スバル・フォレスターX-BREAK S:HEV EX(4WD/CVT)
輝きを増す六連星 2025.08.19 試乗記 新型「フォレスター」の目玉は、何といっても新規設定されたハイブリッドモデルだ。従来のマイルドハイブリッドではなく、トヨタ謹製の技術を使った、スバルが言うところのストロングハイブリッドである。オフロード向け仕様の「X-BREAK」を試す。悩めるスバルの救世主
たとえ販売台数1位の座を中国に奪われようとも、なんだかんだで無視できない米国市場においては、トランプ関税が世界の自動車産業を引っかき回している今日このごろである。日欧のメーカーが戦々恐々とするなか、当然ながら米国内の生産供給体制が脆弱(ぜいじゃく)なメーカーは難しい立ち回りを迫られる。
日本でいえばマツダ、そしてスバルもそうだ。楽観論も目にするが、相手は笑っちゃうくらい普通じゃないのだから、多少のケガを覚悟しつつもさまざまな状況に対処する備えが求められる。
そんな折につくづく思うのは、スバルは「THS(トヨタハイブリッドシステム)」に乗っかっといてよかったということだ。もちろん、コアなファンや中の人にはそうではないという思いもあるかもしれない。でも、ガソリン価格は今やアメリカでも都市部でガロン6ドルは当たり前、なんなら日本より高いくらいだ。
イニシャルで燃費が不利な水平対向に四駆の組み合わせを十字架として背負い続けるには、現在の燃費水準ではどうしても飛び道具が必要になる。それがケツの毛一本さえ何かの足しにする勢いの効率オバケとタッグを組めたわけだから、ともあれこれは最善の着地点だ。ここで得られた猶予で、スバルは来るべき電気自動車の時代に、パワートレインの骨格的差別化ができないなかでどうやって個性を形成するかという難題にも向き合える。この混沌(こんとん)すぎる状況が自動車産業を取り巻くなか、お金の次に大事なバッファは時間ではないだろうか。
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前も後ろもよく見える
幸いにして新しいフォレスターは日本でも好評なようで、2025年7月の販売台数は3737台と全体で21位、スバルの全モデル中トップだ。新型の登場直後ゆえ当然といえば当然だが、懸念された高価格シフトの影響はみてとれない。納期は現時点でターボが4カ月、S:HEVも9カ月と当初より短くなった。ちなみに2025年秋からはアメリカでの現地生産も始まる予定ゆえ、スバル的には出荷調整等の労力は軽減されるが、一方で誰にも読めない現況に鑑みれば、国内の需給は可能な限り厚くしておきたいところだろう。
というわけで、今回の取材車のグレードは国内では一二を争う人気銘柄となるだろう、S:HEVのX-BREAKだ。同じS:HEVの「プレミアム」とは内外装の仕立ても異なるが、走行性能面ではタイヤのサイズが異なる点が大きい。
たたずまいはグラフィックで新しさを感じさせながらも、他のスバル車に対して道具箱的な要点が意識的に強調されている。この折り合いのよさがユーザーに評価されている一因ではないかと思う。見るからに実直で、実際に座ってみても視界にノイズ要素は少ない。ボンネットの尾根も認識しやすいし、ベルトラインも水平に近く、後方はハッチゲートのグラスエリアを上下に広くとるなど、とにかくカメラではなく目視での視認性を重視している。1830mmの車幅はもう少し抑えてほしかった感もあるが、乗ってみればその実寸は気にならない。安全をブランドの看板とするスバルのなかでも、基礎中の基礎である視認性はこのクルマがトップだと思う。
燃費は前世代から飛躍的に進化
内装のしつらえもまた実直ではあるが、質感的なうんぬんは中庸だ。デザイン面では視界とは裏腹にダッシュボードまわりなどはノイジーにも映る。一方で、ステアリングが真円なことやシフトレバーが機械式なことなどは、自動車メーカーの描く未来感の小競り合いに疲れたユーザーの共感を呼ぶのかもしれない。そういうことも含めて空間的に、ジャスティスな母性を感じさせるのもフォレスターが支持されてきた理由だろうか。
2.5リッターの水平対向4気筒を基とするハイブリッドシステムは既に「クロストレック」にも搭載されているが、そちらは車体が小さいぶん、ちょっとトゥーマッチではないかと思うほどの力感を走りに感じていた。さりとて、フォレスターは1.7t級の車体にして、よりヘビーデューティーな用途も考えられる。走らせてみると確かに電気ものらしい低中速域からの力強さは感じられるが、担う負荷を考えれば動力性能に何ら不満はなくも、格別にプレミアムというわけでもない。そこだけにフォーカスすれば、キャラクターの異なるターボとの総合的な差異はないようにも思える。
