ガスガスSM700(6MT)
乗りこなすにはウデがいる 2025.05.18 JAIA輸入二輪車試乗会2025 競技の世界で名をはせるスペインのGASGAS(ガスガス)。彼らが初めて手がけたストリートマシンが、この「SM700」だ。700cc級の特大単気筒エンジンと、150kgを切る軽さが自慢のモタードは、腕っこきでないと乗りこなせない、手ごわい一台に仕上がっていた。レース屋が手がけたストリートマシン
トライアルの世界ではつとに有名なスペインのオフロードバイクブランドGASGAS。そのGASGASが初めて手がけたストリートモデルがこのSM700であり、双子の兄弟車である「ES700」だ。発売は3年前の2022年4月で、排気量692.7ccの水冷単気筒OHC 4バルブエンジンをクロモリ製トレリスフレームに搭載。アルファベットのネーミングそのままに、「SM」がスーパーモタード、「ES」がエンデューロスポーツとなる。コンペティション志向の強い、“知る人ぞ知る”レーサーサプライヤーが公道に送り出した、初の民生バージョンといったところか。
はてさて。自分のようななんちゃって二輪ライターにこの勇ましいバイクはまったく乗りこなせる気がしない。標高898mmのシートがまるでギアナ高地のように眼前にそそり立っている。そのフラットさたるや、まるで平均台。いや、むしろ苛烈な責め具という点では三角木馬! 事前の種々の不安はいっさい拭えないまま、「さあ、いってらっしゃ~い」と試乗コースに送り出されるのがJAIAという過酷なイベントだ(あくまで主観です)。
いっぽうで、ウェイトは150kgを切る148.5kg。「この車重なら倒れそうになってもなんとか持ちこたえられるかも」とみずからを鼓舞し、片足ツンツン立ちでエンジンスタート。いささかけたたましい排気音にビビりながらクラッチをつないでみると……意外と優しくスルッと車体は前に出た。しかし油断は禁物。「スロットルをラフに開けたらとんでもないことになるに違いない」と自制しつつ、ハーフスロットルくらいのつもりでスッと開けてみたら……トルクフルではじけるような、でもムチャクチャではない、気持ちのいい加速をみせてくれたのだ。
「やはりそうか、そうなのか」と独り言。レーサーばかりをつくっていたメーカーだからといって、レーサーそのまんまなバイクを公道デビューさせるわけがない。それでもSM700は、右手首のひねり具合にリニアに呼応して加速/減速してくれるし、フルブレーキではダイレクトなタッチでスピードを一気にそいでくれる。なにせ車体が軽いから、あらゆるレスポンスが鋭くて痛快、ビンビンである。この駿馬(しゅんめ)を自在に操るには、さらに高いスキルが要るのは百も承知。とにもかくにも、おのれの力量を高めたいライダーには、うってつけのハイポテンシャルを秘めているのだろう。
え? 僕ですか? こと“曲がる”ことに関してはぜんぜんうまくいきませんでした。もっともっと修練しないと、SM700でフルスロットル、フルブレーキ、フルバンクなんて……遠くにありて思ふもの。うん、うまいこと言ったねオレ。
(文=宮崎正行/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1476±15mm
シート高:898mm
重量:148.5kg(燃料除く)
エンジン:692.7cc 水冷4ストローク単気筒SOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:75PS(55kW)/8000rpm
最大トルク:73.5N・m(7.5kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:158万円
◇◆JAIA輸入二輪車試乗会2025◆◇
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宮崎 正行
1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。
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