フォルクスワーゲン・ゴルフRヴァリアント アドバンス(4WD/7AT)/ゴルフR(4WD/7AT)/ゴルフRアドバンス(4WD/7AT)/ゴルフGTI(FF/7AT)
文武両道のスポーツモデル 2025.05.24 試乗記 333PSの高出力をハイテクで御す「フォルクスワーゲン・ゴルフR/ゴルフRヴァリアント」と、伝統のホットハッチ「ゴルフGTI」に、クローズドコースで試乗。普段は試せない走りを試すことでわかった、両者の違いとそれぞれの魅力をリポートする。これぞ本当の万能マシン
「究極のパフォーマンスと実用性」を両立させたクルマが、フォルクスワーゲン・ゴルフのRシリーズである。ウォルフスブルクからのそんな主張を真正面から受けとめるなら、最高出力333PSの強心臓を持つAWDワゴン「ゴルフRヴァリアント」こそ、そのフレーズを最も体現した一台であろう。
……てなことを、いささか大仰に考えながらワゴンボディーのゴルフRのリアシートに座ってみると、なるほど、膝前にはこぶしひとつ分ほどハッチバックモデルより多く余裕がある。最近のSUVスタンダードに慣らされた身では、絶対的な後席スペースに感銘を受けることはないけれど、キチンと座れる座面の高さ、シートバックの形状、適度な囲まれ感がある上体まわりと、落ち着いた環境に好感を抱く。“ちょっと古い”クルマ好きのなかには、「そうそう、こういう感じだったよな」と懐かしく感じる方もいらっしゃるでしょう。
ワーゲンファンの間では知られたことだが、8世代目ゴルフのヴァリアントは、ホイールベースがハッチバックより50mm延ばされ2670mmになっている。たかが5cm、されど5cm。その増加分は、ほぼ後席乗員のために使われる。快速荷車を求めるユーザーだけでなく、公私問わず人間を運ぶ機会が多い忙しい人も、ゴルフRのワゴンボディーを検討していいかもしれない。
ヴァリアントの車体寸法を見ると、全長はハッチバックの4295mmから4650mmになり、ワゴンとして肝心な荷室容量は、ハッチバックの341リッターから611リッターに爆上がりしている。リアシートの背もたれを倒した場合は、1197リッターに対して1642リッターだ(いずれもVDA法)。
ヴァリアントのリアゲートを開けると、いかにも使いやすそうな長方形のフロアが広がり、もちろん床下収納も備わる。手持ちのメジャーで実測してみると、奥行きは約105cm。ハッチバックのそれが約75cmだから、当たり前だがボディーの延長分はラゲッジスペースにも生かされている。ヴァリアントのリアシートを倒せば、約185cmもの奥行きが生まれる。
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挙げればきりがない注目ポイント
順序が逆になったが、ゴルフRヴァリアントは、2025年1月10日、東京オートサロンの会場でマイナーチェンジを受けたゴルフRとともにデビューを飾った(参照)。
フォルクスワーゲンのレジェンド、GTIを上回る性能が要求されるRとして、2リッター直列4気筒ターボは、改良前より13PSアップした333PS/5600-6500rpmの最高出力を発生する。最大トルクは、420N・m/2100-5500rpmだ。基本的に同じエンジンを積むGTIのそれらが265PSと370N・mだから、Rのチューンの高さがうかがえる。レスポンスの向上をはかるべく、低い回転の低負荷状態でも一定の過給を与えるプリロードターボチャージャーも採り入れている。
吸排気バルブの可変タイミング機構と排気側の2段階バルブリフト機構を備える4気筒エンジンからの駆動力は、デュアルクラッチ式の7段AT「DCT」を介して4輪に伝えられる。4MOTIONこと電制多板クラッチを用いた4輪駆動システムに加え、新しいゴルフRには、ハッチバック、ワゴンともに、左右の後輪に駆動力を能動的に振り分けるトルクベクタリング機構が採用された。左右2つの多板クラッチを電気的にコントロールして、トルクを有効なタイヤに移し、積極的にコーナリング性能を押し上げる仕組みだ。
ハッチバック、ヴァリアントとも、スタンダードグレードのほか、上級版たる「アドバンス」がラインナップされる。ショックアブソーバーやパワーステアリングの強度を設定、調整できる「DCC」を装備し、足もとは18インチから19インチにグレードアップされる。新意匠の「ヴァルメナウ(Warmenau)」鍛造ホイールは、従来比20%の軽量化を果たしたという。
価格は、ゴルフRが704万9000円、同アドバンスが749万9000円。ヴァリアントは、712万9000円と757万9000円となる。
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モード切り替えでクルマが豹変
フォルクスワーゲン・ゴルフR/ゴルフRヴァリアントのハイパフォーマンスを体感するカスタマーイベントが、千葉にある「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」で開催され、そのプレス向け試乗会に参加した。
ほのかに曇る上総の空の下、ズラリと並ぶゴルフR群。チェック項目の第一は、電制シャシーの進化ぶりである。まずはパイロンでできたシンプルなスラロームコースで、試乗車を左右に繰りながら走らせる。液晶メーターパネルの左隅には、4輪各輪への駆動力供給状況が表示される。直線加速では、主に前2輪から生えていたバーが、速度が上がるとともに後2輪からも伸び始める。333PSと420N・mという大きなアウトプットを、無理なく、無駄なく路面に伝えるためである。
ここまでは4輪駆動システムを持つスポーツモデルでよく見られる光景だが、ゴルフRでは、タイトターン時にトルクベクタリングが働いて、トラクションが抜けがちなリア内輪から、リア外輪に駆動力が移されるのが確認できる。そのままスロットルペダルを踏み続けると、アンダーステアを出して外に膨らんでいくかと思いきや、むしろヨンクならではの強いトラクションを感じさせながら、グイグイと曲がっていく。これはスゴい! 地面に張り付いているかのような安定感が圧倒的だ。
