「日産リーフ」のOEM車を北米に投入 三菱のグローバル電動車戦略を分析する
2025.08.11 デイリーコラム「i-MiEV」こそが世界初の量産BEV?
三菱自動車はこの2025年5月、電気自動車(BEV)にまつわる重大発表を2つ同時におこなった。
ひとつは新型「リーフ」をベースとしたOEM(相手先ブランド生産)車を日産から供給してもらい、2026年後半から北米市場に投入することである。
もうひとつは、最近なにかと話題の鴻海精密工業のグループがOEM供給するBEVをオセアニア地域(オーストラリアとニュージーランド)で販売するというものだ。もう少し詳しくいうと、それは鴻海傘下の鴻華先進科技(フォックストロン)が開発して、同じく傘下の裕隆汽車(ユーロンモーター)が台湾で生産するBEVだという。内外装デザインやインフォテインメントなどの顧客が直接触れる部分は三菱が担当して、2026年後半の市場投入が予定されている。
ところで、世界的に見ると、2009年8月にグローバル発表、翌2010年12月に日本と米国で発売となった初代リーフが、史上初の量産市販BEVとされることが多いが、厳密にはそうともいいきれない。
大量生産ということでなければ、史上初の市販BEVは東京電気自動車(後に日産と合併するプリンス自動車の前身)が1947年に発売した「たま電気自動車」とされているし、1996年9月には関東・東海・近畿地区限定ながら、トヨタがニッケル水素電池を搭載した「RAV4 L EV」の一般販売に踏み切っている。翌年からは米国にも輸出されたRAV4 L EVは、1999年までに累計生産1000台を達成している。これも量産といえば量産だ。
また、国内にかぎっていえば、2009年7月に官公庁・法人向けリース販売、続く2010年4月に個人向け販売をスタートした三菱のBEV「i-MiEV」が、タッチの差で初代リーフに先んじた。これをもって三菱自身は「i-MiEVこそが世界初の量産BEV」と定義している。さらにいうと、三菱がいま手がける市販BEVは、国内向け軽自動車の「eKクロスEV」と「ミニキャブEV」だが、前者の設計開発は日産が「サクラ」とともに担当したものの、生産はサクラを含めて三菱の水島製作所だ。そして、ミニキャブEVは開発から生産まで完全な三菱製で、日産にOEM供給もしている。
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ルノーのBEV会社「アンペア」への出資を撤回
このようにBEVについては独自の知見と経験がたっぷりあるはずの三菱が、いよいよ世界規模でのBEV戦略に打って出るときに、こうして他社からのOEM供給を最大限に活用しようとしているところは、なんとも興味深い。
ちなみに、2023年3月に発表された2025年度までの三菱中期経営計画「チャレンジ2025」には、「欧州ネットワーク強化に向けて、ルノーから複数のモデルを供給いただきます」とある。前記の米国やオセアニアの例を考えると、近い将来の欧州向けBEVも、ひとまずはルノーから調達すると考えるのが自然だ。
ここまでに名前が出た企業のうち、日産とルノーはいうまでもなく、三菱と長らくアライアンス関係をきずいてきた。同アライアンスのなかで、企業規模は三菱がもっとも小さいから、われわれやじ馬は「三菱が生きるも死ぬも、アライアンス=ルノーと日産次第」と思いがちだが、近年の三菱の動向を見ると、あながちそうでもないようだ。
たとえば、2023年2月のルノーおよび日産との資本比率見直しに関する合意発表の席には、三菱の加藤隆雄社長も笑顔で同席。しかし、そのときに大きなテーマとなっていたルノーが設立するBEV会社「アンペア」への出資に関して、加藤社長は「検討する」と明言を避けた。翌2023年10月にはいったん最大2億ユーロ(約340億円)の出資を決めた三菱だが、結局は、この2025年5月に出資見送りとなった。
また、2024年末に降って湧いたようにもちあがった日産とホンダの経営統合バナシにしても、三菱の加藤社長は「さまざまな関わり方がある。両社としっかりコミュニケーションしていく」と、あくまで一歩ひいた態度だった。で、この経営統合があっという間に破談になったのは、ご承知のとおりである。
冒頭のオセアニア地域におけるOEM調達にしても、相手が鴻海グループとなれば、どうしても勘ぐりたくなってしまう。というのも、経営再建に苦しむ日産に、BEV事業のトップに日産出身の関 潤氏を据える鴻海が近づいていることが、最近明らかになっているからだ。
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ピックアップBEVに集中するための策?
ただ、経済系メディアの報道では、三菱が鴻海とのプロジェクトを選んだのは日産がいるからではなく、むしろそれとは正反対に、日産やルノーの呪縛から逃れるため……という見立てのほうが多い。考えてみれば、日産とホンダの経営統合が浮上したのも、一説には鴻海が日産の経営に食指を伸ばしたからともいわれており、当時の日産にとって鴻海は招かれざる客だった可能性が高い。そんななかで、三菱はひとり鴻海との交渉をしていたわけだから、なんともしたたかである。
前出の「チャレンジ2025」の資料では2027年度までに発売予定の新型車の姿もチラ見せされている。そのなかにBEVが4台あって、内訳は“アライアンスBEV”が2台、“2列シートSUV”と“ピックアップBEV”がそれぞれ1台となっている。
資料内画像ではすべてのクルマにベールがかぶせられているが、シルエットを見るかぎり、アライアンスBEVのうちの1台は冒頭のリーフベースBEVで、もう1台も背の高い軽自動車っぽいから、eKクロスEVに続く日産との協業BEVだろうか。となると、ミドルクラスとおぼしき2列シートSUVが鴻海からのOEM第1弾と思われる。このクルマについては2023年当時からアライアンスBEVとはうたっておらず、そもそも日産やルノーから調達するつもりはなかったようだ。
残る「トライトン」級と思われるピックアップBEVについては現時点で漏れ伝わっている情報は少ないが、「チャレンジ2025」によると「当社主力商品であるピックアップトラックは(中略)将来的にはBEVの追加も企画しています」とある。
三菱はピックアップの主戦場となるアセアン市場を“成長ドライバー”、同じくピックアップが人気の中南米、中東、アフリカ市場を、アセアン向け商品をうまく活用して利益を出す“レバレッジ地域”と定義している。となると、これらの市場でのイメージリーダーにもなりえるピックアップBEVだけは、三菱がもてるノウハウをフル動員して自社開発するつもりなのだろう。そのために、米国を日産、オセアニアを鴻海、欧州をルノーに任せた……という見方もできる。
ちなみに「チャレンジ2025」のひとつ前の三菱の中期経営計画は「Small but Beautiful」という題名だった。直訳すると「小さいけれど美しい」である。自分より大きな資本を相手にうまく立ち回り、アウトソーシングを最大限に活用しながら、自身のかぎられたリソースを強いところに一点集中させる……という三菱の“いま”の姿を、これはなかなかうまく象徴した言葉だと思う。
(文=佐野弘宗/写真=三菱自動車、日産自動車、本田技研工業/編集=櫻井健一)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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