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もしもトランプ大統領が「アメリカ車を買え」と日本に迫ってきたら?

2025.05.08 デイリーコラム 玉川 ニコ
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何万台ものアメリカ車を押しつけられたら?

アメリカのトランプ大統領は石破総理との電話会談で、アメリカの自動車が日本でも売れるよう、日本市場の“開放”を求めたと報道されている。

日本自動車輸入組合(JAIA)によれば、2024年に日本国内で販売された海外ブランドの輸入車は22万7202台で、そのうちメルセデス・ベンツとBMW、フォルクスワーゲンの合計が全体の約半数を占めている。だがアメリカのブランドはジープが9633台と健闘しているものの、シボレーはわずか587台、そしてキャデラックも449台にとどまっている。EVメーカーのテスラは日本での販売台数を公表していないが、JAIAの統計からは5600台余りが販売されたと推察できる。

つまりジープとテスラ以外のアメリカ車は、確かにトランプ大統領が言うとおり「日本人はほとんど買わない!」という状況なのだ。

アメリカ車が日本で売れない理由は、一部報道にあるように安全基準の違いやEVの充電規格をめぐる日本政府の対応などが非関税障壁になっている部分が多少はあるのかもしれない。だが、カーマニアの立場でみれば、根本的な理由は「日本市場でウケるクルマがない」ということに尽きる。

それゆえ「ひきょうじゃないか! もっと買え!」と言われても、「いえ結構です」と答えるしかないのだが、そんな当たり前のハナシが通用するとも思えないのがトランプ大統領という人物。何千台、何万台ものアメリカ車を日本政府が無理やり押しつけられないとも限らない。

もしもそんな事態になったならば、お互いのためにも「これは日本じゃ絶対に売れないでしょ」という車種ではなく、日本市場でもまあまあ人気を博しそうな車種を(もちろん右ハンドル仕様で)輸出してほしいものである。

だが現在、日本に正規輸入されていない車種を含むアメリカ車のなかに、そんな車種、つまり日本市場でも売れそうな車種はあるのだろうか? 次章以降、検討してみることにしよう。

日本で売れているアメリカ車の多くはジープとテスラで、なかでも「ジープ・ラングラー アンリミテッド」(写真左)は、多くのファンに支持されている。ジープブランドは2024年に日本で9633台(JAIA調べ)を売り上げた。
日本で売れているアメリカ車の多くはジープとテスラで、なかでも「ジープ・ラングラー アンリミテッド」(写真左)は、多くのファンに支持されている。ジープブランドは2024年に日本で9633台(JAIA調べ)を売り上げた。拡大
キャデラックブランドのフラッグシップSUV「エスカレード」。日本に導入されているのは最高出力416PSの6.2リッターV8を搭載するモデルで、価格は「プレミアム」が1640万円、「プラチナム」が1740万円、「スポーツ」が1800万円である。プレミアムは8人乗り、そのほかのグレードは7人乗りの設定だ。
キャデラックブランドのフラッグシップSUV「エスカレード」。日本に導入されているのは最高出力416PSの6.2リッターV8を搭載するモデルで、価格は「プレミアム」が1640万円、「プラチナム」が1740万円、「スポーツ」が1800万円である。プレミアムは8人乗り、そのほかのグレードは7人乗りの設定だ。拡大
シボレーを代表するスポーツモデル「コルベット」。日本には標準モデルの「コルベット2LTクーペ/3LTクーペ/コンバーチブル」と、ハイパフォーマンスモデル「コルベットZ06」が、いずれも右ハンドル仕様で導入されている。
シボレーを代表するスポーツモデル「コルベット」。日本には標準モデルの「コルベット2LTクーペ/3LTクーペ/コンバーチブル」と、ハイパフォーマンスモデル「コルベットZ06」が、いずれも右ハンドル仕様で導入されている。拡大
EVメーカーのテスラは日本での販売台数を公表していないが、JAIAの統計からは5600台余りが販売されたと推察できる。写真はクーペライクなフォルムが特徴となるSUVの「モデルY」。
EVメーカーのテスラは日本での販売台数を公表していないが、JAIAの統計からは5600台余りが販売されたと推察できる。写真はクーペライクなフォルムが特徴となるSUVの「モデルY」。拡大
ジープ グランドチェロキー の中古車webCG中古車検索

日本でも売れそうなのはこのSUV

まず、テスラの各モデルは、ゴリ押し的に輸入台数を増やされたとしても、ある程度なんとかなるだろう。だがそれには、DOGEの件などで各国の市民から大バッシングを食らい、テスラのブランドイメージを著しく悪化させたイーロン・マスク氏の動向を注視する必要もある。