おもしろいのは、「ドライビングプロファイル」と名づけられたドライブモードによって、走りの様子が変わること。たとえば「コンフォート」では少々曲がり足りない前輪駆動車っぽい動きを見せ、「レース」を選ぶと、強力な機械式LSDを備えたマシンのように、スロットルのオン/オフでクルマを振り回せる……ような気にさせる。
電制シャシーによるRのキャラクターの変化は、ウエット路面をグルグル回るスキッドパッドで、さらにハッキリと体感できた。プロファイルをスポーツ寄りにすると、ちょっとしたきっかけであたかも後輪駆動車のようにリアを振り出すが、逆にエコやコンフォートを選ぶと、同じような操作をしても外に膨らんでいくばかり。モードごとに、電子制御の介入度合いやタイミングが、よくつくり込まれている。
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ハイテクな「R」か、素のよさを味わえる「GTI」か
今回の試乗プログラムは、主にトルクベクタリング機能をフィーチャーした内容となっていたが、こうしたゴルフR/ゴルフRヴァリアントの挙動は、4MOTIONとトルクベクタリングのみならず、「XDS」(ブレーキによる差動制限)や、アドバンスではDCCも統合制御する「ビークルダイナミクスマネージャー」がつかさどる。ゴルフRの走りの肝はココである。個別の機能を極限まで追い込んで融合させたのが、Rのドライビングというわけだ。
試乗メニューの最後に、ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京のコースを、ゴルフR、ゴルフGTIで走ることができた。Rの怒涛(どとう)の加減速と旋回速度の速さ、それでいて安定したハンドリングに予想どおり(!?)感嘆したけれど、意外だったのが、比較対象とされたGTIの走りの楽しさだ。ウェイトがゴルフRアドバンスより100kg近く軽いこともあって、よろいを脱いだかのような軽快感がうれしい。
伝統的なFF“ホット”ハッチであるGTIにも、前輪左右のトルクを制御する電制デフをはじめとした各種デバイスが装備されるが、ドライバーの操作により素直に、シンプルに応えるわかりやすさが魅力的。いい意味でクルマを操るハードルが低い。549万8000円とRより200万円ほど価格が抑えられているうえ、ドライブフィールの面でもしっかりすみ分けができているのだった。
両者をキャッチコピー風にまとめるなら、「ハイテクでドライバーのハートをプッシュするR」と「素のよさで魅了するGTI」といったところか。いずれも高性能と実用性を高い次元で併せ持つスポーツモデルであることに間違いはない。
(文=青木禎之/写真=フォルクスワーゲン ジャパン、webCG/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフRヴァリアント アドバンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4650×1790×1465mm
ホイールベース:2670mm
車重:1590kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:333PS(245kW)/5600-6500rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2100-5500rpm
タイヤ:(前)235/35R19 91Y XL/(後)235/35R19 91Y XL(ブリヂストン・ポテンザS005)
燃費:--km/リッター
価格:757万9000円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
フォルクスワーゲン・ゴルフR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1790×1460mm
ホイールベース:2620mm
車重:1510kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:333PS(245kW)/5600-6500rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2100-5500rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ブリヂストン・ポテンザS005)
燃費:--km/リッター
価格:704万9000円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1790×1460mm
ホイールベース:2620mm
車重:1520kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:333PS(245kW)/5600-6500rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2100-5500rpm
タイヤ:(前)235/35R19 91Y XL/(後)235/35R19 91Y XL(ブリヂストン・ポテンザS005)
燃費:--km/リッター
価格:749万9000円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
フォルクスワーゲン・ゴルフGTI
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1790×1465mm
ホイールベース:2620mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:265PS(195kW)/5250-6500rpm
最大トルク:370N・m(37.7kgf・m)/1600-4500rpm
タイヤ:(前)235/35R19 91Y XL/(後)235/35R19 91Y XL(ブリヂストン・ポテンザS005)
燃費:--km/リッター
価格:549万8000円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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