標準装備する豪華仕様で、価格は750万円あまりにも達する(Rヴァリアントは712.9万円)。さらにこの上にharman/kardonプレミアムサウンドシステムとスライディングルーフを含む「ラグジュアリーパッケージ付き」(785.4万円)も設定され、ワゴンのRだけでも3種類が用意されている。
それにしても、とため息が出る。いかに333PSのターボエンジンと4WDシステムを搭載する最強のゴルフとはいえ、さらに円安ユーロ高は百も承知ではあるが、本体価格でおよそ750万円とは正直驚きである。もうプレミアムブランドのライバルと同等、いやむしろ上回っているほどだ。ちなみに2022年に導入された際のRヴァリアントは652.5万円だった。ただし、本国価格を換算すると900万円クラスというから、フォルクスワーゲン ジャパンの努力も認めないわけにはいかないだろう。
最強最速のゴルフ
新しいRに積まれるエンジンは従来どおりのマイルドハイブリッドなしの2リッター4気筒ターボだが、最高出力および最大トルクは333PS/5600-6500rpmと420N・m/2100-5500rpmと、従来型より13PSのパワーアップを果たしており(最大トルクは変わらず)、史上最強のゴルフを豪語する。正確には、「ゴルフR32」から始まるRシリーズの20周年を記念し、2023年に限定発売された「ゴルフR 20Years」と同スペックである。0-100km/h加速は4.8秒(ハッチバックは4.6秒)、最高速は250km/hと発表されており、当然「4MOTION」と称する電子制御4WDで、7段DSGを介して4輪を駆動する。
Rの特徴は電子制御多板クラッチで前後アクスル間のトルク配分をコントロールするだけでなく、後輪左右に個別のカップリングを搭載し、左右後輪間のトルクも0~100%の範囲で制御する「Rパフォーマンストルクベクタリング」を採用していること。外側後輪にトルクを配分することで積極的に“曲がる”性能を狙ったシステムだ。
本国仕様のRにはいわゆるドリフトモードも含む「パフォーマンスパッケージ」の設定もあるという。FWDベースの4WDにもかかわらず、ドリフト最高! モードなんて本末転倒じゃないのか、と個人的には首をかしげたくもなるが、世界的にドリフトが人気を集めているなか、そういう飛び道具を隠し持つことも必要なのかもしれない。今のところ日本仕様には設定されていないが、今後限定モデルなどでさらに硬派なRが追加されることだろう。
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プレミアム感あり
代を重ねるにつれてパワーアップしてきたRだが、それと反比例するように野性味というか荒々しさは薄まってきているようだ。新しいRも可変ダンパーの「DCC」を標準装備し、タイヤも専用の軽量アルミホイールに235/35R19サイズを履くが、もはや乗り心地はまったくスパルタンではなく、たとえ「レース」モードを選択しても一般道で我慢できないというほどではない。シフトアップのたびにリズムを刻むバフッバフッという攻撃的な排気音もかなりおとなしめになっているように感じた。
また詳細は言及されていないが、標準型ゴルフ同様、Rについても可動部分のパーツの精度が向上したような感覚で、ピシリとぶれなく走る。トルクベクタリングの手助けも自然で切れ良くコーナリングできる。この律義さがVW、正確で安心できるインフォメーションがやっぱりゴルフだよなあ、とオジサンはうれしくなる。ハッチバックよりホイールベースが50mm長い効果があるのかもしれないが、高速巡航などはまったく快適で安定性が高く、もうすっかり高級GTカーである。
らしくないところも
パワフルだが荒々しくない、きっちり整理整頓されたダイナミクスを備えるゴルフRヴァリアントだが、それに比べていささか配慮が足りないのではないか、とこれまで不評だった各種操作系についても、すでにデリバリーが始まっているスタンダードなゴルフ同様の改良が施されている。「ゴルフ7」あたりからデジタル化による先進性をアピールしてきたVWだが、そもそもカーナビをはじめとしたインフォテインメントシステムの操作ロジックが合理的ではなく、使いにくいと指摘されており、VW自身もそういう不満に応えるように、行き過ぎたタッチスイッチの使用を見直すと明らかにしていた。
その結果が大型化されたセンターディスプレイと各種アイコンの配置見直し、タッチ式スライドバーへのバックライト追加などである。とはいえ、走行中はスライドバーに間違えずにタッチするのはやはり難しい。停止して操作させたいがために、このような使いにくいインターフェイスを採用したのではないか、と勘繰るほどだ。またステアリングスイッチについては、他のゴルフが物理スイッチに戻されたのに対してRは従来のままであり、相変わらず誤操作しやすい。慣れの問題、と寛容に受け止める人もいるが、気になる向きはぜひ事前に試してほしい。
それよりも気になるのは細かいところだが、せっかくのデジタルディスプレイに表示される文字や数字の字体が日本語としてぎこちなく、また級数(文字の大きさ)がそろっていないところだ。細部にこそ配慮するのが当たり前と教えられてきた雑誌編集部出身者としては、アンビエントライトの色を増やすぐらいなら、グラフィック表示の精密さにもっと力を入れてほしいと思う。何しろこのお値段ですから。
(文=高平高輝/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=フォルクスワーゲン ジャパン)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフRヴァリアント アドバンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4650×1790×1465mm
ホイールベース:2670mm
車重:1590kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:333PS(245kW)/5600-6500rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2100-5500rpm
タイヤ:(前)235/35R19 91Y XL/(後)235/35R19 91Y XL(ブリヂストン・ポテンザS005)
燃費:--km/リッター
価格:757万9000円/テスト車=757万9000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1642km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:261.0km
使用燃料:23.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.2km/リッター(満タン法)/11.0km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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