またこちらも現時点では健闘しているジープの各モデルは、売れ筋の「ラングラー アンリミテッド」は今後もある程度安泰と思われるが、それ以外の車種に関しては今以上の数が日本で売れる道筋が見えない。「グランドチェロキー」ですら右ハンドル仕様の生産を終了予定である。

そのほかでは「シボレー・コルベット」「キャデラック・エスカレード」あたりはエキゾチックカーとしての魅力が大であるため、車両自体のポテンシャルとしては今以上に売れる可能性を秘めている。しかし、いかんせん「デカい」「高い」ということで、どうしたって受け入れ可能なユーザー数には限界があり、数がはけるタイプのモデルではない。

そんな状況下で唯一、日本市場でもまずまずの数が売れる可能性が高いのは「フォード・ブロンコ スポーツ」だ。

ご承知のとおり「フォード・ブロンコ」は、1960年代から販売が続いている本格SUV。いっぽうブロンコ スポーツは、現行型ブロンコと同テイストのデザインなれど、ラダーフレームではなくモノコック構造を採用した都市型コンパクトSUVである。5ドア版のボディーサイズは全長×全幅×全高=4390×1940×1780mmということで車幅はけっこう広いが、全長は短く、アイポイントが高いため、日本の道路でも比較的運転しやすそうだ。

そして「圧倒的におしゃれ!」と感じられるエクステリアデザインが強力な武器となり、もしも右ハンドル仕様がつくられて正規輸入されれば、日本でも若い世代を中心にプチヒットするだろう。まぁそのためには、日本から撤退したフォードが戻ってこなければならないわけだが。

2025年2月に導入が発表された「ジープ・グランドチェロキー」の特別仕様車「グランドチェロキー ファイナルエディション」。グランドチェロキーの右ハンドル車の生産が終了するのにともない、日本における“最後のグランドチェロキー”として販売される。ブラックで統一したエンブレムやホイールなどの採用が特徴で、車両本体価格は810万円。
2025年2月に導入が発表された「ジープ・グランドチェロキー」の特別仕様車「グランドチェロキー ファイナルエディション」。グランドチェロキーの右ハンドル車の生産が終了するのにともない、日本における“最後のグランドチェロキー”として販売される。ブラックで統一したエンブレムやホイールなどの採用が特徴で、車両本体価格は810万円。拡大
ラダーフレームのシャシーにエンジンを縦置きする本格クロスカントリーモデル「ブロンコ」の弟分となるのが「ブロンコ スポーツ」。モノコックのFFプラットフォームを用いたコンパクトな都市型SUVとして2020年に登場した。
ラダーフレームのシャシーにエンジンを縦置きする本格クロスカントリーモデル「ブロンコ」の弟分となるのが「ブロンコ スポーツ」。モノコックのFFプラットフォームを用いたコンパクトな都市型SUVとして2020年に登場した。拡大
「ブロンコ スポーツ」のインストゥルメントパネル。センターコンソールには8インチのタッチ式ディスプレイが配置される。「SYNC3」と呼ばれるフォード最新のインフォテインメントシステムが採用されているのも特徴だ。
「ブロンコ スポーツ」のインストゥルメントパネル。センターコンソールには8インチのタッチ式ディスプレイが配置される。「SYNC3」と呼ばれるフォード最新のインフォテインメントシステムが採用されているのも特徴だ。拡大
右ハンドル仕様で導入される予定だった「フォード・マスタング」。フォードの撤退によって日本市場から姿を消してしまったが、根強いファンは多い。2.3リッター直4ターボやV8搭載モデルをラインナップする。写真はオープントップの「コンバーチブル」。
右ハンドル仕様で導入される予定だった「フォード・マスタング」。フォードの撤退によって日本市場から姿を消してしまったが、根強いファンは多い。2.3リッター直4ターボやV8搭載モデルをラインナップする。写真はオープントップの「コンバーチブル」。拡大

「日本車キラー」の悪夢ふたたび?

