未来がすべてにあらず! ジャパンモビリティショー2025で楽しめるディープな“昔”の世界
2025.11.05 デイリーコラム見る者をタイムスリップさせる
東京ビッグサイトで開催中のジャパンモビリティショー2025。クルマ/バイクの歴史やカルチャーにスポットを当てた「モビリティカルチャープログラム」のひとつとして東8ホールに設けられている「合同展示 ~タイムスリップガレージ~」。戦後日本のモータリゼーションの歩みを、メーカー各社が保存する車両と各時代の風俗を伝える展示で表現した、文字どおり見る者をタイムスリップに誘うコーナーである。
時代別のゾーニングは大きく分けて1970年代以前、1980・1990年代、2000年代以降の3つ。それぞれのゾーンのなかにいくつかのテーマがあり、それに沿った車両が展示されている。
1970年代以前のゾーンでは、「技術への挑戦」というテーマのもとに「たま電気自動車」と「ホンダ・シビックCVCC」、そしてシビックのエンジン単体が展示されている。前者は戦後の一時期、ガソリンが不足していたいっぽうで電力供給には余裕があったことからつくられた電気自動車で、製造元は現在の日産につながる。後者は1970年代初頭にアメリカで制定された世界初の排ガス規制法である通称マスキー法を、後処理装置なしに世界で初めてクリアしたCVCCエンジンを搭載。ホンダが四輪メーカーとして世界に認められる端緒となったモデルだ。
「ライフスタイルとつながるモビリティ」では、自動車を大衆のものとした先駆けの一台である「フォルクスワーゲン・タイプ1」、スタイリッシュながら実用性も備えたスペシャルティーカーというカテゴリーを開拓した初代「フォード・マスタング」、クロスカントリー4WDという軽自動車の常識を覆す成り立ちで唯一無二のポジションを確立した初代「スズキ・ジムニー」などが展示されていた。
そして「速さへのあこがれ」というテーマを表現するのは「プリンス・スカイライン2000GT」。1964年の第2回日本グランプリのGTレースで優勝した「ポルシェ・カレラGTS(904)」とバトルを演じ、世に言う“スカイライン伝説”を生んだモデルである。
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センターに鎮座するタイムマシン
タイムスリップガレージのセンターに位置する1980・1990年代ゾーン。1980年代を代表するスーパースターであるマイケル・ジャクソンのパネルが見下ろす、いわばポールポジションにいるのが特別展示車両の「デロリアン(DMC-12)」。タイムトリップをテーマにした1980年代の大ヒット映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズにタイムマシンとして登場したことで知られる、タイムスリップガレージのアイコンとしては最適であろうモデルだ。
「経済と日本車の黄金期」というテーマのもとには3台。その完成度の高さで世界中の高級車メーカーを震撼(しんかん)させた初代「トヨタ・セルシオ」、空前のワゴンブームを巻き起こした2代目「スバル・レガシィツーリングワゴン」、そして“街の遊撃手”というキャッチフレーズで記憶される欧州調のコンパクトカーであるFFの「いすゞ・ジェミニ」。バブル景気を背景に日本全体がイケイケだった1980年代後半から1990年代前半にかけて登場したモデルである。
「80's POP」と題されたコーナーには、斬新なトールボーイスタイルと、英国のロックグループ「マッドネス」をイメージキャラクターに据えたCMで一世を風靡(ふうび)した初代「ホンダ・シティ」とそれに車載可能な原付バイク「ホンダ・モトコンポ」などが並んだ。
さらに「多様なライフスタイルをもたらすモビリティ」というテーマのもとには、走りのモデルとして今なお高い人気を誇る型式名AE86こと4代目「トヨタ・カローラ レビン」と3代目「マツダRX-7(FD3S)」。“天才タマゴ”のキャッチフレーズを掲げてミニバンのブームをけん引した初代「トヨタ・エスティマ」、未来的なルックスを持つクロスオーバーSUVの先駆けである「いすゞ・ビークロス」があった。
そして“20世紀に間に合いました”とうたって登場した世界初の量産ハイブリッド車である初代「トヨタ・プリウス」が「デジタル時代のモビリティ」として展示されていた。
F1から二輪までモータースポーツ展示も充実
1980・1990年代ゾーンには、もうひとつスペシャルなコーナーもある。その時代に世界のモータースポーツシーンを席巻した、日本車メーカーのワークスマシンがそろった「モビリティカルチャーサーキット」だ。
センターに陣取るのは「マクラーレン・ホンダMP4/4」。アラン・プロストとアイルトン・セナというジョイントナンバー1体制で、1988年のF1世界選手権で全16戦中15勝という圧倒的な戦績を挙げ、コンストラクターズ、ドライバーズ(セナ)の両タイトルを独占したマシンである。
その後方には砂漠を舞台とするパリダカこと、過酷なパリ・ダカールラリー(現ダカールラリー)で1985年に日本車初となる総合優勝に輝いた「三菱パジェロ」。そしてグループA時代のWRC(世界ラリー選手権)で大暴れした「三菱ランサーエボリューション」と「スバル・インプレッサ555」。前者は1996年の1000湖ラリーの優勝車である「エボリューションIII」、後者は同年のサンレモラリー出走車という。
さらに二輪ロードレース世界選手権(現MotoGP)を制したマシンもそろっている。1981年の500ccクラスを制した「スズキRGΓ500(XR35)」、350ccクラスのラストシーズンとなった1982年に最後のチャンピオンマシンとなった「カワサキKR350」、1984年に500ccクラスのタイトルを獲得した「ヤマハYZR500」、そして1994年の500ccクラスで圧勝した「ホンダNSR500」。1960-1970年代のロードレース世界選手権でも国産マシンは大活躍したが、1980-1990年代は実質的に国内メーカー4社の戦いで、4社すべてが王座を獲得するという離れ業を演じたのだった。
クルマだけでなくカルチャーも再現
2000年代以降のゾーンには、軽オープンスポーツの初代「ダイハツ・コペン」と国産初の本格的な電気乗用車である「日産リーフ」をベースにしたレーシングカーの「リーフNISMO RC」などが。後者には1980-1990年代ゾーンの初代プリウスと同様に「デジタル時代のモビリティ」という肩書が与えられていた。
以上がタイムスリップガレージに展示されている主な車両だが、このコーナーにはクルマ以外にも見るべき展示がある。人によってはクルマ以外の展示のほうが眺めていて楽しいかもしれない。1970年代以前のゾーンを仕切るトタン板とそれに貼られたホーロー看板をはじめ、各ゾーンはレトロがテーマのミュージアムやテーマパークのように構成され、展示車両の時代に合わせたアイテムが並べられているのだ。
1970年代以前のゾーンには真ん中にド~ンと駄菓子屋があり、クルマよりこちらのほうが主役といった風情だ。そのほかにも各時代に合わせた公衆電話、1980年代のリビングルームを模したセットやバブル期のボディコンスーツ(女性)とソフトスーツ(男性)をまとったトルソー、その時代のリアルな写真パネルなどが印象に残った。
再現されている時代のほとんどをリアルタイムで見てきた筆者の目には「ちょっと違うんじゃない?」と思うところもないわけではないが、ここで重箱の角をつつくようなことは言うまい。むしろクルマ以外のこうした演出にまで気を配った展示としたことをたたえたいと思う。
ということで、ジャパンモビティショー2025を訪れた暁には、ぜひタイムスリップガレージにも足を運んでいただきたい。老若男女を問わず楽しめるはずである。
(文と写真=沼田 亨/編集=藤沢 勝)

沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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