とはいえ、S:HEVの最大の利得は燃費だ。試乗会で乗った際には高速道路が中心ではあったものの、約17km/リッターとフォレスターとは思えないほどのスコアをマークしてくれた。が、ここで驚かされたのはむしろターボのほうで、同じ行程で可能な限り同じような運転を心がけての結果は約14km/リッターと、これまた想定外の結果に至ったわけだ。ロングストローク&リーンバーンのCB18型は「レヴォーグ」や「アウトバック」にも搭載されてきたが、新型フォレスターへの搭載にあたっても細かなリファインが織り込まれている。週末に高速を使って長距離を走る、そんなレジャーユースが主だという向きには、ターボという選択肢もありかなと思う。
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悪路対応という独自性
ではS:HEVは街乗りメインの燃費稼ぎ仕様かといえばそうともいえない。フォレスターの用途に照らせばむしろ積極的に選ぶ理由がある。ひとつは悪路走破性にまつわる新たな付加価値という一面だ。グリップを簡単に失いそうな低ミュー環境で、最初のひと転がりにモーターならではの微細なトルクデリバリーが有効に働くのは先述の試乗会でも確認できた。それに加えて、走破力を利して分け入った自然のなかにまで1500Wの電力を携えられるというV2Lの能力もフォレスターに新たな可能性をもたらしてくれるだろう(AC100V/1500Wのアクセサリーコンセントはオプション。X-BREAKには設定なし)。
そういう使い方も想定すれば、このX-BREAKというグレードが一番フォレスターらしいと自分には映る。タイヤ由来か乗り味はちょっと緩めかなと思うところもあるが、むしろそのくらいのほうがこのクルマにはちょうどいい。これまた試乗会の話にはなるが、腰高気味な体格の割にその気になればサーキットでもバンバンに踏んでいける運動性能には感心させられた。でもそれはスバルにとってフォレスターの万能性のために担保された、それこそバッファのようなものだろう。
Cセグメント級……というにはいささか大きすぎる感があるが、フォレスターのカテゴリーは世界的にクルマの売れ筋の真ん中に躍り出ようとしている。北米では稼ぎ頭だった「カムリ」や「アコード」や「アルティマ」の役割は、「RAV4」や「CR-V」や「ローグ」へと完全に置き換わった。フォレスターはそのなかにあって悪環境への適応力を独自性として、特に気候の厳しい地域や自然に囲まれた都市では前述の3モデルを上回る存在感を示している。アキレス腱(けん)だった燃費も克服したことで、さらなる販売増の可能性も広げられた。スバルがフルハイブリッドを得た、その真の価値はこれから発揮されることになるだろう。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=スバル)
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テスト車のデータ
スバル・フォレスターX-BREAK S:HEV EX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4655×1830×1730mm
ホイールベース:2670mm
車重:1770kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:160PS(118kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:209N・m(21.3kgf・m)/4000-4400rpm
モーター最高出力:119.6PS(88kW)
モーター最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)
タイヤ:(前)225/55R18 98V M+S/(後)225/55R18 98V M+S(ファルケン・ジークスZE001A A/S)
燃費:18.8km/リッター(WLTCモード)
価格:447万7000円/テスト車=474万1000円
オプション装備:ハーマンカードンサウンドシステム+サンルーフ(26万4000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:2672km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:92.8km
使用燃料:7.1リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.1km/リッター(満タン法)/13.4km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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