そのほか「正規輸入されていないアメ車のなかに、意外な有望株はないか?」と探してみたが、これぞという車種はなかった。もちろんそれは「いまいちなクルマばかりだった」という意味ではなく、「日本に住む人間が、国産車やドイツ車を差し置いてまで選びたくなるクルマは見当たらなかった」ということだ。

アメリカ市場で普通に販売されているアメリカンドメスティックカーが日本市場へやってくる場合、その立場は「攻撃側」ということになる。一般的に軍事戦略においては「攻撃側は通常、防御側に対して3倍の兵力が必要」とされている。

この法則が絶対に正しいかどうかはさておき、もしもアメリカンドメスティックカーが日本市場への浸透を図ろうとする場合、一例として「トヨタの◯◯と同じぐらい高性能で、同じぐらい経済的です!」という売り文句では、まったく売れないだろう。それが走行性能であれ、デザイン性であれ、経済性であれ、もしも「同程度」であるならばユーザーは慣れ親しんだブランドからの代替は行わない。3倍かどうかはさておき「こっちのほうが圧倒的にいい(かも)!」と感じたとき初めて、消費者の購買行動は変化するのだ。

そういった意味で、現在販売されているアメリカンドメスティックカーはどれも悪いクルマではないのだろうが、日本やドイツの同クラス車の何倍も魅力的ということもなさそうだ。それゆえもしもトランプ大統領がゴリ押しでそれらを輸入させたとしても(あるいは既存の正規輸入アメリカ車の数を増大させたとしても)、過去の「クライスラー・ネオン」や「サターンSシリーズ」などと同じ道をたどる結果になるだろう。

とはいえ実は、「日本車やドイツ車の2~3倍は魅力的かも!」と思えるアメリカ車がないわけでもない。それは「フォードFシリーズ」や「シボレー・シルバラード」などのフルサイズピックアップだ。あの世界観やフィーリングだけは日本車もドイツ車も生み出すことはできないため、代替のきかない唯一無二のプロダクトとして、もしも正規輸入されれば一部で確実に人気を博すはずだ。

しかしその場合でも問題になるのがサイズだ。ボディーサイズもエンジンサイズもデカいままでは、ごく少数の日本在住ユーザーにしか受け入れられない。そこを打開するためには、例えばフォードFシリーズを三菱トライトンぐらいのサイズに縮小した日本専用仕様「フォードF-150EJ」みたいなものを新たにつくる必要があるわけだが──まぁ実際には難しいだろう。

トランプ大統領が顔を真っ赤にして何をどう言おうとも、何の努力も工夫もしない今のままでは、売れないものは売れないのだ。

(文=玉川ニコ/写真=ステランティス、GM、フォード、テスラ/編集=櫻井健一)

「日本車キラー」として北米で発売された「ダッジ・ネオン」。日本にはクライスラーブランドで、右ハンドル仕様車が1996年に導入された。日本導入当時の車両本体価格は129万9000円だった。
「日本車キラー」として北米で発売された「ダッジ・ネオン」。日本にはクライスラーブランドで、右ハンドル仕様車が1996年に導入された。日本導入当時の車両本体価格は129万9000円だった。拡大
日米経済摩擦の緩和と、GMの日本市場開拓を目的として1997年に上陸したGMのサターン。「礼をつくす会社、礼をつくすクルマ」をキャッチフレーズに、コンパクトな4ドアセダンや2ドアクーペ、5ドアワゴン、左後席にドアを設けたユニークな3ドアクーペなどをラインナップしたものの、業績不振を理由に2001年に日本市場から撤退した。
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フォードのベストセラーピックアップトラック「F-150」。最新モデルは2020年に発表された14代目で、V6およびV8エンジン搭載車のほか、「F-150ライトニング」と呼ばれる電気自動車もラインナップしている。
フォードのベストセラーピックアップトラック「F-150」。最新モデルは2020年に発表された14代目で、V6およびV8エンジン搭載車のほか、「F-150ライトニング」と呼ばれる電気自動車もラインナップしている。拡大
フォードのピックアップトラック「F-150」のライバルとなるのがシボレーブランドの「シルバラード」。最新モデルは2017年に発表された4代目だが、毎年細かなアップデートが行われている。GMCブランドの「シエラ」は兄弟車にあたる。
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GMのミッドサイズSUV「ブレイザー」。電動SUV「ブレイザーEV」は、「ホンダ・プロローグ」のGM版となる。GMが開発した「アルティウムバッテリー」を搭載し、フル充電での走行距離は320マイル(約515km)を誇る。わずか10分の充電で78マイル(約110km)の走行距離が確保できるのもセリングポイントだ。スタイリッシュなフォルムは日本でも注目されそうだが……。
GMのミッドサイズSUV「ブレイザー」。電動SUV「ブレイザーEV」は、「ホンダ・プロローグ」のGM版となる。GMが開発した「アルティウムバッテリー」を搭載し、フル充電での走行距離は320マイル(約515km)を誇る。わずか10分の充電で78マイル(約110km)の走行距離が確保できるのもセリングポイントだ。スタイリッシュなフォルムは日本でも注目されそうだが……。拡大
玉川 ニコ

玉川 ニコ

自動車ライター。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、自動車出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。愛車は「スバル・レヴォーグSTI Sport R EX Black Interior Selection」。

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